2014年5月30日

厚生労働省年金局

局長  香取 照幸 様

東京都北区志茂2-43-1 木村方

電話・FAX 03-3902-2189

企業年金の受給権を守る連絡会

代表世話人 佐々木 哲夫

同 上  夏野 弘司

 

拝啓 時下公務、ご苦労の多いことと存じます。

 さて、「企業年金の受給権を守る連絡会」は、これまでに貴省宛に厚生年金基金制度見直し内容に関して意見書(2013年1月11日付)、質問書(2013年9月13日付)を提出してきましたが、ご回答を戴けていないことは遺憾です。「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」および関連政省令が公布・施行された現段階、あらためて下記の通り質問します。                     敬具

 

1 国会附帯決議の実行について

 今回の厚生年金基金改廃で母体企業・基金の立場優先の解散や減額が行われ、代行返上後に「上乗せ部分」が失われれば、受給権が侵害されます。

 本来、企業年金は賃金の後払いであり、就業規則、退職金規程等に基づく退職給付義務があります。健全化法の国会附帯決議第三項は「厚生年金基金の解散・移行にあたり、母体企業が退職金規程等に基づく退職給付義務を履行するよう指導を行うこと。」と明記しています。

 また、同決議第二項では「総合型の厚生年金基金の解散に当たっては、加入員、受給者等に移行先の選択肢を含めて必要な情報が行き届き、その上で最善の意思決定が行われるよう、基金及び母体企業への支援を行うこと。」とあります。

 これらは解散、減額、移行などによって受給者及び加入者が退職給付の受給権を侵害されないためにも重要な決議です。

 ところが、貴省は年発0324第4号において「第一 解散手続に関する基準」の中の一つの手続として(3)(6)で軽く触れている程度です。

(3)では、「代議員会における議決前に、全受給者に対して、解散理由等に係る説明を文書又は口頭で行なっていること。」とありますが、受給者は母体企業から基金の財務状況等の情報開示を受けていない実情が広範にあることから、文書での情報開示を義務付け、一定比率以上参加の説明会開催や質疑応答の義務を課すべきではありませんか。

(6)では「・・・母体企業が退職金規程等に基づく退職給付義務を履行することが必要であることについて周知等を図ること。」と述べるに止まっています。これでは、基金が母体企業に知らせる程度であり、受給者・加入者に対して周知と理解を図る実効が期待できず、国会の附帯決議の趣旨・真意が生かされません。

 国会決議を受けて実行の任にあたる貴省としては、誠実に受給者・加入者の受給権を守るための施策展開が求められています。受給権は加入者にとっては労働条件であり原則的に引下げは許されないこと、受給者にとっては金銭債権であり民法上の保護があること、など法的基本点を周知することは必須です。

また、解散、減額、移行について心配・疑問・苦情など抱え相談ニーズのある加入者・受給者・労働組合などに対応できる窓口を全国各地に設ける必要があります。

  受給権保護を母体企業まかせにすることなく、厚生労働省が積極的、具体的に退職給付義務の履行について監視、指導を行う施策、個別に相談を受ける体制をどのような内容で行なうのかお伺いします。

 

2 受給権保護について

(1)昨秋の公募意見では、厚年基金の解散について受給者の同意が求められない点について問題とする意見が出ました。確定給付企業年金についても現行は解散にあたり受給者の同意は求めることが不要とされています。受給権が消滅する重大事案について当事者が同意も求められないで一方的に受忍するほか無いとすることは、母体企業・基金、加入者との均衡を欠き、不公正な定めです。前項の国会附帯決議の趣旨に照らしても許されないことです。減額については受給者の同意を求めていることと比べても問題の重大性に沿わない手続です。

 貴省として、受給者の同意を求める手続を課す意向は無いのか、無くてよいとすればその根拠は何かお伺いします。

(2)企業年金制度を健全に維持し受給権を保護するには受託者責任の強化が求められています。企業年金部会の検討内容では「今後の検討課題とする。」「来年の春以降、企業年金部会で議論してはどうか。」とされていますが、貴省としてどのような事項について何時までに結論を出す方針なのかお伺いします。

(3) 貴省は2012年に厚生年金基金規則および「厚生年金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドラインについて」の改正を行ないました。このQ&Aでは、基金から代議員会への報告や加入員・事業主等への周知・情報開示は重要としていますが、受給者に対しては言及がありません。受給権を保護する上で受給者への周知・情報開示は加入員と同等に義務化する必要があります。貴省の見解をお伺いします。

 

3 キャッシュバランスプランについて

 キャッシュバランスプランの設計弾力化について、昨年の専門委員会では厚労省案に対して異論が出ていたし、公募意見の中でも反対、批判の意見が出ていました。

(1)キャッシュバランスプランは給付額が変動する制度であり、基準利率の下限などゼロ以上であればよしとする今回の設計弾力化は、経団連が前々から要求してきた規制緩和に合致しており、労働者の老後保障に一段と沿わない措置です。キャッシュバランスプラン自体が、確定給付企業年金法の第1条「公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする」とどのように合致するのかお伺いします。

(2)確定給付企業年金の受給者に対してキャッシュバランスプランへ移行することは、不利益をもたらす問題が生じます。NTT年金裁判で国が提訴された時に貴省は、「キャッシュバランス制度移行時の支給金利が現行金利を下回る場合には、原則給付減額にあたる」との反論を第三準備書面(平成19年7月6日)で行ない、東京地裁は判決(平成19年10月19日)でこの通り判示しています。このたび省令に盛り込まれたキャッシュバランスプランの設計弾力化は、この判示に照らして、貴省として全く問題は無いとお考えなのか、お伺いします。

(3)キャッシュバランスプランへの移行は、規約変更などの手続要件を満たすだけで可能としています。しかし、実質的に減額となるキャッシュバランスプランへの移行であれば、前項NTT裁判での地裁判示からすれば移行を必要とするやむを得ない客観的理由要件を定めることが必要だと考えますが、どのようにお考えでしようか。

 さらに規約変更に不同意の受給者にとっては受給権の侵害となります。実際に前項NTT年金裁判で、原告NTTが「受給権者の三分の二以上の同意を得ているので理由要件は不要」と主張したのに対して、地裁は、「同意しなかった少数の受給権等の受給権を多数者の意思に委ねることとなり、三分の一未満の受給権者の受給権の保護を図ることができない」と判示しました。

 したがって、不同意者への移行は当然に認めるべきでないと考えられるのであり、これを保障する措置はどのようにお考えなのか、お伺いします。

 

4  支払保証制度について

 2001年に確定給付企業年金法が国会で議決された時の附帯決議は「支払保証制度については、企業年金の加入者及び受給者の受給権保護を図る観点から、モラルハザードの回避などに留意しつつ、引き続き、検討を加えること。」としています。

 ところが、社会保障審議会企業年金部会の論議では「支払保証制度については、制度を創設する費用、公平性の観点で課題があるため、来年春以降の検討としてはどうか。」と貴省意見が示されています。 昨秋の公募意見の中に示された制度創設の要望意見に対しても同様の貴省意見が示されていますが、看過できないのは、制度創設の必要性までもが新たに検討の対象と明記されたことです。(3月24日付「・・・寄せられたご意見について」No.110)これは国会決議から後退していると判断せざるを得ず、何故このような記述としたのか見解をお伺いします。国民多数が影響を受ける制度について危殆・破綻に備える制度創設は当然のことであり必要性を問題にする余地は無い筈です。

 国会の附帯決議から13年が経過し、一段と必要性が高まっている情勢下なのに、貴省の見解では行政府として怠慢のそしりを免れません。

 創設に当たりどんな課題、障害があるのか、いつまでを目処に議論を終えるのか、議論を行なう場に労働団体、受給者団体などに参加を求めて加入者・受給者の利益・権利を反映する措置を講ずるお考えはあるのか、お伺いします。

 

 なお、この質問書について文書での早期回答を要請しますが、6月16日までの回答が困難な場合は口頭での回答を戴きたくご都合をご連絡下さい。

以上

 

団体