「厚生年金基金制度見直しについて(試案)」に対する意見と要望

2013年1月11日

企業年金の受給権を守る連絡会

 

1 「試案」の問題点

 民主党政権の対策本部の方針に沿って厚労省は掲題「試案」を策定、公表し、現在、社保審年金部会に設けられた専門委員会で審議が続いている。

 「試案」は、厚生年金基金制度は歴史的使命が終わったとの認識で10年後に廃止を掲げ、そこに至る道筋を描くことで、事業主の倒産、基金の破綻による厚生年金本体への影響の最小化を目指すものの、事業主の置かれている状況への配慮や加入者・受給者の「受給権保護」の観点が決定的に欠落している。公表された議事録を見る限り、専門委員会の議論も制度の廃止を前提としたものになっており、廃止後の受給権保護についての発言は少ない。

2 議論の進め方について

 事の発端は本年2月に発覚したAIJ投資顧問による年金資産消失事件である。

当初2千億円とも言われた損失額の巨大さに驚き、加入者・受給者はこの先どうなるのだろうと心配する声が続いた。

 同時にそれほどの損失が生じるまで誰も気が付かなかったのか。基金や、金融機関を指導・監督する、厚労省、金融庁、証券等監視委員会はなにをやっていたのか。

 問題は国会でも取り上げられ、投資顧問会社の存在とその内情が暴かれ、監督機関の検査の杜撰さ、基金から運用を受託する信託銀行の無責任さ、厚労省OBの天下りの実態など次々と明らかになった。しかし、原因究明のために設置された先の「AIJ問題に関する有識者会議」でもこうした国民の関心に応える議論はなく、当局の監督責任、信託銀行の受託者責任は不問にされた。

 責任をうやむやにしたままでの議論では問題の真の解決にはならず、再発の懸念は消えない。

3.私たちの意見と要望

①「厚生年金基金」の一定期間を定めての一律廃止に反対する

  厚年基金は創設以後企業年金の主力として厚労省が推進し、労働者の老後の所得保障として多大な貢献をしてきた。

創設後30年、基金はバブル崩壊後の低金利政策で年金資産の運用難に陥った。大企業は2002年以降早々と代行返上し身軽になったが、代行割れの中小基金(主に総合型)は返上もままならず困難を抱えたまま今日に至った。今回の厚労省「試案」は、もっぱら基金を整理、解散に追い込む『特例解散』の導入が目玉で、加入者・受給者の「受給権保護」への配慮を欠いている。

②受給権保護の立場から(厚年基金制度について)次のことを要望したい。

 イ 加算部分の薄い中小基金では健全であってもDBへの移行はメリットが少ない。

   制度に残留を希望する健全な基金は残れるようにする。

 ロ 『特例解散』はこれまで自助努力で代行割れを埋め解散したところとの不公平が問題になっている。これは厚生年金本体への影響を極力小さくしようという(厚労省の)意図からの発想で、解散を前提にするから問題となるのである。

   代行割れへの対応は国の「中小企業政策」の一環として位置づけ、中小事業主が本業でない年金倒産等の事態に陥らないように代行割れ救済は予算措置を講じる(税金投入)のも一つの方法であると考える。

   厚年基金制度は国の代行部分を持っていることから社会保障の一面があり、国も加算部分との合算運用によるスケールメリットを説き推進してきた経緯がある。

   運用難は経済情勢の変化の他、ときの経済政策・金融政策に関わり、一企業、一基金ではいかんともしがたい面がある。国策として推進した事業や制度が損失をもたらしたとき、税金で補てんした例は数多くある。直接資金をつぎ込まなくとも、借入の利子補給とか保証協会に資金をプールし特別枠を設けて支援するとか方法はいくつも考えられる。

   また、AIJ事件で損害を被った基金の救済などには、信託業界にも責任を果たさせる意味で、低利の融資や、ファンドを作り被害基金の損害額・体力に応じて救済していく方法も考えられる。

   AIJに関わった基金にしても、代行割れしている基金についても、所詮はそれぞれの基金がやったこと「自己責任」をあいまいにしてはいけない、安易な救済はモラルハザードを起こしかねないという意見もある。

   一方で、今度の「試案」のように補てん資金は本体の積立金でというのもある。

   私たちは(中小基金)自己責任論には組みしないし、10年かけてチビチビと年金積立金から拠出していくというのもいかがかと思う。多くの基金・関係者が、厚年基金制度は廃止已むなしとなったときは、然るべき『受け皿』を用意して「受給権の保護」を図らなければならない。

   DBへの移行がムリであれば、国の責任で「中退共」を整備拡充して解散の事態を避けるべく努めるべきである。また、DCへの移行を進めるという議論も出されているが、DCは老後の所得保障としてふさわしくない制度である。

   さらに「特例解散」では受給者減額を当然のように組み込んでいるが、NTT年金裁判での国の主張(年金が唯一の生活の糧)を待つまでもなく、生活を脅かす「あってはならない」こととしてこの項の削除を求めたい。

  ハ 厚生年金基金における「代行部分」と「加算部分」を法的に区分するよう

求める。

   厚年法の基金に関わる条項は国の代行部分の給付の円滑化が主眼で加算部分については保護規定がないのが現状である。特に解散時において「代行部分」の補てんは事業主に強制されるものの「加算部分」については残余財産の分配の規定があるだけで、その後の事業主の責任は免除されている。厚年基金の「加算部分」の原資は大半が労働者の退職金であり、労働者と事業主との労働契約に由来するものである。それが厚年法に包摂されているために、りそな年金裁判では、「同行の基金が厚年基金の一形態である加算型であり、法的性格は国の年金と変わらない社会保障の性格であり、国の年金が減額条項で国の意向で減額できるように、りそな基金の裁定で受給者本人の同意なしでも減額できる」と判決されている。

この際、「代行部分」は社会保障、「加算部分」は私的な契約に基づくもので「減額には本人の同意が要る」と法文に明記するよう求めるものである。

4.今次専門委員会の議論は凍結すべきである

専門委員会か4回目の会合を終えた直後の総選挙の結果政権が代わることになった。

 社会保障分野においても新しい政権で前の政権とは異なる政策が打ち出されることは十分に考えられる。制度をどうするかの問題は腰を据えて議論すべき問題で結論を急ぐべきではないと考える。

 しかし、今次専門委員会の議論は貴重なものであり報告書にまとめ次のステップにつなげていって頂きたい。

5.「支払保証制度」の早期確立を

 最後に支払い保証制度の早期創設を求めたい。

この問題は当連絡会設立当時から、厚労大臣、「連合」、全労連など労働組合の全国組織、全日本年金者組合などにことあるごとに要請してき ているところである。

 本年4月の民主党「AIJ問題ワーキングチーム」の報告書の中にも『日本版エリサ法』の制定を考えようという件があった。

 私たちはAIJ問題の教訓として厚労省は早期に『日本版支払保証制度創設についての有識者会議』の立ち上げ国会付帯決議の具体化に着手するよう訴えるものである。

以 上

 

団体