2018年7月24日

法政大学年金裁判控訴団

団長  横内 廣隆

 

法政大学年金裁判闘争を終えるに当たって

 

 当初予定の2018年5月29日開廷を3週間延ばして、6月19日に行われた控訴審判決(裁判長 大段 亨)は、「各控訴をいずれも棄却する」という不当判決でした。私たちは、この判決に心からの強い憤りを感じております。

 この裁判闘争は、2011年4月1日より実施された受給減額を伴う法政大学年金改定が受給権の侵害であり、財産権の侵害であるとして、2012年9月10日にこの改定に反対した14名(遺族を含む)で東京地方裁判所に提訴したのが始まりでした。「進行協議」1回と23回の審理を経て2017年7月6日に原判決は出ましたが、債権・債務の関係をどう捉えているのかも不明で粗雑なこの原判決は不当だとして、同年7月19日に13名(1名は死去)で高等裁判所に控訴したものです。約7年間に及ぶ裁判闘争でした。

 私たちの控訴理由は、①年金受給権の権利性、②改定の必要性・合理性の判断と必要最小限度の検討の必要性、③大学の年金基金充実責任ないし拠出責任の否定、④永久償却方式を採り続けた責任と改定の不合理性、⑤改定における短期・全額償却方針の不合理性、⑥年金規程36条の3「著しい変動」の解釈、⑦大学の財政状態の健全性の無視、⑧改定の相当性の判断、⑨手続の相当性の欠如、の9項目にわたって訴えたものでした。

 判決の内容は、第一に受給者の権利性については、「教職員の福利厚生、功労報酬の性格を有するもので、賃金の後払い要素が含まれるとしても、それによって本件年金制度の基本的な性格に影響を与えるほどの大きなものでなく」とし、「受給者の同意がない限り、一方的に減額することができない権利であるとはいえない」と述べています。原判決の「恩恵的給付」の文言は採用しないものの、私たちの主張する「年金受給権」と「後払い賃金」を否定したもので、これは「意見鑑定書」を提出された山口孝氏(明治大学名誉教授)が指摘されているように、「企業が直接給付を行う退職給付のみならず企業年金制度による給付にも当てはまる」(「退職給付に関する会計基準」(会計基準第26号)を全く無視したものです。

 第二に必要最小限度の減額であるのかどうかについては、年金規程36条の3で「著しい変動」があった場合には、「合理的と考えられる範囲内で年金給付額を変更する」ことができるとして、合理的な範囲であるかどうかの必要最小限度の減額の数値検討自体を不問に付したものです。

第三に大学の年金基金充実、拠出責任については、私たちが改定前の約80億円を問題にしたのに対して、「年金基金に対し無限定に拠出する法的責任はないと解される」として、年金規程28条の「改訂以前の教職員の不足額は法人が負担する」旨の責任を「別に定める基準」がないのだからと解して、「無限定に拠出する法的責任はない」としています。当時の理事会文書がその責任を「20年間に30億円の元本を特別償却する約束をしますし、今後残りの50億円についてもできるだけ速やかに償却の手段を講じる」と言明した内容を全て無視したものです。これは私たちの主張を不問にしたばかりでなく、規程条文に反する明らかなすり替え論です。

第四に現状と乖離した『20年破綻説』の作表を「客観的に誤っていたということはできない」として、「進行協議」により裁判中に大学が提出した乙86号証「数理計算に関するご報告」(三菱UFJ信託銀行〈当時〉作成)の内容『20年後の積立比率38%』等を無視したものです。これは東京地裁が大学に提出させた資料内容に触れることなく、無視した一方的な記述です。

 これらの内容から成る控訴審判決は、原判決の粗雑、不備な箇所をかなり修正した記述となってはいますが、私たちが9項目にわたって主張した内容をいずれも棄却して原判決を支持するというものです。“ まずは結論ありき“ の「不当判決」と言わざるを得ません。

 判決日の3週間の延期に一縷の望みを抱きましたが、残念なことに私たちの主張は取り入れられませんでした。私たちの裁判闘争を支持していただいた多くの方々に対しても大変残念な結果となりました。弁護団の先生方には最後まで誠心誠意頑張っていただきました。

今日まで裁判闘争にご支援・ご声援いただいた多くの方々にも、合わせて感謝する次第です。

しかし、提訴以来、控訴審判決までの約7年間に及んだこの裁判闘争で私たちが明らかにした内容は、今後の年金改定に向けて大きな意味と教訓を与えたと考えております。私たちがこの裁判で争ってきた内容は、具体的な事実をどう認定するのかという訴えでした。判決はこの内容を無視した判決でしたが、今後の年金減額に対して一定の歯止めになる役割を果たしたのではないかと考えております。

最高裁判所へ上告するのかどうかについては、専門家の判断もあることから、原告の皆さんから幹事と弁護団で構成する弁護団会議に一任されました。この度の「不当判決」には大いに不満が残るものの、①約7年間の裁判闘争で私たちが主張した内容が今後の更なる減額の歯止めになったのではないか、②今後の年金改定の動向を大いに注視すること、③最高裁は憲法を主とした法律論の案件のみであること、④事実認定の相違からくる「不当判決」が上告に馴染むのかどうか、⑤上告しても受理される可能性に乏しいのではないか、等々について慎重な検討を重ねました。その結果、熟考の末、最高裁判所への上告を見送ることにいたしました。

今後は、この裁判闘争で明らかになった問題点、内容を受給者、加入者に訴えつつ今後にそなえたいと考えております。とりわけ2020年に迫った年金財政見直し期の動向を注視する必要があります。一審中に1名、控訴直前に1名と2名の原告が亡くなりました。その遺志をも受け継ぎ、受給権を権利問題として今後の年金改定を見守っていく所存であります。今後ともよろしくお願いいたします。

                                      以上

 

 

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