令和6年12月24日(火)
照会先
年金局資金運用課
(代表電話 03-5253-1111) 内線3348
社会保障審議会資金運用部会における議論の整理
社会保障審議会資金運用部会において、「議論の整理」を別添のとおりとりまとめましたので、お知らせいたします。
社会保障審議会資金運用部会における議論の整理[293KB]別ウィンドウで開く
社会保障審議会資金運用部会における議論の整理
令和6年 12月24日
社会保障審議会資金運用部会
Ⅰ はじめに
○ 年金積立金の管理及び運用は、運用収益を通じて長期的かつ安定的に経済
全体の成長の果実を獲得することにより、将来にわたって公的年金事業の運
営の安定に資するという極めて重要な役割を担っている。
○ 年金積立金管理運用独立行政法人(以下「GPIF」という。)は、厚生
年金保険法(昭和29年法律第115号)等の規定に基づき、専ら被保険者の利
益のために、長期的な観点から、年金積立金の管理及び運用を安全かつ効率
的に行うことにより、公的年金事業の運営の安定に貢献することを使命とし
ている。
○ GPIFにおいては、公的年金制度及び年金財政において年金積立金が担
う役割の重要性に鑑み、市場・運用環境が複雑化・高度化する中で、2024
(令和6)年3月末時点で約 246 兆円という巨額の年金積立金の管理及び運
用を引き続き的確に行うこと等により、その使命を着実に果たしていくこと
が一層求められる。
○ GPIFにおける年金積立金の管理及び運用については、厚生労働大臣が
運用目標等を定めた中期目標を策定してGPIFに指示し、GPIFが運用
目標を達成するための長期的な観点からの資産構成割合(基本ポートフォリ
オ)等を定めた中期計画を策定して厚生労働大臣の認可を受ける仕組みとな
っている。
○ 現行の中期目標の期間は 2024(令和6)年度までであることから、当部会
では、2025(令和7)年度から 2029(令和 11)年度までを期間とする次期
中期目標の策定等に向けて、GPIFの現状やGPIFを取り巻く環境の変
化等を踏まえ、本年 10 月から 12 月まで4回にわたってGPIFの運用や業
務運営等について議論を行ってきた。以下、これまでの本部会における議論
に沿って、GPIFの次期中期目標期間における取組の方向性等について整
理する。
1
Ⅱ GPIFの次期中期目標期間における取組の方向性等
1 運用目標等
(1)実質的な運用利回りの目標等
(背景)
○ 公的年金の給付水準は、長期的に見ると名目賃金上昇率に連動するため、
年金積立金の運用では、その運用利回りが名目賃金上昇率をどれだけ上回る
ことができるかが重要である。このため、中期目標においては、GPIFが
長期的に確保すべき運用利回りの目標について、「実質的な運用利回り(年
金積立金の運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたもの) 」の形で与え
ている。GPIFにおいては、この運用利回りの目標を達成するための基本
ポートフォリオを策定し、基本ポートフォリオに基づいて年金積立金の管理
及び運用を行っている。
○ 2006(平成 18)年4月にGPIFが設立された当時は、国内債券を中心と
する基本ポートフォリオに基づいて運用を行っていたが、経済・運用環境の
変化等を踏まえ、2014(平成 26)年度に基本ポートフォリオにおける株式の
比率を 50%に引き上げ、2020(令和2)年度からの現行の中期目標期間にお
いては、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式それぞれ 25%ずつの基本
ポートフォリオに基づいて管理及び運用を行っている。
○ また、GPIFの組織体制についても、運用専門職員制度の導入(2014
(平成 26)年度)による高度で専門的な人材の確保等の推進、管理運用業務
担当理事の設置(2015(平成 27)年度) 、経営委員会の設置等によるガバナ
ンスの強化(2017(平成 29)年度)等、運用の高度化・多様化やリスク管理
の高度化に対応するための組織体制の整備が進められてきた。
○ こうした中で、現行の中期目標期間においては、GPIFは、基本ポート
フォリオに沿った機動的・効率的なリバランスを可能とするためのリスク管
理体制の高度化等を推進し、これまで、運用リスクを低水準に抑えつつ、資
産全体で超過収益率(複合ベンチマーク収益率1を上回る収益率)を確保して
いる。
1 資産(国内債券・外国債券・国内株式・外国株式)全体のベンチマーク収益率であり、
各資産のベンチマーク収益率(月次ベース)を基本ポートフォリオの割合で加重平均し
た「複合ベンチマーク収益率(月次ベース)」をもとに年間収益率を算出したもの
2
(次期中期目標における運用目標の考え方)
○ GPIFに与える運用目標は、GPIFの運用において将来合理的に期待
できる現実的な運用利回りの水準に留意し、年金財政上必要な運用利回りを
設定するという性格のものである。
○ 財政検証における運用利回りの想定については、過去におけるGPIFの
平均的な運用実績をそのまま用いて設定しているところ、GPIFの運用目
標は、次期中期目標期間に適用されるポートフォリオの前提となるものであ
り、運用資産額が増大する中でポートフォリオの連続性にも留意しつつ、現
行の基本ポートフォリオの管理運用能力も含めたGPIFの足下の実力を運
用目標により適切に反映する観点からは、GPIFの運用において将来合理
的に期待できる現実的な運用利回りの水準の設定方法として、現行の基本ポ
ートフォリオのバックテストの結果を基礎に設定する方法が考えられる2,3。
○ GPIFにおける運用能力やリスク管理能力の向上等も踏まえれば、GP
IFの次期中期目標における実質的な運用利回りの目標について、GPIF
の運用において将来合理的に期待できる現実的な運用利回りとして、1.9%
という運用目標は妥当な水準である4。
○ 実質的な運用利回りの目標を 1.9%とすることについては、GPIFに更
なる負荷をかけることにつながることを懸念し、安全かつ効率的な運用とい
う観点から慎重な対応を求める意見がある一方で、現在のGPIFの体制や
これまでの運用実績を踏まえれば、実質的な運用利回り 1.9%という目標は
十分達成可能な水準であるという意見もあった。
○ 社会経済状況が変化し、将来の長期的な経済・運用環境の変化等の予測が
これまで以上に困難になっていることを踏まえれば、GPIFにおいて、基
本ポートフォリオの策定後も、その前提となった経済状況の見通しやリスク
等についての検証を毎年度実施するとともに、地政学上のリスク等の多様な
リスクについても配慮しながら、更なるリスク管理の高度化とそのための体
制整備を進めるべきである。
2 バックテストの結果は、運用開始時から現行の基本ポートフォリオで運用していたと想
定した場合の運用利回りであり、現行の基本ポートフォリオよりリスクを高める想定を
した場合の運用利回りではない。
3 バックテストの結果を活用するに当たっては、単にバックテストの結果をそのまま利用
するのではなく、それを基礎に、経済モデルから推計される利潤率倍率を乗じて推計す
ることで、フォワードルッキングな視点を導入している。
4 運用目標を 1.9%とし、今後 2024(令和6)年財政検証の想定を上回る運用利回りが確
保されれば、財政検証の想定より公的年金財政が改善し、更なる年金財政の安定に資す
ることになる。
3
(2)基本ポートフォリオのリスク制約
○ 年金積立金の運用は、厚生年金保険法等の規定により、年金事業の運営の
安定に資することを目的として、専ら被保険者の利益のため、長期的な観点
から、安全かつ効率的に行うこととされており、現行の中期目標においては、
年金財政上必要な実質的な運用利回りを最低限のリスクで確保することを目
標として基本ポートフォリオを策定することを求めている。
○ 運用目標の与え方については、「許容できるリスク量の範囲内でリターン
の最大化を目指す」という考え方もあるが、この考え方を採用する場合、ま
ず許容可能なリスク量を具体的に定める必要があり、公的年金財政において
許容可能なリスク量をどのように設定し、合意を得るか等の課題について慎
重な検討が必要である。
○ 公的年金の場合、安定的な財政運営を確保することが最優先の課題であり、
国民への分かりやすさ等の観点からも、次期中期目標においては、まず年金
財政上必要とされる運用利回りを明確に設定した上で、それを下回るリスク
を最低限に抑制するという現行の運用目標の考え方を引き続き維持し、 「年
金財政上必要な実質的な運用利回りを最低限のリスクで確保すること」を目
標として基本ポートフォリオを策定することを求めるべきである。
○ その他のリスク制約については、運用資産額が大幅に増加する中で、基本
ポートフォリオの下振れリスクを適切に管理することは引き続き重要である
ことから、次期中期目標においては、引き続き、「名目賃金上昇率から下振
れするリスク(下方確率)が全額国内債券の場合を超えないこと」をリスク
制約として示すとともに、基本ポートフォリオの下振れリスクの評価・検証
(株式等は想定よりも下振れ確率が大きい場合があるリスク、予定積立金額
を下回る確率、ストレステスト)を行うことを求めるべきである。
(3)ベンチマーク収益率の確保
○ 中期目標においては、長期的に確保すべき実質的な運用利回りとは別に、
中期目標期間中におけるGPIFの運用を評価する観点から、ベンチマーク
収益率(市場平均収益率)の確保についても目標として示している。
○ 現行の中期目標においては各資産毎のベンチマーク収益率の確保と資産全
体でのベンチマーク収益率の確保を並列で目標としているが、資産全体での
4
ベンチマーク収益率の確保のため、資産間の相関等を踏まえて分散投資を行
った場合には、必ずしも資産毎でのベンチマーク収益率は確保されない。こ
のため、現行の中期目標におけるベンチマーク収益率の確保の目標の設定方
法の下では、GPIFにおける基本ポートフォリオに基づく管理運用業務の
実施やその業務実績評価に当たり、資産毎と資産全体でのベンチマーク収益
率の確保の優先順位が明確ではないという課題が生じている5。
○ 中期目標期間におけるベンチマーク収益率の確保に関する目標については、
年金積立金全体の管理運用の最適化の観点からは、資産毎よりも資産全体で
のベンチマーク収益率の確保が重要であるとの認識の下、その優先順位を明
確化する観点から、次期中期目標においては、資産全体でのベンチマーク収
益率の確保を求めるべきである。
○ 各年度におけるベンチマーク収益率の確保の努力目標については、GPI
Fのパフォーマンスについて、中期目標期間中の業務実績評価における評価
や要因分析を適切に行い、運用の改善等につなげる観点から、次期中期目標
においては、引き続き、各資産毎と資産全体のそれぞれについてベンチマー
ク収益率の確保に努めることを求めるべきである。
○ その上で、要因分析の精緻化や透明性の向上等の観点から、次期中期目標
においては、資産配分要因、ベンチマーク要因、ファンド要因に限らず、投
資戦略毎など、投資行動に沿った要因分解を行うよう努めることを求めるべ
きである。
○ また、各資産のベンチマークの設定についても、GPIFにおいて、引き
続き、市場・運用環境の変化等を踏まえて適切に検証を行うべきである。
2 オルタナティブ投資
○ オルタナティブ資産は、上場株式・債券等の伝統的資産とは異なるリス
ク・リターン特性を有しているほか、伝統的資産よりも流動性が低く、その
分高い利回りが期待できることを踏まえ、GPIFにおいては、運用の効率
性を向上しつつ超過収益を獲得する観点から、専門部署の設置やリスク管理
体制の強化、法務体制・機能の強化等、必要な体制整備を図りつつ、オルタ
5 例えば、現行の中期目標期間においては、2020(令和2)年度・2023(令和5)年度は
資産全体ではベンチマーク収益を確保している一方で、2020(令和2)年度は国内株
式・外国株式について、2023(令和5)年度は外国株式について、それぞれベンチマー
ク収益率を確保できていない。
5
ナティブ資産への投資を進めている6。
○ GPIFにおいては、 オルタナティブ資産の運用の開始以来、運用資産残
高を着実に積み上げ、2024(令和6)年3月末時点で投資額は 3.7 兆円(運
用資産全体(246.0 兆円)に占める割合は 1.46%)となっている。一方で、
オルタナティブ資産については、伝統的資産と比べて市場規模が小さいこと
に加え、投資手法が限定されているという制約の下で7、GPIFにおいて良
質な投資機会の発掘を適切に行うためには時間を要することなどから、運用
資産全体の規模が大幅に増加している中で、オルタナティブ資産が運用資産
全体に占める割合は1%台で推移している。
○ オルタナティブ資産については、年金積立金全体の資産額が増加する中で、
引き続き適切にポートフォリオに組み入れることにより、運用の効率性を向
上しつつ超過収益を獲得する観点から、オルタナティブ資産のリスク・リタ
ーンの評価・分析手法の確立に向けた検証や適切にリスク管理等を行うため
の体制整備を進めつつ、着実に投資を進めるべきである。
○ GPIFがオルタナティブ資産への投資を着実に進められるよう、投資機
会へのアクセスを広げ、超過収益源を更に多様化する観点から、GPIFに
おいて法務体制・機能の強化等が進んでいること等も踏まえ、投資事業有限
責任組合(以下「LPS」という。 )と類似の特性を持ち、国内の不動産投
資等において一般的に使われている手法である匿名組合8を通じた投資につい
て、GPIFが実施可能な投資手法として新たに追加すべきである。
6 現行のGPIFの中期計画においては、インフラストラクチャー、プライベートエクイ
ティ、不動産をオルタナティブ投資の対象として、リスク・リターン特性に応じて国内
債券、国内株式、外国債券、外国株式に区分し、資産全体の5%を上限に運用を行うこ
ととされている。
7 GPIFが現在実施しているオルタナティブ投資の投資手法としては、投資信託、投資
一任(ファンドオブファンズ投資等) 、投資事業有限責任組合(LPS)がある。
8 匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる
利益を分配することを内容として、資金を提供する出資者(匿名組合員)と事業を行う
事業者(営業者)の 2 者間のみで成立する契約。匿名組合員は、投資事業有限責任組合
(LPS)の有限責任組合員(LP)と同様に、業務の執行権限を持たないため、個別
の投資案件の選択等の投資判断は行わず、議決権行使等を通じた投資先の経営への関与
も行わない。また、匿名組合員は、LPSのLPと同様、出資した額以上の責任を負わ
ない(有限責任) 。一方で、実施可能な事業について、法制上、LPSは投資事業に限定
されているのに対し、匿名組合は制限がない。また、外部監査についても、LPSは財
務諸表等についての外部監査の義務が法定されているのに対し、匿名組合は財務諸表等
の外部監査の義務が法定されていない。
6
○ その際には、LPSと匿名組合の法制上の差異を踏まえ、LPSと同程度
の投資家保護・開示水準の確保等のため、GPIFが匿名組合を通じたオル
タナティブ投資を行う場合の要件として、以下の要件①及び②を設定すべき
である。加えて、GPIFによるLPSを通じたオルタナティブ投資につい
ての社会保障審議会年金部会及び資金運用部会での議論を踏まえ、特定案件
への投資の回避やレピュテーションリスクの回避等のため、以下の要件③か
ら⑥まで(GPIFがLPSを通じたオルタナティブ投資を行う場合と同様
の要件)を設定すべきである。
‒ 要件① 営業の内容の限定
:匿名組合の営業の内容を投資事業(有価証券等の取得及び保有)に限る。
‒ 要件② 外部監査の実施
:契約において営業者の財務諸表等について外部監査の実施を求める。
‒ 要件③ 特定案件への投資の回避
:利用可能な匿名組合から運用対象の銘柄を特定して契約するものを除く。
匿名組合の投資先が特定銘柄に集中しない。
‒ 要件④ レピュテーションリスクの回避
:匿名組合による個別の投資案件について、原則、GPIFの投資分が
50%超とならない契約に限る。
‒ 要件⑤ 不動産投資の取扱い
:GPIFの参加する匿名組合が不動産を直接保有しない。
‒ 要件⑥ 適正手続き、透明性の確保
:経営委員会への事前及び事後の報告を行う(一定規模以下の場合は事後
の報告のみでも可)。匿名組合を組成した場合は、投資対象分野など必要
な情報を開示する。
○ 匿名組合については、LPSと比較しても契約の自由度が高いことに特に
留意し、GPIFにおいて匿名組合を通じた投資を実施するに当たっては、
契約内容の適正性等を確保するために必要な法務体制・機能等を十分に整備
した上で実施すべきである。
○ GPIFにおいてオルタナティブ投資を進めるに当たっては、伝統的資産
とは異なるリスク・リターン特性や、ポートフォリオにオルタナティブ資産
を組み入れる意義、投資手法や投資対象等について、引き続き、国民に対す
る分かりやすい情報発信を行うことが重要である。
○ 現行のGPIFの中期計画においては、オルタナティブ資産については、
7
資産全体の5%を上限に運用を行うこととされているが、GPIFにおいて
次期中期計画におけるオルタナティブ資産の上限を検討するに当たっては、
オルタナティブ資産の上限の考え方や根拠等についても整理すべきである。
3 スチュワードシップ責任を果たすための活動及びESGやインパクトを考
慮した投資
(1)スチュワードシップ責任を果たすための活動及びESGを考慮した投資
○ GPIFにおいては、年金積立金の運用において投資先及び市場全体の持
続的成長が長期的な投資収益の拡大に必要であるとの考え方を踏まえ、被保
険者の利益のために長期的な投資収益を確保する観点から、スチュワードシ
ップ責任を果たすための活動やESGを考慮した投資に取り組んでいる。
○ スチュワードシップ活動とESGを考慮した投資については、その効果が
発現するまでに長期間を要することも踏まえつつ、被保険者の利益のために
長期的な収益を確保する観点から、引き続き取り組むべきである。
○ GPIFは、本年夏に策定された「アセットオーナー・プリンシプル」
(2024(令和6)年8月28日内閣官房策定)について、その趣旨に賛同して
受け入れるとともに、 「アセットオーナー・プリンシプル取組方針」(2024
(令和6)年9月18日)を策定している。GPIFにおいては、当該取組方
針に沿って、アセットオーナーとして、インベストメントチェーンにおいて
長期的な企業価値の向上が経済全体の成長と投資収益の拡大につながる好循
環の構築を目指す観点から、インベストメントチェーンを構成する様々な主
体との継続的な対話の実施等、スチュワードシップ活動を深化させるための
取組を推進すべきである。その際、被保険者等の視点も取り入れる方策につ
いても検討すべきである。
○ GPIFにおいてESGを考慮した投資に取り組むに当たっては、PDC
Aサイクルを適切に回す観点から、企業価値の向上等の効果について、引き
続き定量的な効果検証を進めるとともに、その結果を取組の改善等につなげ
ていくべきである。
○ GPIFにおいてスチュワードシップ活動とESGを考慮した投資に取り
組むに当たっては、被保険者の利益のために長期的な収益を確保する観点か
らの取組であること等について、引き続き、国民に対する分かりやすい情報
発信を行うことが重要である。
8
(2)インパクトを考慮した投資
○ 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024 年改訂版」 (2024
(令和6)年6月 21 日閣議決定)においては、 「サステナビリティ投資は、
持続可能な社会の実現とともに中長期的な投資収益の向上を図るものであり、
GPIF・共済組合連合会等が、投資に当たり、中長期的な投資収益の向上
につながるとの観点から、インパクトを含む非財務的要素を考慮することは、
ESGの考慮と同様、「他事考慮」に当たらない。GPIF・共済組合連合
会等において、こうした整理を踏まえた取組を行うことについて検討する。 」
とされている。
(インパクトを考慮した投資の基本的考え方)
○ GPIFが、以下のような考え方の下で、投資に当たり、中長期的な投資
収益の向上につながるとの観点から、インパクトを含む非財務的要素を考慮
することについては、ESGの考慮と同様、「他事考慮」に当たらない。
・ 年金積立金の運用については、厚生年金保険法等において年金積立金が
被保険者から徴収された保険料の一部であり、かつ、将来の年金給付の貴
重な財源であることに鑑み、 「専ら被保険者の利益のため」に運用しなけれ
ばならないこととされており、GPIFが「社会的・環境的効果(インパ
クト)」の実現を直接の目的として投資を行うことはできない。
・ 一方で、社会・環境的課題の重要性が高まる中で、その解決を企図した
技術開発や事業革新等の事業は、その実現が急速な市場拡大・成長をもた
らし、当該事業に取り組む企業の持続的成長につながる可能性がある9 こと
を踏まえれば、投資先企業の事業内容がもたらす「社会的・環境的効果
(インパクト)」については、長期的な投資収益を確保する観点から投資先
企業の持続的な成長可能性等を評価する上で、ESG要素と同様、重要な
考慮要素の一つになり得るものと考えられる。
・ このような前提の下で、GPIFにおいて、投資に当たり、中長期的な
投資収益の向上につながるとの観点から、インパクトを含む非財務的要素
を考慮することは、ESGの考慮と同様、「他事考慮」に当たらない。
(インパクトを考慮した投資の検討の視点)
○ 企業のESGの取組を総合的に評価する従来のESGを考慮した投資の手
法(ESG指数に基づく株式運用等)では、個別の事業によるインパクトを
9 「インパクト投資等に関する検討会報告書」(2023(令和5)年6月30日金融庁)より
9
通じた企業の成長可能性等を必ずしも十分には捉えられないという課題があ
る10 ことを踏まえ、GPIFにおいて、ESGを考慮した投資との類似点や
相違点にも留意しつつ、被保険者の利益のために中長期的な投資収益の向上
を図る観点から、インパクトを考慮した投資について検討した上で、必要な
取組を行うべきである。
○ その際、インパクトを考慮した投資が政策金融や産業政策と誤解されない
ようにするためには、インパクトについては、特定のテーマや分野に限定す
ることなく、長期的・持続的な企業価値の向上等につながるかという観点か
ら、広い視野で捉えることが重要であるという意見もあった。
(GPIFにおける検討の進め方等)
○ GPIFにおいてインパクトを考慮した投資について検討を行うに当たっ
ては、上記の基本的考え方や検討の視点に留意して、対象資産や投資手法等
について具体的な検討を進めるべきである。
○ GPIFが株式投資を行うに当たっては、年金積立金管理運用独立行政法
人法(平成16年法律第105号)等の規定により、運用受託機関への投資一任
契約により行うこととされており、GPIFが特定の企業を投資対象とする
等の個別の銘柄選択や指示をすることはできないため、インパクトを考慮し
た投資における投資先の選定に当たっての個別の企業の事業内容等によるイ
ンパクト等の評価については運用受託機関が行うことになる。このため、G
PIFにおいてインパクトを考慮した投資を行うに当たっては、運用受託機
関が重要な役割を担うと考えられることから、運用受託機関の選定・評価等
については重要な課題として認識した上で検討を進めるべきである。
○ GPIFにおいてインパクトを考慮した投資を行うに当たっては、それが
GPIFの運用に求められる基本的な考え方にのっとって行われているかに
ついて継続的に検証すべきである。
○ GPIFにおいてインパクトを考慮した投資を行うに当たっては、被保険
者の利益のために長期的な収益を確保する観点からの取組であること等につ
いて、国民に対する分かりやすい情報発信を行うことが重要である。
○ GPIFにおけるインパクトを考慮した投資の対象資産や投資手法等につ
いての具体的な検討結果については、当部会に報告すべきである。
10 「インパクト投資等に関する検討会報告書」(2023(令和5)年6月30 日金融庁)より
10
4 業務運営体制等
(1)高度で専門的な人材の確保、育成、定着等
○ 運用する資産規模が増大し、また、市場・運用環境が複雑化・高度化する
中で、GPIFが長期的かつ安定的に運用を続けていくためには、被保険者
の利益のために効率的な業務運営体制を確立していく観点にも留意しつつ、
運用のフロント業務を担当する人材だけでなく、リスク管理を担当する人材
やIT専門人材等、幅広い分野における高度で専門的な人材の確保、育成、
定着等に取り組む必要がある。
○ GPIFにおいては、運用専門職員11 の報酬水準・体系について、運用の
高度化・多様化等に対応するための高度専門人材の確保等を図る上での競争
力を確保する観点から、引き続き、民間資産運用業界の実態を踏まえて適時
適切に見直しを実施していくべきである。
○ GPIFの長期的かつ安定的な業務運営のためには運用業務の基盤を支え
る正規職員12 の確保等も重要であることから、GPIFにおいては、正規職
員について、民間資産運用業界の実態を踏まえた適時適切な報酬水準・体系
の見直しや運用専門職員への転換も含めたキャリアパスの整備など、正規職
員の確保・育成等のための取組も強化していくべきである。
○ GPIFにおいては、職員の資質の向上を図るための研修の充実や多様な
人材が活躍できる勤務環境の整備について、引き続き推進すべきである。特
に、女性の活躍の推進が引き続き課題となっていることを踏まえ、中途採用
も含めた女性の積極採用や管理職への積極登用、女性活躍研修の充実やキャ
リアパスの整備等による女性職員のモチベーションの向上等、女性の活躍を
推進するための取組を一層強化していくべきである。
○ GPIFの役職員が、GPIFの使命を適切に理解し、高い倫理観を持っ
て、責任感、やりがいや誇りを感じながら業務に従事できるよう、従業員エ
ンゲージメントの向上に取り組むべきである。
○ 職員の採用については、採用に当たっての阻害要因を的確に把握・分析し、
その結果を踏まえ、採用を目指す人材のターゲットを明確にするなど、必要
な対策を検討すべきである。職員の定着についても、離職した職員の離職理
11 運用専門職員:高度で専門的な運用業務に従事する任期を限った職員
12 運用専門職員以外の職員
11
由等を的確に把握・分析し、その結果を踏まえ、必要な対策を検討すべきで
ある。
○ 新卒や若手も含め、高度専門人材を効果的に確保する観点から、GPIF
においては、GPIFの業務を通じて得られる経験・能力やGPIFの業務
の社会的意義等についての効果的な発信に一層取り組むべきである。
○ 運用する資産規模が増大し、また、市場・運用環境が複雑化・高度化する
中で、必要な人材の確保等をより効果的・効率的に進める観点から、GPI
Fにおいては、組織として戦略的に人材の確保等を進めるための機能の強化
を図るべきである。
(2)業務のデジタル化の推進
○ GPIFには運用受託機関等を通じて膨大な取引データ等が日々集積され
るため、こうしたデータを有効活用することにより、運用やリスク管理の更
なる高度化が期待できる。
○ GPIFにおいては、運用やリスク管理の更なる高度化や業務の効率化等
の観点から、 「投資判断プラットフォーム」13 を本格的に導入・活用すること
を目指し、必要な情報システムの整備等、業務のデジタル化を一層推進する
とともに、それを支えるIT専門人材の確保・育成等の取組を強化すべきで
ある。その際、外部環境の変化や運用の高度化等に柔軟に対応しながら、効
果的・効率的に業務のデジタル化を推進するためには、必要に応じて、実施
可能なものについては、システムの内製化を図ることが重要である。
○ GPIFにおいて業務のデジタル化やIT専門人材の確保・育成等の取組
を一層進めるに当たっては、組織として戦略的に業務のデジタル化等を進め
るための機能の強化を図るべきである。
○ GPIFにおいて投資判断プラットフォームを本格的に導入・活用するに
当たっては、情報セキュリティが確実に確保されるよう、引き続き情報セキ
ュリティ対策を厳格に実施すべきである。
13 膨大な取引データ等を効率的かつ迅速に収集し、分析・評価するとともに、投資判断
に活用することを可能とするためのシステム
12
(3)組織体制
○ GPIFにおいては、2017(平成 29)年 10 月施行のガバナンス改革の仕
組みが定着し、経営委員会(意思決定・監督)、監査委員会(監査)、理事長
等(執行)が、適切な役割分担及び連携を図りながら健全な緊張関係を保ち
つつ運営しており、自律的なPDCAサイクルを機能させている。
○ 経営委員会の委員構成も含め、経営委員会のあり方については、
・ 年金積立金の運用目的に沿って意思決定、監督を行うガバナンス体制が
重要であり、拠出者であり受益者である被保険者の立場を代表する者の意
向が適切に反映される体制となっているかどうか検討の余地がある。
・ 意思決定機関においては、ステークホルダーによる牽制機能と専門的見
地からの積極的・意欲的な意思決定の機能のバランスが重要であり、拠出
者代表と運用等の専門家のバランスは現状のままが良い。
・ ガバナンスについては、異なる立場の様々な意見を聞くための多様性が
重要である一方で、人数が多すぎても実質的な議論が難しいため、多様性
と人数のバランスが重要。
・ 意思決定機関は、被保険者を代表して意思決定することよりも、被保険
者のために意思決定することが求められており、その意味では専門性が重
要。その上で、意思決定が適切かどうか別途チェックする仕組みも重要。
等、様々な意見があったところであり、当部会との役割分担等も踏まえなが
ら、引き続き丁寧に検討を継続していく必要がある。
○ GPIFにおいては、運用資産額が増加する中で、引き続き、業務執行能
力の向上を図りつつ、業務執行の透明性・公正性の確保に一層取り組むべき
である。
(4)全体的な情報発信・広報及び透明性の確保
○ 各項目でも情報発信の重要性について指摘したが、今後、運用の高度化等
が進む中で、被保険者や拠出者としての事業主をはじめとする国民からの理
解と信頼を確保する観点から、業務全体を通して、透明性の確保や情報発信
の充実に引き続き取り組むべきである。
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団体