第10回社会保障審議会年金財政における

経済前提に関する専門委員会 議事録

●日時

2019(平成31)年3月7日(木)13時58分~14時51分

●場所

全国都市会館 第2会議室(3階)

●出席者

植田 和男(委員長)

小黒 一正(委員)

小野 正昭(委員)

権丈 善一(委員)

小枝 淳子(委員)

駒村 康平(委員)

武田 洋子(委員)

玉木 伸介(委員)

野呂 順一(委員)

山田 篤裕(委員)

米澤 康博(委員)

佐藤 参事官(内閣府計量分析室)

森 審議役(年金積立金管理運用(独):GPIF)

鎌田 企画部長(年金積立金管理運用(独):GPIF)

陣場 調査数理室長(年金積立金管理運用(独):GPIF)

井嶋 統括研究員(独立行政法人労働政策研究・研修機構)

 

●議題

(1)年金財政における経済前提について

(2)その他

●議事録

○植田委員長

第10回目の「年金財政における経済前提に関する専門委員会」になります。お忙しい中ありがとうございます。

きょうは、吉川委員が欠席と御連絡いただいています。

 それから、前回、労働力需給推計に関する御質問があったということで、きょうは、労働政策研究・研修機構から井嶋統括研究員にお越しいただいております。

 あと、GPIF、内閣府からもお越しいただいていますが、内閣府の佐藤参事官、ちょっと遅刻してお見えになる予定でございます。

 それでは、議事に入らせていただきますが、カメラの方はここで御退席をお願いします。

                    (カメラ退室)

 

○植田委員長

 最初に、事務局から資料の確認をお願いします。

 

○武藤数理課長

 年金局数理課長の武藤でございます。

 私から、資料の確認をさせていただきます。

 本日もタブレット方式ですけれども、卓上タブレット、現在、議事次第が表示されているかもしれませんが、1回タップしていただきますと、タブレット左上に、「マル1第10回資料」の文字をさらにタップしていただきますと資料の一覧が表示されます。

 本日準備している資料は、議事次第、委員名簿、座席図のほか、資料1「年金財政における経済前提について(検討結果の報告)(案)」、資料2「年金財政における経済前提について(参考資料集)」、参考資料「労働力需給推計の概要(案)」となります。

 操作についての説明書をお手元に配付しておりますが、御不明な点がありましたら、適宜事務局がサポートいたしますので、御遠慮なくお申しつけください。

 

○植田委員長

 それでは、議題に移りたいと思います。

 この会はきょうが10回目ということで、これまで9回、それから、検討作業班は3回の議論をお願いしてきました。きょうは、できれば全体の取りまとめということをさせていただければと思います。もしうまく取りまとめができましたら、この後、年金部会に報告書を報告するという段取りでございます。

 それでは、最初に事務局から資料の御説明をお願いいたします。

 

○武藤数理課長

 それでは、御説明申し上げます。

 本日の資料は2種類ございますけれども、まず、資料2の参考資料集について簡単に御説明申し上げます。

 この参考資料集ですけれども、基本的に、前回、2月21日の本専門委員会の資料に、その日の御議論を踏まえてページを追加したり、あるいは、その後、公表データの更新などがありましたので、それを踏まえて修正したものでございます。よって、本日はポイントとなる変更部分だけを確認させていただきたいと存じます。

 まず1点目ですけれども、TFP上昇率の過去実績の遡及修正についてでございますが、資料としては25ページをごらんください。この資料ですけれども、内閣府から先週公表されております月例経済報告における2018年の10月から12月の四半期別のGDP速報(1次速報値)を踏まえて作成したものでございます。前回の2月21日の専門委員会の同様の資料から数値が過去分にさかのぼって遡及修正されております。本専門委員会の議論の方向性に影響を与えるような修正ではございませんが、直近の2017年度の実績が0.3%となっておりまして、2月の資料の同じ2017年度の数値、0.4%から下方修正されているという状況でございます。

 その前の24ページにお戻りいただきたいのですが、こちらはTFP上昇率の前提の設定のイメージ図でございます。2月の専門委員会におきまして幅の広い6ケースで設定する方向で御了解いただいたところでしたが、その際のケースVIの2029年度以降の値は0.4でございました。ケースVIの設定値の考え方が、過去30年の実績を見て全ての値をカバーするようにという考え方でしたので、本日は、その点、微修正して、0.3%と修正してはどうかという御提案でございます。

 1点目は以上ですが、2点目は、38ページから42ページまでの資料をごらんください。この資料ですけれども、小黒委員からの御指摘を踏まえたものでして、この部分、過去の物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りの分布でございますが、前回掲載していた資料、ほとんど同じ資料が載っていたのですけれども、今回の経済前提6ケースがどこに位置づけられるかを確認したものということでございます。

 6ケースの具体的な数値自体は後ほど確認させていただきたいと思いますが、ちなみに、38ページが物価上昇率について、39ページが就業者1人当たりの実質成長率について、40ページが実質賃金上昇率について、41ページが実質運用利回りについてなどとなってございます。

 3点目ですけれども、63ページをおめくりいただきたいと思います。この表は、今回の経済前提の6ケースについて各種パラメータの設定値が一覧できるようにまとめた表になります。

 例えばケースIIIで見ますと、TFP上昇率は0.9%で、上位63%をカバーするもの、労働投入量は労働参加が進むケース、実質運用利回りのベースとなる実績は2.3%で、上位70%をカバーするものなどとなってございます。

 ケースVで見ますと、TFP上昇率は0.6%で、上位83%をカバーするもの、労働投入量は労働参加が一定程度進むケース、実質運用利回りのベースとなる実績は1.8%で、80%をカバーするものなどとなってございます。

 参考資料集の御説明は以上でございます。

 続きまして、本題の資料1でございます。委員の皆様には、一昨年の7月以降、本年の財政検証に用いる経済前提に関する御議論を積み重ねていただき、事務局としても御礼申し上げます。

 資料1が、その御議論を踏まえまして事務局のほうで準備させていただきました本専門委員会における議論の最終報告書の案で、年金部会での報告を想定して作成した資料でございます。

 この最終報告書案のうち、経済前提のあり方や設定の基本的な考え方など骨格の部分については、昨年12月におまとめいただきました経過報告書の内容と同じでございます。それに加えまして、年明けに公表されました内閣府の中長期試算や労働力需給推計、あるいはGDP統計などを織り込んで設定したパラメータなどが記載の中に数値として織り込まれているということです。

 また、最終的に設定する予定の経済前提、つまり、物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りの案が報告書の12ページと13ページ、後半のほうに記載されているという構成になってございます。

 委員の皆様にはあらかじめごらんいただいておりまして、御意見を踏まえて修文等をしてございますが、改めて、こちらでポイントとなる部分を中心に御説明させていただきたいと存じます。

 まず2ページ目でございます。「1.報告の趣旨」が記載されております。本年に行う公的年金の財政検証に用いる経済前提を設定するに当たって、その専門的・技術的な事項について検討する場として、一昨年7月に本専門委員会が設置され、以後10回の会合が積み重ねられてきた旨の記述でございます。

 次は、「2.財政検証に用いる経済前提の基本的な考え方」です。(1)は、平成16年改正の長期年金財政フレームのもとで財政検証が長期年金財政の定期健康診断として行われているということが記述されております。

 また、(2)以降ですけれども、基本的な考え方についての大変重要な記述が続いておりますので、ここは改めて確認させていただきたいと思います。

 (2)の記述でございますが、

 財政検証においては人口や経済の長期的な前提を設定する必要があるが、将来の人口や経済の動向は不確実なものであり、長期的な見通しには限界がある。したがって、財政検証を行う時点における最善の努力を払ってこれらの前提を設定したとしても、時間が経過し新たなデータが蓄積されると、実績との乖離は生じてくるものである。このため、少なくとも5年ごとに最新のデータを用いて諸前提を設定し直した上で、現実の軌道を出発点として新たな財政検証を行うことが法律で定められている。

 という記述でございます。

 また、3ページの(3)ですが、

 財政検証の結果は、人口や経済を含めた将来の状況を正確に見通す予測(forecast)というよりも、人口や経済等に関して現時点で得られるデータを一定のシナリオに基づき将来の年金財政へ投影(projection)するものという性格に留意が必要である。このため、財政検証に当たっては、長期的に妥当と考えられる複数のシナリオを幅広く設定した上で、長期の平均的な姿として複数ケースの前提を設定し、その結果についても幅を持って解釈する必要があるものである。

 また、長期的な前提の幅を設定するに当たっては、財政検証がおおむね100年にわたる超長期の推計であることを踏まえ、足下の一時的な変動にとらわれず超長期の視点に立ち妥当と考えられる範囲において設定する必要があるものである。

 というものでございます。

 続けて(4)、

 また、公的年金は収入、支出ともに長期的には賃金上昇率に従って変動する仕組みであり、年金財政へ影響を大きく与える経済要素は収入・支出の中で賃金上昇に連動しない部分である。このため、年金財政にとっては、賃金上昇率や運用利回りの名目値でなく、「(物価上昇率を上回る)実質賃金上昇率」と「(賃金上昇率を上回る)実質的な運用利回り(スプレッド)」が重要であることに留意が必要である。

 ということで、このあたりは大変重要な考え方だと考えております。

 続けて、「3.経済モデルの建て方について」です。(1)と(2)において、旧来より用いられてきたコブ・ダグラス型生産関数を骨格にして、同様の手法をとりながら改善を加えていくべきという考え方が記述されております。

 なお、4ページの(3)は、実質経済成長率と実質賃金上昇率の関係についての分析で、1月の年金部会において一旦差し控えた分析に関する記述ですが、2月の専門委員会での御議論を踏まえて記述を戻すこととしております。記述を確認しておきますと、

 実質経済成長率と実質賃金上昇率の関係について、バブル崩壊後、直近20年の我が国の動向について調べたところ、雇用者1人当たり実質賃金上昇率は就業者1人当たり実質経済成長率に比べ伸びが低いことが確認された。この差について要因分析を行ったところ、マル1経済成長率を実質化するGDPデフレーターと賃金上昇率を実質化する消費者物価指数のデフレーターの違い、マル2労働分配率の低下、マル3雇主の社会負担の増加によりおおむね説明できることを確認した。

 また、デフレーターの違いについては、消費者物価指数は家計消費に対象を限定しているのに対し、GDPデフレーターは設備投資や輸出入の影響も考慮しているため交易条件の悪化の影響を受けていること、消費者物価指数はラスパイレス算式、GDPデフレーターはパーシェ算式を採用していることによる算定式の違いの影響を受けていることも確認できた。

 というものです。

 この分析を踏まえて、(4)は、CPIとGDPデフレーターの差のうち、算式の違いによる部分を幅を持って一定程度考慮することとしたという記述でございますが、また、記述を確認しておきますと、

 経済前提の設定に当たっては、おおむね100年にわたる超長期の推計であることを踏まえ、足下の一時的な変動にとらわれず設定する必要があり、この観点からは「労働分配率の低下」「雇主の社会負担の増加」「交易条件の悪化」という状態の変化が将来にわたり一定方向に続くと仮定することは必ずしも適切ではない。このため、従来の財政検証においては、将来の不確実性に鑑み、マンアワーベースで実質賃金上昇率と実質経済成長率が一致すると仮定されていた。

 しかしながら、今回の分析で明らかとなった消費者物価指数とGDPデフレーターの差のうち、算式の違いにより生じている部分については、将来にわたり続く可能性も考えられるため、一定程度考慮することとする。具体的には、

・ 範囲がおおむね同じとなる「家計最終消費支出のデフレーター」と「消費者物価指数()」の伸び率の差が、~年で平均▲%である

・ アメリカ、カナダの年金財政の見通しにおいてもデフレーターの違いが考慮され、アメリカ▲%、カナダ%とされていることを踏まえて、消費者物価指数とデフレーターの差のうち、状態の変化によらない算式の違いにより生じている部分を基本に、幅を持って▲~%とする。

というものでございます。

 次は、「4.経済モデルのパラメータの設定について」です。(1)は、前回の財政検証と同様に、TFP上昇率を基礎に幅広く複数ケースを設定することや、その他のパラメータについても必要に応じて幅を設定しつつ、背景となるシナリオを踏まえて整合的な組み合わせとする旨の記述でございます。

 (2)はTFP上昇率の前提の設定値についての記述で、2月の専門委員会で御議論いただき、幅の広い6ケースを設定することを御了解いただいた上で、本日、ケースVIについては下方修正の御提案を申し上げた数値をベースにしたTFP上昇率の前提の設定値でございます。

あるいは、6ページの(3)はその分布を確認したものでございますが、ここも記述を確認しておきますと、

 以上より、全要素生産性(TFP)上昇率の長期(2029年度~)の前提は、1.3%~0.3%の範囲の設定となる。バブル崩壊後の1990年代後半以降の実績が1.2%~0.3%の範囲で推移しており、概ねこの範囲で設定されたものとなる。また、過去30年間(1998~2017年度)の実績の分布をみると、ケースIの前提1.3%を上回るのは約2割(17%)であり、ケースIは過去30年間の実績の約2割(17%)をカバーするシナリオに相当する。同様に、ケースIIの1.1%は約4割(40%)、ケースIIIの0.9%は約6割(63%)、ケースIVの0.8%は約7割(67%)、ケースVの0.6%は約8割(83%)、ケースVIの0.3%は10割(100%)がカバーされるシナリオに相当する。

 というものです。

 (4)は、武田委員や野呂委員からのお求めで行いました参考試算で、内閣府の対象期間について、TFP上昇率を0.4%とした場合の長期経済前提への影響に関する記述ですが、これも確認しておきますと、

 また、全要素生産性(TFP)上昇率の設定については、最も低いケースVIの内閣府試算の対象期間について、0.4%で推移した場合の長期の経済前提への影響について、参考として試算を行った。その結果、賃金上昇率が0.05%~0.06%程度低下する影響があることが確認できた。

というものです。

 なお、(5)が2月の専門委員会で駒村委員や山田委員から御発言がありました、高齢化に伴い将来のTFP上昇率の低下の可能性を指摘する御意見に関する記述です。報告書を事前に御確認いただく中で、次のような記述となりましたが、ここも確認させていただきますと、

 なお、全要素生産性(TFP)上昇率への高齢化等の影響について議論があったが、将来の不確実性や財政検証が予測(forecast)というよりも一定のシナリオに基づく投影(projection)という性格のものであることを考慮すべきとの意見や人口成長率が低いと逆に技術進歩率が高まる可能性を指摘する意見もあり、実績の範囲内で設定することとした。一方、高齢化等に伴い将来の低下の可能性を指摘する意見もあり、全要素生産性(TFP)上昇率については、足下の低下傾向に留意しつつ、今後の推移を注視していく必要がある。

 とさせていただいております。

 (6)は労働投入量の設定に関する記述で、前回までの御議論のとおりでございます。

 7ページの(7)と(8)はGDP統計を用いたパラメータの設定、具体的には資本分配率、資本減耗率、あるいは総投資率の設定、また、GDP統計の遡及推計や設定方法の改善についての記述でございます。

 (9)は、経済モデルは今後の20年から30年の期間における推計を行うこと、また、8ページの(10)は物価上昇率の設定に関する記述で、日銀の目標や内閣府の中長期試算の推計値、過去の実績などを参考に数値を設定したことが記述されております。

 続けて、「5.運用利回りの設定について」です。(1)が「長期の運用利回りの設定について」ですが、今回の運用利回りの設定に当たっては、GPIFの運用実績を活用することとした点についての記述でございます。

 次のページ、(ウ)ですが、2月の専門委員会の御議論を踏まえて、ベースとなる実績が、ケースIからIIIは過去10年移動平均の30%タイル値、ケースVIからVは過去10年移動平均の20%タイル値を用いることとした旨の記述がございます。

 また、(2)がケースVIについてイールドカーブを用いる方法としたことについての記述で、さらに10ページの(3)が「足下の経済前提について」、内閣府の中長期試算の長期金利を基礎として、内外の株式等の分散投資による効果を加えて設定することについての記述でございます。

いずれにしても、2月の専門委員会での御議論を踏まえて具体的な基礎数値が織り込まれております。

 「6.経済変動を仮定するケースの設定について」でございます。(1)から(3)については過去の経緯についてでございます。つまり、(1)にありますように、平成26年財政検証時のオプション試算におきましても、4年周期、物価上昇率等の変動幅1.2%の経済変動を仮定した計算を行ったところでした。

 ただし、11ページの(2)にありますように、平成28年の年金改革法において導入された新たな改定ルールが発動した場合の効果を測定するために、前回とは異なった経済変動を仮定する必要が生じたこと。また、それは、(3)にありますように、より長い周期で、より変動幅の大きい経済変動を仮定する必要が生じたところです。専門委員会での議論を踏まえまして、(4)にありますように、10年周期で物価上昇率の変動幅は1.1%、名目賃金上昇率の変動幅は2.9%と設定されました。

 以上はこれまでの専門委員会における分析や検討、あるいは議論の積み重ねの結果で、既に前回までの御議論の内容を文章化したものでございます。

 さて、12ページ、13ページが以上の検討を踏まえた具体的な設定数値でございます。

 12ページの(1)は2028年度までの足下の経済前提ですが、内閣府試算に準拠して、上の表の成長実現ケース、下の表のベースラインケース、それぞれの物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りはこちらの表のとおりでございます。

 13ページの(2)、こちらが2029年度以降に用いる長期の経済前提で、これが本専門委員会のマクロ経済モデルによる試算を踏まえて設定されたものでございます。

 前回、平成26年財政検証時の8ケースから今回は6ケースにケースの数が減っておりますが、大まかに捉えるとするならば、前回のケースAというのが前回の最も成長率が高いケースでしたが、そのTFP上昇率の設定値は1.8%で、次に高いケースBというのが1.6%でしたので、この2ケースに相当する部分がなくなっているような感じ、それで6ケースになっているような感じの変更となっているところです。

 前回よりは全体的にTFP上昇率の設定値が低くなっておりまして、あわせて賃金上昇率や運用利回りもやや低くなっているという状況でございます。

 なお、次の14ページは本専門委員会の名簿でございます。

 続いて、15ページは本専門委員会の開催状況でございます。

 なお、本日御欠席の吉川委員へは事前に報告書案を御説明し、設定した前提数値を含めて御了解の連絡をいただいております。また、吉川委員への事前の御説明の際に、前回の専門委員会で御議論がありました、高齢化に伴い将来のTFP上昇率の低下の可能性を指摘する御意見についてのコメントをいただきましたので、以下、若干御紹介させていただきたいと思いますけれども、読み上げます。

 高齢化に伴い、将来のTFP上昇率の低下の可能性を指摘する考え方の背景には、体力や敏捷性において高齢者は若者にはかなわないということが背景にあるのかもしれないが、それほど単純な話でもないと考える。技術進歩は生産性の低いセクターから高いセクターへ労働や資本がシフトすること、つまり、産業構造の進歩によってもたらされる。かつての第一次産業中心から第二次産業、第三次産業へと大きく変化してきたことからもわかる。また、技術進歩は教育や研究によるハードな技術と並んでソフトな技術が重要である。このソフトな技術は教育などによってもたらされるわけでもない。

 この例としては、赤ちゃん用の紙おむつが高齢者向け紙おむつとして開発されたこと、また、従来、大人向けの歯磨き粉が子供向けの歯磨き粉として甘い味つけをされたものが開発されたこと。いわゆるライオンこどもハミガキのことなどがある。

 いずれにしても、高齢化に伴い必然的にTFP上昇率が落ちるということでもないと考えている。

 以上が吉川委員からのコメントです。

 また、私からの説明も以上でございます。

 

○植田委員長

 ありがとうございました。

 それでは、現在御説明いただいた資料について、御意見、御質問等、御自由にお願いしたいと思います。

 

○権丈委員

 財政検証は公的年金保険のPDCAサイクルのC、チェックに位置づけられまして、この検証があると私たちは所得代替率で年金の給付水準を論じて、保険料固定方式のもとで将来の給付水準を引き上げるためのPDCAサイクルのA、アクションである制度改正の論議に入っていきたいと考えているわけですけれども、そのアクションに集中して、雑音にさいなまれないように、このCの段階でしっかりとした議論をしておく必要があるととても思っております。

 その中で1点お願いしたいのですけれども、本日の資料2の「年金財政における経済前提について(参考資料集)」の「基本的な考え方」のところでスライドを2枚ほど加えていただけないかということです。専門委員会の第1回目で配付された資料2-1というものの中に年金財政における経済前提に関する資料というのがありまして、そのスライド8に「財政検証に用いる経済前提の基本的な考え方」というのがあります。これは本日の資料1のほうに書いてあります、これはforecastではなくてprojectionだよというようなことを延々と書いてある文章ですが、それを1枚加えていただけたらと思っております。

 もう一つは、この専門委員会の第4回で配付された資料2の経済前提が年金財政に与える影響のスライド2というもので、「厚生年金の財源の内訳」というものがあるわけですけれども、これの「年金財政における経済前提について(参考資料集)」の最初の「基本的な考え方」というページのところに2枚加えていただくことを御検討いただければと思って話させていただきました。

 以上です。

 

○植田委員長

 今の御意見について、何か御意見、御質問等ございますか。ちょっとお手元にないので判断難しいかもしれませんが。

 

○武藤数理課長

 委員の皆様において、もしよろしければ、ホームページに掲載させていただく資料にはそれを追加して準備させていただければと存じます。

 

○植田委員長

 それでは、ほかに御意見どうぞ。

 

○野呂委員

 先ほどの御説明もありましたとおり、6ページ目の(4)ですけれども、フラットなケースについても言及いただきまして、ありがとうございましたと言うのは変ですけれども、非常によかったなと思っております。

 それから、13ページにシナリオが6通りの一覧表がありまして、前回の財政検証より2通り減っています。また、ケースVIが0.4から0.3に下がったので、ちょっとケースVとの間が広がったような感もありますけれども、余り細かく刻むのも、かえって国民目線で見ても煩雑でわかりにくいと思いますので、私はこの6通りぐらいが妥当かなと思います。余り理論的な根拠があるわけでなく、感覚でございますけれども、そのように感じます。

 また、この13ページを眺めると、前回、2014年の財政検証の前提に比べまして、賃金上昇率であるとか実質運用利回りにつきましては、前回よりも幾分低目に設定されているかと思いますが、それを引き算しましたスプレッドの対賃金運用利回りについては余り変わっていませんが、これは別に積み上げでスプレッドの対賃金の数字をつくったというよりも、単なる引き算の結果でございますので、今後、資産運用のターゲットとするときにこれを利用するとすれば、これは引き算の結果であって、必ずしも運用環境等も含めて前回と同じであったということではないということについて、言いかえると、余り背伸びしたような運用ターゲットの設定にならないような注意喚起をしていただくといいのではないかなと思います。

 以上です。

 

○植木委員長

 どうぞ。

 

○玉木委員

 私から一つのコメントでございます。資料1の6ページに、先ほど委員のほうから(4)についてコメントございましたけれども、私は その次の(5)について一言申し上げます

 このなお書きのところで、forecastというよりはprojectionであるからということで始まっている文章でございますけれども、このように、高齢化という大きな流れと、それから全要素生産性という基本的な変数のいろいろな関係に我々が着目しているということが明示されているのは、大変よろしいのではないかと思います。

 他方で、その辺の2つの数の関係が短期的なものか長期的なものか、これはよく見きわめていこうとしているというのもよく出ております点で、この(5)の文章はなかなかこなれております。また、この2つの変数に限らず、いろいろな側面について、短期的、長期的なものかどうかといったことについて慎重に見きわめながら、かつ、それを5年ごとに繰り返して点検していくという、財政検証のビジネスモデルといいますか、やり方についての御説明をなさる際にも、この辺は非常にいい例ではないかと思いますので、コメントとして申し上げます。

 

○植田委員長

 駒村委員。

 

○駒村委員

 ありがとうございます。

 2点ほどありまして、先ほども権丈委員がおっしゃったように、この報告書、シナリオとかケースとかいう言葉が出てくるのですけれども、どういうことを意味しているのかを明示する必要があります。すなわち、このシナリオというのは、先ほども一定のシナリオに基づく投影であるということですが、そのシナリオというのはどういうことを意味しているのかというのは、先ほど権丈さんがおっしゃったような資料をつけるか何かで、補足で、読む方がわかるように、あくまでもシナリオに基づいてと。これはどういうことを意味しているのかわかるようにお願いできればと思います。

 きょうは内閣府の方とJILPTの方がいらしていただいていますので、念のためにこれも確認したいところですけれども、経済財政諮問会議では、去年の5月に、2025年、2040年の社会保障給付の財政の見通しを出していて、社会保険料が経済に与える影響という点について、このJILPTと内閣府のほうではどのように考えていらっしゃるのか。年金の保険料はもう上がらないというので、保険料固定方式でいいと思うのですけれども、医療と介護については今後も保険料はある程度上がると。その保険料の上昇が労働需給にどういった影響を与えるかということをこの内閣府の将来見通しの中に入っているのか、JILPTのほうは考慮しているのかしていないのか、ちょっと念のためにここだけ確認させてください。

 以上です。

 

○佐藤参事官(内閣府計量分析室)

 御質問がありましたので。

 中長期試算につきましては、労働参加の将来の想定につきまして雇用政策研究会の需給統計をそのまま使っておりまして、その中次第だとは思います。一方で、おっしゃられたように、我々の経済中長期試算でつくっているモデルの中で医療と介護の保険料はどうなっているのかということにつきましては、それはその給付に従いまして徐々に上がっていくという想定になっております。

 

○井嶋統括研究員((独)労働政策研究・研修機構)

 JILPTでございます。

 医療と介護の費用につきましては、昨年出ましたものは生産額のほうに加えるという形で考慮しておりますので、そこは含めて推計しているということでございます。

 

○駒村委員

 ちょっと今聞き取れなかったので、済みません。医療と介護の保険料の企業負担分とか個人負担分に関する部分ですが。

 

○井嶋統括研究員

 保険料ではなく自己負担分も含む費用を加えたものを生産額に加えておりますので、医療福祉のところがその分増加するという形になっております。

 

○植田委員長

 小黒委員。

 

○小黒委員

 ありがとうございます。

 参考資料のほうにも過去データの分布との比較で各シナリオの前提がどのように位置づけられるのか、その位置づけを明らかにするという私の提案を加えていただき、ありがとうございます。これは画期的な試みで、本当に感謝申し上げます。その上で、もう1点だけ、お願いがあります。後ろの本体の報告書のほうで表が2つございまして、12ページ目と13ページ目ですか。これは参考資料のほうに入っているので、あえて加えなくてもいいのかもしれないですけれども、13ページのほうでは、例えば全要素生産性が、2029年度以降の話で厚労省のほうで入っているのですけれども、12ページのほうは入っていないので、もし可能であれば何か1段つけていただければと思います。これは簡単な要望なので、もう一回開くとかそういう話ではなくて、可能であれば加えていただければと思います。

 

○武藤数理課長

 この後からも報告書の話が出てくるかもしれませんので、あわせて考えさせていただきたいと思いますけれども、いずれにしても、報告書の話につきましては本日の御議論を踏まえて最終的に委員長と御相談させていただきながら修正対応したいと思います。

 

○権丈委員

 私も、もう一回開くとかいう話ではないのですけれども、全要素生産性を外生変数として扱うことは大きなポイントで、これに関してここでどんな議論がなされたのかというのをちょっと振り返ってみたいと思います。

 第3回に、2017年の12月ですけれども、長期的な経済成長と賃金上昇の見通し等について有識者ヒアリングというのをここで行って、我々よりも詳しい人たちにいろんな形で聞いてみようかというのをやっていたわけですけれども、その委員会で有識者のお一人の山田久先生は、ピケティの本を紹介しながら、非常に長期でとると人口1人当たりの生産性は多くの国で1%で大体収束していると。ですから、長期で見たときには、1人当たりの所得が1%、すなわち生産性が1%ぐらいふえていくというのは、ある意味、極めてモデレートといいますか、納得できる数字ではないかと答えられ、それに対してもう一人の有識者であった熊谷亮丸先生も、山田先生がおっしゃったのと結論としては同じで、ベースのシナリオとしては比較的穏当な線なのではないかと思いますし、十分達成はできると思いますと論じられています。向こう100年ですから、ここにいる人みんないなくなっていると思いますけれども、恐らくピケティのような200年のデータとかいろんなものを見ていった感覚で考えていくと、1%というのは妥当ではないのかなというようなところで、それよりも相当低いところまでここは設定しているというようなことはある程度確認しておいたほうがいいかなと思っております。

 我々がprojectionというのを行っているわけですけれども、余り推論を入れて、これが予測であるかのように勘違いをされてはいけないということもやはり大切なので、projectionを行うための唯一の手がかりとしての過去における実際の数字を100%含む範囲での経済前提というのは、私は妥当ではないかと思っております。

 前回欠席しておりましたので、ちょっと発言させていただきました。

 

○植田委員長

 ほかにいかがでしょうか。

 

○野呂委員

 今回の財政検証の前提についてではなくて、次の財政検証か、あるいは違う部会での議論かわかりませんが、今回、附属資料の参考資料の40ページ前後にいろんなグラフと、それぞれのグラフに対するケースIからケースVIを表示いただいて、それぞれのケースがどこに位置づけているかがよくわかって、わかりやすい資料かなと思っております。持論で恐縮ですけれども、これらの要素をそれぞれ、こういう分布でもいいですし、また違う分布でも、ランダムで発生させたものの組み合わせによる確率論的なシナリオを1万通りぐらい発生させて、その中でケースIからケースVIがどの辺に位置づけるかということを今後試算すると、IからVIの意味を日本語で説明するのは難しいのですけれども、大体IからVIでどの辺をカバーしているかというのがイメージできるのではないかなと思いました。

 財政検証の前提でやるのか、あるいは数理部会のようなところでやるのかわかりませんけれども、今後そうした検討を行ってもいいかなと。これは感想でございます。

 

○植田委員長

 前回もそういう意見をいただいたと思いますけれども、ちょっと今回の作業では。

 どうぞ。

 

○小野委員

 今の点についてですが、私は、前回の経済前提の委員会の中でもお願いしたかと思うのですけれども、当時の8つのシナリオを濃淡つけずに示すことが重要だと思っておりまして、今もそのように思っております。

 以上です。

 

○植田委員長

 いただいている時間はしばらくありますが、よろしいですか。

 これまでにいただきました修正に近いような御意見としては、権丈委員から参考資料に2枚ほど図を追加してほしいという御意見と、小黒委員から、本体の資料のほうの12ページの表ですか、ここにTFPの情報を入れてほしいという、この2点であったかと思います。ほかによろしいですか。

 それでは、今の2点につきましては、ちょっと事務局と相談させていただいて対応を考えさせていただき、その結果は御報告させていただこうと思いますが、その上で、長い間議論をいただいてこの形になったものについて、基本的には御了解いただいたということでよろしいでしょうか。

 

                    (委員:異議なし)

 

○植田委員長

 ありがとうございます。それでは、さっきの2点はちょっと置いておきまして、基本的にはこの案で報告書とさせていただいて、年金部会に報告させていただきたいと思います。

 では、きょうの審議はここまでにしたいと思いますが、事務局から何か御連絡ございますでしょうか。

 

○木下年金局長

 年金局長でございます。一言お礼の御挨拶をさせていただきます。

 今、植田委員長のほうから、非常に長きにわたり議論ということでしたけれども、ちょうど私が異動して年金局長に就任して直後にこの会が始まり、29年の7月から1年9カ月間、非常に長い審議をいただきまして、この会は31年の財政検証のまさに基礎となる経済前提に関する審議を本当に精力的に行っていただきまして、本日、こうして報告書として取りまとめをいただきました。本当にありがとうございました。

 審議の過程におきましては、特に非常にハイレベルで難解な議論もあり、我々もなかなかついていけない部分もございましたけれども、何とか事務局としても、十分の対応もできなかったかと思いますけれども、寛容な中で進めていただきまして、本当にありがとうございます。本日の報告書や、あるいは今後の年金部会での議論を受けまして、財政検証の作業を進めたいと思っております。

 今後、財政検証の作業を経て、その結果を通じて、公的年金制度の姿につきまして国民の皆様方にわかりやすくお示しするということが非常に大事でありますし、また、人生100年時代、あるいは働き方の多様化という中で持続可能な年金制度の構築に向けた議論というのをこれから年金部会等で積極的に進めてまいりたいと考えてございます。今後とも検討の過程で各委員の皆様方に御相談申し上げる点もあろうかと思いますけれども、引き続き御支援をよろしくお願いしたいと思っております。

 改めて皆様に感謝申し上げて、お礼の挨拶とさせていただきます。本当にありがとうございました。

 

○武藤数理課長

 本日は、報告書案を御検討いただき、ありがとうございました。また、今後、仮にですけれども、審議していただく事項が生じた場合には、追って事務局より連絡させていただきます。

 以上です。

 

○植田委員長

 それでは、きょうはこれまでとしたいと思います。どうもありがとうございました。

 

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