第7回社会保障審議会年金部会(議事録)
日時
令和5年9月21日(木)14:00~16:00
場所
東京都千代田区平河町2-4-2
全国都市会館 2階 大ホール
出席者
会場出席委員
菊池部会長 玉木部会長代理 出口委員 小野委員 小林委員 駒村委員 是枝委員
島村委員 たかまつ委員 嵩委員 永井委員 原委員 深尾委員 百瀬委員
オンライン出席委員
権丈委員 佐保委員 武田委員 平田委員 堀委員
議題
(1)第3号被保険者制度について
(2)女性の就労の制約と指摘される制度等について
いわゆる「年収の壁」等)
議事
議事内容
○総務課長 ただいまより、第7回「社会保障審議会年金部会」を開催いたします。
皆様、お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。
初めに、本日の委員の出欠状況を報告します。
駒村委員、武田委員は遅れて参加される旨の御連絡をいただいております。
権丈委員、佐保委員、武田委員、平田委員、堀委員はオンラインで参加されています。
出席委員が3分の1を超えておりますので、会議は成立しております。
次に、事務方の異動がございましたので報告いたします。
8月14日付で年金制度改革推進官に芦田が着任しております。本日は公務の都合で遅れて出席する予定です。
続いて、資料の確認をさせていただきます。本日の部会はペーパーレスで実施しております。傍聴者の方は厚生労働省のホームページから資料を御覧ください。
本日の資料は、資料1「第3号被保険者制度」、資料2「女性の就労の制約と指摘される制度等(いわゆる「年収の壁」等)」を事務局で御用意しております。また、是枝委員から資料を御提供いただいております。
事務局からは以上でございます。
以降の進行は菊池部会長にお願いいたします。
○菊池部会長 皆様、こんにちは。本日も大変お忙しいところ、お集まりいただきましてありがとうございます。
カメラの方は、ここで御退室をお願いいたします。
(カメラ退室)
○菊池部会長 それでは、議事に入らせていただきます。本日は「第3号被保険者制度」「女性の就労の制約と指摘される制度等について」の2つを議題といたします。
それでは、議題1、議題2につきまして、事務局から説明をお願いいたします。
○年金課長 年金課長です。資料1と2を併せて御説明します。
資料1は第3号被保険者制度についてです。右下にページ番号を振っており、4ページからですが、まずは第3号被保険者制度の定義についてです。そこにあるとおりで、生計維持関係が求められ、年間収入で130万円未満になっています。
5ページは、その生計維持関係を認定するルールを定めた通知の抜粋になります。
6ページは、130万円という数字の推移で、平成5年4月より現在の130万円になっています。
第3号被保険者制度をめぐっては幾つか指摘があるわけですが、7ページにあるとおり、賃金水準(1人当たり)が同じであれば、どの世帯類型でも1人当たりの年金額は同じという構造になっています。
8ページは、諸外国における扱いについてですが、前提として、諸外国の年金制度の適用範囲は、稼動収入のある方に課されるのが一般的でして、皆年金という日本とは異なっている状況があります。
9ページからは第3号被保険者制度の導入前後に関する経緯です。
10ページが、これまでの議論の経緯で、昭和29年の加給年金の創設から歴史を振り返っており、資料の右のような流れで議論が続けられてきました。
以下では、これまでの経緯の中でポイントになるところを抜き出してまいります。
11ページは、昭和60年改正でこの制度が導入された際の経緯です。上に4つの丸がありますが、国民年金制度が発足した昭和36年当時、厚生年金は世帯単位の給付設計となっており、夫名義の年金で夫婦2人が生活できる水準でした。そのことを踏まえて、妻については任意加入となっており、任意で加入していた場合は夫婦2人分の夫名義の厚生年金に加えて妻の国民年金が支給されることから、水準が高くなると予測されていました。一方で妻が任意加入していない場合には、障害年金は受給できず、さらに離婚の場合には自分名義の年金が出ないという問題がありました。
そこで、昭和60年改正では、サラリーマン世帯の専業主婦についても第3号被保険者として強制加入にすることで、自分名義の年金を得られるようにしたものです。その際、負担については健康保険の被扶養配偶者の仕組みを参考にして独自の保険料は求めず、これに必要な費用は被用者年金制度全体で負担する仕組みが導入されました。資料の下が60年改正前後のイメージ図でして、改正後は妻分の年金が切り分けられて基礎年金として独立する形で制度が始まりました。
12ページから14ページは、第3号被保険者制度が始まる前の昭和54年の年金制度基本構想懇談会の報告で説明は省略します。
制度導入後の議論で1つのポイントになるのは15ページと16ページで、平成12年改正において第3号被保険者制度を含む女性の年金の在り方を検討するようにという報告があったことをうけて、ここにある検討会が立ち上がり、平成13年12月に報告書がまとまっています。報告書では見直し案として当時6つの案が提案されています。
それから17ページは、平成15年9月に出された年金部会の意見で、ここでは4つの案として方法IからIVが議論されています。そのうち方法Iについては、離婚時の分割という形で平成16年改正において制度が導入されました。また方法IVの第3号被保険者縮小案は、その後の適用拡大につながっています。
18ページは、平成23年の年金部会の報告書で、19ページ、20ページは、平成27年の年金部会の報告書になります。第3号被保険者制度についてきちんと取り上げて議論したという意味では、平成27年が最後の年金部会になっており、御紹介します。
19ページは、当時の報告書の抜粋ですが、2番目の丸の「しかしながら」の後にあるとおり、趨勢として共働き世帯が増加している、あるいは女性の就業促進が重要な課題となる中で「第3号被保険者を将来的に縮小していく方向性については共有した」とあります。
一方で実態を見ると様々な方がいらっしゃり、そういう多様な属性を踏まえた検討が必要であるということも指摘されています。
それを踏まえて一番下ですが、まずは被用者保険の適用拡大を進めて「第3号被保険者制度の縮小・見直しに向けたステップを踏んでいくことが必要」と指摘されています。
さらに20ページでは、真ん中の丸ですが、このように整理していくと「最後に純粋な無就業の専業主婦(夫)が第3号被保険者として残る」とあり、このような方々に対する意見が幾つか載っています。ここまでが平成27年の報告書の整理になります。
年金部会としては、その後、21ページ、22ページの令和2年改正時にも議論していますが、平成27年の議論の延長線上で適用拡大を中心とした報告になっています。
以上までが経緯で、23ページ以降は、関連データで本日の議論の素材になるものを集めています。
24ページは、労働力人口・就業者数の推移です。
25ページは、就業率の推移について年齢階級別のものです。
26ページは、女性の就業率の推移で、全体的に上昇傾向にあります。
27ページも、同じく女性の就業率ですが、こちらはコホートで分けており、世代が若くなるほど各年齢層における就業率が高い傾向にあります。
28ページは、いわゆるM字カーブで、第3号被保険者との関係では右側の「有配偶者」になりますが、赤の丸で囲っているとおり「M」の底が上がっています。
29ページは、同じく就業率について各年齢層で上昇しているのが見てとれます。
30ページは、意識調査で「子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」と答えた方がどの年齢階層でも男女ともに増加傾向にありますが、特に女性でそのように考える割合が大きくなっています。
31ページは、出産前後の妻の継続就業率で、左側にあるとおり約7割の女性が第1子出産後も就業を継続しています。右側は正規とパート・派遣と分かれており、共に上昇傾向にあります。
32ページは、世帯数の推移で共働き世帯が増加しています。
33ページは、以上のような女性の就労の促進を踏まえた年金の加入状況です。御覧いただくと、真ん中に赤で「42%」とありますが、これは夫・妻共に国民年金の第2号被保険者つまり厚生年金の加入者という組合せの割合で、括弧の中の平成24年より上昇しています。その下は夫2号、妻3号の組合せでこちらは減っています。
34ページは、将来の見通しについて前回の財政検証時のオプション試算になります。赤で囲っていますが、第3号被保険者の将来の人数の推移について、現行ベースと適用拡大ケースで共に減っていくという推計になっています。
35ページは、第3号被保険者としての平均加入期間の見通しです。赤で囲っていますが、1960年生まれの方は現行ベースで第3号期間が平均14年ですが、将来的には短くなっていく見込みで、適用拡大のパターンではさらに短くなることが示されています。
36ページは、世帯構成の推移と見通しです。
37ページからは同じく女性の就労状況ですが、就労が進展する中でも非正規雇用が増加しているという資料です。幾つかは遺族年金を議論した回と同じ資料です。
38ページは、正規・非正規の雇用労働者数の推移です。
39ページは、年齢階級別の労働力人口比率ですが、左側の女性については、青い部分がいわゆる「L字カーブ」となっています。
40ページは、共働き世帯数の推移で、中でも妻がパートである共働き世帯の増加が顕著です。
41ページは、同じく共働き世帯数の増加について、増加に寄与しているのは妻がパートである世帯の増加となっています。ただ、右側に構成割合を示していますが、こういった世帯は40代、50代、中高齢層で多いという特徴もございます。
42ページは、既婚女性の就業状況で、既婚女性のうち就業者が約7割で、そのうちの雇用者でみると5割強が非正規の方です。40代以降ではパートが多くなっており、黄色い部分になります。
43ページは、各産業別で女性の雇用者の割合が大きいところで、赤い丸で囲ったような業界では女性の非正規労働者が多いという特徴があります。
44ページから47ページまでは意識調査で、非正規雇用労働者の方々にそのような雇用形態に就いている理由を聞いたものの回答です。
以下44ページは、女性と男性について年齢階級別でみたもの、45ページは、パートタイムを選んだ理由について男女別でみたもの、46ページは、年齢別、男女別でみたもの、47ページは、女性について独身か有配偶者かでみたものになります。
48ページからは、第3号被保険者の状況になります。
49ページは、第3号被保険者の人数で、平成7年の1220万人をピークにして、現在では3分の2程度に減少しています。年間30万人から40万人程度減少する傾向です。
50ページは、男女別で、制度上は男女の差はありませんが、実態として女性が大半を占めています。
51ページは、女性の被保険者の種別について年齢階級別で見たもので、30代以降について第3号被保険者が占める割合が増加しており、赤い丸の部分ですが、約3割の方が第3号被保険者で、残りの7割の方が第1号または第2号となっています。
52ページからは出典が変わりまして、下にある研究報告からになります。先ほど御覧いただいたとおり、女性に占める第3号被保険者の割合は約3割ですが、52ページの下の赤い部分にあるとおり「配偶者あり」の女性に限ると約半数に達しています。
53ページは、お子様の有無と同居の状況で、第3号被保険者のうち約9割が「子どもあり」となっており、また年齢階級が上がるにつれて「別居の子あり」の割合が高まっています。ここでの「子ども」は年齢の制限なく聞いていますが、54ページでは、18歳未満の子の状況について聞いており、30歳代については9割弱が18歳未満の子と同居しています。
55ページからは就業状況です。55ページの左側の円グラフでは、第3号被保険者のうち5割近くの方が就業しており、週の労働時間は真ん中の円グラフのとおりです。
56ページも就労に関する状況で、ここでは仕事の有無を聞いていますが、約半数の方が収入を伴う仕事に就いています。また年齢階級別では、同居する一番下のお子さんの年齢が高くなると就労割合が高まっています。
57ページは、勤め先での呼称で、8割の方は「パート」として就労しています。
58ページは週の労働時間で、週20時間以上という方が多くなっています。
59ページは本人の所得で、第3号被保険者は年収130万円未満という要件が前提になりますが、100万円前後に集中しています。
60ページは、夫の雇用者所得の分布について、妻が第3号被保険者である場合と第2号被保険者の場合を比較しており、妻が第3号被保険者である夫の方が所得が高いという傾向が見てとれます。
61ページは、今度は妻が第3号被保険者である場合で、妻の就業状況別で夫の雇用者所得を比較しています。青い点線の「非就業で就職希望なし」という場合が夫の所得が高い水準になっています。
62ページは、仕事をしていない第3号被保険者に就業の希望を聞いたもので、全体として約5割の方が就業を希望されていますが、20代では「希望はあるが、すぐには仕事に就けない」という回答が多く、年齢階級が上がるほど「希望なし」が高まっています。
63ページは、すぐに仕事に就けない理由を聞いており、「出産・育児」、あるいは「介護」「健康に自信がない」といった理由があげられており、世代ごとでも変わってきています。
64ページは、「就業を希望しているが、すぐには仕事に就けない」と回答された方のうち、理由として「出産・育児」と答えられた方の割合で、一番下のお子さんの年齢で見ると、お子さんが小さいほど割合が高くなっています。
65ページは、健康上の問題を聞いたもので、約1割の方が健康上の問題に影響があると回答されており、そのうち半数以上は「仕事・家事・学業に影響あり」となっています。
66ページは、第3号被保険者の同居する親の有無と手助け見守りの要否についてで、まず9割近くの方が同居をされておらず、同居しているうちで親の手助けや見守りが必要という方は、年齢が上がるにつれて高まる傾向があり、50歳代で5%程度になっています。
以上が資料1で、続いて資料2を御覧ください。こちらは、女性の就労の制約と指摘される制度、いわゆる「年収の壁」についてです。
4ページでは、「年収の壁」として指摘されている年収の数字を幾つか挙げていますが、年金部会が対象とする社会保険の関係では「106万円」と「130万円」が指摘されています。「106万円の壁」については、超えたところで厚生年金の給付が上乗せされるわけですが、「106万円」「130万円」ともに社会保険料の発生に伴って手取り収入が減少することに着目して「壁」と指摘されています。
5ページは、社会保険における被保険者の適用区分で、この適用区分の境目がいわゆる「年収の壁」になります。具体的には、第3号被保険者が第1号被保険者に変わる場合が、いわゆる「130万円の壁」、第3号被保険者が第2号被保険者に変わる場合が、いわゆる「106万円の壁」になります。
6ページからは、こういった「壁」を意識する方がどれぐらいいるか、という規模感で、まず第3号被保険者全体のうち約半分の方が働いており、その基本給(月額)あるいは週の労働時間を見たのが6ページです。このうち月額8万8000円未満あるいは週労働時間が20時間未満にいる方が、「壁」を意識する可能性がある方だろうということで、収入と労働時間をクロス集計して出したのが7ページです。
こちらでは、第3号被保険者で週の所定労働時間が15時間以上の方を対象にした上で、さらに勤務先の企業規模の要件について現在は100人超の企業、来年10月からは50人超と適用拡大が進みますので、これを考慮して「106万円の壁」を意識している可能性がある第3号被保険者の人数を、赤で囲っている約60万人と推計しています。ただ、この60万人の中には「壁」を超えて適用されることを希望する方がいたり、あるいはたまたま年収がこの水準にとどまっている方もいるので、実際にはこの内数になると考えています。
8ページ、9ページは、就業調整されている方を念頭に置いた調査です。8ページは、令和3年の調査ですが、配偶者がいる女性のパートタイム労働者のうち21.8%が「就業調整をしている」と回答をしています。またその理由については複数回答で下にあるとおり挙げられています。
9ページは、5月の年金部会でも提出した資料で、去年の適用拡大時の加入状況を見たものですが、真ん中右側にあるとおり、第3号被保険者のうち48.1%が加入を回避したと回答されています。
10ページは、年間総実労働時間の推移で、左側のパートを含む全労働者で年々減少している傾向があります。この要因としては、右側ですが、総実労働時間が比較的短いパートタイム労働者が全体に占める比率が高まっている点が指摘されています。また、右の下の折れ線グラフにあるとおり、パートタイム労働者の総実労働時間も減っており、この要因についてみたのが11ページです。パートタイム労働者の労働時間の減少には、就業調整が少し絡んでいる可能性はありますが、要因の1つは65歳以上の高齢・短時間の労働者が増えていることで、そこにあげたようなデータになります。それから、そもそも長時間働くパート労働者の方が減っている点も寄与していると見ています
12ページからは少し話が変わって、この「年収の壁」の問題に対しては、そもそも制度について誤解があるのではないか、あるいは被用者保険のメリットをしっかりと説明することで就業調整する方が減るのではないかと指摘されています。これは全世代型社会保障構築会議の報告書ですが、この指摘を踏まえ、私どもも「年収の壁」を乗り越えることで企業活動が活性化したような好事例を集めて広報啓発していくことが必要だと考えています。
13ページは、被用者保険に加入後の変化を説明したもので、適用拡大後には保険料負担が生じますが、給付も充実するというメリットがあります。
14ページは、先ほど申し上げた制度に対する誤解について説明したもので、例えば年収106万円の基準については、雇用契約を結んだ時点で適用の有無が決定します。それから適用を判定する際には時間外手当等は考慮しません。したがって、年末にかけて残業を抑えて就業調整をするということが聞かれますが、就労開始後の就業時間の延長や、残業に伴う時間外手当の支給は、適用の有無に影響しないことになります。130万円の基準についても、年末に一時的に収入が増えても直ちに被扶養の認定を取り消すことにはなりません。こういった点をしっかりと理解いただくことがこの問題に大切だと考えております。
したがって、15ページにあるような広報の取組みが重要で、現在適用拡大に関する年金広報の検討会を立ち上げており、広報コンテンツも作成する予定です。来年10月には50人超の企業まで適用が拡大しますので、それに向けてしっかりと準備してまいります。
16ページからは、いわゆる「年収の壁」への対応案について、中でも制度的な取組について議論したいと考えており、資料を用意しています。
17ページは、「年収の壁」に関する適用関係で、左側の第3号被保険者の収入が増加したことに伴って、第2号か第1号になることで社会保険料負担が発生し、その際に手取りが減る点に着目して「壁」と言われています。
具体的に年収106万円と手取り収入の変化のイメージが18ページになります。この場合の収入と手取りをみると、106万円のところで黒い線があるように、適用に伴って社会保険料負担が発生することで手取りが減ります。他方で、その後収入がさらに増加して125万円ぐらいになると手取り収入が戻ります。この水準を時給に換算すると、一番下ですが1,200円の時給で週20時間働くと125万に近くになります。そういう意味では、収入が上がっていくことが「壁」を超えていく上で大変重要な要素になると考えています。
19ページは、同じような資料で、最低賃金が上がっていくと、20時間の要件を満たした時点で106万円を超えていくことを示しています。
20ページからは、制度的な対応策についての考え方を整理したものです。
20ページで対応策の考え方を整理していますが、就業調整の指摘に対しては、まずはしっかりと適用拡大を進めていく、あるいは最低賃金の引上げに取り組むことが大切ですし、繰り返しになりますが、広報・啓発活動を展開することも重要になります。
その上で、「106万円の壁」への対応については、手取り収入の減少に着目して「壁」を感じるということであれば、そこをどうするかが出発点になると考えています。
一方で、130万円のほうは少し構造が違っておりまして、これは第1号被保険者と第3号被保険者の負担と給付の構造に根差すところがあるので、対応については、第3号被保険者の在り方そのものに着目して見直しを行うか、あるいは適用拡大を一層加速化することが基本になります。
21ページは、「106万円の壁」への対応策の例として、手取り収入が減少しない仕組みを考えたものです。具体例として、上の四角で囲っていますが、負担については「壁」を超えて適用される労働者の保険料負担を免除しつつ、一定収入を超えれば通常の負担に戻すものです。この場合の給付については、基礎年金(満額)に加えて、報酬比例分を給付する案です。右下のイメージになります。
ただし、この例には幾つか課題があり、左側にあげていますが、負担あるいは給付についての公平性、新たな壁が生じる等々があります。
そういった意味で、「106万円の壁」に対応して手取り収入が減少しないという仕組みを検討する際には、いくつか留意すべき事項があると考えており、このうち社会保険の原理原則に関わる視点を整理したのが22ページです。
繰り返しになりますが、負担を免除した場合には、稼得能力に応じて負担するという社会保険の原理原則に反するのではないかという公平性の課題があります。また、事業主負担については、これまでは労使折半が原則となっているところ、「壁」への対応として本人負担のみ軽減する場合には、従来の考え方から大きな方向転換になる点を理解する必要があります。
また給付についても、第3号被保険者を対象に何らかの措置を設けた場合には、単身者や第1号被保険者の配偶者の方々にも留意しなければいけないと思っております。
加えて、実務面等に関わる視点として23ページに4つほど挙げています。どのような仕組みを導入した場合でも、分かりやすく簡素なものにすることが大切で、複雑な制度になると本人が不利益な選択をするリスクが高まったり、あるいは設計によっては「新たな壁」が生じる可能性があり、これは避けなければいけないと考えています。
また、保険料負担を免除した場合には基本的に年金給付も減ることになりますので、こういった仕組みを導入することが、被用者にふさわしい保障という適用拡大の精神に沿っているかも考える必要があります。さらには実務面への影響、あるいは健康保険との関係の整理も必要です。
以上のような視点を踏まえた上で、仮に考えられるものを幾つかということで、24ページでは、保険料、給付、期間、範囲といった論点についてのパターンを複数の例として挙げています。本日は時間の関係で御説明しませんが、負担について図示したものが25ページで、給付については26ページになります。
27ページ、28ページは、これまでに本部会でいただいた意見を整理しています。
ここまでは「106万円の壁」の話で、29ページは「130万円の壁」になります。御案内のとおり適用拡大が現在進行中で、企業規模要件を満たさない中小企業であったり、個人の非適用業種で働く方については、「106万円」ではなくて「130万円」が現時点で直面する「壁」になります。
したがって、こういう壁を感じながら働く第3号被保険者の方が少なくなるよう、適用拡大を一層加速化することが必要であり、具体的には、企業規模要件の撤廃や個人事業所の非適用業種の解消について早急な実現を図ることが考えられます。さらに、週労働時間20時間未満の短時間労働者への適用拡大についても、実務面での課題や国民年金制度との整合性を踏まえながら検討を進めることが考えられ、適用拡大については5月の年金部会でも議論いただいたところです。
こういった形で適用拡大を進めて、第3号被保険者の縮小・見直しに向けたステップを踏んだ上で、最後に残る純粋な第3号被保険者の方についてどうするか、これは平成27年の年金部会の議論の整理を踏まえつつ、今後考えていくべき課題になります。
30ページは、こういう方向での適用拡大が考えられるというイメージになります。
31ページは、第3号被保険者に関してこの部会でいただいた御意見です。
32ページ以下は参考で、32ページは、6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」からの抜粋で、一番下に「年収の壁」について記載があります。
33ページ、34ページは、今年度の最低賃金の引上げについての情報です。
35ページからは、諸外国の仕組みとしてドイツとイギリスの例を挙げています。ドイツでは所得に応じて保険料率が段階的に上がる仕組み、イギリスでは所得の一定額を超えた分に保険料を賦課する仕組みをとっており、保険料負担によって手取り収入が急激に減少しないような仕組みになっています。ただ、これが日本の制度の参考になるかと言うと、日本の場合は国民皆年金がベースになっており、基本的に稼動収入がある方のみが制度の対象になっているドイツ、イギリスとは状況が違います。制度が異なるので単純にこれが当てはまるかというと、なかなか難しいと思っております。
36ページ、37ページは以上でご説明したドイツとイギリスの仕組みです。
駆け足になりましたが資料の説明は以上です。どうぞよろしくお願いいたします。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、ただいま御説明いただきました議題1「第3号被保険者制度」、議題2「女性の就労の制約と指摘される制度等(いわゆる「年収の壁」等)」について、御意見、御質問をいただきたいと思います。
今日は多くの委員から御発言がおありと思いますので、よろしければ出口委員から順にお願いできればと存じます。
○出口委員 それでは、3点申し上げたいと思います。まず、1つ目の「106万円の壁」についてでございますが、最低賃金の引上げ等によりまして、これはいずれ解消されるものなのだろうということで理解いたしました。ただ、それだけでは働く場所での差異が残るということもありますので、まずは適用拡大を進め、企業規模要件の撤廃と個人事業所の非適用業種の解消を図る必要があると考えております。
2つ目でございますが、「130万円の壁」への対応については、多種多様な3号被保険者がおられる中、中長期的な取り組みにならざるを得ないのではないかと思っております。適用拡大のさらなる推進とともに、第3号被保険者制度の見直しも必要だと考えております。これは資料2の29ページにございました。適用拡大のさらなる推進については、労働時間の要件だけでなく、賃金要件の引下げも行ってセーフティーネットを広げていくことが望ましいと思っております。そのような取り組みと併せて、第3号被保険者制度も縮小する方向での見直しを行ってはどうかと考えております。ただし、育児や介護、健康上の理由で働けず、被扶養者に該当する方々への配慮は必要だろうと考えます。
3つ目でございます。資料2の24ページ、事業主負担に係る論点についてコメントさせていただきますと、給付と負担の関係については、簡素で分かりやすく、公平な制度設計にすべきだと思います。手取り収入の減少を避けるための負担軽減に着目するあまり、厚生年金保険料負担における労使折半の原則を変えるということは、制度を複雑化させて、かつ公平性を欠くのではないかということで、これは反対でございます。また、これは健康保険との一体的な適用にも影響を及ぼすということにも十分留意すべきだろうと思っております。
なお、今日頂いた資料は現行の「106万円の壁」を前提にしておりますけれども、今後賃金要件をさらに引き下げる等の適用拡大を進めていけば、壁に直面する対象者はさらに減るのではないかなと考えております。
私からは以上でございます。
○菊池部会長 ありがとうございました。
小野委員、いかがでしょうか。
○小野委員 ありがとうございます。
私も3点です。まず、資料2を拝見しまして、括弧つきで、その上「いわゆる」というのをつけた「年収の壁」の表記というのが、事務局の気持ちが表れているのではないのかなと感じました。
いわゆる「年収の壁」というのは、私は言葉の使い方が間違っているのだろうと思っています。「壁」の定義というのは、進入を防ぐための構築物でしょうけれども、例えば「106万円の壁」と言われるものは、資料2の9ページのとおり、適用拡大に伴って、3号被保険者のうち半分が壁を突き破って被用者年金に加入しているわけでありまして、これはもはや「壁」とは言えず、せいぜい「段差」なのだろうなと思います。「103万円の壁」に至っては傾斜に過ぎないと思います。これをひっくるめて「壁」と称して批判の材料にする人たちの発想というのは理解できないというところです。
この段差とか傾斜の前で立ち止まったり、つまずいたりしないように、前に進むために広範かつ継続的な広報とか啓発活動を展開することが最も重要だと思います。くれぐれも真面目に対応して被用者年金に加入した人の気持ちを逆なでするような政策は避けていただきたいと思います。
2点目です。第3号被保険者問題というのは、人々に価値観の違いがある以上は誰もが折り合えるような解決策というのは存在せず、セカンドベストを追求するということになるのではないかと思います。34ページから35ページにオプション試算が示されておりますけれども、適用拡大を徹底すれば、第3号被保険者は被保険者全体の4%程度にもなり得るということであります。こうしたことを踏まえると、新たな分断を生み出しかねないようなコンセプトの展開をしてまで変更を行うよりも、こども・子育てを社会化しまして、日本の社会に根強く残る性別役割分担というものを払拭していく政策が有効だと思っております。
3点目です。ただ、壁については1つだけ指摘させていただきますが、構築会議の報告書は、労働者目線の働き方だけではなくて、雇用の在り方に対して中立的という、労使双方の観点から指摘している箇所があります。もし壁があるとすれば、週の労働時間20時間未満等の労働者に対する事業主の社会保険料負担が免除されていることでありまして、これを事業主が意図的に利用すれば、これは労働者にとっての壁になり、働き方に中立的でなくなります。
働き方に中立的な制度に関して、私的年金制度を含めて労使共に共通認識になっていると思いますので、この点について実務面での課題や国民年金制度との整合性を踏まえつつ、着実に検討を進めるということが有効でありまして、このことが結果としてマルチワーカーへの対応にもつながると考えます。
以上でございます。
○菊池部会長 ありがとうございます。
小林委員、いかがでしょうか。
○小林委員 様々なデータを御提示いただきまして、御説明ありがとうございます。
まず、議事1と議事2の両方について、私のほうから、意見を述べさせていただきます。まずは、第3号被保険者制度についてその見直しが必要という観点から、基本的な考え方を申し述べさせていただきます。御説明や資料にもありますように、人々の働き方や暮らし方、家族のあり方などが大きく変化しておりまして、被扶養者として特別の措置がなされている第3号被保険者制度は、社会の実態に合っていないという基本認識を持っております。
中小企業の立場で申せば、依然として人手不足が続いており、今後生産年齢人口がさらに減っていく中で、さらなる深刻化が懸念されております。ぜひとも、多様な人々に労働市場に参加していただきたいと考えております。
年齢や性別などにかかわらず、働く意欲、能力を持つ方に希望する職場や働き方の下で活躍いただけるならば、企業における働き手の確保はもとより、社会保障の支え手の増加につながることが期待できます。
第3号被保険者制度の見直しに当たっては、社会保険制度の中における不公平感の解消、社会の担い手、支え手の拡大を図ることを基本とすべきと考えますが、同時に育児や介護、自身の病気など、働くことが難しい人への対応をどのように考えるか。特に少子化対策としても重要で、子供を生み育てる人々の可処分所得への配慮など、きめ細かな対応も必要と考えております。
今回御提示いただいたデータを基に、取るべき政策の対象者を整理しつつ、大きな方向性を明確にするとともに、足元のセーフティーネットを確保した制度改革が進められるようにすることが重要であると考えております。
次ですけれども、繰り返しになりますが、中小企業では人手不足が深刻な問題になっているということの観点より、女性の就労の制約と指摘される制度等、いわゆる「年収の壁」についての意見を2点ほど、述べさせていただきます。
まず1点目です。106万円や130万円のいわゆる「年収の壁」は、資料14ページにうまく整理されているのですが、事業者と従業員にこうした仕組みが正しく理解されていないことが第一の関門なのではないかと思っております。そのため、本来意識する必要のない状況を「壁」と考えて就労時間の調整を行っているケースが少なくないのではと思っております。年末が近づくにつれ、そうした就労調整が現実問題として我々中小企業の現場に降りかかってきております。政府にはメディアとの連携対策を含め、関係者による本問題の理解促進を図る広報活動を、早急かつ強力に実施していただくようお願いしたいと思っております。
2点目です。資料21ページに「106万円の壁」への対応の具体例が記載されておりますが、同じページの4つの課題について丁寧な議論を積み重ねることが重要と思っております。特に保険方式であるという原理原則を根本に置き、制度に対する国民の信頼性を損なわないように検討しなければならないと思っております。事業所負担についても納得のいく形での設計と説明が不可欠です。
24ページ、保険料の事業主負担分の欄に記載されている例2と例3は、労使折半の原則から外れることで、違和感を覚えます。その意味で、22ページの社会保険料の労使折半負担の点、決しておろそかになってはいけないことを、強く申し上げておきたいと思います。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
駒村委員、いかがでしょうか。
○駒村委員 ありがとうございます。
冒頭遅れまして大変申し訳ございません。
まず、資料1の御説明をお聞きしていて、今まで何人かの委員からもありましたように、必ずしも就労調整の原因として年金制度がその主犯であるとまでは言い切れないと思います。確かに100万前後のところで収入、労働がピークを迎えているというのが観測されますけれども、これは税とか配偶者手当とか社会保険もあるのだと思いますが、こういったものがまとまって見えて、これが扶養の範囲で働くことが大変お得なのだという思い込みみたいなものを形成しているのではないかと思います。
ただ、この思い込みは、かつてはそれなりの支援をする制度も必要性があったのかもしれません。現にジェンダーギャップなどを見ると、女性の労働条件は依然として悪いわけですので、そういうことを考えれば、そういう支援があってもおかしくはないのかもしれませんけれども、これは根拠を持ちながらお話しすると長くなりますので、この後、再度のときに議論させていただきたいと思いますが、扶養の範囲ということは、ジェンダーギャップがあるからそれが必要なのだと。一方で、そのこと自体がジェンダーギャップの再生産につながっているのではないかということでありますので、これらの扶養の範囲という仕組みを丸ごと見直していかなければいけないのではないのかなと思っています。
就労調整、いわゆる「壁」の話でございますが、そもそも「106万円の壁」自体、根拠不明なものだと思っています。厚生年金の保険料と国民年金の保険料を表面的に比較して、そのバランスが取れるような賃金水準で下限をつくったというこの発想自体がおかしいということです。年金財政は、基礎年金拠出金、税から1.7万、保険から1.7万、これを全体としては積算していますけれども、基礎年金については加入者の中で再分配が行われている構造になっていますので、厚生年金の保険料の細目を仮に分ければ、13.3%部分が報酬比例部分で、基礎年金部分は5%にすぎないわけですので、こういう表面的に厚生年金と国民年金の保険料を比較して、そこで下限をつくったというこの発想自体がおかしかったのではないか、根拠不明ではないのかと思っていますので、106万円の下限自体を見直していくということが大事かなと思っています。
その際には、なるべく下げていくと。壁を上げたり、あるいは壁にあえて人為的な負担調整を入れるよりは、思い切って壁をぎりぎり下まで下げていって、なるべく時間的にも年収要件的にもぎりぎりまで下げる。つまり、就労調整ができないぐらいまで下げてしまうというのが正しい解ではないのかなと思っています。
2号と1号を表面的に比較すると大変いろいろな問題が起きてくると思います。例えば2号で、パート2号、短時間2号は、入ることによって報酬比例部分をもらえますし、配偶者を3号にできますし、健康保険まで考えれば、障害手当金や、健康保険組合があれば、健康管理に関して企業がコミットしてくれるということにもなるわけですので、大変いろいろメリットがある。そういうことを考えずに表面保険料だけを負担した議論をしてしまっているというのは、おかしな感じを持っております。
基本的には、先ほど出口委員からもあったように、健康保険並みに下限を下げると。労働条件も15時間、10時間となるべく下げていくということが正しいのかなと思っています。
改革に際して、資料2の21ページにあるように、本人負担を調整するなどして著しく有利な制度をつくっていくというのは、財政的にもほかの加入者、企業にその負担をつけ回しするということになると思います。本人負担がなくて、企業負担が9.15%のみで、基礎年金を丸ごともらえて、報酬比例部分も半分もらえて、配偶者は3号にできるなどという非常に有利な給付要件をつけると、これは財政的にもほかの人にツケを回すことになると思いますし、25ページにあるように、移行過程においてはいろいろ工夫してもいいと思いますけれども、過度に複雑にしてはいけないと思っています。制度はシンプル。働き方が多様になればなるほどかえってシンプルにしたほうがいいのだと考えております。基本的には1号及び3号をいかに減少させていくのかという発想。そして2号を増やしていって老後の準備をしっかりしていただくというのが王道だと思っています。
また、いわゆる「壁」の見直しにおいても、パートにとどまるような誘因をつくるべきではなくて、女性が社会進出する際に障害にならないように、妙な誘導をしないように、なるべく女性の社会進出を後押しするほうに制度を向けていくのが大事だと。目先の負担を調整して、ちょっとした小細工のような細かい改革は、長期的には望ましくないのではないかなと思っています。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、是枝委員、いかがでしょうか。
○是枝委員 私からは3点述べさせていただきます。
まずは事務局提示の「106万円の壁」の課題に対応した案について。その後は「年収の壁」の抜本解決策としての1.5号/2.5号被保険者制度について。最後に第3号被保険者制度の見直しについて、意見をさせていただきます。
まずは事務局資料の24ページを御覧いただければと思います。24ページに「106万円の壁」への対応案が多数挙げられていますが、どれも106万円、20時間の手前までの制度はいじらずに、106万円や20時間を超えたところだけ制度をいじろうとするというものであって、いずれの方法を取ったとしても他の被保険者との不公平感が非常に強いものとなっております。既に101人以上の規模の企業においては、月給8.8万円以上、週20時間以上で社会保険に入っていただき、企業負担分も含めた社会保険料を納めていただいているということを忘れてはならないと思います。誰だって保険料負担なしに給付を受けたいものですけれども、社会全体としてそれは不可能ですので、社会保険制度の中で行える再分配に限界があるということを意識する必要があります。
そもそも月給8.8万円で社会保険に加入する方は、負担する保険料の割に給付が比較的多くなり、既に再分配を受ける側に入っていますので、ここにさらに保険料の軽減を与えるのは、ほかの被保険者と比べてあまりに不公平な仕組みで、かといって保険料を削る分だけ給付まで削ってしまうのだったら、将来の貧困につながりかねないということなので、望ましくないと思います。
それでもどうしても24ページの中から選びなさいというのであるならば、給付と労使合計の保険料の水準は今のまま変えず、事業主の負担割合を任意で2分の1から引き上げられるという仕組みがまだ相対的に考えられるかと思います。現在も健保組合においては事業主の負担割合を任意に2分の1から引き上げることができます。このような方法であれば、どうしても自分の会社において保険料負担の手取り収入減少を防ぎたいという会社だけにおいて、個社の福利厚生として事業主負担割合を引き上げるといった対応は考えられるかなと思っております。
ただ、小手先の策ということになりますので、抜本策について私から提出した資料に基づいて説明させていただきたいと思います。
私自身は、「106万円の壁」の抜本的な解決策としては、週20時間未満も含めた適用拡大が最適だと思っております。先ほど出口委員より「106万円の壁」は最低賃金が上がれば消えてなくなるのではないかという御指摘もありましたが、それでもなお週20時間の要件というものが残ってしまい、週20時間を超えるか超えないかによって、社会保険に入った途端に一旦手取り収入が減るという現象は残ってしまいます。私は、週20時間未満の雇用者の適用拡大の具体的な手段として、1.5号/2.5号被保険者制度というのを提案しております。週20時間未満の雇用者のうち、第1号被保険者を1.5号、1号と2号の間として扱って、報酬の18.3%の厚生年金保険料が国民年金保険料に満たない場合、雇用者に差額の国民年金保険料の納付を求める形となっています。これによって、最低でも国民年金保険料以上は納めていただく仕組みになるので、国民年金との間の不公平の問題が生じないというものとなっております。
駒村委員から、正確に言うと厚生年金の部分に基礎年金拠出金と報酬比例部分の部分があるという指摘がありましたが、1.5号として厚生年金と国民年金の中間として入っていただく方は、一定程度厚生年金の中で再分配も受けるという形に整理したいと考えております。
第3号被保険者については、20時間未満で働く場合は、現在の3号と2号の中間の2.5号として扱って、厚生年金保険料が国民年金保険料に満たなくても差額の納付は求めない。基礎年金拠出金は全額厚年が負担するということを考えております。
給付は1.5号、2.5号、いずれも基礎、報酬比例共に満額として、ハーフにはしないという設計を考えております。1.5号や2.5号は現行の1号と2号または2号と3号の組合せで対応するというものですので、それほど複雑なものにはならないと考えております。
大和総研の試算では1.5号/2.5号の被保険者制度を導入することにより、企業には新たに年間4000億円強の負担をお願いさせていただくことになります。しかし、「106万円の壁」、あるいは20時間の壁がなくなることにより、226万人の労働者が労働時間を増加させると見込んでおりまして、人手不足の時代にこれだけの労働力が供給されるということは、企業としても大きなメリットとして実感いただけるのではないかと思います。
また、国民年金の財政が改善することとなりますので、適用拡大と同じようなロジックになるのですが、新たに加入する1.5号や2.5号の方だけでなく、国民全体の年金の水準が所得代替率で1.4ポイントほど改善する見込みとなっております。その際、7000億円ほど国庫負担が新たに必要になりますが、国保の公費節減により大部分をカバーすることができますので、財政的にもフィージビリティーがあると考えております。1.5号/2.5号の導入は「年収の壁」の解決だけでなく、企業としても労働供給増加のメリット、そして国民全体の年金を充実させることができる三方よしの政策だと思っております。
私自身は20時間未満への適用拡大は、この次、2030年の制度改正の課題かと思っておりました。しかし、本日も日商様から言葉が出ましたとおり、人手不足の問題はかなり深刻で、政労使の関心が日に日に強まっているのを肌で感じております。「106万円の壁」問題について、今回の2025年の改正を目指すということであれば、1.5号、2.5号も含め、あるいは権丈先生の厚生年金ハーフのほうがよいのかといったことも含め、20時間未満の適用拡大について本格的な議論をする必要があるのではないかと考えております。
最後に、第3号被保険者制度の見直しについてです。週20時間未満の雇用者への適用拡大が適切に行えるのであれば、「年収の壁」の問題は解消することになります。女性が貧困のわなに陥ることもなくなりますので、第3号被保険者制度の見直しの優先度は下がるという形になるかと思います。もし20時間未満の適用拡大をやらない、それに時間がかかるということであれば、1号は3号よりも就業調整の動機が弱いですので、3号を1号に移行させることで就業調整を行う者を減らすという策もあり得るということになります。
ただ、制度を前提に生活設計してきた世代や子育てや介護など、家族のケアによって長時間働くことができない方への配慮は当然必要となります。このため、現実的な見直し案として、例えば女性の就業環境がある程度整ってきた世代として、1984年以後生まれの世代につき、第3号の範囲を家族のケアに関わっている方に限定するという案を取りあえず想定してみました。
ただ、この場合のシミュレーションでは、国民年金財政の悪化という副作用が大きいということも分かってまいりました。大和総研の試算では、3号の縮小を行うと60万人が労働時間を増加させるものの、個人が3000億円、企業が1000億円ほど新たに保険料を支払う必要があります。にもかかわらず、モデル世帯の最終所得代替率は2.2ポイント低下する試算結果となりました。保険料が増えるのに給付が減ってしまうのは、国民年金の財政悪化を通じて基礎年金のマクロ経済スライド期間がより長くなり、国庫負担が減ってしまうためです。マクロ経済スライドの調整期間の一致を行えば、3号の縮小によって年金財政が悪化することはなく、むしろ少しだけ最終所得代替率が上がるということになります。しかし、被用者の世帯のための制度である第3号被保険者制度の縮小によって得られる財源を被用者のいない世帯も含めて一律に公的年金全体の財源に充てることについては、労働者団体、使用者団体共にかなり納得しがたい面があろうかと存じます。
3号については、理念としては非常に思うところがたくさんあるのですが、制度を見直すと公的年金制度全体、特に国民年金に大きな影響を及ぼすため、もし見直す場合は財政影響を見極めた上で慎重に検討せざるを得ないと考えております。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、島村委員、いかがでしょうか。
○島村委員 御説明並びに充実した資料を御準備いただき、ありがとうございます。
第2号被保険者の適用拡大、具体的には企業規模要件の撤廃や個人事業所の適用事業の解消によって、事実上第3号被保険者が減っていく方向性を進めることは最低限やらなければいけないものだと認識しております。
また、事務局でも検討会等を設置していただいて御尽力いただいているところではありますが、就業調整については、例えば1号から2号への回避など、制度を誤解しているからこそ調整しないといけないと思い込んでしまっている部分も大きくありそうです。1人でも多くの方が正確に制度を理解した上で加入できるように、制度の周知・広報・啓発をこれまで以上にやっていただきたいと思っています。
制度を正確に理解していただくには、やはり制度は簡素である必要があり、現状ただでさえ複雑である制度をより一層複雑にしかねないことについては、基本的に差し控えるべきではないかと考えております。その点で、今日お示しいただいた労働者の負担分をなくすとか、それに応じて給付も調整するといった話については、慎重に議論する必要があるかと思いますし、新たな壁をつくることにもなりかねないと私も懸念しております。
今の点にも関連しますが、就労することで負担能力があるのであれば、労働者にも事業主にも保険料を負担してもらうべきかと思います。壁があるから労働者分を免除というのは、これまでの免除の性格というものを大きく変えることにもなりかねず、免除の理屈が立たないのではないかと考えております。
また、関連して労働者分と事業主分を分けて考えるという御提案もありました。確かに今は違いますが、昔は育休中の取扱いとして、労働者分は免除して、事業主分は免除しないという扱いをしていた時期が一定期間あったかと思います。一定期間とはいえあった以上、労働者分と事業主分の取扱いを変えるというのは考えられる選択肢なのかもしれないのですけれども、その取扱いはあくまで一定期間で終わりましたし、そのときも育休中という期間限定の話でした。これに対して、今回の御提案は、提案内容にもよるとは思いますが、恒常的なものも入っていたかと思いまして、その点には非常に疑問があるところです。
労使折半で保険料を負担することによって将来の給付につながるというのが社会保険のかなめのような気がしておりまして、その部分は堅持する必要があるのではないかというのが私からの意見です。どうもありがとうございます。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、玉木部会長代理、お願いいたします。
○玉木部会長代理 ありがとうございます。私からも何点か申し上げたいと思います。
今日の議論、あるいは資料の中での従来の議論の中にも「まずは適用拡大」というフレーズが何回も出てまいりましたが、私はこれに全面的に賛成でございます。また、106万円とか20時間とかいった数字が必ずしも変えられないものではないわけでございますので、適用拡大をいろんな方向で進めて、問題が自然と小さくなるようなアプローチがまずは重要であろうと考えるところでございます。
その上で、3号が片働き優遇であるという議論がある中で、私もちょっと考えてしまったところがあるのでお話をしたいと思います。3号、つまり、数が多いという点では、妻が3号、夫が2号というファミリーが多くあるわけですが、そういうファミリー、家族になる背後には様々な事情、背景があるのだろうと思います。夫が正規の仕事に就いていて、収入が安定していて、妻が必ずしも働く必要がないという場合もあるでしょうけれども、例えばお子さんが慢性の病気を持っているとか、あるいは家族に介護を要する人がいる、あるいは何らかの事情で出られない。例えば自分の住んでいるところの周りには2号として就業できる場所があまりないとか、あるいは数はあまり多くないかもしれませんが、何らかの事情で小さい頃に初中等教育の機会が非常に制約されていて、いわゆる家事労働が自分に一番向いた仕事であるといった方もおられます。
公的年金というのは安全網、セーフティーネットでございますので、それで受け止めねばならない方には非常にいろいろなタイプがあるわけでございます。3号というのは、2号に扶養されている配偶者という非常にシンプルな要件でございまして、様々な事情の下で3号になっている、無業または低収入になっている配偶者の方を割と漏れなく受け止めるという点では、皆年金の理念を社会の隅々まで行き渡らせるという点でもしかしたらうまい方法なのかなと思うところでございます。
もとより、夫の経済力に恵まれている女性としての3号がいることは間違いありませんけれども、こういった恵まれた方々については、別に年金制度の外でも幾らでも公平性を回復する手はございます。夫が高収入であれば累進課税になってございますし、最近でも給与所得控除が収入の高い方についてはなくなるといった措置も取られてきたところでございます。こういったやり方にいろいろな問題はあるかと思いますけれども、3号という制度には安全網を行き渡らせるという意味もあるということを踏まえながら、冷静に比較考量の議論を進めていくことが必要ということでもございます。
また、これは年金制度から少し離れるのですけれども、被扶養配偶者の保険料がないということにつきましては、健康保険、医療の世界でも同じでございます。したがって、なるべく国民に分かりやすい議論をやっていくという点では、最終的に年金はこうだけれども、医療はこうだといったぎくしゃくしたことにならないようなことを念頭に置いていく必要があるのだろうと思います。
あと、多くの方がいわゆる壁、傾斜または段差を超えて働くことの合理性について広報啓発が必要であるということにつきましては、全く同感でございます。その際に、3号という選択がそれをする人にとってライフプランニング上のリスクを伴うこともあるのだという理解も浸透してほしいものだと思うところでございます。すなわち、3号という選択が長い目で見てよかったなという結果になるのはどういうときであるかと言えば、夫の経済力が長期にわたって安定していた場合でございます。ところが、それがそうではなかった、アンラッキーが表に出てくるのはどういう場合かと言えば、例えば30歳で出産等の機会に3号を選択したけれども45歳になったら夫が急に低収入になってしまったといった場合でございます。そうなると、45歳でまた再就業しようと思ったときに、30歳から45歳までの期間が、スキルアップによる収入獲得能力の向上という観点からは失われた15年になってしまうかもしれないわけでございます。3号になるかもしれないというライフイベントを控えた若い女性のライフプランニングが過度に楽観的な想定によって合理性を失うことのないよう、大人たちから適切な情報発信をしていくことが必要なのではないかと思うところでございます。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、サイドが変わりまして、たかまつ委員、いかがでしょうか。
○たかまつ委員 私は、まず制度が分かりにくいなと感じています。今日の話を聞いて、一般の方、育児や介護で忙しい3号の人がどれだけ理解できるかというと、なかなか理解が難しいのではないかなと思います。なので、分かりやすい制度設計が必要だと考えています。
私自身は条件つきで3号を廃止するということも一つの案としてあり得るのではないかなと考えています。それは、制度の損得を考えて、年金を負担したくないからと自分の働き方を変えるというのは意思決定権を奪っていると思っています。3号があることで、女性の就労意欲の低下を招いている一因もあると思いますし、専業主婦を前提とした制度設計というのは今の時代に合っていないと思います。女性の社会進出を阻害しているので、私は3号を条件つきで廃止するべきだと考えています。
御提示いただいたシミュレーションというのはどれも分かりにくく、余計に誤解を招くものだと思っております。そもそも3号の制度というのは不公平だと考えています。シングルマザーの方は1号か2号にいらっしゃいます。シングルマザーの人は年金を負担しているのに対して、配偶者がいる人だけ免除されるというのは、そもそも制度としておかしいと思います。より一般的に苦しいと言われているシングルマザーの方のような立場の人のほうが負担をしているのは不公平だと思います。だから、私は3号を条件つきで廃止して、適用拡大をして2号の人を増やすということをするべきではないかと考えています。
とはいっても、3号で働きたくても育児・介護をして働けないという人への配慮は必ず必要だと考えています。仕事と育児と介護との両立というのは、今の社会では厳しいというのは事実としてあると思います。だからこそ3号の人、育児や介護をしている方への給付や支援というのは別途考える必要がありまして、3号を廃止する場合には、そのような立場への支援が必ずセットであると考えています。
私は昨年スウェーデンに取材に行ったのですが、例えばスウェーデンでやっているような元の職場に復帰できる権利というものや、3号の就労時間を75%にする権利というのを法律で定めるようなこととか、ベビーシッター代の補助を増やすということ。あとは、日本は大学レベルの教育費に占める家計負担の割合がOECDの中でも4番目に高いことから、できる限り教育無償化にしていくことなど、育児や介護をしている人に対してできることを具体的に推し進めるということもセットで考える必要があると思っています。また、そのような子育て支援を考える際には、子供の権利という観点からも考えていくということが今の時代においては必要ではないかなと考えております。
以上となります。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、嵩委員、いかがでしょうか。
○嵩委員 御説明ありがとうございました。
私からは第3号被保険者制度と「106万円の年収の壁」について意見をさせていただきます。これまでの委員の方々の御意見と重なりますけれども、改めて述べさせていただきます。
まず、第3号被保険者制度についてです。こちらについては、保険料拠出に基づいて年金支給を行うという国民年金の制度の原則に対しては例外的な仕組みと言えますけれども、従来の性別役割分担意識を背景として、就労する女性が多くないという状況では、女性の年金受給権を保障し、ひいては国民皆年金を実質的に保障するために意義の大きい仕組みであったと思います。もっとも、本日の資料にもありましたように、女性の就労が今後も進展することが予想され、第3号被保険者制度を根拠づけていた社会的背景が大きく変容していると思われますので、今後は大きな見直しが必要だと思っております。
現行制度に実際に第3号等がある中で、一気に全面的な廃止を進めるというのは現実的ではないとしますと、具体的には今回の資料に調査結果がありましたけれども、方向性としては育児や介護などにより就労が阻害されている状況に特別の保障ニーズを見出して、そうした状況にある方のみを対象とする制度へと限定していくということが望ましいように思っております。その場合には、同様のニーズを抱える第1号被保険者との均衡をどのように考えるかとか、あるいは第1号については育児期間についての保険料免除の検討も別途されておりますが、それと連続的な制度として構想するのかなどについて、今後検討する必要があると思っております。
また、多くの委員の方々がおっしゃっているように、被用者として就労できる、しているという方については、従来の方針と同様に厚生年金の適用拡大をさらに進めて、年金受給権を保障していくという方向性が望ましいと考えております。
次に、「106万円の壁」についてです。まず「106万円の壁」については、厚生年金保険料の本人負担分を免除するという案になっておりますけれども、かなり慎重に検討する必要があると思っております。その理由については、先ほどの島村委員とやや重なるところがあるのですが、改めて私からも述べさせていただきます。厚生年金は、報酬比例の保険料を拠出した場合に基礎年金と厚生年金とを支給するという拠出制を採用しております。保険料の免除については、出産・育児に伴う免除はありますけれども、これは休業に関連づけられておりまして、休業による所得喪失の状況に特別の保障ニーズを見出して拠出制を修正しておりますが、逆に言えばその限りの修正にとどめておりまして、賃金が低い場合でも拠出制を原則として維持しているという点は重視すべきだと思います。
社会保障制度において立法裁量というのは広いと解されていますけれども、立法府が基本的な決定を一旦行った以上は、それと整合的でない仕組みを追加すると制度内において不均衡をもたらすおそれがあると思いますので、その合理性については慎重に判断する必要があると思っております。確かに厚生年金が就労に大きな影響を及ぼすのは望ましくないかもしれませんけれども、一定の要件を満たした被用者に保険料の拠出を課して、それに対する給付を行うということは、社会保険方式を採用している厚生年金の根幹でありまして、それに伴う影響というのは、現在のこの厚生年金の原則を維持する以上は一定程度は不可避なものだと思われます。それを一部の者について回避するために社会保険の原則を修正するということは、制度内の不均衡という別の問題をもたらすおそれがあると思いますので、そうした修正を厚生年金に施すことについては、ゼロから立法府が制度をつくるときよりも高い合理性の裏づけが必要で、慎重な検討が必要なのではないかと思われます。
また、本人負担を免除した場合の様々な給付のパターンについても資料でお示しいただきましたけれども、なるほどと思う点もありますが、従来、事業主負担は本人負担と一体となった保険料として捉えられてきたと思いますので、例えば基礎年金部分を賄うものとか、そういう部分的な給付とひもづいた位置づけは与えてこなかったと思います。そういった従来の事業主負担の位置づけを大きく変容させるような改正については、他の社会保険の保険料との関係も意識しながら相当慎重に議論する必要があると思っております。
また、もし仮に保険料の免除に合理性があって、給付については減額するということになってきますと適用拡大の意義を減殺することになってしまうので、本末転倒のようにも思いますので、その点もかなり慎重に検討していく必要があると思っております。
以上になります。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、永井委員、いかがでしょう。
○永井委員 ありがとうございます。
私からは2点の質問と意見を申し上げたいと思います。
まずは議論の進め方について2つ質問を申し上げます。1点目は第3号被保険者制度についてです。先ほどの説明にもありましたが、第3号被保険者制度については平成27年1月の「年金部会における議論の整理」以降、見直しに向けた具体的な議論は行われていないものの、令和元年12月の「年金部会における議論の整理」や、令和2年年金改正法附帯決議を踏まえ、本部会において議論を進めるものと理解しております。その上で、第4回年金部会で説明いただいた議論の進め方を踏まえ、第3号被保険者制度について次期年金制度改革までに本部会として何らかの結論をまとめるという意向があるのか、それとも次期年金制度改革にかかわらず、将来的な見直しの方向性を長期的に議論するのか、終結点のイメージについて伺いたいと思います。
2点目ですが、第4回年金部会では、社会保険の適用拡大について、部会長と相談しつつ、今後懇談会等の設置を検討するとの回答をいただいたと記憶しております。第3号被保険者制度についても、かつての「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」のような会議体を設置する予定はあるのか、検討していることがあれば伺いたいと思います。
続いて意見です。第3号被保険者制度については、過去の部会から社会保険の適用拡大により縮小していくことを現在まで共通認識としてきたと理解しております。制度創設時と比較して働き方や家族類型を含め、大きく情勢が変化したことを踏まえれば、次期年金制度改革に向けて第3号被保険者制度の在り方について議論することは意義があると考えております。
ただ、令和元年の「議論の整理」にあるとおり、第3号被保険者は専業主婦(夫)だけでなく、多種多様な働き方・ライフスタイルの方が存在しており、それら全ての人が将来にわたり安心して暮らすことができる年金制度を構築する必要があると考えています。
また、健康保険組合や協会けんぽなどにおける被扶養の仕組みとの関係も検討が必要となると思います。したがって、第3号被保険者やその世帯の生活実態、とりわけ単身女性に多いとされる高齢期の貧困の状況などをさらに分析し、健康保険の仕組みも含め、様々な視点から議論が必要であると考えています。
一方で、第3号被保険者制度の在り方に関する議論は丁寧に進めつつも、社会保険の適用拡大については、令和2年年金改正法附帯決議を踏まえ、スピード感を持って進めるべきであることは申し上げておきたいと思います。スピード感を持って適用拡大を進めるためには、関係する当事者が制度をしっかりと理解することが前提になります。これまでもたくさん意見がありましたが、いわゆる「年収の壁」については、厳密には「106万円の壁」は存在しないこと、社会保険の適用となる賃金要件と被扶養者の収入要件は性格が異なること、社会保険に加入することで給付が充実することなど、制度の正しい理解は極めて重要であると考えます。
働く現場では「壁」があることで調整をしているという人がまだ多く、そういう人たちを少しでも減らしたいと考えます。これまでの部会における発言と重複いたしますが、まずは現場の労使双方がしっかりと制度を理解するための取組の強化・支援をお願いします。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
御質問がございましたので、事務局からお願いします。
○年金課長 進め方について御質問をいただきました。各テーマについて本部会で議論いただいていますが、今年は一巡目の議論をしており、来年の取りまとめに向けてさらに各テーマについて議論を進めますし、第3号被保険者制度についても、今日の議論を踏まえてさらに検討を進めてまいります。その結果、委員の御意見がまとまった事項、あるいは指摘があった事項については、来年の部会での意見の取りまとめに反映されていくと考えています。
事務局としては、お尋ねがあったように、第3号被保険者の問題について次期改正までに結論をまとめるのか、あるいは中長期的に議論するのかといった検討の期限のようなものは特に考えておりません。
それから、御指摘のような女性のライフスタイルの変化の検討会、平成13年にありましたが、そのようなものを設置するのかについて現時点では考えていないところです。さはさりながら、この点は今御指摘もありましたし、本日の各委員の御意見、あるいは部会長とも御相談しながら検討していきたいと考えております。以上です。
○菊池部会長 よろしいでしょうか。
○永井委員 はい。
○菊池部会長 それでは、原委員、いかがでしょうか。
○原委員 では、私からもコメントをさせていただきます。これまでも皆様がお話をされているので、なるべく簡潔にお話をさせていただきたいと思います。
まず、第3号被保険者制度についてですが、今日いろいろと調査を見せていただきまして、やはり世代が若くなるほど各年齢階層における就業率が高くなったり、あと、女性の方で第1子出産後も継続就業がこれまでよりも進んでいるといったこともあります。
一方で、今、共働きと言っても、妻がパートの方が多いわけですが、それを構成割合で見たときには、中高齢層の方が割とパートとして働いているという調査もございました。なので、世代によって考え方も違いますし、区別して考えることも必要なのではないかと思っています。
そういった中で、昭和60年というところからもうすぐ40年がたとうとするところですが、やはり夫婦とか家族の在り方も異なっていますし、また、男女雇用機会均等法ができたところからも40年弱がたって、男女の就労の状況や考え方も当時に比べれば大きく変化していると思っております。
そのような中で、第3号被保険者について今言えることは、まず適用拡大を着実に進めることかと思います。それとともに第3号被保険者が縮小していくものと思われますので、そういったところで、まずはそこを徹底するということと、あとは将来的な方向性として制度の在り方をどう捉えていくかというのは、議論していくことはもちろん必要だと思います。先ほど玉木先生から「ライフプラン」というお言葉がありましたけれども、今の若い世代の未来の姿や、その年代の方々の考え方というものに非常に影響を及ぼす位のテーマだと思っております。そのときには、これまで意見もありましたが、何かしらの事情があって就労できない、育児などそういったことで就労ができない期間、あるいは収入が得られないような事情を持っている方への配慮、そういったことにもつながる視点も必要になってくるだろうとは思います。
したがって、制度の軸に関わるところになるかと思いますので、慎重かつ踏み込んだ議論が必要になるだろうと思っております。なので、第3号被保険者制度については、根本的なところの将来的な方向性ということは、もちろん適用拡大を着実に進めつつも、将来的にどういうふうにしていくのかは、今後踏み込んだ議論が必要だろうと思います。
もう一つ、「壁」の問題ですけれども、「壁」の話は割と前から言われてきたことですが、「106万円の壁」ということについては、壁があるのかどうかは別として今いろいろと言われているところなのですが、皆さんおっしゃっていましたが、適用拡大のメリットがまだ十分に広く理解されていないと思いますので、そこを社会保険に加入して保険料を負担して、それに見合う給付を受けられるものであることをもっと広く知ってもらうことがまずは重要だと思います。手取り収入の減少ということが注目されますが、先ほど御紹介いただいた資料にもありましたけれども、一旦減少しますが、もう少し働くと年収が増えて、その後は年収の増に応じて手取り収入も増えるといった分岐点、そのカーブがあったと思うのですが、そういったことも伝えていく必要があると思います。そういったことを話す機会がこれまで何回かあったのですけれども、自分の年金は自分で増やすということも伝えると、一旦は減るけれども、もう少しだけ頑張れば手取り収入も増えていくのだということで、皆さん割と分かっていただける部分があったように記憶しています。壁があるのなら、その壁を乗り越えたらもう少し働いて手取り収入も増えるようにするという考え方、まずは私的年金ではなくて、公的年金の中で厚生年金という2階部分の終身年金を増やすということ、そういった事をもっと広く知ってもらって行動に移してもらうことが大事なのだろうと思っております。
それから、いろいろな方がお話になっている「106万円の壁」の制度設計上の論点の給付のイメージ図ですが、事業主負担、本人負担、いろんなパターンが25ページ、26ページ辺りにあったと思うのですが、これはいろんな御意見があるのですけれども、既にこれまでの適用拡大で社会保険に加入している人たちがいらっしゃいますし、これまでずっと第2号被保険者として働いてきた方々が、女性、男性問わず、大勢いますので、公平性といったところ、つまりは他の被保険者との公平性とありましたが、そこはちょっとどうなのかと思います。
それから、もちろん中立的な制度設計というのがあるのですが、もう一つ、やや気になるところは実務的な話で、制度が複雑化すると、実務の面が大変になるのではないかと思いますので、分かりやすいシンプルなという声もありましたけれども、そういった面も考慮していただきたいと思っております。
そういった意味では、「壁」と言われている部分もあるかもしれませんけれども、いろんな中で、これも調査にもありましたが、例えばキャリアとかスキルのアップとか、そういうことにも着目して考えていただいて、何か仕事にやりがいがあったり、できることが増えれば、壁とかは構わずに働くということもあるかと思いますので、そういったことを伝えていくことも必要なのではないかと思っております。
以上です。ありがとうございました。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、深尾委員、いかがでしょうか。
○深尾委員 「年収の壁」問題、「壁」を境に手取り収入が減少するというのは、経済学的に見ると非常に深刻な問題だと思います。労働の供給に関する選択を著しくゆがめていますし、女性の社会参加を阻害している要因でもあると思います。社会全体から見て大きな損失を生み出している問題であって、できるだけ速やかに抜本的に解決する方向でここで議論していくことが望ましいと思います。できれば次回の改正を目指して議論を深めていく。
具体的な解決策としては、既に多くの委員が御指摘のとおり、適用拡大を通じて解決を目指していくと。例えば是枝委員の週20時間未満の雇用者も含めた被用者保険の適用拡大の案も含めてここで議論して、できるだけ結論を得るようにしていく必要があると思います。適用拡大が適切に行われるのであれば、第3号被保険者制度の見直しの優先度は比較的低いと思います。
あと、何人かの委員が御指摘になりましたが、確かに広報の問題、認知の問題も非常に大事で、それについてもできるだけ注力していくようにすべきだと思います。
私の意見は以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、百瀬委員、いかがでしょうか。
○百瀬委員 私からは第3号被保険者制度について意見を述べたいと思います。
まず、被用者保険の適用拡大で第3号被保険者を減らしていくという方向性には賛成します。一方で、今回、是枝委員の資料では、第3号被保険者の範囲を家族ケア従事者に限定するという提案がございました。また、資料2の31ページでも第3号被保険者の対象は、育児や介護などのために労働時間の制約を受け、低収入となっている者に限定してはどうかという意見が紹介されています。嵩委員からも同様の指摘があったかと思います。
ただし、このような方向性の見直しには疑問を持っています。1つは実務的な理由です。第2号被保険者の配偶者で収入の低い方に対して、育児や介護で働くことができないのか、あるいはそうでないのかを判定するのは極めて困難だと思います。例えば介護の場合、介護の必要性というのは人によって大きく異なります。介護が必要な時間がどのぐらいであれば就労の制約を受けるのか、その基準をつくるということがまず困難です。仮に基準をつくったとしても、その基準を満たす介護を実際に行っているのかどうかを個別に確認していくというのは不可能だと思います。
また、同居ではなくて、通いで介護をしているケースもあります。さらに、ケアの対象は小さな子供や高齢者だけではありません。つまり、年齢で区切ることはできません。例えば障害がある、あるいは重い病気を抱える30代、40代の家族を介助しているというケースも当然あります。ケアに着目して第3号被保険者になるか否かを判定するというのであれば、こうしたケースを排除することはできないと思います。その一方で、こうしたケースを含めればその判定作業はますます複雑になります。
もちろん、年金制度を見直す場合、どのような見直しであっても実務面での負担は生じます。ですので、改革論議において実務面の負担を過度に強調することは避けるべきです。しかし、御提案の方法は実務面での問題があまりにも大き過ぎると思います。
2つは理論的な理由です。家族に対するケアが理由で就労が制約されるという事態に対して、支援が必要であるという点に異論はありません。そもそも論で言えば、家族に対するケアが理由で就労が不本意に制約されるという事態ができる限り生じないようにすることが重要です。いずれにせよ、基本的には年金制度外で取り組むべき課題だと考えられます。
ただし、賦課方式を取る公的年金では、子育てに着目した支援を年金制度の中に入れることは正当化できると思います。実際にそうした仕組みは国内外で存在しています。その一方で、子育て以外のケアに着目した支援を年金制度の中に明示的に取り込むのであれば、それを正当化する根拠が必要になります。その根拠を見出すことが難しいと思っております。
以上、2つの理由から、第3号被保険者の対象者を家族に対するケアを行っている者に限定するという見直しには、現時点では賛成ができません。
私からは以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
会場にお越しの皆様からは御意見をいただいたところであります。
それでは、オンライン参加の皆様から御意見を賜りたいと思います。それでは、権丈委員からお願いします。
○権丈委員 まず、玉木委員がおっしゃっていた話で、結婚の安定性が前提とされている。3号を選んでいったら、結婚の安定性というものは昔と比べて今は随分と壊れてきているところがあるので、3号を選んでいくと、将来というのは結構きつい状況になっていきます。夫のほうもきつい。そういうことも日頃私は言っております。
3号のほうから始めますけれども、この国には応益負担の原則で設計されている第1号被保険者と、応能負担・必要給付の原則で設計されている第2号、第3号被保険者を混合して公的年金を動かしています。社会保険のあるべき姿は応能負担・必要給付原則であって、第1号被保険者の原理、応能負担ではありません。第3回年金部会では、異質なのは第3号ではなく、第1号にあると言ったのはそういう意味です。所得保障制度としての第3号への批判というのは、応益負担の原則の観点からのものになります。
これに限らず、公的年金には昔からとんでも論がつきもので、私は「ヒューリスティック年金論」と呼んできたわけですが、ヒューリスティック、つまり、人間が認知バイアスに陥る原因の一つに「代表性ヒューリスティック」というのがあります。代表性ヒューリスティックとは、目の前の現象を自分が知っている身近で代表的な例に当てはめて理解する認知バイアスで、公的年金への批判、とんでも年金論の多くは、社会保険という制度を理解できないままの人たちが民間保険の例に置き換えて批判するものになります。以前はやっていた世代間格差に関する騒ぎも民間保険の在り方をそもそも本来の姿と考えた代表性ヒューリスティックでした。
3号批判も、さきに言いましたように民間保険の原則、給付・反対給付均等の原則、応益原則に基づいた批判はできます。ただ、応益原則を社会保険の一般原理にするというのならば、女性の保険料を上げるべしとか、いろんな話が出てくることになる。
しかし、今、この部会で話し合っているのは公的年金なんですね。その意味で、2001年頃の「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」の報告書を読み返しますと、あの頃の榮畑年金課長というのは、思いのほかといいますか、なかなか公的年金と私的年金というのをよく理解しているのを実感できますねというのがある。
ただし、気になるのは、年金局の昔からの資料に第3号被保険者の保険料は被保険者保険全体で負担すると書かれているわけです。今回の資料にもあります。これは応能負担・必要給付の原則から見れば正しくない表現で、ヒューリスティック年金論を加速してきた表現だったと思います。応能負担・必要給付の原則で描かれたスライド7の図をじっと見てみると、第3号の保険料は配偶者が負担しているというふうに言わざるを得ない。と言っても、厚労省がかつては「積立方式は少子化の影響を受けない」と書いていたのを修正を図ってきた歴史もあるわけですが、これと同じように、「被用者保険全体で負担している」という文言についてもしっかりと再考しておいてもらいたいと思います。今日もそういう発言がハーフに対する批判のところで飛び出していたりもしたわけですけれども、スライド7をじっと見ることですねということです。
もう一つは、いわゆる「年収の壁」のところで1つの質問とコメントということで、いわゆる「年収の壁」のために雇用保険から助成金が出されるということが報道されているわけです。財源が雇用保険だから年金部会の話題ではないのでここでは触れない、そういうロジックは育児休業を議論する場でも使われるので、その点はよしとしましょう。しかし、あの話は年金の制度設計の話でもある。ということで、今、言われているいわゆる「年収の壁」対策に関して年金局はどのような評価をしているのかというのを後ほど課長に答えてもらいたいと思います。しばらく考えておいてください。
今、壁の話をしますけれども、一部の政治家と野村総研がタッグを組んで、一部の企業に補助金を出すために仕掛けてきたいわゆる「年収の壁」騒動には何もしなくてもいいというのは、この騒動の初めからずっと言っています。構築会議の報告書に書いているように、広報をしっかりとやり、ある方面から発信される情報をうのみにして、壁だ、壁だと報道するメディアへの教育をしっかりとやっていくということが重要になります。
就業調整と言われているものの多くは、制度を知らない学者やエコノミストたちが壁だと騒ぎ立てて、それを信じたメディアによる報道を信じた人たちの間で起こっている側面が強く、私はこれを「予言の自己実現」と呼んできたわけですが、今日は、あれは壁ではないのではないかという意見が多かったのは、さすが年金部会だなと思います。
ただ、岸田首相が「勤労者皆保険」と呼んでいることはやり遂げなければなりません。岸田さんが言う勤労者皆保険というのは、20時間未満の1号と3号に事業主負担は免除せずに課す厚生年金ハーフを適用することです。その辺りは私の本に書いていますけれども、形の上では20時間未満に資料2の33ページで紹介されているドイツのミニジョブを適用して、事業主側から見て働かせ方に中立でない制度、労働者側から見て見えない壁をなくすこと、それが勤労者皆保険です。
今回、いわゆる「年収の壁」騒動が起こったので、第2回年金部会で厚生年金ハーフを20時間から30時間のところにも適用したらどうだろうかと提案したわけですが、それは構築会議に書かれている報告書にある適用拡大の意義を理解してもらうための広報活動の一環としてやるということです。適用拡大時に元1号は手取りが増えることになるので対象とする必要はないです。元3号に厚生年金ハーフを適用するのだから、財政のバランスも取れている。
社会保険の元祖であるドイツで事業主負担のみを課しているミニジョブがこの案の発想の源なのですけれども、あの国はハーフのところに事業主に割増し保険料を課したりしていますが、そこまで求めなくても短時間・低賃金労働者への需要は自然に減っていくと予測しています。
そして、医療保険との整合性は少し考えれば簡単にとることができる。それもほかのところでも論じているので、そういう形で、資料の23ページに書いてあるようないろんな注意点というのはクリアした、考えた上で、厚生年金ハーフは最初から発言しているということです。
簡素で分かりやすく、中立的な制度設計というのがあるのですが、新税はなんであれ悪税と呼ばれて、新税は誰も理解できなくて悪税になっていくのですけれども、簡素で分かりやすくというのは、一番の方法はほとんど使い慣れたものを変えないことです。ほとんど変えないでマイナーチェンジをしていくということであって、それは今ある制度、元3号だった人のところに蓋をぽんとつける、厚生年金のハーフをつけるというだけの話で、ただ、もともと社会保険というのを勤労者皆保険という、岸田首相たちが言っていたのは、20時間未満のところにそれを適用するということです。今は政府の方針として「制度の見直しに取り組む」となっているので、20時間から30時間に元3号を対象に厚生年金ハーフを載せる。もし就業調整をしようと考えている人がいたら、月額8.8万円という適用基準――法律上は8.8万円しかないのだけれども、適用基準の意味を伝え、かつ年金局がつくっている公的年金シミュレーターを使って厚生年金フル、厚生年金ハーフ、就業調整の3パターンの将来の年金受給の確認を義務づける。その目的に沿った様式に公的年金シミュレーターをバージョンアップしていく。要するに、広報活動なのです。しばらくしたら、これはやめていくという制度です。
そういう労使で負担を分ける、使用者は負担して労働者は免除するというのは社会保険の元祖であり、ドイツがミニジョブで昔からやっているわけですけれども、こうした案の合理性を理解するには、今の制度をちゃんと理解する必要があるわけです。相変わらず某日経新聞などの年上の編集委員とかが、自分で勝手に年金制度設計、ハーフを設計して、それはおかしいと言っているけれども、そこに書かれていることは僕が考えていることと全然違うものだと映るわけですが、制度に関する基礎的な理解を促す広報活動を年金局にはしっかりとやってもらいたいと思っています。
そして何よりも、小野委員、是枝委員も言っていたように、20時間未満のところに事業主負担の免除があるという制度を何とかしていく。それをやるならば是枝委員の言う案でもいいし、私の言う厚生年金ハーフでもいいし、それは徹底的にやってもらいたい。つまり、政府が掲げている「所得の低い勤労者の保険料は免除・軽減しつつも、事業主負担は維持する」という勤労者皆保険を実現していくように年金局にはお願いしたいと思います。
ということで、先ほどの質問について答えをお願いしていいですか。よろしく。
○菊池部会長 どうぞ。
○年金課長 ちょっと音声が曇っているところもあり、きちんと受け止められているかどうかですが、「年収の壁」の問題についての局としての評価というか、受け止めをお尋ねになったのかなと思っております。
○権丈委員 「壁」に対する雇用保険からのお金を出していくということの見解。
○年金課長 はい。この点について今日は説明を省いており、一部報道されている話ですが、資料2の32ページになります。これは今年6月に「こども未来戦略方針」として閣議決定したもので、下に「いわゆる『年収の壁』への対応」について記載があります。この問題については、まずは被用者保険の適用拡大、あるいは最低賃金の引上げに取り組むというのが大前提で、その上で昨今の人手不足への対応が急務となる中で、当面の対応ということで、労働時間の延長や賃上げに取り組む企業に対して必要な費用を補助する支援強化パッケージを決定することとしております。
これに基づいて現在、具体的にどういう企業に対して、何を財源としてどういう助成を行うのかといった内容を検討中です。もう少し言いますと、その後、総理から9月中にこの支援パッケージを決定するという発言がありました。現時点でまだ決定に至っておらず、今回は資料としてお出しできていませんが、まとまりましたら先生方には送付という形で報告させていただきます。
以上です。
○権丈委員 ありがとうございます。
○菊池部会長 よろしいでしょうか。
それでは、佐保委員、お願いいたします。
○佐保委員 ありがとうございます。私からは2点の意見と1点の質問を申し上げます。まずは第3号被保険者制度について、過去に様々な議論がありつつも、いまだ抜本的な見直しには至っていませんが、次期年金制度改革に向けて、本部会において何らかの方向性や結論を出すことをお願いいたします。その上で、今後の議論に向けては2点の視点を持つ必要があると考えます。
1点目は、女性の年金権の確立という、昭和60年改正で第3号被保険者制度が導入された意義や目的を十分に踏まえ、現在であっても現役時代の所得にかかわらず、公的年金制度を通じて全ての者が一貫して安心して生活を続けられるという視点です。負担と給付の関係性や公平性は重要ですが、それだけをもって公的年金制度が持つ所得保障の柱としての機能を後退させることがあってはならないと考えます。
2点目は、社会保険の適用拡大にも関連しますが、あくまでも世帯類型の変化や働き方の多様化など情勢変化に十分に対応し、働き方やライフスタイル等に中立的な社会保険制度とはどうあるべきか、という視点で議論すべきであり、就業調整による人材不足の解消を第一義的な目的とすべきではないと考えます。
「こども未来戦略方針」などにおいて、いわゆる「収入の壁」を意識せずに働くための対応について言及されていますが、年金部会として公的年金制度全体の将来像を見据えながら、その一つとして第3号被保険者制度の在り方を検討すべきです。
以上の2点の視点を踏まえ、連合としては平成24年の社会保障・税一体改革大綱に掲げられ、また、第2回年金部会でも申し上げたとおり、将来的には財政を一元化するとともに、現行の1号、2号、3号の区分をなくし全ての者が加入する所得比例年金制度、及び、働く意思の有無によらず全ての人の所得保障を確立するための最低保障年金制度を創設すべきと考えます。これは働き方やライフスタイルに中立的であるとともに、全ての者が一貫して安心して生活を続けられる公的年金制度です。この実現のためには、自営業者等の所得捕捉が必要不可欠であるとともに、実現までに多くの課題が想定されますが、将来的に目指すべき制度であることを申し上げておきます。
続いて、「年収の壁」についてですが、20ページから対応策を掲載いただいています。まずもって、「希望どおり働くことが阻害されている」との背景が記載されていますが、本来は短時間労働であっても社会保険料によって手取りが減少しない水準の賃金が支払われれば労働者は壁を意識しないはずであり、壁によって就労を阻害されることもありません。
資料にある、いわゆる「106万円の壁」への対応策の考え方や制度設計上の論点として提示されている様々なイメージについては、一時的な労働力不足の解消を目的とした対応策にしかなり得ないのではないか。さらに、短時間労働者であっても社会保険が適用される、適用となっても手取り減少とならないように賃金を設定するなど、労働力確保のために本来企業が取るべき対応策を阻害することにつながってしまうのではないかなどの懸念があります。
加えて、健康保険との関係を含め、制度を複雑化させ、新たな不公平を生みかねず、社会保険制度に対する信頼感を低下させる可能性もあります。優先すべきは正しい制度理解と全ての労働者への社会保険の適用に向けた各要件の見直しであり、このような選択肢を実施すべきではないと考えます。
最後に質問です。資料32ページの「こども未来戦略方針」では、「『106万円の壁』を超えても手取りの逆転を生じさせないための当面の対応を本年中に決定した上で実行」、また、「加速化プラン」には「支援強化パッケージを本年中に決定した上で実行」とあります。提示いただいている制度設計上のイメージは法改正を必要とするものであると理解しますが、これらは戦略方針における当面の対応案なのか、それとも次期年金制度改革における論点なのか、支援強化パッケージとの関係性も含め取扱いを確認いたします。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
今の御質問に対していかがでしょうか。
○年金課長 資料2の32ページになりますが、支援強化パッケージは、当面の対応が急務ということで制度にかかわらない範囲内で、例えば予算事業であるとか、実務の取扱いであるとか、そういうものをまとめて、いわば法改正を伴わない形で決定する予定です。その上で32ページの最後にある「さらに制度の見直しに取り組む」の部分は、支援強化パッケージの外になり、ここは年金部会での御議論になると思っています。今回幾つか制度的な対応として考えられる例を挙げていますが、仮にこれらを実施する場合には全て法改正が必要な事項となり、制度に関わる議論になると考えております。以上です。
○菊池部会長 よろしいでしょうか。
○佐保委員 回答ありがとうございました。であればなおのこと、次期年金制度改革に向けて、賃金要件を含めた各要件の引下げについて本部会で議論を進めている中で、あたかも賃金要件を変えずに壁が残ることを前提とした対応を現段階で考えることに対し、疑問があることは申し上げておきたいと思います。
私からは以上です。ありがとうございました。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、私の目の前の画面に沿って順番に指名させていただいていますが、平田委員、お願いします。
○平田委員 ありがとうございます。
日々パートを多く雇用する企業とパートで働くご本人の声を直接聞く機会が多くある立場からお話をさせていただきます。その観点から最終的に3点意見したいと思うのですが、まずその背景をお伝えしたいと思います。
「年収の壁」について、企業側の最大の悩みは人手不足です。この半年で本当に急激に悪化しているのを私も肌身に感じています。既に顕著な自動化、IT化、例えばスーパーとかの自動精算が労働力不足に今後どこまで寄与するかは分からないところがありますが、支える対象に対して、支え手、働き手のさらなる減少が起きることは間違いないという前提があると思います。一方、パートさん本人はどう考えているのかというと、壁があることで、どう働けば自分にとって一番いいのか、お得なのかということを、本当に日々バランスを取りながら考えていると見えています。これが社会全体の人手不足に拍車をかけ、また、社会全体の人材育成力を減じているように見えており、ここが一番問題ではないかと思っています。
企業側から見れば、労働力は頭数がそろえばいいわけではなくて、1人の人がより難易度の高い仕事、より高度な仕事、責任を取れる仕事ができるようになることで、人材配置の柔軟性が高まったり、より少ない人数で運用できるようなる。そうなれば、できる人には高い賃金を払いたいし、頑張りにちゃんと報いたいと思っているのは企業側だと思います。
○菊池部会長 今、一瞬画面が固まったのですが。
○平田委員 大丈夫でしょうか。申し訳ありません。
企業側から見れば、労働力は頭数がそろえばいいわけではなくて、成長・育成を支援していくことがとても大事だし、それは働く人にとっても非常によいことです。時間単価の向上につながりますし、参画意識・当事者意識が芽生えやすく、そうなると、仕事自体の面白みや仕事から吸収することも増えていく。つまり、エンプロイアビリティが個々人に高まっていくし、社会全体としていろんなことができる人が増えていく。ところが、「年収の壁」。
○菊池部会長 聞こえますか。また画面が固まったのですけれども。
○平田委員 申し訳ございません。ごめんなさい。
「年収の壁」があると、企業としても成長に報いることが難しくなってしまう。賃金を上げることでその人の就労時間が減ってしまうのは困るので、育成しようと思わなくなってしまうということが、とても問題だと思います。働く本人も頑張っても上限があると思っていれば、実際には上限はご自分で設定されているわけですが、より難しい仕事にチャレンジしようという気持ちになりづらいと思います。
このことが長い時間をかけてじわじわと本人の人生の質を決定してしまう。
仕事は生きる糧を得る側面も大きいですが、仕事をすることで視野が広がったり、様々な人と出会ったり、挑戦したり、それ以外にいろんなものが得られると思います。ところが壁があることで、はなから働き方を固定化してしまうと、固定化しない働き方だった場合に得られたかもしれない経験が得られないまま終わってしまう。そういうことが非常に問題ではないかなと思います。このことは性別役割分担に拍車をかけるし、家庭によっては夫より妻の立場が低いという家庭内格差の原因になっているとも聞きます。
こうした背景の下で、まず1点目は現行制度の正しい周知を即行うべきだと思います。雇用契約を結んだ時点で適用の有無が決定することなどは意外に知られていないのではないかという実感があります。
2番目に、「106万円の壁」については、週所定労働時間を下げて、賃金要件も下げていいのではないかと思っています。これより少なく働くのは相当短時間労働だな、ご本人としてもこれだと働く意味がないな、企業としてもこうした労働者に雇用責任を負うのは違うなと思うぐらいまで下げる。短時間でも最初から2号だったり、3号から2号に変わって働く人が増えていくと、私も、となりやすいと思います。一旦制約をなくして働き始めると、めきめき頭角を現して、結果的にものすごく成長していかれたパートさんをたくさん見てきました。そんな可能性を開く制度がいいなと思っております。
3番目として、企業規模要件の撤廃、非適用業種の解消は、意見としてずっと出ていることでありますが、これも早急に進めるべきと思っております。
すみません。通信が悪く、失礼いたしました。以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、堀委員、お願いします。
○堀委員 どうもありがとうございます。
私からは4点申し上げます。全体として先生方がおっしゃってこられましたように、第3号被保険者へ対応は適用拡大によって対応することが望ましいと考えておりますが、ただ、幾つか配慮が必要だとも考えております。
まず第一に、同居する末子の年齢を限って第3号被保険者として取り扱うということは妥当ではないかと考えます。資料1の64ページは参考になりましたが、どこで線を引くかということは難しいものの、例えば末子が5歳未満の場合であるとか、あるいは未就学児の場合に限って第3号被保険者として取り扱うというのは、子育て支援の観点からも重要だと考えます。
第二に、適用拡大を進めても純粋な無業者は残るわけですけれども、収入がない方に納付を求めても無年金になってしまうということが多いと思いますので、免除者と同じで2分の1を納めたと取り扱うのがよいのではないかと考えております。
第三に、夫の収入と第3号被保険者についてのデータが資料1の60ページ辺りに示されておりますが、家族の在り方が大きく変わっている中で、年金における世帯主義を強化するような動きを導くものであるとすれば、大変違和感がございます。
第四に、週20時間未満にまで適用するということにつきましては、雇用者を減らしてフリーランスに置き換えていくという動きを促す可能性もありますので、これについては慎重に考えたほうがいいのではないかと考えております。
現状は人手不足でございますが、今後の経済状況によって雇用がどのようになるかということは、現時点で予測することはできません。雇用保険の在り方を見ていくということになると思いますけれども、くれぐれも慎重な取扱いをお願いしたいと思います。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、武田委員、お願いします。
○武田委員 ありがとうございます。意見を2点申し上げたいと思います。
1点目は3号の被保険者制度についてです。大前提として年金制度の改革には、未来を見据えた議論が必要と考えます。今回資料に御提示いただきましたとおり、社会は制度が導入されてから大きく変化しています。共働き世帯比率の上昇や、男女の就労の在り方、それに伴う人々の考え方の変容もございます。その流れは未来に向けてますます進んでいくと思います。同時に、62ページにもございますとおり、現在は特に夫の雇用者所得が1000万以上の割合が高くなっており、単身世帯との公平性の問題も大きくなっていると考えます。
以上のような社会の変化に加え、性別役割に関して心理的、社会的な影響を間接的にも与えてきたことを踏まえますと、第3号被保険者制度について、未来思考で今から見直しの方向性を示す時期に来ていると思います。
第3号の方々には様々な事情の方がいらっしゃる点も十分理解しておりますので、その点はきめ細やかに実情を把握した上で、そういった方々にどのような対応が必要か、社会保障全体で考えていくべきではないかと思います。
令和元年の議論の整理でも、まずは被用者保険の適用拡大を進めつつ、第3号被保険者制度の縮小・見直しに向けたステップを踏んでいくことが必要とございます。そこでの議論の整理も重んじる必要があると思っており、改革には時間がかかることを踏まえれば、まずはそのステップを踏み出す。つまり、議論のスタートにつくということが重要と思います。
2点目です。今、申し上げたように改革には時間がかかりますので、短期的には、短時間労働者への被用者保険の適用拡大を着実に進めるとともに、皆さんもおっしゃっていたとおり、壁を乗り越えて手取り収入が増えていく辺りもしっかり周知していく必要があり、その点が重要と考えます。時間軸として、まず短期的な対応として適用拡大をスピード感を持って実行していくとともに、同時に中長期を見据えて未来思考で第3号被保険者制度の見直しの議論をスタートしていただきたいと考えます。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
以上で全ての御出席の皆様から御意見を賜った次第でございます。既に予定した時間でございますが、この点は追加で発言をしたいという方がおられたら、手短にお受けしたいと思いますが、いかがでしょうか。会場、いかがでしょうか。よろしいですか。オンラインの皆さんもよろしいですか。
なさそうですので、それでは、この辺で締めさせていただきます。
私から1点だけ。小林委員から資料2、14ページの制度の理解促進、広報活動について御指摘があって、そのほか多くの皆様からもその点について発言がございましたが、今日は14ページでお示しいただいた点、これまでの年金部会でもあまりこの点は意識して議論してこなかったかなと改めて思いました。ここは一般にもあまり知られていないところだろうと。私も正確には勉強していなかったというのが正直なところでございまして、実はこの点は今からすぐにでもできる。制度改正をしなくてもできるということですので、この辺りはすぐにでも取り組んでいただいていいのではないか。そんなことは必要ないという委員の方は多分おられないと思いますので、その点は、まさに年末も近づいているという面もありますので、しっかりお願いしたい。これを聞いておられる報道等の皆さんもぜひお考えいただければなと思ってございます。
ありがとうございました。
以上で予定していた議事を終了させていただきます。
それでは、今後の予定について事務局からお願いします。
○総務課長 次回の議題や開催日時につきましては、追って御連絡をいたします。
○菊池部会長 それでは、本日の審議は終了させていただきます。お忙しい中お集まりいただきましてありがとうございました。
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