第12回社会保障審議会年金部会(議事録)

日時

令和6年1月31日(水)14:00~16:00

場所

東京都千代田区平河町2-4-2

全国都市会館 3階 第1会議室

出席者

会場出席委員

菊池部会長   玉木部会長代理   小野委員   小林委員   是枝委員   佐保委員

島村委員   たかまつ委員   原委員   深尾委員   百瀬委員

オンライン出席委員

権丈委員   駒村委員   武田委員   堀委員   井上参考人(出口委員代理)

議題

(1)年金財政における経済前提の在り方について(報告)

(2)次期財政検証のオプション試算について

(3)これまでの年金部会における議論の振り返り

(4)働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会の開催について(報告)

議事

議事内容

○総務課長 ただいまから、第12回「社会保障審議会年金部会」を開催します。

 皆様には、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

 まず、委員の出欠状況を報告します。出口委員、嵩委員、永井委員、平田委員が御欠席、また、武田委員は遅れて参加されると伺っております。権丈委員、堀委員は途中退席される御予定です。

 御欠席の出口委員の代理として、日本経済団体連合会の井上様に御出席いただいております。井上様の御出席につきまして、部会の御了承をいただければと思います。いかがでしょうか。

(首肯する委員あり)

○総務課長 ありがとうございます。

 権丈委員、駒村委員、武田委員、堀委員、井上様はオンラインでの参加となります。

 出席委員が3分の1を超えておりますので、本日の会議は成立しております。

 次に、資料の確認をいたします。本日の部会はペーパーレスで実施しております。傍聴者の方は厚生労働省のホームページから資料を御覧ください。

 本日の資料は、

 資料1-1「これまでの財政検証の経済前提について」

 資料1-2「年金財政における経済前提のあり方について(専門委員会における議論の経過報告)

 資料2「次期財政検証のオプション試算について」

 資料3「これまでの年金部会における主なご意見」

 資料4「「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」について」

 参考資料「年金財政における経済前提のあり方について(専門委員会における議論の経過報告)-参考資料集-」

を事務局で御用意しております。

 事務局からは以上でございます。以降の進行は菊池部会長にお願いいたします。

○菊池部会長 皆様、大変お忙しい中、お集まりいただきましてどうもありがとうございます。本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 カメラの方はここで御退室をお願いいたします。

(カメラ退室)

○菊池部会長 それでは、議事に入らせていただきます。

 本日は、ただいま小野課長から御案内がございましたように、4つの議題となってございます。早速、議題(1)「年金財政における経済前提の在り方」につきまして事務局から報告をお願いいたします。

○数理課長 数理課長でございます。

 私のほうから、年金財政における経済前提に関する専門委員会のこれまでの議論の経過について御報告いたします。

 まず、資料1-1を御覧ください。こちらは、過去の財政検証において設定された経済前提について、実績と比較しつつ、一定の評価を行った資料であります。資料1-2が経過報告の本体となりますが、この資料1-1の内容を反映して取りまとめております。前半は、経済前提を考える上での前提となる年金財政の構造について説明した資料となっております。

 2ページを御覧ください。2ページは、公的年金は、現役世代が支払った保険料をそのときの年金の支払いに充てる賦課方式を基本としており、世代間での支え合いの仕組みとなっております。このため、賃金をベースにした保険料が年金の原資となりまして、現役世代の賃金、つまり生活水準に応じた年金の支給が可能になっているということであります。

 3ページを御覧ください。こちらは、賦課方式における積立金の役割を確認しております。積立金は、少子高齢化がより進展する将来に活用し、少子高齢化の影響を緩和しているというものであります。

 4ページは、その役割を具体的な数字で確認しております。日本の公的年金は200兆円を超える積立金を保有しておりますが、今後100年間の年金給付の財源を考えますと、積立金は全体の1割であり、補助的な役割であるということであります。

 右側の図では、積立金が活用される時期は、団塊ジュニアが引退して高齢化がさらに進行する2040年代以降となっておりまして、将来の給付水準を下支えする役割があるというものであります。

 続いて、5ページを御覧ください。5ページでは、年金財政に重要な経済要素を確認しているというものであります。公的年金の財政は、収入・支出ともに賃金水準の変化に応じて変動する構造となっております。このため、収入・支出の中で賃金に連動しない部分が収支のバランスに影響することになりまして、年金財政に大きな影響を与えることになります。このような観点から考えますと、年金財政に大きな影響を与える経済要素というのが2つありまして、赤字で書いておりますが、1つが、賃金上昇率を上回る運用利回りであります実質的な運用利回り、スプレッドと言われるものでありまして、もう一つが賃金と物価の差であります実質賃金上昇率、この2つになります。

 さらに、6ページを御覧ください。こちらでは物価上昇率の影響を確認しております。物価上昇率については、基本的には年金財政に中立ということでありますが、マクロ経済スライド調整には名目下限というものがあるため、物価上昇率が低い場合にはマクロ経済スライドがフルに発動しないで、年金財政にマイナスの影響を与えるというものであります。

 続いて、7ページを御覧ください。公的年金をマクロ的な視点で捉えますと、その年に現役世代が生産した付加価値を、年金制度を通じて高齢者に分配する仕組みと捉えることができます。しばしばパイの切り分けに例えられるものであります。我が国の公的年金は、賃金に対する保険料率を固定しているものですが、これはマクロで見ますと、総賃金の一定割合を年金として高齢者に分配するということを意味するものであります。さらに、保険料に加えて国庫負担も投入しておりますが、こちらも税を通じて付加価値を再分配したものと考えることができるものであります。したがいましてて、この仕組みの下で年金を充実させるために重要なことは、日本経済を大きくするということ。つまり、経済成長が重要ということであります。

 なお、付加価値を分配する仕組みであることは、どんな財政方式であっても変わらないということでありまして、財政方式によって分配の経路が変わってくるということですが、パイの大きさが変わらない限り、年金を通じた高齢者の取り分が大きくなれば、その分、現役世代の取り分が小さくなることは避けられないということであります。このため、年金の議論においては、財政方式の違いをあまり誇張すべきではないということが言われまして、本当に重要なのは経済成長であるとされているところであります。

 続いて、8ページ、9ページですが、こちらは平成25年に社会保障制度改革国民会議に提出された資料でありまして、世界銀行のコンサルタントも務められましたニコラス・バー教授の講演資料の紹介となります。今、述べたような議論は、国際的にも展開されている議論であるということを紹介しております。

 まず、8ページの上のスライドでは、先ほど言いましたように、財政方式の違いを誇張すべきでないということが示されているものであります。

 また、下のスライドでは、年金の財政問題の解決には、給付の引下げ、または負担の増加、または国民総生産の増大しかないとされております。

 続いて、9ページの結論の部分、一番最後を見ていただきますと、本当に重要なことは、よい政府と経済成長であると締め括られているというものであります。

 続きまして、11ページ以降が、これまでの経済前提を評価いたしまして、今回の設定に当たっての視点を整理したものであります。

 11ページを御覧ください。こちらは年金財政で重要な要素となります実質賃金上昇率と、賃金を上回ります実質的な運用利回りについて、これまでの財政検証の前提と実績を比較したものであります。前提については、100年に及ぶ長期の前提ということになりますので、実績についても長期の平均として、2001年以降の平均と比較しているものであります。実質賃金上昇率は、実績が前提を下回るという結果になっておりますが、逆に実質的な運用利回りは、前提を実績が上回るということを示しております。

 このようになった要因といたしまして、吹き出しで示しておりまして、まず、財政検証におきましては、労働生産性向上に伴って実質賃金も上昇することを仮定しているということでありますが、実際には労働生産性向上にかかわらず、実質賃金が低迷し、乖離が生じることとなったということであります。

 一方、実質的な運用利回りについては、対賃金の運用利回りですので、賃金が低迷したことが実績が高い要因の一つとなったことをお示ししております。

 続いて、12ページを御覧ください。こちらは、実質賃金上昇率の基礎となりました全要素生産性上昇率、また労働生産性上昇率について実績と前提を比較したものであります。実績はおおむね経済前提で設定した範囲の中に入っているということでありますが、範囲の中では低めに位置しているというものであります。

 続いて、13ページを御覧ください。13ページから15ページにわたっては、実質賃金の伸びと労働生産性向上の関係について国際比較をしたというものであります。

 13ページでは、多くの先進諸国では、青色の部分に当たりますが、労働生産性向上を基礎に実質賃金が伸びていることが確認できるというものであります。日本においては、デフレーターの差など、ほかの要因と相殺いたしまして、結果、実質賃金というのが伸びていないということであります。

 続いて、14ページ、15ページを御覧ください。こちらは、多くの国では、労働生産性に伴って実質賃金も上昇していることが確認できるのですが、日本においては、労働生産性は向上しているわけですが、実質賃金が横ばいで推移している。ほかの国々とは異なる状況にあるということを確認しております。

 続いて、16ページを御覧ください。16ページ、17ページですけれども、こちらは、国内外の市場運用を行っている年金基金において、長期的な運用実績として10年移動平均の分布を調べたというものであります。見方といたしましては、16ページは物価を上回る実質運用利回りの実績を確認しておりますが、箱ひげ図になっておりまして、箱ひげ図の真ん中が中位数、上が上位25パーセンタイル値、下が75パーセンタイル値となっているものであります。さらに、赤の点線が3%のラインになりますが、こちらが前回の財政検証で最も高いケースの前提となっております。日本のGPIFを含めて、いずれの年金基金もおおむね財政検証の前提を上回っていることが確認できるということであります。

 次の17ページは、対賃金の実質的な運用利回り、スプレッドと言われるもので作図した同様の資料ということになります。こちらで見ても、いずれの年金基金もおおむね財政検証の前提を上回っているということが確認できます。

 続いて、18ページから20ページは、運用利回りの影響を確認するために、GPIFの主な運用対象である法人企業について収益の状況を確認しております。

 18ページでは、1990年代以降、労働分配率が長期的には低下傾向にあることが確認できるというものであります。

 続いて、19ページを御覧ください。こちらでは、左側の図ですが、人件費が横ばいで推移する中、自己資本への分配であります営業純益が増加して、それに加えて、営業外の特別損益がプラスに寄与して純利益が増加しているということが確認できるものであります。

 続く20ページは、純利益の増加に伴いまして配当金や内部留保も増加して、ストックの純資産も増加しているということを確認しております。この結果、株式にプラスの影響を与えて、GPIFの運用にもプラスの影響を与えていたことが確認できるというものであります。

 最後の21ページが、これまでお話ししてきたことのまとめとなります。資料1-2の専門委員会としての経過報告にも盛り込んでいるものであります。今回の設定に当たっての視点を3つ目の枠囲みに記載しております。

 まず、実質賃金についてですが、経済前提は、労働生産性を基礎に実質賃金上昇率を設定しておりますが、先進諸国の実質賃金の伸びについて要因分解を行ったところ、多くの先進諸国で労働生産性の向上を基礎として実質賃金が上昇しているということであります。

 ただ、日本については異なる状況にあったというわけでありますが、女性高齢者の就業率が高まる中で労働力不足が続くと見込まれることを踏まえると、状況が変わる転換点にある可能性も視野に入れる必要があるという指摘があったところであります。

 一方、全要素生産性上昇率や労働生産性上昇率については、実績が前提の範囲に入っているものの、低めに位置していることにも留意が必要とされております。

 下2つが実質的な運用利回りについての視点になります。

 まず、市場運用を行っている諸外国の年金基金の長期の運用実績を調べますと、おおむね財政検証の前提を上回っていた。また、将来、日本の実質賃金が上昇に転じると、対賃金の実質的な運用利回りにはマイナスの影響がありますが、実質賃金の上昇が見られた先進諸国の年金基金においても、財政検証の前提を上回っているということ。さらに、GPIFは、海外の年金基金と同様に、長期分散投資によってグローバルな運用を行っているということも考慮に入れる必要があるとされております。

 続いて、資料1-2を御覧ください。経済前提に関する専門委員会の経過報告の本体になります。大部になりますので、基本的な考え方と前回からの変更点を中心に簡潔に説明させていただきたいと思います。

 まず、四角囲みの「1 報告の趣旨」になりますが、こちらは、5年に一度の財政検証に用いる経済前提の在り方について経過報告を行う旨を記載しているということであります。

 四角囲みの2については、経済前提の設定に当たっての基本的な考え方をまとめております。

 (1)は、財政検証の枠組み、平成16年改正において導入された財政フレームについて。

 (2)は、財政検証は、社会経済の動向を踏まえて、最新のデータを用いて5年ごとに見直すものであるということを記載しております。

 (3)においては、財政検証は予測でなく、投影であるといった性格に留意が必要であるということを記載しております。そのため、財政検証の将来見通しは、一定のシナリオを基に長期の平均的な姿を描いたものと解釈すべきであること。また、財政検証は、複数のケースを幅広く設定すべきであること。結果についても幅広く解釈すべきであること。また、100年にわたる推計であることを踏まえまして、経済前提は足下の一時的な変動にとらわれず設定すべきであることを記載しているというものであります。

 (4)については、国民に分かりやすく伝えるという視点の重要性について述べております。設定方法はできるだけシンプルにし、シナリオの意味を分かりやすく伝えるよう工夫すべきとしております。

 (5)は、以上のような性質を踏まえますと、将来見通しの積立金や経済前提は、短期的な時価の変動を平滑化したものと整理することが適当であること。そのため、財政検証で用いる足下の積立金についても、平滑化したものを使うことが適当であるとしております。

 四角囲みの3は、こちらは資料1-1で御紹介しました内容となります。重複となりますので、説明については割愛させていただきます。

 続いて、四角囲みの4を御覧ください。5ページになります。4は「経済モデルの建て方」についての記載になります。

 (1)(2)は、基本的にはこれまで用いられてきたモデルを用いること。ただし、改善が可能な点については改善していくことを記載しております。

 (3)が1つ目の改善点となりまして、総投資率の設定方法の見直しになります。前回は、過去の傾向を外挿して設定しておりましたが、総投資率は前期の利潤率と相関が高いことが確認できましたので、利潤率との回帰式を用いて設定する方法に見直すことを記載しているというものであります。

 続いて、(4)になりますが、こちらがもう一つの改善点となります。利潤率の算定式の見直しについての記載となります。こちらは、利潤率の定義に沿うよう見直すというものであります。

 続いて、(5)は、モデルに投入するパラメータについての記載になります。投影という性格を踏まえて、前回と同様に過去30年程度の長期のヒストリカルなデータに基づいて設定することが適当としております。

 続いて、(6)が新型コロナウイルス感染症下のデータの取扱いについての記載となります。過去を振り返りますと、コロナ以外にも様々なショックがあったということで、異常値を排除するとした場合に、何を異常とするか判断するのはなかなか難しいということであります。このため、コロナ感染症下のデータを排除せずに使用することが適当とされております。

 続いて、四角囲みの5ですが、こちらが経済モデルに投入する「パラメータの設定」についての記載ということになります。

 (1)は、シナリオの基軸となりますTFPの設定方法についてですが、内閣府の中長期試算の設定や長期の実績を踏まえて、幅広く設定することが適当とされております。

 (2)は、労働投入量の設定についてですが、労働力需給推計を基礎に幅広く設定することが適当としております。

 (3)が資本分配率と資本減耗率の設定についてになります。前回は、ケースによって過去30年平均、過去10年平均を使い分けておったわけですが、今回は全てのケースを過去30年平均で設定することが適当と整理されております。

 続いて、(4)になりますが、こちらは物価上昇率の設定についてであります。前回同様、日銀の物価目標や内閣府の中長期試算、過去30年の実績を参考に設定することが適当とされているものであります。

 続いて、(5)は、運用利回りの設定についてであります。前回同様、GPIFの長期の実績を基に、保守的に設定することが適当としております。

 また、前回、ケースVIについては、イールドカーブから算出したフォワードレートを用いておりましたが、フォワードレートの動きが非常に不安定であるということ。また、GPIFのポートフォリオに占める国内債券の割合が25%まで低下しているということから、今回は全てのケースで実績を基礎にする方法を用いることが適当としております。

 (6)については、実質賃金上昇率と労働生産性上昇率の差について、その要因を確認しましたところ、デフレーターの差のうち「作成方法の違い」によるところが、多くの年で賃金上昇率にマイナスの影響を与え続けているということで、今後も続くことが想定できることから、前回同様、考慮することが適当としております。

 一方、ほかの要素については、毎年度の動向を確認いたしますと、プラス・マイナス変化しており、将来にわたって一定の方向で続くことはなかなか想定することも難しいということで、今回も考慮する積極的な理由がないとしております。

 続いて、四角囲みの「6 足下の経済前提の設定」についての記載であります。

 (1)物価上昇率と賃金上昇率については、内閣府の中長期試算に準拠することが適当であるとしております。一方、運用利回りにつきましては、前回、内閣府の中長期試算の金利を基礎に設定するということをしておりましたが、足下の設定と長期の設定で方法が異なっているということから、接続が悪くなっているということ。また、GPIFのポートフォリオにおける国内債券の割合が25%まで低下しているということを踏まえて、足下についても金利を基礎とすることをせず、長期と同様にGPIFの実績を基礎に設定する方法に変更することが適当としております。

 (2)は、足下と長期の接続を意識すべきということが記載されているものであります。

 続いて、四角囲みの7となりますが、(1)では、経済変動を仮定するケースについての記載になります。前回と同様、変動幅や周期を機械的に設定することとしております。

 (2)は、国際人口移動の前提についてであります。将来推計人口において外国人の入国超過の前提が見直されましたが、この見直しが経済前提に与える影響は限定的であることを確認した上で、引き続き影響を確認し、取扱いについて検討すべきことを記載しているものであります。

 最後の四角囲みの8になりますが、具体的な経済前提の設定の数値の議論については、今後公表されます労働力需給推計や、年明けに公表された内閣府の中長期試算などを踏まえまして、専門委員会のほうで議論の上、結果を取りまとめまして、改めて年金部会へ報告することを記載しているということであります。

 11ページ、12ページは、委員名簿、開催状況であります。

 私からの説明は以上であります。

○菊池部会長 ありがとうございました。

 ただいまの事務局からの報告につきまして、年金財政における経済前提に関する専門委員会委員長でいらっしゃいます深尾委員から御説明ございましたら、お願いできれば幸いでございます。

○深尾委員 ただいまの事務局からの報告と少し重複するところがあるかもしれませんが、私が重要と特に思う点について簡単に御説明したいと思います。

 今回、専門委員会で検討して、事務局に非常に丁寧にデータをつくっていただいたわけですが、一番驚きだったのは、今、事務局からも説明がありましたが、お手元の資料1-1の14ページを見ていただきたいのですが、労働生産性と実質賃金の推移を見ると、労働生産性というのは、日本はそんなに停滞していなかった。労働時間当たりのGDPで見ると、この27年間に4割弱上昇していて、これはアメリカよりは低いけれども、イギリスと同じくらい。フランス、ドイツ、イタリアを上回っているわけです。一方で、実質賃金のほうは非常に停滞していた。ほとんど上昇しなかった。前回の見通しが外れる大きな背景になったと言うことができるかと思います。

 それがなぜ起きたかということも、今回、専門委員会では事務局に調べていただいたわけですが、それがその前の13ページに載っています。労働生産性のほうは青の棒グラフのように年率1%強上昇したわけですが、折れ線の実質賃金のほうはほとんど上昇しなかったことになります。その差を分解すると何が言えるかというと、労働分配率の変化というのはほとんど影響していない。それから、雇い主の社会保障負担はマイナスになっている。つまり、労働分配率を計算するときにはコストで計算しますので、雇い主の社会保障負担分も入っている、込みで考えているわけですが、実質賃金のほうはそれを除いて賃金を支払われますので、その乖離の部分がある程度ある。

 それから、税・補助金というのは消費税の引上げの要因が大きいと思いますが、そういう要因も、労働生産性の向上に比べて実質賃金の上昇を引き下げる方向に働いたわけですが、最大の要因はGDPデフレーターの上昇率とCPIの上昇率の乖離の問題でした。つまり、労働生産性のほうは、日本でつくっている財・サービスを、労働時間当たりどれだけつくったかというのではかっているわけですが、CPIのほうは消費者が購入する財・サービスの価格がどれだけ上がったかというのを見ている。その乖離がかなり大きかった。それが、このオレンジの部分ということになります。

 このオレンジの部分がなぜこんなに大きかったのか。日本はほかの国、どこよりも大きい。ノルウェーのような資源国は、物すごい大きなプラスでして、つくっているものの国際価格は上がるけれども、海外から買ってくる消費財は安いので、こういうことが起きるわけですが、日本の場合には非常に大きな、比べた国の中で最大のオレンジの部分がマイナスの国でした。

 これがなぜ生じたかというのをさらに分解したのが、お手元の一番下にある参考資料の59ページを見ていただきたいのですが、これが年度に分けた要因分解の結果です。一番右側に27年間の合計の値がありまして、さっきのオレンジの部分、マイナス0.6%のGDPデフレーターと消費者物価指数の変化率の差というのが、27年間で年率マイナス0.6%。27倍すると結構大きな数になる。15%とか、もうちょっとですか、なるわけです。

 それをさらに分解したのが59ページの図でして、最大の要因は、家計最終消費支出デフレーターの変化率と、消費者物価指数の変化率の差ということになります。これがマイナス0.3%、この図のオレンジの部分ですね。2番目に大きいのは、先ほどノルウェーの場合をちょっと挙げましたが、輸出入の寄与、いわゆる交易条件効果の部分で、日本が海外から買ってくるものが輸出するよりも割高になった要因というのがマイナス0.2%ということになります。

 私は、この交易条件効果がもうちょっと大きいかと思ったのですが、27年ぐらいでならすとほとんど、今、足下では、もちろんロシアのウクライナ侵略以降、国際価格が上昇して大きな交易条件のマイナスの効果が出ていますが、長期で見ると趨勢的にそれほど大きなマイナスを日本はこうむっているわけではないということが言えるかと思います。こうやって分析していくと、考えなければいけない一番大きな要因は、家計最終消費支出デフレーターと消費者物価指数の変化率の差の問題だということになります。

 この差の問題というのは、アメリカでも今、インフレの下で非常に話題になっていまして、いろいろな分析が出ています。どういう原因が考えられるかというと、1つは、家計の代替行動です。例えば、アメリカのレポートで議論されているのは、航空機を使った旅行のコストを考えるときに、CPIのほうは決まった経路で値段を見ているのに対して、GDP統計の一部である家計最終消費支出のデフレーター、アメリカの場合にはPersonal Consumption Expenditures Price Indexと呼んでいますが、PCEのほうでは、航空会社側の情報を使って、実際にどういう経路が選ばれたかという結果を使ってPCE Price Indexがつくられています。

 そうすると、家計が割高な航空ルートや航空券の種類を選ばないで、別の代替を行うと物価の上昇は低めに出るということになります。それで、CPIのほうがかなり高めのバイアスがあるのだねというのがアメリカでのレポートです。

 それから、もう一つの乖離の理由は、GDP統計のほうの、日本で言うと家計最終消費支出デフレーターのほうは、家計が消費のために、どういう経済で資源が使われたかという視点から見られていますので、教育とか介護とか医療などのウエートが、家計調査に基づくCPIよりも広めになっている。そういうものの値段というのは、日本の場合、あまり上がらないので、CPIのほうの上昇が高めに出ているということが指摘できると思います。

 先ほどもお話ししたように、アメリカの場合は、例えば連邦準備銀行とか経済分析局では、PCE、つまりGDP統計の中の消費に関するデフレーターのほうを、インフレの観測のために主に使っています。CPIではなくて、PCE Price Indexのほうを使っているというのがアメリカの現状です。一方で、労働問題とか社会保障の問題には、相変わらずCPIが使われているようです。

 何にしても、結論を申し上げると、この要因、59ページのオレンジの家計最終消費支出デフレーターの変化率と消費者物価指数の変化率の問題というのは、大きさから見て非常に重要であって、今後も注視していく必要があるけれども、特にインフレ率が上がってくると、この乖離の問題というのはさらに深刻になる可能性があるわけですが、取りあえずは、過去のトレンド分ぐらいを将来も見込むしかないと、先ほどの資料にもありましたけれども、そういうのが考え方ですが、注視していく必要があると考えております。非常に大きな問題であるということです。

 それ以外に専門委員会で出た議論としては、1つは、先ほども事務局からもお話がありましたが、2010年代というのは、女性とか高齢者の就業する割合が非常に上昇した時期だったわけですが、さすがに、今後これがさらに続くとは考えにくい。労働力不足の問題がもっと顕在化するのではないか。そういうことを考えていく必要がある、注意深く見ていく必要があるということ。

 それから、これから出てくる内閣府の中長期試算とか、社人研の将来人口推計における外国人労働に関する見通し等について慎重に考え、そして専門委員会、年金部会としてどう考えるかを国民に丁寧に説明していく必要があるという意見が有力でした。

 私のほうからの説明は以上です。

○菊池部会長 どうもありがとうございました。

 それでは、ただいま御報告がございました議題(1)について御質問などございましたらお願いいたします。オンラインの皆様は挙手ボタンでお知らせください。会場の皆様は挙手でお示しください。

 では、会場から是枝委員、お願いします。

○是枝委員 物価の前提の話と、あと、男女の賃金格差についてお話しさせていただきたいと思います。

 先ほど深尾様から、参考資料59ページに基づいてGDPデフレーターと消費者物価指数の変化率の差の要因分解についてお示しいただきましたし、先ほど御発言の中で、これから物価が上昇していく際には、GDPデフレーターの変化率と消費者物価指数の変化率の乖離がより大きくなる可能性があるというお話があったかと思います。これから物価が上昇していくケースも踏まえて経済前提のケースを設定されるかと思いますが、その際には、このGDPデフレーターと消費者物価指数の変化率の差について、過去の実績であるマイナス0.3%を同様に差し引くという考え方よりは、物価上昇率の水準それぞれに対して、どの程度の乖離が生じるかということを設定して推計していく必要性があるのではないかと思います。

 2点目です。男女の賃金格差についてです。財政検証の際には、男女平均の賃金の変化率の想定をされているかと思います。しかしながら、男女で異なる年金制度があること、及び遺族年金など、世帯を単位とした給付が行われることも踏まえると、経済前提の専門委員会においても、これまでの男女の賃金格差の推移について確認した上で、今後、どのように投影すべきかということを一度議論していただければと存じます。

 まず、男女それぞれの平均的な年金受給額の見通しを推計して、その男女差の残る制度撤廃の是非の判断についても重要な資料になるかと存じます。

 また、マクロ的にも、男女平均の賃金上昇率が一定であっても、男女比が変わることによって財政影響が生じ得るものですので、丁寧に検証するため、男女の賃金格差の見通しについてもぜひ御議論いただければと存じます。

○菊池部会長 ありがとうございました。差し当たり、御意見として承るということでよろしいですか。後ほどまとめてコメントあれば、深尾委員からお願いできればと思います。

 それでは、オンラインから権丈委員、お願いいたします。

○権丈委員 今の深尾先生からのお話にあったのですが、資料1-1の21ページ目の下の囲いの2つ目のひし形のところの労働力不足が続くことが見込まれると言っていたのは私でして、この発言が、資料1-2の4ページの(4)の注というところに載っております。この観点も必要なのだけれども、私は注というポジションでちょうどいいという判断をしておりますので、その辺りの説明をさせてもらいたいと思います。

 この国は、労働力が希少になってくる社会に入ってきていると見ています。理由は、先ほどのひし形のところにあるのですが、そうなると、今後の賃金の伸びは、これまで財政検証が行ってきた、ここ数十年間の傾向を外挿する方法では、下方にずれるおそれがある。これからのこの国の参考となるのは、恐らく1960年代の経験が近いのではないかと考えています。1960年代の初めに、大企業と中小企業の間の二重労働市場という大きな問題がこの国にあって、労働経済といいますか、そういう議論はほとんどこれに終始していたわけですが、労働市場が逼迫し始めてきた途端に中小の賃金が上がり始めて、問題が一気に解決していきます。

 その辺りを東大名誉教授である労働経済学者、隅谷三喜男先生の言葉を引用しますと、「昭和36年以降、事態は大きく変化した。35~36年から顕在化した労働力不足が、とりわけ初任給上昇となって現れ」、今も起こっているわけですが、「若年労働者の賃金水準上昇をてことして、全体的な大幅な賃上げを必然化した。この過程で、労働市場の圧迫を強く受けた中小企業のほうの賃上げ幅が大きく、企業規模間の賃金格差は著しく縮小するに至った」と論じられています。もちろん、その間に市場での新陳代謝が進んで、経営者の真の経営力が問われる局面に入って、いわば日商のこの部会の委員の小林さんにとってはつらい時代に入ることになるわけですけれども、結果として昭和40年代半ばになると、この国は1億総中流社会になります。

 賃金の伸び率を決める1次要因というのは、労働市場の逼迫度合いであって、経験的には政府が掛け声をかけてみても、賃金は市場が弛緩していたら上がらず、逼迫していたら政府とか労働組合が頑張らなくても自然に上がっていくようなものなのですね。

 数十年間、この国は高齢者と女性という労働力を被用者保険から外して、事業主負担が免除された非正規という雇用形態で、とても安く、毎年増加する形で雇うことができていました。しかし、いよいよその供給源が枯渇し始めて、いわば開発経済学者、ルイスの言う転換点に近い状況にあると私は見ております。これからは、非正規が正規の供給源になっていくことも考えられるわけですけれども、過去に起こっていない新しい現象であり、可能性でしかないということで、12月の経済前提専門委員会で話したのですが、行う作業が投影、プロジェクションであれ、予測、フォーキャストであれ、市場の構造変化は事前に組み込むことはできないです。だから、過去の経済予測は間違い続けてきたのだし、そうした経済学の限界を年金局が打ち破るために頑張らなくてもいいと思っています。

 構造変化というのは、事後的にダミーを入れて、あの時点で構造変化が起こったということを確かめることが精いっぱいですので、構造的な変化が起こる可能性があるけれども、注として書いておくにとどめて、何も気づいていなかったというのはちょっと恥ずかしいものがあるので、気づいていたけれども、財政検証では慎重にやっていきますというメッセージとして伝えていくことがあっていいのではないかということで、この資料1-2の4ページにある注という書き方、そういう位置づけで私はいいのではないかと思っております。

 以上です。どうも。

○菊池部会長 ありがとうございました。

 それでは、井上様、お願いいたします。

○井上参考人 ありがとうございます。

 今、権丈先生からもありましたけれども、去年、今年と、私ども経団連も賃金引上げの旗を振っております。30年間のデフレからの完全脱却というのが今年、視野に入っているということで、今後の財政検証に当たっては、これまでとはちょっと違う要素が入っていると強く思います。マクロベースでのいろいろな資料の御説明がありまして、深尾先生からの御説明も非常に分かりやすかったです。特に、私ども現場にいる身からすると、マクロベースのみならず、セミマクロとかミクロの企業の行動という視点から見ることが多いものです。

そのため、例えば(資料1-1)14ページの労働生産性が日本は着実に上がっているというところに関して、実質で見ると確かにそうですが、現場からすると、労働生産性は国際標準からまだまだ低いという認識を持っております。

 また、労働分配率自体も下がってはきていますけれども、国際的には50~60%という分配率だと思いますので、この辺りも現場の考え方からすると、そろそろ下げ止まるのではと感じております。

 御参考までに申し上げますと、(資料1-1)19、20ページ辺りに企業の利益の内訳が出ております。例えば19ページの右側に当期純利益の内訳の推移がグラフになっていますけれども、これは円・ドルレートの形に似ています。要は、輸出している企業の利益、輸出価格の手取りが為替相場で水膨れしたということで、決して本当の意味での生産性向上によるものではないと思います。為替相場により、結果的に利益、売上げによる水増し部分と、20ページの左側にある海外の子会社から受け取る配当金というものも、所得収支で大幅に増えています。この辺りの影響もあって内部留保が結果的に増えています。

 また、株主重視の経営、ROEやPBRを高めるという市場からのプレッシャーもあり、どうしても株主に対する配当等々が増えています。一方で、これはGPIFの運用のプラス要因になっていると思います。

 もう一つ申し上げますと、企業が成長し、それを報酬として支払うということについて、今後の労働人口構成の変化も少し考えていく必要があると思います。今後、就労人口が一番増えてくるのは医療・福祉分野で、恐らく製造業よりも大きな産業となっていきます。ここは公的費用がかかるため、儲かるから分配するという議論にはならないということも考慮する必要があると思います。

 以上でございます。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 駒村委員、お願いします。

○駒村委員 1点だけです。これは議論していただきたい点ですけれども、資料1-2の10ページ目の(2)外国人のところで総労働時間の話がありまして、この外国人の取扱いについては、今後出てくるJILPTの労働者の推計とか、あるいは外国人の加入者をどう扱うかということと相互性があるように考えるかどうか。この辺は、ちょっと確認しておきたいと思いました。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 それでは、小野委員、佐保委員ですね。ほかにはよろしいですか。

 では、小野委員から。

○小野委員 ありがとうございます。

 非常に雑駁なのですけれども、一言だけ。前回の財政検証の経済前提に関わっていた者としてコメントさせていただきますけれども、経済前提の設定に関しては、供給モデルによらざるを得ないという現実の下で、これまで財政検証のたびに検討が深まって、今回の検討も充実している一方で、このモデルやパラメータの設定自身が非常にシンプルになっているということで、これは国民に分かりやすく伝えるという観点からも、非常に高く評価できるのではないかと考えております。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 佐保委員、お願いします。

○佐保委員 ありがとうございます。

 資料1-2の2ページの(3)のとおり、将来の社会・経済状況は不確実であり、長期の予測には限界があることは理解しますが、資料1-1の11ページのとおり、実質賃金上昇率については、過去の財政検証での設定と実績には乖離があります。将来推計人口や2020年法改正での参議院附帯決議を踏まえ、現実的かつ多様な経済前提の下で、より実態に即した検証を行うことを念頭に置いた年金財政における経済前提を設定いただきたいと考えます。

 また、実質的な運用利回りについて、資料1-2の8ページの(5)のとおり、2019年財政検証と同じく、GPIFの運用実績を基礎とすることを前提に、その運用実績を保守的に設定することは極めて重要と考えます。財政検証の実質的な運用利回りがGPIFの中期目標における運用目標に直接影響すること、また、GPIFは最低限のリスクで運用すべきであることを踏まえ、基本ポートフォリオにおけるリスク性資産の保有率引上げにつながりかねない運用利回りの設定は行うべきではないと考えます。

 なお、事務局への要望ですが、経済前提を踏まえた財政検証においては、2019年財政検証の公表が遅れたことを踏まえ、オプション試算の充実は重要であるものの、公表が遅れることのないように配慮いただければと思います。

 私からは以上です。

○菊池部会長 ありがとうございました。よろしいですか。

 それでは、もし深尾委員のほうから何かございましたら、最後にお願いいたします。

○深尾委員 是枝委員からの、インフレ率が高まると家計最終消費支出のデフレーターとCPIの乖離が大きくなるのではないかという御指摘は、確かに家計の代替の要因を考えるとあり得ることですので、米国等でも既に恐らく分析もあると思いますし、日本のデータも確認しながら、私としては、できれば専門委員会で考えてみたいなと思っています。

 あと、男女の問題についても、事務局とも相談しますが、男女の賃金格差の問題、それから労働の男女比の変化の問題。それから、権丈委員のおっしゃった労働市場全体の変化、非正規雇用の変化の問題。それから、井上委員がおっしゃった労働人口の構成の変化の問題、いろいろな委員の方から御指摘ありましたので、この問題もできれば専門委員会で。ただ、見通しというか、将来について大胆に考えるのは、権丈委員の御意見もありましたが、難しいわけですが、ある程度検討する必要があると考えています。

 私のほうからは以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 どうぞ、事務局から。

○数理課長 すみません、事務局から1点だけ補足。是枝委員が言った男女の賃金格差の縮小の話ですけれども、経済前提では男女平均の伸び率を設定するということをやっておりますが、前回の財政検証では、財政検証の中で男女の賃金格差が縮小することは、過去の傾向を基に同じように縮小していくという見通しを出しているところで、そこで織り込んでいるところであります。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 それでは、引き続き、専門委員会のほうでの御議論をよろしくお願いいたします。

 続きまして、議題の2つ目「次期財政検証のオプション試算」につきまして、それから議題の(3)「これまでの年金部会における議論の振り返り」について、まとめて事務局からお願いいたします。

○数理課長 数理課長でございます。

 私のほうから、資料2について御説明いたします。こちらは「次期財政検証のオプション試算について」の資料を取りまとめております。

 2ページを御覧ください。上段の枠囲みのところですが、まず1つ目、前回、2019年の財政検証においては、現行制度に基づく試算に加えて、一定の制度改正を仮定したオプション試算を実施いたしました。

 次の○のところですが、また、2019年の年金部会における議論の整理におきましても、今後の年金制度改革でもオプション試算を踏まえた上で議論を進めていくべきとされておりますので、次の財政検証においてもオプション試算を実施することを予定しております。

 その上で、オプション試算について、2点要件を満たすものを実施するものと考えております。

 1つ目が、年金部会等で見直しの議論が行われておりまして、改正後の姿が想定できる。それで、試算を行うための制度の前提が設定できることが必要かと存じます。

 もう一つは、財政影響を見るものでありますので、年金財政に一定程度影響が見込まれるものについて実施するものと考えているところであります。

 続いて、3ページを御覧ください。2019年財政検証において実施したオプション試算の内容についてまとめたものであります。

 オプションAとして、被用者保険の適用拡大を取り上げております。規模によって3ケース実施しておりまして、マル1が、企業規模要件を撤廃した場合。マル2が、さらに賃金要件も撤廃したもの。マル3は、20時間要件もなくしまして、月5.8万円未満の低所得者以外は全て適用するというものであります。

 オプションBが、保険料拠出期間を延長して受給開始時期を遅らせると、どのような影響があるかを試算したものとなります。ここのマル1で、基礎年金の拠出期間を45年に延長するという見直しを行った場合を試算しております。さらに、在職老齢年金の見直しや、個人の選択で繰下げを行った場合についても試算しているものであります。

 さらに、参考試算では、マクロ経済スライドの見直しの効果を試算しておりまして、2016年改正で導入されたキャリーオーバーの影響を試算しているということであります。また、この中で、名目下限を撤廃した場合の試算も実施しているということであります。

 続いて、4ページを御覧ください。令和2年の法律改正後に実施いたしました追加試算の内容となっております。

 法律改正を織り込んだ試算に加えまして、1階の基礎年金と2階の報酬比例のマクロ経済スライドの調整期間を一致させた場合。さらに加えて、基礎年金の45年化も実施した場合の試算を行っているということであります。

 以上を踏まえまして、今年、行います財政検証で実施するオプション試算について御意見賜れればと存じます。

 私からは以上です。

○年金課長 続いて資料3を御覧ください。こちらは「これまでの年金部会における主なご意見」をまとめたものです。次期改正の検討テーマについては、昨年末までに一通り議論いただきましたが、その際のご意見を事務局の責任でまとめたものになります。先ほど数理課長から説明申し上げたオプション試算について検討する際の参考として御用意しました。

 2ページが目次です。オプション試算の議論に関連する事項という観点から、検討テーマ全体のうち、総論部分は除いており、制度の見直しに関係する部分として「現役期と年金制度の関わり」「家族と年金制度の関わり」「その他の高齢期と年金制度の関わり」の3つのテーマでまとめています。

 昨年それぞれについて議論いただいており、最初の被用者保険の適用拡大については5月の部会、障害年金については6月の部会、標準報酬月額の上限は12月の部会、遺族年金と加給年金は7月の部会、いわゆる年収の壁と第3号被保険者制度については9月の部会、その他の高齢期と年金制度の関わりのテーマについては10月と11月の部会で議論いただきました。

 3ページ以降が内容になっていますが、時間の関係で説明は省略させていただきます。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございました。

 それでは、ただいま説明いただきました事項につきまして御意見、御質問など承りたいと存じます。

 堀委員、権丈委員が退席御予定ということですが、もし何かあれば先にお願いできればと思いますが、堀委員、いかがでしょうか。

○堀委員 どうもありがとうございます。先に退席させていただくということで、先に発言させていただいて、申し訳ございません。

 私からは、オプション試算としまして、雇用保険についてお願いしたいと思います。今回、20時間から10時間に加入要件が下がるということで進んでおるかと思うのですけれども、その10時間にした場合の社会保険の年金につきましても、オプション試算をぜひお願いできればと考えております。

 また、今回、懇談会を設定していただけるということで、そちらでも様々な議論が行われると推測しているのですけれども、一般的に雇用されている人ではないフリーランスとかギグワーカーなどにつきましては、まだ労働の領域でもなかなかコンセンサスが成立していないところ、先に年金のほうでかなり突っ込んだ議論が行われるという状況にもなっておりますので、今回のこの年金の議論が、そのギグワーカーとかマルチジョブホルダーなどの働き方を規定していくといった側面が、もしかして出てくるのかもしれません。ですので、非常にすばらしい内容になることを期待しているところでございます。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 権丈委員、どうぞ。

○権丈委員 資料3の19ページ、見直しに向けた具体的なご提案の第1段落のところで、ハーフとフルの選択の話が書いてありまして、その辺りについてコメントしておきますと、一昨年後半から始まった、年収の壁騒動というのは、レントシーキングとの闘いだったのですね。しかも、政治主導というのが確立した時代の中で、政治の方針が先に決まっていて、勝負あったの上で議論が始まっていったと。年金局も私も負け戦をやっていて、年金局も我々も蟷螂の斧だったわけです。

 そうした中で、年金局が妥協案として考えていた、雇用保険の財源を持ってきて3号を優遇していくという支援強化パッケージよりも、はるかにましなアイデアとして、財源はほかに求めずに、就業調整をする人たちの給付減で対応していくという、それを20時間から30時間の厚生年金ハーフとフルの選択という案を挙げていたわけです。政府も最初から時限措置と言っていたし、20~30時間の厚生年金ハーフは、もちろん時限措置として話していたわけです。というのも、20~30時間に関しては、さらなる適用拡大を進めることと、被用者保険に入ることの意義の広報を進めるほかは何もしないというのがベストであることは明らかなわけで、全世代社会保障構築会議の報告書も「被用者保険適用拡大の更なる推進に向けた環境整備・広報の充実」としか書いていません。

 そして、昨年の10月から支援強化パッケージが始まったわけですから、私が言っていた20~30時間の厚生年金ハーフ案の役割も終わっています。今日も、これから東京都の働き方会議があるわけですけれども、報告書には、支援強化パッケージを大いに活用しようと書くように私は話をして、アドバイスをしています。この制度、一旦使うと引き下がれないですから、大いにやればいい。ただ、政府は時限措置と言って始めたけれども、どうやって収拾していくのか、傍観させてもらおうではないかという話ですね。今の支援強化パッケージが本当に時限措置で終わるかどうかは分かりませんけれども、レントシーキング活動のために、火のないところに煙を立てたのだから仕方がなく、収拾が難しい状況に陥っているのは政府の自業自得だよなと私はいろいろと言っております。

 しかしながら、岸田さんが言っていた勤労者皆保険というのは、働き方ではなく、働かせ方を問題視した別次元の話で、これは断固進めるべきですね。これは20時間未満の厚生年金ハーフの形を取ります。事業主は、これまで長く、国年1号との整合性を取るために、働く人たちの収入と就業時間に制限を設けるべきと言い続けてきたわけですけれども、岸田総理の言う勤労者皆保険は、事業主が求めてきた1号との整合性というのを保っています。ということで、従来の理由では事業主も反対できない仕組みになっていますので、ぜひこの勤労者皆保険というのは進めてもらいたいと思っています。

 以上になります。どうも。

○菊池部会長 ありがとうございました。

 それでは、井上参考人にお願いした後、会場からお願いしますので、先に井上様、お願いします。

○井上参考人 ありがとうございます。

 オプション試算について、先ほども御意見ありましたけれども、今後の検討課題とされる週所定労働時間20時間未満への適用の場合や、さらには賃金要件が引下げになった場合についても、可能であれば併せて試算を行ってはどうかと思います。

 また、基礎年金の拠出期間の延長、あるいはマクロ経済スライドの調整期間の一致に対しても、今後の精緻な議論のために行っていく必要があると思います。

 さらに、財政検証の中で所得代替率を示す場合には、できれば代表的な所得水準ごとの見通しも、国民にとって非常に重要な情報だと思いますので、可能であれば御検討いただきたいと思います。

 以上でございます。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 それでは、一旦、会場のほうに戻したいと思います。佐保委員、是枝委員、小林委員の順でお願いします。

○佐保委員 ありがとうございます。

 オプション試算について、前回の部会で永井委員から発言があったとおり、連合は「被用者保険の適用拡大を進めるため、最低賃金や健康保険の基準を念頭に下限を引き下げる」ことを提言しており、2019年財政検証と同様に、賃金要件の引下げによる適用拡大をオプション試算に入れるべきと考えます。

 また、企業規模要件や個人事業所の非適用業種の撤廃などの社会保険の適用拡大と併せ、前回議論した標準報酬の上限の等級を追加した場合などについても、オプション試算に入れていただきたいと考えます。

 また、今回の財政検証でも現在論点となっている基礎年金の拠出期間延長の試算が行われると理解しますが、以前の部会でも申し上げたとおり、延長期間分の給付に国庫負担がない仕組みは国民の理解が得られるものではなく、国庫負担がある場合のみの試算でもよいと考えます。

 また、先ほど堀委員、井上参考人からもございましたが、労働時間要件について週10時間以上に見直した場合の試算も必要と考えます。

 私からは以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 是枝委員、お願いします。

○是枝委員 今回のオプション試算については、年金部会等で見直しの議論がされており、改正の姿が想定でき、試算を行うための制度の前提を設定することができるということが条件となっておりますので、特にこれから二巡目の議論で、週20時間未満の雇用者も含めた適用拡大の方向について議論を詰めて、ある程度A、B、Cという形があり得るというような形を示せるところまで持っていきたいと考えております。週20時間未満の雇用者へ適用拡大を急ぐべきという方向性は、有識者の委員のほとんどと、経団連、連合、UAゼンセンの委員からも賛成意見が出ており、ほぼコンセンサスとなりつつあります。

 先ほど権丈委員は、20時間未満の適用拡大の方法について厚生年金ハーフというのを提案されていらっしゃいましたが、20時間未満の雇用者に適用拡大する際の方法論は、ほかにもあり得るところでございます。駒村委員は、現在のオプション試算マル3のように、単純に適用拡大するということを提唱されていらっしゃいます。私は、1.5号、2.5号被保険者という形で厚生年金の保険料が国民年金の保険料に満たない場合は、差額を国民年金第1号被保険者に負担を求めるという案を出しております。このほか、日本総研の高橋特任研究員からは、20時間未満の雇用者は国民年金と厚生年金の両方に加入し、両方の保険料を納めた上で、基礎年金相当分は重複するものとして労働者に還付する案という、少額労働被保険者案というものを提案しております。

 これらの案、もしくはほかにも案があるのかもしれませんが、これらの改正案につき、所得再分配を行うものの範囲、就業調整への影響、年金財政や国庫負担への影響など、メリットやデメリットを比較検討した上で、労使ともに納得できる案に向けて意見集約を図りたいと考えております。その上で、ある程度A、B、Cという案があり得るということがまとまりしたら、次の財政検証のオプション試算で詳細に試算を示した上で、2025年の法改正に臨むということがよいのではないかと考えております。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。ほぼコンセンサスとなりつつあるかどうかは、是枝委員の御評価でございますので、そこは評価の問題として受け取らせていただきます。

 それでは、小林委員、お願いします。

○小林委員 私のほうからは、2点ほど、意見を申し上げさせていただきます。

 まずは、次期財政検証の結果ですが、次期年金制度改革の議論において、極めて重要なデータです。御苦労をおかけしますけれども、厚生労働省におかれましては、年金部会における議論の時間を十分に確保できるよう、財政検証の結果を可能な限り早い時期に取りまとめ、年金部会へ御報告いただくよう、御尽力をお願いいたします。

 2点目は、オプション試算についてです。中小企業は、深刻化している人手不足の打開策を模索する中で、自社のイメージアップに向け、健康経営優良法人や子育てサポート企業など、行政の認定を取得する動きが増えているとの声が、商工会議所の経営指導員から寄せられております。他方で、年収の壁や第3号被保険者制度及び在職老齢年金制度などが、女性や高齢者等の就業時間等の抑制要因として存在するという実態がございます。これを見直し、働く意欲や能力を持つ人々が、その希望に沿って働く環境を整えることが重要であります。これにより、労働力の確保が図られるようになれば、人手不足の緩和につながると考えております。

 企業での就業時間が拡大すれば、被用者保険加入者も増えるということが生じてきて、事業主の社会保険料負担も増加します。結果的に人手不足と人件費増加のどちらを取るかという難しい選択を迫られ、それは事業者ごとに状況と判断が異なるであろうと思います。こうした難しい状況に答えを出すためには、本日議題となっておりますような試算を数多く、かつしっかり準備して議論を進めることが重要であります。過去に行ったオプション試算は、いずれも重要ですが、あえて必須と考える項目を挙げさせていただくなら、在職老齢年金制度を見直した場合や、資料2の3ページ、オプションAの被用者保険のさらなる適用拡大を行った場合などは、ぜひお願いしたいと思います。

 また、今回の制度改革の論点の一つである、標準報酬月額の上限を引き上げた場合についても、新たに試算の対象としていただければと思っております。

 議論の際に重要なのは、事業主と労働者の社会保険料負担がどの程度増えるのかという視点ですので、ぜひ、それらについても併せてお示しいただくよう、お願いしたいと思います。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 ほかには。

 それでは、小野委員、その後、島村委員、お願いします。

○小野委員 ありがとうございます。

 資料2の2ページにオプション試算の内容に関する要件のようなものを記載していただいておりまして、これは当然のことだと思っています。逆に言えば、試算になじまないもの、コストに反映しない制度改革とか、こういったものもあるわけですので、オプション試算をしなかったからといって、これがアジェンダから落ちるという理解は、過去の例からいっても、それはあり得ないわけですので、それは一応、御指摘申し上げておきつつ、何を申し上げたいかというと、何でもかんでも試算しましょうというスタンスは避けたほうがよろしいのではないかなと思います。

 と言いながら、ちょっとお話ししますと、オプション試算というのは、基本的に前回財政検証並みの試算を行うことを前提に、これは主観が入るという部会長の御指摘でしたけれども、おおむね意見が一致していると思われるということで、例えば遺族年金に関する男女格差の解消とか、弱齢期における有期化とか、あるいは加給年金の廃止というのは、ある程度具体的な姿が見えるかもしれないなと私は思っておりますので、もし設計などができれば考慮していただきたいと思います。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 島村委員、お願いします。

○島村委員 ありがとうございます。

 これまでの御意見の中にも出たものと重複してしまうのですが、オプション試算については、標準報酬月額の上限の引上げの話と、在職老齢年金の廃止を関連づけた形でシミュレーションいただけるとありがたいと思っております。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 たかまつ委員、どうぞ。

○たかまつ委員 私からは、1点お伝えしたいなと思っております。今後、二巡目の議論に入っていくと思うのですけれども、その際にお願いがあります。もし可能でしたら、こどもの意見表明を反映するということを年金部会でも行ってほしいなと考えています。以前もお話しさせてもらったのですけれども、こども基本法でこどもの施策をやるときはこどもの声を聴くということが法律で義務づけられました。年金は将来のこどもや若者に大きく影響するものなので、当事者の声を聴くヒアリングの場というのをぜひ設けていただきたいなと思っています。

 若者の多くは、将来に対する不安や社会保障に対する漠然とした不安感を持っています。そのような若者と対話したり、意見を聴くということで、どうそれを制度化するのか、教育や広報を通して伝えていくのかということを考えていくというのはすごい重要なことだと思いますので、そのような場をできたら設けていただきたいなと思っております。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 原委員、お願いします。

○原委員 ありがとうございます。

 私もこの資料3の下に「資料の構成」ということで、これまでの意見の項目が出ていますので、こちらで見ているのですけれども、先ほども小野委員からありましたけれども、オプション試算を今しなかったからといって、アジェンダに上がらないわけではないということと。あと、オプション試算をするまでに、もう少し定性的な議論といいますか、そういうものが必要なものは、今、定量的な試算というものはまだしないほうがいい、するところまでいっていないものもあるかと思います。

 ですので、そういったことを考慮してみますと、重複するのですけれども、オプション試算に入れたほうがいいものとしては、被用者保険の適用拡大、2019年財政検証のときと同様な部分がありますが、こちらも最賃のところで多分区切ったと思うのですけれども、そこの下限のところも含めて、あらゆる想定される部分、規模だけでなく、そういったところも含めて、またやっていただきたいなと思います。

 フリーランスとかギグワーカーの辺りは、まだ議論が少し深まっていないと思いますので、前回と同じような形で、もう少し時間とか賃金要件とかを広げた場合というのもやっていただくのはいいと思いますし、あとは、標準報酬月額の上限のところ、最後の議論でしたけれども、こちらも少しそれを広げた場合の部分も3番のところにありますが、加えていただけるとありがたいと思います。

 それから、加給年金のところですね。ある程度見えているのはいるのですが、老齢について、配偶者加給年金というのが特に今の時代の変化とどうかと思っておりましたところがありますので、特別加算というものもありますが、特別加算、全て廃止した場合、あるいは特別加算のみを廃止した場合、この加給年金も含めて老齢について廃止した場合など、経過措置とかも含めてですが、そういった何通りかのパターンで出していただければと思います。

 あとは、高在老については言われていることなので、4月以降、基準額が変わりますけれども、こちらもオプション試算として必要かと思いますし、9番の基礎年金の拠出期間の延長、前回もありましたけれども、こちらも45年の部分についての延長でオプション試算に加えていただきたいなと思います。

 あとは、例えば第3号とか遺族年金とか障害年金については、もう少し議論を煮詰めた上での試算のほうがいいのかなと思いますし、それがテーマから外れるということではないかと思います。

 あとは、追加試算していただいたものも、詳しい部分でマクロ経済スライドの調整期間の一致というところが、まだまだ理解が足りていない部分が多いかと思いますので、それもこの間は追加試算でしたけれども、それも含めてやっていただいていいのではないかと思っております。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 百瀬委員、どうぞ。

○百瀬委員 今回、オプション試算の2つの条件をお示しいただきました。それを踏まえれば、障害年金、遺族年金については、オプション試算をするのは少し難しいように思いました。一方で、これまでにもオプション試算が行われてきた適用拡大、基礎年金拠出期間の延長、それから調整期間の一致は、今回も実施していただきたいと思います。

 また、お二方の委員からもご発言がありましたが、前回の部会で、標準報酬月額の上限を引き上げた場合、年金財政にプラスの影響があり、上限引上げに該当しない者についても、将来の給付水準が上昇するというお話がありました。ですので、例えば、標準報酬の上限を健康保険と同じ設定にした場合に、年金財政にどれぐらいの影響があるのかを示していただきたいと思います。ただし、標準報酬の上限を引き上げると、平成16年改正法附則第2条の条文に従えば、モデル年金の所得代替率を計算するときの分母も上がります。この分母の上昇をそのまま反映させた場合、その影響を受けて、標準報酬の上限引き上げ後の所得代替率は、見かけ上、あまり上がらない可能性もあります。標準報酬の上限引き上げに関してオプション試算をする場合は、所得代替率の見せ方に工夫をしていただきたいと思っています。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 ほかにはいかがでしょうか。

 武田委員、途中参加でいらっしゃいますが、何か御発言ございますでしょうか。

○武田委員 どうもありがとうございます。

 何人かの委員がおっしゃいましたように、オプション試算を行うための考え方に賛成いたします。同時に、オプション試算に入らない場合も、改革メニューあるいは改革アジェンダには含まれることを確認させていただきたいと思います。オプション試算をしなければ改革は進まないというわけではなく、必要な改革はしっかり議論を行っていくべきと思います。

 オプション試算については、皆様とほぼ同じ意見ですが、被用者保険の適用拡大、基礎年金の拠出期間の延長、標準報酬月額の上限等、実際に数値を見て比較考量して議論したほうが、望ましいものについてしっかり行っていただけると思います。

 以上です。ありがとうございます。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 それでは、玉木部会長代理からお願いいたします。

○玉木部会長代理 ありがとうございます。

 このオプション試算につきましては、個別にどの項目でやるかというのも非常に重要でございますけれども、オプション試算というのは、そもそも国民の間の議論の素材をまとめて提供するという趣旨もあるわけでございますので、幾つもの項目があるものをどのように括るかというのも重要なところかと思います。

 その場合に、適用拡大については、これは非常に大きなテーマであり、また現実性も非常に高いということもあるので、これは1つ、別格の扱いでもいいかなと思うのですけれども、そのほか、どういった括り方があるかなということをちょっと考えてみると、労働市場における構造変化のようなものがあった場合には、制度がそれと不整合にならないように、いわば中立性が下がっていないか、あるいは中立性を回復するにはどうしたらいいのかというふうな観点を取り入れると、人々の実感に合わない制度だなという不信感の源になるような違和感のようなものを積極的に解消しようとしているのだというメッセージになって、よろしいかと思うところでございます。

 そのような観点から、資料3の2ページにある「資料の構成」という目次のようなところですけれども、1から11までありますけれども、これを当然またがったオプション試算の設定の仕方もあるところであろうと思いますし、また、そういったオプション試算を受けて、個々人がどういうふうに対応すべきかといったことになるわけですけれども、その際には、最近、厚労省で開発された年金シミュレーターのような、個人にとって飛び道具とも言うような、自分で自分の判断をするという上での支援になるようなものも出てきておりますので、オプション試算の提示が人々の間のライフプランニングの積極化、あるいは制度の信頼への回復につながるようになっていただければと思うところでございます。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 ほかには何かございますでしょうか。

 是枝委員。

○是枝委員 標準報酬月額の引上げについて、仮に健保並みまで上限を引き上げた場合どうなるかというのが百瀬委員から御提案がありましたが、前回の標準報酬月額の引上げの議論においては、健保並みまでに引き上げるべきという意見もあったものの、そこまで多数ではなかったと認識しています。月額と賞与のバランスが悪くなっているところをどうにかする方法がないのかとか、上に数等級追加してはどうかといったような意見が大勢だったと思いますし、その程度の改正であれば、所得代替率に与える影響は0.1ポイントとか0.2ポイント等の軽微な水準かと思いますので、オプション試算になじまないと思います。仮に健保並みまで引き上げるオプション試算を出すということであれば、その是非について、もう一度もんだ上で出す必要があるのではないかなと思います。

 以上です。

○菊池部会長 御意見として承っておきます。

 あとはよろしいですか。よろしいですね。ありがとうございます。

 非常に多角的な視点から多くの御提案をいただくことができました。どうもありがとうございます。御意見の中でもいただいておりますように、これらを全て取り上げるということは、事務局の人的あるいは時間的な制約もございますし、そこは難しいということは皆さん、御理解いただけると思いますが、さらに2ページにございます2つの条件ですね。これは事務局がやりたくないので狭めているというわけではなく、あくまで財政検証ですので、財政に対して一定程度影響があると見込まれるものでなければ取り上げられないことになります。

 また、この部会では、一巡目、二巡目と議論を重ねて、一応、二巡目の議論が終わったという段階でのオプション試算、何をやりますかという話ですので、これまでの議論の蓄積の上に立って、どれを試算しましょうかという話になるという意味では、2つの要素はいずれも理にかなったものであると思います。そういった点で、何を今回、取り上げるかということは事務局のほうで検討していただきたいと思いますが、これも武田委員はじめ、何名かの皆様からございましたように、今回、オプション試算に入らないからといって、一切、制度改正にはつなげませんといった意味合いではないということは確認したいと思います。いいですね。そういうことでございます。

 また、これも御指摘があったかと思いますが、前回も4ページの追加試算というのを、これは先の話ですけれども、そういったことも部会としてやってきていますので、次の改正に向けてというお話もございましたが、こういったやり方も前例としてはあり得るという、その辺も念頭に置きながら、今回、何を取り上げるかということを、できるだけ多くの御意見を反映することが望ましいと思いますが、事務局として検討していただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 特に事務局からいいですか。

○数理課長 すみません、様々な御意見ありがとうございます。

 事務局として、部会長とも相談しながら、何をやっていくか考えていきたいと思います。併せて、どういうふうに見せるか、どういったメッセージを出していくかというのが非常に重要かと思いますので、それも含めて何をやっていくかというのをしっかり検討していきたいと思いますので、今後もよろしくお願いいたします。

○菊池部会長 よろしくお願いいたします。

 それでは、もう一つ議題がございますので、議題(4)につきまして事務局から御報告をお願いいたします。

○年金課長

 資料4を御覧ください。こちらは、議事次第(4)にある「「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」の開催について」の御報告です。

 まず趣旨ですが、適用拡大については2016年以来進めてきており、また今後の在り方については当部会でも御議論いただいているところです。この懇談会は、年金部会における二巡目の議論も含め今後の検討に資するよう、関連の有識者の先生方あるいは団体の皆様にお集まりいただいて、年金部会とは別の場として開催するものです。前回の制度改正に際しても同様のものを設けて検討いただいた経緯がございます。

 検討事項は、真ん中の左側に3点ございまして、この部会でも議論いただいた短時間労働者への適用、個人事業所への適用、あるいは複数の事業所、フリーランス、ギグワーカーといった多様な働き方を踏まえた適用の在り方を検討いただくことを考えております。

 それから、スケジュールは左下になりますが、本日御報告させていただいた後、来月にも立ち上げまして、関係団体へのヒアリングを複数回、予定しています。その後は、先生方との相談にもなりますが、議論を重ねて夏頃をめどに意見を取りまとめて御報告したいと考えております。

 構成員の先生方は右側のとおり、年金部会からは、菊池部会長、嵩先生に参加いただく予定です。

 また、適用拡大の話については、年金に限らず医療保険も関係しますので、医療関係の団体の方にも御参加いただく予定です。

 以上が資料4の御説明になります。

○菊池部会長 ありがとうございました。

 皆様から御質問、その他ございますでしょうか。

 是枝委員、その後、佐保委員、お願いします。

○是枝委員 厚生年金とか被用者保険の適用拡大について学生の意見をぜひ聴くべきだと思います。現在、学生除外の規定があるのですが、週20時間未満まで適用拡大した際には、現在、アルバイト等で働いている学生も被用者保険に入ってくる可能性が大いに出てまいります。その際に、学生にとって国民年金第1号被保険者としての保険料がかなり過大であることを踏まえると、厚生年金や被用者保険に加入することによって負担軽減される面があることも踏まえて、ぜひ学生団体など、学生の意見を聴く機会を設定していただければと存じます。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 佐保委員、お願いします。

○佐保委員 ありがとうございます。

 今の是枝委員の意見は、私も賛成です。

 私から1点、質問させてください。次期制度改正に向けては、さらなる適用拡大が大きな論点となっていますが、懇談会における議論内容も十分に踏まえた議論が必要であると考えます。懇談会の議論の取りまとめの時期、取りまとめの内容の取扱いなどについて、現時点でどのような想定なのか、お考えがあればお伺いいたします。よろしくお願いします。

○菊池部会長 いかがでしょうか。

○年金課長 御意見ありがとうございます。

 学生の意見を聴取すべきという点については、検討させていただきたいと思います。

 それから、取りまとめのスケジュールについては、資料では「第5回以降」とあり、前回の例では9月に取りまとめを行っています。議論の状況を踏まえて、構成員の方々と御相談になりますが、今回は夏頃を取りまとめの時期として考えています。

 以上です。

○菊池部会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。

 学生、誰に代表してもらうかというのは、確かに難しい問題かと思いますけれども、文科省等に聞いてみますか。こども家庭庁ではなくて文科省になりますね。たかまつ委員の御発言の関係では、対話とか年金教育をやっていますけれども、工夫して、今回の年金改正をどう思いますかというのではない形で、何かできればいいかなと思って伺っていました。

○たかまつ委員 台湾とかでもこういうこどもの意見表明、日本より20年ぐらい前にやっているのですけれども、少しお話を聞いた際に、こどもにいきなり意見を聴いても、知識がないと答えられないので、いかにその前にインプットするかということがすごく大事だというお話もあったので、学生の方を呼んでも、そもそも意見が分からないということになってしまうと思うので、その前にどうやってインプットするかというのが非常に難しいところだと思うのですけれども、それをするといいのではないかなと思います。

○菊池部会長 なので、今回の改正に向けた意見聴取なのか、あるいはそれを超えて、教育・啓発、その中で意見をいただいていくとか、こども、学生という、これから将来を担っていく人たちに向けて、どうアプローチするのかという辺り。今までは教育という視点しか、確かになかったなと思うのですね。

○たかまつ委員 ごめんなさい、いいですか。私個人としては、制度のところも考えていく必要があるのではないかなと思いまして、それはもちろん今のシミュレーターとかで、やろうと思えば自分がどのぐらいもらえるかとか、そういうところは分かると思うのですけれども、そもそも年金制度というものが遠い存在になっていて、自分たちがそこに対して置いてきぼりになっていたり、そこに自分たちの声が反映されているというところとか、そういうところに対して無気力感があるから、将来もらえる金額が全然少なくなっているとか、これだけ膨らんでいて自分はもらえないから、将来に対する漠然としたキャリアの不安感とかがあると思うので、そこで自分たちの声が反映されていると思うこととか、では、どういう改正の仕方があるのかということを知るということは非常に大事だと思います。

 そういう自分で考えることによって、そういう不安感が減ったりということにもつながると思いますし、我々側としても、厚労省の方もそうですし、皆さん、委員の方もそうだと思うのですけれども、どういうところに若者が不安感を持っているのかとか、どういう誤解があるのかを知るという、こちらとしてもそれは意味があるのではないかなと思っています。

○菊池部会長 是枝委員、どうぞ。

○是枝委員 すみません、労働組合の中に、学生のアルバイトとか若年のための組織みたいなものはありますでしょうか。

○菊池部会長 佐保委員。

○佐保委員 学生はあまり聞いたことはありません。ただ、年金教育もあると思いますし、学生がどう考えているのか、知識がない、今の制度を理解していないということも踏まえ、制度を知っていただいたり、知っていただいた上で自分たちの将来のことである年金をどう考え、どうしたいかを聴く機会は必要と思います。やり方は事務局にお任せしたいと思いますが、いろいろな意見を聴くことは、我々にはプラスになると思います。

 以上です。

○菊池部会長 ありがとうございます。

 どうぞ、たかまつ委員。

○たかまつ委員 すみません。もしよかったら、こども家庭庁は「こども若者★いけんぷらす」というのをやっていまして、こどもの政策を聴くということをプラットフォーム化しているので、そことかと連動して、年金についての知識のインプットの場と、それについて意見がある人は御意見くださいみたいな形で招集するという方法は、もしかしたらあるかもしれないなと思ったので、一案として御提案させていただきます。

○菊池部会長 貴重な御意見ありがとうございます。

 今回改正に向けて具体的にというのが、どこまでできるかどうかということと。

 あとは、今の御発言で、年金教育は厚生労働省年金局がやるものであるという、必ずしもそこに縛られなくてもいいかもしれません。まさに省庁横断的にこども家庭庁などの協力を得しながらやるというのもあるでしょうし。いずれにしても、宿題ということで事務局にちょっと考えていただければと思いますので、建設的な御意見いただけていると思いますので、よろしくお願いいたします。ありがとうございます。

 ほかにはよろしいでしょうか。

 それでは、少し早いですが、予定しておりました議事、すべて終了でございますので、ここで終わらせていただきます。

 今後の予定につきまして事務局からお願いします。

○総務課長 次回の日程や議題につきましては、追って連絡いたします。

○菊池部会長 それでは、本日の審議は終了いたします。お忙しい中、お集まりいただきまして、どうもありがとうございました。

 

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