2018年7月30日 第3回社会保障審議会年金部会

年金局

 

○日時   平成30年7月30日(月)10:00~12:00

 

○場所   東京都千代田区西神田3-2-1

      ベルサール神保町(住友不動産千代田ファーストビル南館3階)

○出席者

神 野 直 彦(部会長)

植 田 和 男(部会長代理)

阿 部  正 浩(委員)

小 野 正 昭(委員)

菊 池 馨 実(委員)

権 丈 善 一(委員)

駒 村 康 平(委員)

武 田 洋 子(委員)

出 口 治 明(委員)

永 井 幸 子(委員)

原 佳 奈 子(委員)

平 川 則 男(委員)

藤 沢 久 美(委員)

牧 原   晋(委員)

諸 星 裕 美(委員)

山 田      久(委員)

山 本 𣳾 人(委員)

米 澤 康 博(委員)

○議事

○神野部会長

 それでは、定刻でございますので、ただいまから、第3回「年金部会」を開催したいと存じます。

 猛暑の上は酷暑と呼ぶのか、何かわかりませんが、大変お暑い中を委員の皆様方には御参集いただきまして、本当にありがとうございます。伏して御礼を申し上げる次第でございます。

 本日の委員の出欠状況でございますが、小室委員、高木委員、森戸委員から御欠席との御連絡を頂戴いたしております。

 御出席いただきました委員の皆様方が3分の1を超えておりますので、会議が成立していることをまず御報告申し上げたいと思います。

 それでは、議事に入ります前に資料の確認をさせていただきますので、事務局からお願いいたします。

○総務課長

 お手元に配付いたしました資料につきまして、確認させていただきます。

 本日は、配付資料として、資料1「諸外国の年金制度の動向について」、資料2「年金額の改定ルールとマクロ経済スライドについて」をお配りしておりますので、御確認ください。

 なお、委員より資料1について意見を述べる際の参考として資料の配付の要請をいただきましたので、その資料につきましてもお配りしております。

 以上でございます。

○神野部会長

 それでは、カメラの方はいらっしゃらないですね。いらっしゃるようでございましたらば、ここにて御退室をお願いいたします。御協力を頂戴できれば幸甚に存じます。

 議事に入らせていただきますが、議事次第にございますように、本日は議事を2つ用意してございます。1つは「諸外国の年金制度の動向について」、もう一つは「年金額の改定ルールとマクロ経済スライドについて」の2つでございます。

 いずれも見ていただければわかりますが、委員の皆様方でまず認識を共有していただきたいということを目的として議事を準備いたしております。

 それでは、まず議事の(1)でございますが、事務局から資料について御説明いただければと思います。

 よろしくお願いいたします。

○国際年金課長

 年金局の国際年金課長でございます。私から、資料1「諸外国の年金制度の動向について」につきまして、御説明を申し上げたいと思います。

 1枚おめくりいただきまして、総論ということで、2ページを御覧ください。OECDで加盟国の年金制度を定期的にレビューしております「Pensions at a Glance」という報告書がございます。その2011年版での議論を紹介させていただきます。

 その中では年金のパラドックスということで「給付の十分性」と「制度の持続可能性」という、この2つの要求をどうやって実現するかというパラドックスがございまして、このジレンマから抜け出す解決策として3つほど挙げられております。

 下の箱のところですけれども、1つ目としては、支給開始年齢の引き上げなどをはじめとした就労期間の長期化ということ。2番目としては、公的年金の支給努力の対象を脆弱な人々に置くということで給付のほうを、こういう対象を脆弱な方に重点化するということ。3番目といたしましては、年金給付の削減を補完するものとしての私的年金等の奨励という3つの解決策が挙げられておりまして、各国で改革の努力が続けられているところと思っております。

 3ページでございます。これは海外の学者の方の御紹介ですけれども、ロンドンスクールオブエコノミクス、LSEの教授であり、世界銀行のコンサルタントもされていたニコラス・バー氏という方がいらっしゃいまして、その方が2013年に講演された「適切な年金制度を確保するための公共部門と民間部門の役割」ということの議論を紹介させていただいております。

 上の箱ですけれども「年金を設計するただ2つだけの方法」ということで、1つは、現在の生産物を蓄える。2つ目は、将来の生産物に対する請求権を設定するということであります。それで、賦課方式と積立方式は、将来の生産物に対する請求権を制度化するための仕組みの相違にすぎないということですので、この2つのアプローチの違いを誇張すべきではないということをおっしゃっていらっしゃいます。

 下の箱で「年金財政問題の解決策」としては4つあるということで、1つは平均年金月額の引き下げ。それから、支給開始年齢の引き上げ。これは年金引き下げの別の手法ということでございます。それから、保険料の引き上げ、国民総生産の増大政策ということで、こういったアプローチが含まれている必要があるということでございます。

 次の4ページであります。

 「政策的インプリケーション」というところで、積立方式では、必ずしも人口構造の変化の問題は解決されないということが書いてございます。

 5番目で「結論」で、全ての国に対して共通の、単一で最善の制度はないということで、先ほど御紹介させていただきました、年金財政問題を処理する政策の4つだけなのだということで、これの組み合わせなのだということであります。

 その次に、避けるべき誤りということで、いろいろとやってはいけないことが書いてございまして、1つ、2つ申し上げますと、部分的にやるのではなくて、戦略的に長期的視野で改革すべき。あるいは実施能力を超えた制度をつくるべきではないなど、幾つかの指摘がされておるところでございます。

 最後に、本当に重要なことはよい政府と経済成長ということで、やはり成長が大事であるということもうたわれているわけであります。

 5ページでございます。私的年金についてであります。

 OECDで各国の年金制度を比較しておるのですけれども、その際では、公的年金制度だけでなくて、私的年金も一つの仕組みと捉えて、これを含めて検討を行っております。特にヨーロッパでは、労使協約に基づく年金制度など、ほぼ対象者が準強制的に加入する仕組みがございまして、そういったことも含めて比較を行っているところであります。

 それから、最初のスライドでも申し上げましたけれども「持続可能性」と「給付の十分性」のジレンマの解決策の一つとして、公的年金制度の水準の低下を補完する私的年金制度のカバー率の向上等の奨励などが解決策として提示されているところでございます。

 下の点線の囲みでは、それの原文を挙げさせていただいております。

 次の6ページで、OECDの報告書で言われている年金制度の、年金の所得代替率でございます。これは最新版で出されております「Pensions at a Glance 2017」の数字を挙げてございます。

 これの数字の前提は一応、2016年に20歳で労働市場に参入し、標準的な支給開始年齢までの期間、平均賃金で就労した方の所得代替率ということで試算されておるわけでございます。

 これにつきましては、日本の場合には、マクロ経済スライドの調整が終了したものでございますし、各国ごとのさまざまな制度改正の取り組みなども一定の仮定に置いて当てはめたものでございます。特に※で書いてございますけれども、日本の財政検証の数字の点では、単身モデルであるということ。それから、一応、分母の平均賃金がグロスであるということなどの違いがございまして、そういった点に注意して見る必要がある数字ではないかなと考えております。

 次に、7ページでございます。支給開始年齢と平均実効引退年齢の関係ということで、◇がいわゆる法定の支給開始年齢で、青いバーが平均的な引退年齢でございます。

 特にドイツやフランスなどを見ていただきますと、いわゆる法定の支給開始年齢よりも早期に引退する傾向がございまして、恐らくこういった方の実際にもらっていらっしゃる年金は、法律で予定されている額よりも低いのではないか。そういったことにも留意する必要があるのではないかということで提示をさせていただいておるものでございます。

 次に、諸外国の年金制度の動向ということで、10ページをごらんください。御案内かと思いますが「諸外国と比較した我が国の年金制度の特徴」でございます。

 被保険者につきましては、諸外国では、納付義務というものは、いわば稼働所得がある方に課されているのが基本であるのに対しまして、我が国では20~60歳全員を被保険者としております。その中にはさまざまな経済状況の方がいらっしゃるので、低所得の方については、申請等により納付義務が免除される仕組みとなっております。

 次に、被用者への適用の仕組みについて見てみますと、諸外国では、かなり少額の賃金水準から保険料を負担する国もありますが、我が国では、先ほどの20~60歳の方の皆年金というものを前提といたしまして、被用者年金制度につきましては、労働時間が短い者につきましては被用者性が認められないということで、適用除外としておるところであります。

 3番目に、積立金の水準でありますけれども、諸外国での積立金の水準は大体0~4年分程度で、賦課方式を基本とした財政方式でありますが、我が国の厚生年金保険の積立金の水準は、それに比べますと、比較的高いほうに属するということはあろうかと思います。

 次に「2.給付水準の自動調整機能」についてでございます。

 12ページを御覧いただきたいと思います。2004年の改正で、我が日本ではマクロ経済スライドを導入いたしましたけれども、給付水準の自動調整ということで、類似した仕組みがスウェーデンやドイツで導入されているところでございます。

 スウェーデンでは、政府が毎年、年金資産と年金債務を比較いたしまして、均衡数値を算定して、それが1を上回るか下回るかによって、みなし運用利回りや年金額の改定率を変動させております。次のページで詳細に御説明します。

 ドイツでは、持続可能係数というものを年金給付額の算定に用いることによりまして、年金受給者数と保険料納付者数の比率の変化を反映させる仕組みを導入しております。所得代替率が低下した場合につきましてですが、2020年までに46%、2030年までに43%を下回らない、下回る見通しになった場合には所要の措置を講じるということが法定されています。もう一つは、保護条項というものがございまして、これはいわば年金の名目額ですが、年金額が前年に比べて下落しないような措置も、そういう条項も一方で設けられておるところであります。

 次が13ページ、スウェーデンのメカニズムについて図示をしております。

 真ん中のほうの図で、左に(A)で、保険料の収入や積立金の残高。それから、右側に(B)で、年金給付の債務総額ということで、この両者の比率をとりまして、それを均衡数値と言っておるのですけれども、その均衡数値が1を下回っている場合には、年金額の改定率を変動させるということでございます。

 もし何もなければ、いわば所得の伸びで年金額が改定されていくのですが、この均衡数値が1を下回っている場合には、その数値を用いることによって年金額の伸びを抑えていくという仕組みになっております。1を上回る場合もございますので、それによって本来水準、右側のグラフですが、1を上回ることによって、徐々に本来水準に近づいていって、本来水準に近づけば、この均衡メカニズムの発動は終わるという仕組みになっております。

 下の囲みでは実際に発動の経緯を若干書いてございますが、リーマンショックの影響を受けて、2010年に初めて、自動財政均衡メカニズムが発動されることが見込まれたわけですけれども、その際に発動しにくくするような仕組みを導入したのですが、結果として3%の減額改定になっております。

 2番目の○ですが、その後、いろいろ均衡数値の変動幅が大きいことが問題化されまして、2017年の改定では積立金の残高の算定方法を以前のものに戻す一方、その均衡数値の影響を3分の1にする緩和均衡数値を用いることとされております。下の(*2)で、結局、本来の均衡数値の3分の1に影響を減ずるということがありまして、これが2017年に初めて用いられております。下の表では、均衡数値と年金額の改定率を時系列でお示ししております。

 次の14ページを御覧ください。今度はドイツの持続可能係数についてでございます。

 その前に、ちょっと先の話で恐縮ですが、29ページにドイツの年金制度について御説明しておりますので、御覧ください。

 上から4つ目の●のところで、年金額の算定方法がございます。ここでは、年金額では3つのファクターを掛けることになっておりまして、個人報酬点数、年金種別係数と年金現在価値というところで、この年金現在価値は個人報酬点数1点当たりの単価に相当するものです。これはつまり、平均的な賃金に基づいて保険料を納めた方の年金の単価といった意味合いになりまして、これを調整することで年金額の調整を図っているのがドイツの仕組みでございます。

 済みません。14ページにお戻りいただきまして、その算定式は、ある年の年金現在価値は前年度の現在価値から賃金上昇率と可処分所得変化率と、それから、持続可能係数という、これを用いております。ここではRQということで、右側の囲みに書いてございますが、右側の括弧で入れておりますけれども、年金受給者数と保険料納付者数の比率でございます。これが上がると、その分だけ伸びが抑えられるということで、その数字に対しまして、αというパラメーターを掛けて、一応、0.25ということで掛けております。これによって、この保険者構成の変化、年金受給者数と保険料納付者数の上昇分の一部を、年金額の調整で、それから、一部を保険料率の引き上げで調整する機能と言えようかと思います。

 次に「3.被用者年金制度の適用範囲の現状」についてでございます。

 16ページを御覧いただきたいと思います。

 若干、さっきのことの繰り返しになりますが、年金制度の適用範囲は、稼働収入のある方に課されるのが一般的でございます。諸外国では、かなり低い賃金水準のところから加入義務を課している制度設計が一般的であります。また近年、諸外国では、より多くの就労者が年金制度でカバーされるような改革を行う例があるということでございます。

 下の表で、各国の制度体系や対象者、適用条件などについて列記してございます。

 次に、17ページをおめくりいただきたいと思います。ドイツのミニジョブの取り組み、ミニジョブの動きを紹介してございます。

 ドイツでは、賃金収入が少ない方でも原則としては入っていただくということでございますが、一方で、労働者が加入していなくても事業主には通常よりは高い保険料率が賦課されております。

 具体的にどういうことかと申しますと、ドイツでは、週15時間未満の労働は僅少労働ということで扱われております。1999年以前では、そもそも、これは社会保険の加入義務が免除されておったわけでございますが、その後、このミニジョブがかなり増えてきたということで、保険料算定の基礎となる収入が減ってきているという問題も発生いたしまして、1999年、抑制策として、週15時間未満かつ報酬325ユーロ。これは当時のミニジョブの定義ですけれども、こういった方のこういった労働に対しては、労働者は免除しつつ、事業主に保険料負担を課することにいたしまして、かつ通常よりは高い保険料負担を課することにしたという動きがございます。

 このとき、労働者本人につきましては、一応、義務は免除して、任意加入が可能ということで、原則、免除で任意加入という仕組みだったのですが、2013年にこの原則を逆転させまして、こういうミニジョブの労働者の方も原則として年金制度を適用させる。ただし、選択によってならない、除外する、抜け出ることは可能という仕組みにされたということでございます。

 現在の状況が下の箱で(参考)ということで書いてございますが、現在、450ユーロ以下がミニジョブとして扱われておりまして、月額賃金が450ユーロ以下の方については、本人が3.7%、事業主が15%ということであります。通常ですと、括弧で書いてありますように、18.7%を本人と事業主で折半するのですけれども、この450ユーロ以下のミニジョブの方については、事業主のほうがかなり高い料率を負担することになっております。

 次の○は、本人が加入義務の免除を申請した場合でも、事業主には15%の保険料が課されるということでございます。

 その上、450~850ユーロの中間の方については、本人の保険料は軽減されて、事業主の保険料率は通常どおりの9.35%ということになっております。

これが現在のドイツのミニジョブの取り扱いでございます。

 次に「4.高齢期の就労と年金受給の在り方」についてでございます。

 19ページを御覧いただきたいと思います。先ほど最初のスライドでもありましたが、ジレンマの解決策の一つということで、各国では「就労期間の長期化」に取り組んでおります。

 この手段として、支給開始年齢の引き上げや、満額の年金を受給するために必要な拠出期間の延長などの取り組みがなされております。

 下の≪各国の支給開始年齢の動向≫ということで、各国の年齢引き上げの動きを概括してございます。

 次に、20ページを御覧いただきたいと思います。スウェーデンの受給年齢についてなどです。

 スウェーデンの年金制度は、済みません、31ページを御覧ください。31ページでスウェーデンの年金制度の概要がございます。

 式を見ていただいても、右の囲みでもいいのですが、結局、受給を開始するときの保険料と賃金上昇率に基づいて積み上げた年金権を、受給開始時点での平均余命で割るというのが大きな考え方になっております。

 また20ページに戻っていただきまして、そういうことですので、平均余命が延びれば、従前の世代の方に比べて年金水準が下がっていくという傾向があります。

 そこで、スウェーデンの年金財政報告書である「Orange Report」では、そういう寿命の延びによる低下分を補うために必要な退職年齢をレポートでコホートごとに示しているものがあります。

 左下のエリアをごらんいただきたいのですが「Orange Report 2016」から引用しているものでございます。生まれ年が1930年からありまして、65歳到達年、平均寿命、それから、年金水準維持に必要な退職年齢、受給期間とございます。例えば1930年生まれの方は65歳を基準にしますと、例えば1960年生まれの方を見ていただきますと、上から6番目でございますけれども、65歳時点での平均寿命が85年11カ月となっております。これが1930年生まれの方は82年5カ月ですので、3年6カ月ほど平均寿命が延びております。この分、年金額は従前、1930年生まれの方と比べて下がるわけですけれども、それを補うために必要な退職年齢ということで、1960年の欄を見ていただきますと、67歳6カ月でございます。つまり2年6カ月、退職をおくらせれば、1930年生まれの方と同水準の年金が受け取れるということをリポートで書いてございます。

 その中で、大まかに申し上げまして、年金水準維持のためには、平均寿命の延びのうち、3分の2を就労期間の延長、3分の1が年金受給期間に充てられるというのが大体の概算だということが「Orange Report」でも言及されております。

 21ページでございます。スウェーデンの受給開始年齢の推移であります。

 スウェーデンの所得比例年金の支給開始年齢は、61歳以降で受給者がみずから選択できるということになっております。保証年金は65歳からです。

 現実に、どのように平均受給開始年齢が推移しているかと申しますと、64歳強、65歳手前でほぼ変わっていないといった推移が見てとれます。

 これがどういったことになっているのかということをあらわしているのが、次の22ページを御覧ください。「スウェーデンにおける出生年別の受給開始年齢(61~75歳)の分布」でございます。

 これを見ていただきますと、大体、65歳でもらっている方がだんだん率として落ちていって、その前後、61~64歳で受け取っている方、一方で、66~68歳で受け取っている方が、大まかに申し上げて、両側に広がっているという傾向が見てとれようかと思います。61歳以降で自由に選択できるということが徐々に浸透してきているのかなという気もいたしますが、分布としてはこういったことになっているということで御紹介を申し上げました。

 次に、23ページを御覧ください。フランスの取り組みでございます。

 済みません。30ページを、またフランスの制度を御説明したいと思います。

 上から4つ目の「●老齢年金額の算定方法」でございますが、平均賃金年額と給付率と、それから、最後に拠出期間を満額拠出期間で割った数字を掛けております。この満額拠出期間について、徐々に延ばしている取り組みが行われているということであります。

 また23ページに戻っていただきまして、その満額拠出期間の延長が順次実施されております。1993年では37.5年でございましたが、徐々に延長されておりまして、現在決まっているところでは、2035年までに43年に延ばすということが決まっております。

 なお、2003年改革の中で、その時点における満額拠出期間と平均受給期間、年金を受け取る期間との比率が大体2対1なのですが、この2対1の比率でやっていきましょうということで、これを2020年までは維持するという方針が法律に明記されているところでございます。

 最後に「5.諸外国における公的年金財政等の状況」でございます。

 25ページを御覧いただきたいと思います。諸外国の制度で、財政方式、積立水準、財政見通し期間、それの見直しの間隔、給付と負担の調整の仕組み等々につきまして、一覧でお示ししておりますので、御覧いただきたいと思います。

 駆け足で恐縮ですが、私からの説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

○神野部会長

 どうもありがとうございました。

 諸外国の年金制度について、非常に総体的かつ課題別に立体的に御説明を頂戴したところでございます。

 それでは、委員の皆様方から、これに基づいて御議論を頂戴したいと思いますので、御質問、御意見をどうぞ。

 権丈委員、どうぞ。

○権丈委員

 権丈です。2点ほどです。

 資料1の2ページ、3ページ、4ページというのは2013年5月の社会保障制度改革国民会議の場で初めて出される資料で、この2ページは世界の公的年金が現在抱えている年金パラドックスをうまく表現しております。

 しかし、これは授業で使えないんですね。その理由は「給付の十分性」と「制度の持続可能性」を両立させるために、①の「就労期間の長期化」が書いてあるところまでは良いのですけれども、その下の矢印の先に「支給開始年齢の引上げ」と書いてある。確かに英文ではStatutory Pension agesとかPension Eligibility agesと書いてあるので、誤訳ではありません。しかし、資料1の2ページに相当する箇所を2011年版のEditorialに書いたディレクターのマーチンさんがちょっと遠慮してくれればよかったのにというのがあるのですが、2013年版になるとスカルペッタさんにかわって、ここは全体的にretirement ages、pension agesと書くことになります。

 そうなってきて、2013年版の翻訳のほうでは、これは2015年に出るのですけれども、そこでは受給開始年齢と訳しています。これは何の問題もない訳でして「給付の十分性」と「制度の持続可能性」の矛盾を止揚するといいますか、アウフヘーベンする方法としては、引退年齢の引き上げと受給開始年齢の引き上げで結構十分なところがあります。ですから、ちょっとお願いなのですが、ここの資料は将来的には「支給開始年齢の引上げ」と「受給開始年齢の引上げ」を併記するか、あるいは両方にもPension ageは使えますので、どちらかというと、この支給開始年齢は外して、「保険料拠出期間の延長」という括弧の中に入っているものを表に出していただくと、私どもも使いやすくなりますので、御検討いただければと思っております。

 次に、資料1の3ページ、4ページのところなのですが、その前に本日は、この2つのページに関して、私が書いた記事の配付を許していただきまして、神野部会長にお礼を申し上げたいと思います。

 この資料の配布を私がお願いしましたのは、先週年金局からの説明を聞きまして、本日の私からの説明時間を節約するためです。これがあるゆえに2分間ぐらい節約できますので、後で読んでいただければと思います。決して私のほうからの陳情ではありませんので、よろしくお願いいたします。

 まず、3ページ、4ページのところの、初出は先ほども言いました2013年5月の社会保障制度改革国民会議の場でした。当時の大臣官房審議官だった蒲原さんが「ニコラス・バーさんと言いまして」とさらりと、3ページの下の「年金財政問題の解決策」のところだけを説明されていたので、今日もそういう感じかなと思って、この資料を提出させていただきました。けれども、先ほど国際年金課長から丁寧な説明がありましたので、私のこの資料は要らなくてもよかったのではないかと思っているのですが、このスライドの意味は結構大きくて、公的年金保険の歴史を理解する上では極めて重要ですので、若干触れさせていただきます。

 ニコラス・バーさんは、彼らは積立方式も少子化の影響を受けるのだから、積立方式と賦課方式の違いを誇張するべきではないということを1970年代から言っていました。残念ながら、この国では過去の研究とかをサーベイすることもなく議論に参加したがる素人の人が大学の中にも数多くいまして、そうした素人論議は、ここが難しいのですけれども、コペルニクスが出てくる前には天動説を万人が信じていたように、積立方式は少子化の影響を受けないという話は普通にぼーっと生きている人たちの圧倒的な支持を得るんですね。だから、積立方式は少子化の影響を受けないということが非常に公的年金への、そして現実には賦課方式であるということが公的年金への不信感を高めていきました。

 そうした不信感がピークを迎えていたのが2012年から2013年で、その2013年5月に社会保障制度改革国民会議でこの3ページ目の「Output is central」ということが政府サイドから官邸で発表されたという意味は極めて大きかったわけです。

 それで「Output is central」という考え方の意義は、私の配付資料のほうに書いておりますので、配布資料②と③、「大切なことは金銭ではなく生産物が重要」であるとか、「積立方式でも少子化は影響を受ける」というメッセージの意味を後で読んでいただければ良いと思っております。

 私の配付資料の⑦のところで、資料1の3ページの下の囲みの図に関係する文章が入っています。

 ニコラス・バーは、年金財政の改善策は4つだけであって、1つ目に平均年金月額の引き下げ、2つ目に年金月額が一定のままでの支給開始年齢の引き上げ、3つ目に保険料の引き上げ、4つ目に国内生産物の増大というふうに言っております。

 日本は2004年の改正で、この3つ目の保険料の引き上げを選択肢から外して、1つ目というものを自動化しています。その結果、この2番目は、訳のほうでは支給開始年齢の引き上げというふうに書いてあるのですけれども、ニコラス・バーが書いた英語ではLater retirement at the same monthly pensionという形で、年金月額が同額のままでの引退年齢の引き上げです。そういうものを選択肢に入れる必要がなくなったというのがこの国の特徴で、本日の1ページ目にあったように「給付の十分性」を確保するために受給開始年齢の引き上げとか被保険者期間の延長とかを、そして、それを支えていく定年延長を図っていこうという段階にあることが、この2013年の国民会議の報告書以降、一気に広まっていくことになっております。

 それがどのぐらいのインパクトかというのは、日本経済新聞が私に原稿を頼むというぐらいインパクトが大きかったということになっておりますので、本日提出された資料の初めの数ページはこれから先も何度もみんなで繰り返し見ていくことが大事だと思っております。

 どうもありがとうございました。

○神野部会長

 関連してですか。

○出口委員

 はい。

○神野部会長

 出口委員、どうぞ。

○出口委員

 済みません。今のお話に関連してなのですけれども、やはりどんな年金制度改革を行うにしても、市民の支持とか市民の理解を得ることが不可欠だと思うのです。でも、私もたまたま、このニコラス・バーさんの4枚のペーパーを見て目からうろこが落ちた経験があって、この4枚のページに年金問題の本質はほぼ言い尽くされているように私は感じたのです。

 でも、何が問題かといえば、こういうグローバルでは当たり前のことが日本の市民の世論やメディアの論調と食い違っていることが多分、年金の制度改革を難しくしている主因だと思うのです。だから、逆にこれからの年金の制度改革を行うためには、こういうグローバルでは当たり前の議論を厚労省の皆様はもっとPRしていただいて、市民とかメディアとか学校教育で、これが普通なのだということをみんなが理解して初めて年金の制度改革ができるような気がするので、そこの点がものすごく大事だと思います。

 もう一点、この2ページに「このジレンマから抜け出す解決策」は3つあるというのは、私は1点留意が必要だと思っていて、この2ページの表を見て、それから、例えばこの6ページの表などを見れば多分、普通の人は、では、日本でも私的年金等をもっと奨励したら年金制度はよくなるのではないかという短絡的な発想をしがちだと思うのです。

 ここに決定的な違いがあるのは、例えば今日の資料でいえば32ページを見ていただきたいのですが、この一番下に出生率の比較があります。その2つ上に高齢化率の比較がありますけれども、要するに、この2ページに書いてある3つの解決策の中で私的年金等というものは、実は金利や経済成長に大きく影響を受けるのです。これは72のルール(72÷金利≒元本が倍になる年数)を引くまでもないのですけれども、日本のようにほかの先進国と比べても超低金利で、しかも財政がぐちゃぐちゃですから、多分、金利を上げられないという前提の中では、極論すれば実は私的年金はつくれないのです。人間が知恵を絞っても、そんなに大したものはつくれないということが数学的にも挙証できるのです。

 だから、日本の場合は財政がぐちゃぐちゃで、出生率も低く、高齢化率も進んでいる中で、しかも先進地域の中で、ここ25年を見ても、アメリカは3%成長、EUは2%成長、日本は1%成長ですので、成長も一番低い中では私的年金にはあまり期待ができないということをはっきりと市民の皆さんにわかってもらわないと、変な私的年金ができて、何かトラブルが起こるだけということにもなりかねないので、やはりニコラス・バーも言っているように、いい政府。いい政府というのは、私は財政再建をやる政府だと思っていますけれども、いい政府と経済成長がない中で、この3つが解決策ということを安易に打ち出すことはやはり市民の間に誤解を与えるので、その点はきちんと留意してPRをやっていただきたいと思います。

 以上、2点です。

○神野部会長

 ありがとうございました。

 ちょっと待ってください。お二方とも適切な御意見を頂戴したのですが、権丈委員の第1の点、御指摘になった点についてコメントをいただいたわけですが、後ほど検討していただければと思いますけれども、今の時点で何かコメントがあれば。

 いいですか。

 では、後で検討していただくということにさせていただければと思います。

 どうぞ。御遠慮なく御発言ください。

○牧原委員

 先ほどの御意見で、やはり公的年金としては今回の説明があったとおりなのですけれども、私的年金の重要性を否定すべきではないし、公的年金で全てが解決できることはあり得ないということも事実だと思います。ですから、公助・共助・自助のバランスというものは持続可能な年金制度を考える上ではバランスのとれた議論が必要だと思います。

 以上、意見です。

○神野部会長

 ありがとうございます。

 済みません。駒村委員、お待たせしました。

○駒村委員

 今、御説明していただいた資料1の2ページの解決策で、これは極めて重要な、普遍的な解決策であろうと思います。

 就労期間の長期化。2番目が、これは年金のみならずということだと思うのですけれども、老後所得保障制度の充実。3つ目は、私的年金のカバー。私的年金は、別に国内で運用するだけではなくてもいいわけでありまして、グローバルで運用すればいいわけでありますので、国内経済だけの影響うけるわけではないと思います。あるいは今の若い世代が投資期間が長いということを考えれば、それにふさわしい、まだ30年、40年運用できる世代が若い世代にいるわけですから、そういう世代が今後、マクロ経済スライドで一番ダメージを受ける世代でありますので、そういうことを織り込んで事前の準備をしていただく必要はあるのだろうと思います。

 この3つの解は、それぞれ別々に議論すべきではなくて、相互補完的に議論していく必要があるのではないかと思います。この①の「就労期間の長期化」ということは、先ほどのスウェーデンの受給開始年齢が2つに割れていってしまうことが一体、背景に何があるのか。多分、保証年金が理由ではないと思うのです。保証年金は65歳からですから、別に保証年金があるから早くもらっている人がふえているわけではないと思いますので、この辺は考えていかなければいけないのですけれども、職業や健康状態によっては平均寿命が延びていっても、それについていけない、就労期間を一緒に延ばすことができない人も出てくるわけです。だから、そういう部分にも目配りした老後所得保障制度を同時に考えておかなければいけないので、①と②の問題は、連携して、1セットとして考えていかなければいけないと思います。

 それから、これは③の問題にもかかわるわけでありますけれども、私的年金のカバレッジが今、どうなっているのかという点でありますが、これは少し厚労省側に、実行のカバレッジはどうなっているのか確認したい。私的年金、個人年金、企業年金の、ダブルカウントの人も、複数の入っている人もいるわけですね。延べで何人かというよりは、ダブルカウントも本当は調整できるのか、どうなのかということなのですが、世代別にどういう状態になっているのか。

 特にこれから心配されるのが、非正規労働者が、特に団塊ジュニア世代が多いわけですけれども、この世代は今後、高齢になっていくときに、こういう私的年金部分の準備がちゃんとできているのか、どうなのか。この辺も含めて、もし現状を把握されていたら、データをいただきたいなと思います。

 以上です。

○神野部会長

 今の御要請については、いずれ、何かの機会にということで。

 事務局、どうぞ。

○企業年金・個人年金課長

 今、私的年金のカバーについて御指摘がありました。企業年金・個人年金課長でございます。

 まず、今回、OECDの「Pensions at a Glance」の資料を御覧いただいていますので、このOECDの報告書で計上している日本の私的年金制度というものはどうなのかという、その中身とカバー率を御紹介しますと、厚生年金基金や確定給付企業年金、また、企業型確定拠出年金等という、いわゆる日本の企業年金制度と個人型確定拠出年金というものがあります。あと、国民年金基金という個人年金制度がありますが、加えて企業の退職金や民間の個人年金保険等も含めて、このOECDの報告書では計上しておりまして、そういうものも含めますとカバー率は、重複を排除しまして50.8%となっております。

 ただ、今、退職金などを申しましたが、そういう一時金的な退職金とか民間の個人年金保険を除きますと、いわゆる年金局で施策を講じているような日本の企業年金制度等に加入しているもので見ますと約23.9%。これも重複排除して計上しております。これは全20歳以上65歳未満で見ていますが、サラリーマンである厚生年金被保険者に限りますと、それに占める企業年金などに入っている方の割合は38.2%、4割弱となっております。

 以上です。

 

○神野部会長

 ありがとうございます。

 とりあえずはいいですか。

 そうしましたら、まず山本委員、お願いいたします。

○山本委員

 お時間をいただきまして、ありがとうございます。

 今の御報告に対する私の理解が行き届かない点をお話ししたいと思っております。資料1の6ページで、皆様からの御指摘もあるのでございますが、これからの年金が今後100年間で均衡を保つという、非常に長期的なスパンで見られているときに、「所得代替率は一般的には50%を維持すると国民は理解しているのではないか。」かように思うわけです。6ページの表におきますと、この括弧内の四角の中の注意書きを見ると、これには基礎年金の部分はカウントされておらず、横軸の純粋なる義務的加入年金だけの所得代替率の横軸比較ということで、世界的に見て位置づけがどうかという理解はできるわけです。

 同時に一般的な世間でのと言いますか、国民的な理解において、50%以上の所得代替率を維持していくことが前提になっている今の長期的な年金制度改革という、この視点からしたとき、全く完璧に同じ条件で諸外国の数字がここに並べられるかわかりませんけれども、一般の人は恐らく所得代替率50%という数字を頭に思い浮かべるのではないかと思います。

 こういう理解を前提に、この34.6%というところで横軸比較から見れば、我が国の水準はまずまず中位を保っていると拝見できます。では、50%というのは一体どういう位置づけにあるのかというところが、実際の生活者から見れば、そこの部分の数字の横軸比較というものも実は大変必要な数字かなと思われますので、条件を揃えてこれは別表、あるいは参考資料という点でもよろしいかと存じますけれども、そういうことをある程度明らかにしていただけるとマスコミの関連の方もそういうことの説明書きもつけ加えていくことができ、今の年金の所得代替率が一体、世界的にどうなっているのかということの認識の一致が恐らくできるのではないかということで、意見も含めて申しあげます。

 以上です。

○神野部会長

 これについて、何かコメントがあれば。難しいですか。

 どうぞ。

○国際年金課長

 とりあえず、ここでやっておりますのは、注にも書いてございますように、結局、単身で働いた方の年金でやっておるわけでございます。一方で、御案内のように、日本の所得代替率、日本の財政検証で用いている所得代替率は一応モデル世帯ということで、配偶者の方も含めた年金水準で見ているわけなので、こういったOECDでやったような比較ができるかどうかは何とも言えないのですが、何ができるか、考えてみたいと思いますが、なかなか難しいかなと思っております。

○神野部会長

 ありがとうございます。

 それでは、小野委員、どうぞ。

○小野委員

 ありがとうございます。

 2点ですが、1つは10ページで御指摘いただいている3点のうちの2つ目です。国際比較を見ますと、被用者に限った場合に日本の年金制度というものは被用者保険制度への適用のハードルが非常に高いということになるのだろうと思います。結果として、被用者に適用される労使の社会保険料の納付義務の違いが労働市場にゆがみを与えている可能性があるということは留意すべきだと思います。これが第1点です。

 2点目はスウェーデンの件ですが、たまたまスウェーデンのフォローをさせていただいている関係でちょっと御指摘申し上げますと、最近、改革が決定したと伺っております。1つは受給開始の下限年齢の引き上げです。それから、保証年金の開始年齢の引き上げです。

 さらに、スウェーデンでは実質的な定年年齢というものが67歳というふうに理解しているのですが、この引き上げが決定しているそうで、順次、制度化されていくのではないかと思っております。この引き上げの意味はそれぞれ違うと思うのですけれども、共通認識として持たないといけないのは、スウェーデンの年金制度における、こういった年齢の変更は財政中立的であるということになりますので、これは財政のためにやっているわけではないという話になると思います。

 結果的に、ニコラス・バー先生が言っている4つの解決策のうちの4つ目に相当する国民総生産の引き上げは、回り回っていけば就労期間の延長という話になってくるという風に考えますと、そちらのほうへの政策目標があるのではないかと、私なりに理解しております。

 以上です。

○神野部会長

 ありがとうございます。

 それでは、菊池委員、どうぞ。

○菊池委員

 簡単に1点のみ述べさせていただきます。

 諸外国の制度から参考になる、あるいは学ぶべきことは少なくないわけですけれども、その際に、当然のことですが、留意すべき点としては、日本の制度は2階建てになっている。国民年金・基礎年金の上に厚生年金が乗っかっているという、それで今日御紹介いただいた諸外国とは異なった枠組みになっているということで、今後、この個別の論点について議論していく上で、今の小野委員の第1点目の御指摘とも若干関係するかとは思いますけれども、制度の枠組み自体にかかわる議論なのか、それとも、そうではない、今の基礎年金の仕組みを維持した上での改革案なのかというのを自覚的に意識した議論をしていく必要があるのではないか。とりわけ、被用者年金の適用拡大などにかかわる議論だと思いますが、それを1点、あらかじめ指摘しておきたいと思います。

 以上です。

○神野部会長

 ありがとうございます。

 平川委員、どうぞ。

○平川委員

 資料の2ページ目で、この年金パラドックスの関係については、基本的にはこういう考え方なのだろうなと思いつつも、③の「若者や低所得者層に対する私的年金のカバー率の向上」。これは重要ではあるのですけれども、一方でカバー率の向上のために何をすればいいのかというところで少し課題があるのかなと思っておりまして、その辺、どういう課題があるのかということで厚生労働省にお聞きしたいと思います。

 また、この日本の年金制度は社会保険という形でずっとやってきておりまして、それは共助という形でやってきていますけれども、やはり制度への信頼性というところが一つの大きな特徴ということがあるかと思います。制度の信頼性の向上には実務が伴うことが重要です。例えば国民年金の徴収率が徴収体制の大きな変化によって一気に下がったという歴史もありましたし、そういう課題もあるのかなと思っています。そういった意味で、4ページのIMFの資料の中でニコラス・バーさんが言っている、実務が大切ですという趣旨が書いてあるところも重要です。

 ただ、質問なのですけれども、日本の場合、被用者保険の徴収率は相当高いわけでありますが、外国の場合、保険の徴収率はどういう形になっているのか。多分、それが制度への信頼性にも裏打ちされると思いますが、それがどうなっているのかというのが2つ目の質問としてお聞きしたいと思っています。

 いずれにしても、制度への信頼性をどうやって高めていくかということも含めて考えていく必要があるかと思います。

 以上です。

○神野部会長

 保険の徴収率でよろしいですか。

○平川委員

 そうです。若者や低所得者に対する私的年金のカバー率の向上なのですけれども、これがどういう課題があるかというふうにお考えなのかが1つ。2つ目には外国の年金における徴収率はどうなっているかということです。

○神野部会長

 若者や低所得者に対する私的年金のカバー率の向上について、今の時点でありますか。

○企業年金・個人年金課長

 若者や低所得者に対する私的年金ということでございますけれども、1つ例ではありますが、私的年金を充実しようということで、2年前に確定拠出年金法を改正し、選択肢を拡大する改正を種々行いました。

 例えばですけれども、個人型確定拠出年金は対象者が限られていたわけですが、企業年金のあるサラリーマンとか、3号被保険者を含めて対象を拡大することで誰でも加入できるようにしたということで、低額から始められる制度でございますので、無理なく資産形成を持続できるようにということなども取り組んでおりますし、企業年金制度全体、中小企業も含めて幅広く実施していただけるような新たな、中小企業向けの特別な制度なども講じており、なるべく多くの企業、多くの対象者に利用していけるように、選択肢の拡大を進めているところでございます。

○神野部会長

 いいですか。

 徴収率は今、何かコメントをいただくことはございますか。年金制度そのものだけではなくて、さまざまな徴収、公的な負担の徴収そのものにもかかわってくるので。

○国際年金課長

 数字そのものはお示しできないので、ちょっと調べなければいけないのですけれども、御案内かと思いますが、例えば保険料は、諸外国ではアメリカなどですとSocial Security Taxということで、保険料は税金と同じ形で取っていたりしてある国もあったりします。

 そういった国ですと、恐らくかなり徴収率は高いのだろうなということを推測はいたしますけれども、数字としてどういったものがあるのかとはお時間をいただいて調べたいと思います。済みません。

○神野部会長

 よろしいですか。いいですか。

 どうぞ。

○平川委員

 諸外国の制度の比較はよく見るのですけれども、実態としてどういう形で運営されているかという実務がよく見えないところはありますので。

○神野部会長

 それはかなり、一応、もしもあれでしたら、例えばフランスだと鬼のURSSAFがやりますから。

○平川委員

 穴だらけの実施体制だと幾ら立派な制度をつくってもしようがないので、もし今後わかればお願いします。

○神野部会長

 今後の宿題にさせていただいていいですか。

○平川委員

 はい。今後でいいです。

○神野部会長

 しかるべき時期に、必要なときに。

 どうぞ。

○大臣官房審議官(年金担当)

 済みません。調べられることは次回以降で何か機会があればと思います。

 1点補足させていただきますと、多分、委員は厚生年金というより国民年金のほうについての納付率を念頭に御質問だったのかなと思っておるのですが、32ページの表にありますように、諸外国のかなりの国の年金制度では無業者とか自営業者は適用対象外にしているところでございまして、日本の場合はそこも全て取り込んで、無所得の方も免除という形で取り込む努力をしている国民皆年金制度をとっております。

 ですから、恐らく、可能であれば、ちゃんと数字があればいいと思うのですけれども、被用者のほうの徴収率とは、それについては、どこの国もそれほど大きな違いはないのではないかと考えているのですが、この国民年金というものに相当する、比較するものが各国には必ずしもないものですから、一概にそこについて徴収率をベースに議論するのは難しいということを御理解いただければと思います。

○神野部会長 いいですか。

 米澤委員、どうぞ。

○米澤委員

 いろいろ各国比較のデータ等を出していただきまして、非常に勉強になります。

 25ページの表と、それから、後ろのほうの32ページにあるわけですけれども、32ページのほうの表を見ますと、高齢化率とか出生率というものは、言われなくても日本の年金というものは非常に厳しいことがよくわかるかと思いますが、他方、25ページのほうの表を見させていただきますと、今回わかったのですけれども、財政の見通しの期間などは日本が一番長い。「概ね」となっていますが、非常に長いということ。それから、積立水準がほかの国に比べて比較的高いほうにあるということでもって、そういう点から見ると、非常にもっと安心していいのではないだろうかということを改めて感じました。この点がもう少し広く伝わるといいのかなと思っています。

 他方、財政見通しの作成の間隔が毎年となっている国が半数ぐらいある中に、日本のほうでは5年に1回というふうになっていますので、今後、この点を少し、大変でしょうけれども、検討する余地があるのかなということだと思います。ただ、これは措置をやってもあまり意味がないかと思いますので、私、前から言っているのですけれども、毎年行っています数理部会の報告みたいなものがもう少しうまく皆様方のほうに伝われば、これが補完的な役割をされるということだと思いますので、そういうものを含めて、割と形式的な点に関しては日本の年金制度は捨てたものではないなという感じを受けました。

 感想ですけれども、以上でございます。

○神野部会長

 ありがとうございます。

 ほかは、御質問はいかがでございましょうか。

 どうぞ。

○永井委員

 ありがとうございます。

 10ページの「諸外国と比較した我が国の年金制度の特徴」で1つ質問させていただきたいと思います。2つ目の【被用者の年金制度への適用】で、下の「労働時間が短い者については被用者性が認められず、適用除外となる」と書いてあるところについて、少し確認をさせていただきます。

 パートタイム労働者に被用者性、つまり労働者性が認められないという、この記載は少し言い過ぎといいますか、こういうことがずっと書かれてきたのか、わからないのですけれども、少し乱暴なのかなと思っております。一昨年の10月以降、労働時間だけではなく、賃金水準、雇用期間など、5つの条件で適用除外対象を定めているはずであります。その法改正時に労働時間ないし5要件を満たさない者には被用者性が認められないという説明がされていたのかどうか、確認したいと思っております。

 まさに働き方改革関連法で、事業者に対しても不合理な格差を認めないとする一方で、年金制度ではこうした格差を合理的とするということであれば、そこは非常に違和感が大きいと感じております。

 よろしくお願いいたします。

○神野部会長

 どうぞ。

○年金課長

 年金課長でございます。

 御質問に対しましては、確かに少し私どもの書きぶりが言葉足らずだったところがあるかもしれないと思っております。御案内のように、厚生年金保険法上の適用に当たってのあくまで被用者性ということでございますので、委員がおっしゃっているような、もっと広い意味での、被用者性ということではございません。年金部会で年金の枠組みで見ているものですから、厚生年金保険法を前提にしたような書きぶりになってしまった点は御容赦いただければと思います。

 その上で、おっしゃっていただいているように、501人以上企業に対する短時間労働者は適用拡大しておりますので、日本でも、先ほどのドイツほどということではございませんけれども、そういった動きは出ておりますし、また、さらなる適用拡大を議論していかなければいけないということは第1回でも御報告したとおりでございますので、そういった範疇の中での被用者性、厚生年金保険への適用のスタンダードとしての、あくまで法律上の概念としての被用者性ということでございますので、そのように補足説明させていただければと思います。

○神野部会長

 よろしいですか。

○永井委員

 ありがとうございます。今後広く議論されることを想定して、言葉遣いといいますか、考えていただければと思っております。

○神野部会長

 阿部委員、どうぞ。

○阿部委員

 ありがとうございます。

 今回の諸外国の年金制度の比較をする際に、あまり言及されていない点があるのは、労働市場の状況が各国で結構違うということではないかと思うのです。今回、スウェーデンの事例が結構説明されましたけれども、スウェーデンは就労者に占める公務員の割合が大体50%近くあるのだろうと思うのです。日本は10%ぐらいですので、定年年齢を引き上げるとかというのは労働市場全体に結構伝わりやすいようなメカニズムがあるのかもしれませんが、日本の場合は民間が主体ですので、定年年齢の引き上げといっても、民間企業がどのように対応していくかという問題もあるかと思います。

 それと同時に、特に先ほど団塊ジュニアの世代の非正規雇用の問題が言及されていたと思いますけれども、就労期間の延長が逆に若年労働へ影響する可能性もなきにしもあらずで、労働市場ではよく置きかえ効果と言われているところでございまして、そうした就労期間が延びて、高齢者雇用が増える。一方で、若年就業に負の影響があるということになると、長期的に年金制度がどうなるかというものをまた別の視点から見ていく必要もあるのではないかと思いますので、そのあたりも少し念頭に留意しながら議論をしていく必要があるのではないかと思った次第です。

 以上でございます。

○神野部会長

 ありがとうございます。

 では、どうぞ。

○山田委員

 私も労働市場との関係でコメントを2つさせていただきたいのです。

 1つは、最初にかなり議論になっていました3ページのところなのですけれども、やはり日本の今、労働市場が直面している問題とは人口減少かつ高齢化が進んでいるということで、この4つの解決策のうちでも、それぞれ大切だと思うのですが、やはり大前提になってくるのは国民総生産の増大といいますか、その維持が極めて重要であると思います。そういう面でいいますと、やはりどういう風に労働力を確保していくかが重要で、端的に言いますと、シニアの就労をどう促進していくかというのは極めて重要になってくるのだと思います。

 いろいろ計量分析なんかをすると、いろんな要因で決まってくるのですけれども、支給開始年齢というのですか、これもやはり実はかなり相関が強いということがあります。これは単純に、法的に今の65歳をどんどんずらしていくのかということについては、またその間には幾つかの議論があると思います。

 ただ、在老とか、いろんなものを含めながら、かつ先ほど阿部委員の御指摘にもありましたように、若い人との代替関係、あるいはそれ以外のさまざまなファクターもあると思うのですけれども、ただ、やはりシニア就労を進めていくのはかなり根本的な大きなファクターになってくるのではないかということで、その視点でも今後、その制度を議論していくことは極めて重要である。これが1点です。

 もう一点は、今回あまり御指摘がなかったのですけれども、今、直ちにということではなくて、将来的に恐らく重要になってくるであろうということだと思うのですけれども、労働市場の中で今、世界的に起こっている変化というものは、新しい自営業が増えているということです。いわゆるフリーランスの人たちです。

 端的に言いますと、Uberで働く人たちのような形なわけですけれども、これは本来の意味での労働者であれば普通に、日本の制度でいうと、もちろん、年収の年限とかはありますが、基本的には被用者保険に統合していくということでしょうけれども、例えばアメリカの議論の中では、完全な自営業といわゆる典型的な被用者の中間形態のようなものを考えていって、年金を初めとした社会保険の適用をどう考えていくかという議論などが始まっていると思います。

 それから、ドイツなどでもこういう議論も出てきているということですので、直ちにということではないのですが、中長期的にはやはり、この問題は大きくなっていきますので、しっかりウォッチをしていくことが重要ではないか。

 この2点、御指摘させていただきます。

○神野部会長

 ありがとうございます。

 それでは、諸星委員、どうぞ。

○諸星委員

 先ほどから、今日は諸外国の実情についてのご説明で、非常に参考になったということは本当に思いました。ただ、先ほど菊池委員もおっしゃっていたように、やはり日本は2階建て年金であるということ。そこを基本として議論をしなければいけない。

 また、平川委員も先ほどおっしゃっていたように徴収率もありますが、納付率も気になります。日本では社会保険料を納付するとき、被用者は給料から引かれますが、納付義務者は事業主にあります。そうすると、事業主がそもそも保険料を納めなければどうしようもないとも考えます。財政にも影響があると思いますので、今後議論をする上では、やはり私は現場で滞納事業者が増えているということもお聞きしていますし、滞納事業者が増えるということは、入ってくるものが入ってこないことになります。

 ただ、本人たちは、年金は将来もらえるという権利は確保されているわけですから、そうなると、滞納事業者がふえていってしまうと、将来の年金財政に多少なりとも影響があるのではないかということを常々言っておりましたので、そのあたりの資料を今後議論する上ではいただきたいということが1点あります。

 もう一つ、先ほど企業年金ですか。私的年金のお話がありましたけれども、正直な話、中小企業の中ではそれほど、まだ広く広がっていないのが本音で、実態だと思います。私どもが関与する企業さんに私的年金のお話をしても、まずは社会保険料を払うのが先であって、そこまでの余裕がない。あるいは本人たちが加入をしていたとしても、事業所では退職金すら払っていないところも実際あります。

 広報をこれから強めるというお話がありましたけれども、その部分も私的年金加入率がどうなのかとか、あるいはそれが実態でどうなのかとかという、私たちが議論する上で、先ほどの部分とこの部分についてのデータをいただければ助かります。その2点をお願いしたいと思います。

 以上です。

○神野部会長

 では、出口委員、どうぞ。

○出口委員

 済みません。ちょっと関連してですけれども、労働市場の話を考えるときに、シニアと、あるいは若年という枠組みは一回取り払って考えたほうが多分合理的だと思うのですが、これだけの高齢化社会を前提にしているわけですから、シニア対若年という考えではなく、例えば75歳ぐらいまでは普通に、健康であれば働けるという大枠の中で、年齢フリーで考える。

 だから、若者対高齢者という枠組みを変えて、実は年齢を見なくて、意欲・能力・体力だけで考えるという枠組みを議論していかないとあまり生産的にならない気がするのです。グーグルは確か、人事部のデータから国籍・年齢・性別、全部捨てていますね。顔写真も捨てたと聞きました。今、何をやっているのか。過去のキャリアがどうか。将来、何をやりたいかだけで実は労働マーケットを考えていく。そこまで民間企業も進んできているわけですから、もういいかげんに高齢者対若者という図式を離れて議論したほうがはるかに生産的だと思うのが1点。

 それから、Uberのような例が出ましたけれども、これはあるアメリカ人と議論をしていたら、日本の2階建て年金は、実はこれからの世代にうまくアジャストできるのではないか。つまり、被用者と自営業者という枠組みを考えたときに、日本は既に受け皿があるので、先に進んでいるのではないかという意見を聞いて、そういう見方もあるのだなと思いましたけれども、そこは自信を持っていいところかもしれないと思いました。

○神野部会長

 どうぞ。

○権丈委員

 2点とも関連ですけれども、ヨーロッパとか幾つかの先進国が若者の失業率がものすごく高いということで、高齢者を早期引退させて、そして若者に雇用をという方向を長くやってきたけれども、どうも、全然うまくいかない。負担ばかりふえてしまったわけです。ですから、社会的な雇用量、労働需要をある程度一定と考えたそういう政策で本当にうまくいくのかというのがあって、そこら辺は大きく反省して、みんな高齢者も社会参加してもらって、そして元気に活力ある社会全体をつくっていくことによって、雇用の問題を解決していこうという方向に大きく転換していったというのもやはり考えるベースにあっていいのではないかとも思っております。

 もう一つ、この国のことで2階建て年金が特徴だからという話がありましたので、それに関連しての資料で、本日の資料の17ページをごらんください。「ドイツの僅少労働(ミニジョブ)」というものが書いてあります。

 「ドイツの僅少労働(ミニジョブ)」と関連すると私は考えているのですけれども、自民党政調のほうに人生100年本部というものがありまして、その人生100年本部がこの5月にまとめた報告書「これまでの取りまとめ」の中に「勤労者皆社会保険制度(仮称)」という言葉があります。勤労者皆社会保険制度というものは、「いかなる雇用形態であっても企業で働く方は全員、社会保険に加入できるようにして、充実した社会保険を受けられる」ようにしようではないかと言って、なおかつ、ここで「その際、所得の低い勤労者の保険料は免除・軽減しつつも、事業主負担は維持すること等で、企業が事業主負担を回避するために生じる『見えない壁』を壊しつつ、社会保険の中で助け合いを強化する」という表現が使われています。

 この制度は、この国には基礎年金があるために2階建て制度になっているということと整合性を持ちます。ただし、ドイツのほうは、ミニジョブのところの境界領域を下げてくるという話がありますが、この国ではそれを下げる必要はない。1階部分の基礎年金の保険料拠出との整合性を持たせながら、このミニジョブの形態を使いつつ、整合性を持たせていく。「見えない壁」というのは、企業側がこれ以上働かせたくない、労働者が厚生年金に入ると保険料負担が増えるから、その手前までしか働かせたくないという、労働者側ではなく企業側が意識している「壁」で、そうした見えない壁を壊していこうというようなことを自民党政調の人生100年本部の中でも議論されている。

 これは今日の資料の17ページのドイツの僅少労働の応用編だと考えていいと思います。2階建ての制度と整合する形で、今、政治のほうが少し、そこら辺のところを意識して動いているということは私たちも理解しておいていいのではないかなと思っております。

○神野部会長

 ありがとうございました。

 ほかはいかがでしょうか。

 特にないようでしたら、どうもありがとうございました。さまざまな御議論を頂戴して、検討といいますか、宿題のような形でいただいている問題についても、今後、私といいますか、この部会を運営していく上でもって、調べていただくのは調べていただいて、必要な限りにおいて、私のほうで運営のところの中で反映をさせていくということで御紹介させていただければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

 次の議題がございますので、第1の議題につきましては、この辺で引き上げさせていただきまして、次の議題の(2)です。これについて、事務局から資料に基づいて御説明いただければと思います。

 よろしくお願いします。

○年金課長

 年金課長でございます。私から資料2「年金額の改定ルールとマクロ経済スライドについて」の御説明をしたいと思います。

 1ページを御覧ください。「年金額の改定(スライド)の基本的な考え方」です。

 公的年金は、あらかじめ予測できない長期間の経済社会の変動や国民生活水準の向上に対応するために設けられている社会保険制度となります。その時々の経済状況の中で実質的な価値を維持した年金を保障することが求められていると言えます。

 この価値の維持を何に求めるかですけれども、保険料収入が賃金に連動していることを踏まえまして、過去においては賃金再評価や政策改定、政策改定は基礎年金のほうでございますが、そういう形で賃金の上昇を勘案した年金額の改定を財政再計算時に実施する一方で、財政再計算と次の財政再計算の間は物価スライドにより、物価に準拠した実質価値の維持を図ることとしておりました。

 この賃金の動向に準拠した年金額を改定するという考え方を原則といたしまして、少子高齢化が急速に進展していく中で、将来世代の負担を過大なものとしないよう、改定のルールに一定の調整措置を講じてきております。具体的には、平成6年(1994年)に、年金保険料率の上昇分を調整して賃金再評価を行う可処分所得スライドを導入し、平成12年(2000年)に、一度裁定された後の既裁定年金の改定は物価スライドのみとすることとし、平成16年(2004年)には、固定した保険料の中で長期的な給付と負担の均衡を図るために、賃金再評価や物価スライドに対して一定の調整を講じる仕組みであるマクロ経済スライドの導入をしております。

 以上のような年金額改定のルールの変更を歴史的に見たものを2ページにまとめておりますので、これは後ほど御覧いただければと思います。

 3ページをお願いいたします。厚生年金保険制度、国民年金制度の保険料収入段階と給付段階のそれぞれで賃金の変動がどのように反映されているのかを整理したものになります。

 保険料収入段階では、厚生年金保険では現役の賃金そのものとして、国民年金では保険料を賃金の変動で伸ばしていくことによりまして、それぞれ賃金の動向が保険料に反映される形になっております。

 他方で給付段階に参りますと、国民年金では平成16年改正で固定いたしました基礎年金の水準に、賃金の動向を反映させたものを新規裁定時にお支払いすることを原則としております。そして、一度裁定して、既裁定年金となった場合には、物価で改定していくことになります。

 また、厚生年金の場合には、年金額の計算方法の中に賃金の動向を反映させる要素が既に入っております。これは平均標準報酬を計算する際に、過去の報酬を現在の相当する報酬の価値に再評価をすることにより行われております。既裁定となった後は物価による改定のみが行われます。

 以上のような仕組みを通じまして、新規裁定時には賃金の動向に合わせた実質価値の実現、既裁定以降は物価の動向に合わせた実質価値の実現を図っております。このような年金額改定のルールに、さらにその外側から年金額の調整を行うのが平成16年改正により導入されたマクロ経済スライド調整ということになります。

 4ページを御覧ください。こちらは厚生年金における再評価がどういうコンセプトで行われているかを御理解いただくための概念図となります。

 例えば左端、昭和52年、今から約40年前の賃金を再評価する際は約2倍にして平均標準報酬を計算することとしております。この再評価率は毎年、前年の賃金の動向に合わせて改定していくということになっております。

 5ページを御覧ください。平成12年改正で導入しました既裁定年金に対しては物価スライドのみで改定するというルールが、対賃金との関係でどういう効果を持つのかをあらわした概念図になります。

 この図の斜め上がりの点線は、賃金の動向に合わせて改定していった場合のラインになります。平成12年改正以後は対物価での実質価値は維持されますが、賃金のほうが物価より高く推移していくという通常の経済関係を前提としますと、対賃金では図の赤線で囲った青の上下矢印の分だけ、時間が経つにつれ徐々に差が広がってまいります。その分だけ給付を抑える効果がもたらされているということになります。

 この既裁定物価スライド制度は、高齢期の消費が年齢を重ねるごとに緩やかに低下していくことなどを勘案しつつ、対物価の実質価値は維持した上で、年金受給者の給付と現役世代の負担のバランス、年金財政の健全性の維持のために導入された措置となっております。

 また、次に御説明しますように、このような物価のみの改定による対賃金での価値の緩やかな低下を永遠に続けるわけではございませんで、一定水準以下には下げないようにする下支え措置も同時に導入されております。

 6ページを御覧ください。これまで御説明しました既裁定物価スライド制度をベースとしつつ、マクロ経済スライド調整がさらに加わった結果として、どのように将来の年金額が推移していく見込みとなっているのかを平成26年財政検証結果によって確認してみたいと思います。

 この表は、生年度別に給付水準の推移を示したものとなります。表の各ボックスの上段は、2014年度価格にそろえた年金額であり、将来の年金額を物価で割り戻したものになります。中段の枠で囲ってあるようなものは、現役男子の手取り賃金に対する年金額の比率となっております。左端は、上から下に行くほど将来の世代になるように並べてあります。赤い斜めのラインですけれども、こちらがそれぞれの世代が65歳で新規裁定される時点をあらわしております。

 年金額を御覧いただいてわかりますように、年金額が上昇していく一方で、いわゆる所得代替率につきましては緩やかに低下していくのが御覧いただけます。これがマクロ経済スライドによる調整の結果となります。

 他方、マクロ経済スライド調整終了後は、どの世代におきましても上段の年金額の水準が維持されることになっております。これを例えば左側の1979年、下から2段目の欄にございます、横の青い点線のラインで御確認いただければと思います。

 また、通常想定される経済前提ですと、物価上昇率よりも賃金上昇率のほうが高いため、先ほど申しましたボックスの中段にあります賃金に対する年金額の比率は、先ほど申し上げました平成12年改正の効果によりまして徐々に低下していくことになります。なお、マクロ経済スライド調整期間中は、その調整効果もさらに加わっていることになります。

 しかしながら、既裁定者の年金水準が新規裁定者の年金水準の2割以上は乖離しないようにするという、いわゆる8割ルールが平成12年の法改正の際に定められておりますために、この低下も新規裁定者の8割を下回る水準になることはありません。これが下支え措置となっております。

 この点を、上段で言いますと、平成56年度、2044年度の太い赤枠線の部分で確認しておきたいと思います。1979年度生まれのベースで見たときに、1954年生まれの方は8割を下回らないような水準で下げ止めにする形になっております。

 このような形で、現役世代の負担を過剰にしない、また、将来世代によりよい年金を残していくために、年金受給世代にも一定程度の我慢をしていただくということを行っておりまして、給付と負担のバランスをとりつつ、年金の実質価値を維持するための改定ルール上のさまざまな工夫が現在の年金制度には織り込まれているということになります。

 7ページを御覧ください。

 平成16年改正で保険料を固定しまして、将来にわたり年金財政に入る総収入も固定されております結果、現在世代と将来世代との間で、この収入の範囲内で年金を分け合っていく制度に日本の公的年金保険制度は大きく転換されているということになります。

 マクロ経済スライドは、この多世代で給付をどう分け合っていくか。その分配ルールであるという側面があることを確認しておきたいと思います。

 8ページを御覧ください。こちらはマクロ経済スライドの概念をあらわした図となります。

 右側のほうですが、人口構成が変動しまして、支える側の減少と支えられる側の平均余命の延びが進む現在の日本の置かれている状況のもとでは、この人口要素を年金給付の調整でバランスをとろうとしますのがマクロ経済スライドとなります。このように賃金の上昇から人口要素の分を引いて新規裁定をしていくことになります。

 また、同じルールで既裁定の年金についても物価スライドから人口要素の分を引いて改定するという形になっております。

 9ページを御覧ください。マクロ経済スライドの意義やルール、影響をまとめたものになります。

 2つ目の欄のところでございますけれども、具体的な調整率につきましては、平均余命の延びの要素としてマイナス0.3%。こちらのほうは法定化されております。それから、公的年金被保険者減少率を掛けるわけですが、こちらは実績値を使うことにしております。近年、高齢者雇用の進展によりまして、調整率にこの部分が与える影響は小さくなってきております。

 マクロ経済スライドの発動にあたりましては、前年度の年金の名目額を下回らないようにする名目下限措置が設けられておりまして、物価・賃金変動率がいずれもプラスの場合のみマクロ経済スライドが発動されることになっております。

 10ページを御覧ください。こちらは平成24年の社会保障・税一体改革大綱におきまして、年金額改定やマクロ経済スライドについて、どういう課題設定がされていたかについてのものです。

 世代間公平の確保及び年金財政の安定化の観点から、下線の部分になりますが、デフレ経済下におけるマクロ経済スライドのあり方について見直しを検討するというふうにされてございました。

 11ページを御覧ください。今、申し上げました課題設定を受けまして、年金部会で議論が行われました。平成27年1月21日「社会保障審議会年金部会における議論の整理」として取りまとめられております。ここでは、マクロ経済スライドにおける名目下限措置のあり方という論点に関して示された主な意見について御紹介申し上げたいと思います。

 1つ目には、将来世代の給付水準を確保する観点からは、マクロ経済スライドによる調整が極力先送りされないように工夫することが重要という御意見。2つ目でございますけれども、そういった御意見がございました。

 3つ目ですが、基礎年金部分はマクロ経済スライドの対象から外すべきではないかとの御意見もありました。

 4つ目ですが、確かにマクロ経済スライドの実施を徹底することにより、影響を受ける年金受給者もいるが、そのような者については、他の低所得者向けの制度で対応することとし、年金制度自身はシンプルにしていくべきという御意見もございました。

 その下ですけれども、物価変動が賃金変動を上回る場合の賃金に連動して改定する考え方の徹底とあわせて発動される場合の影響の大きさも見極めるべきとの御意見もございました。それから、基礎年金水準が低下する問題に対応するため、基礎年金部分に対して、調整期間短縮のための制度的な対応が必要ではないかとの御意見もございました。

 大別しますと、将来世代の給付確保のためにマクロ経済スライドの名目下限を撤廃して、フルに適用すべきではないかという御意見の方向性と、現状でも特に将来の基礎年金の低下が心配されるため、むしろ基礎年金の水準を向上させるためにはマクロ経済スライドの調整期間を短くしたり、かけないことにしてはどうかという御意見と、双方向の御意見があったように思います。

 12ページを御覧ください。

 平成27年12月8日に本年金部会に示されました議論の整理で示された検討の方向性におきましては「3.年金額改定(スライド)の在り方」につきまして、将来世代の給付水準を確保することが必要との基本認識のもと、物価が賃金を上回るような場合に賃金変動に合わせる考え方を徹底することと、マクロ経済スライドによる調整が極力先送りされないよう工夫することが重要との方向性が示され、後者に関しましては改革案に盛り込まれました、いわゆるキャリーオーバー制度の提案がなされまして、御議論をいただいたという形になってございます。

 13ページを御覧ください。

 その後、行われました年金制度改革では、上段にありますように、キャリーオーバー制度が導入されておりまして、この4月から施行がされております。

 また、下段にあります賃金に合わせた年金額改定の徹底は、平成33年度から施行されることになっております。

 続きまして「経済基調がマクロ経済スライドと年金財政・年金額に与える影響」をまとめましたので、御説明申し上げます。

 15ページを御覧ください。

 公的年金保険制度は、収入面、支出面ともに、多くの要素は賃金に連動し、自動的にバランスする仕組みとなっておりますけれども、運用利回りと既裁定年金の改定だけが賃金に連動しておりません。これからの御説明の中では、この既裁定年金の改定と賃金との関係、賃金上昇率と物価上昇率との関係に着目していきたいと思います。

 16ページを御覧ください。

 物価の変動と賃金の動向を比較した場合に、賃金が物価を上回ったのは平成17年度が最後でございまして、平成18年度から13年間連続して賃金が物価を下回る状況が続いております。

 17ページを御覧ください。

 この図では、先ほども御説明いたしましたが、マクロ経済スライドが発動できるのは、物価、賃金ともにプラスの経済状況の場合であるということを確認しておきたいと思います。マイナスのようなケースですと、一番下のような図になります。

 18ページを御覧ください。

 平成28年度以降は物価、賃金ともに、御覧のようにプラスの状況にならなかったために、マクロ経済スライドが発動されておりません。

 平成26年度、平成27年度は物価、賃金ともにプラスではございましたけれども、マクロ経済スライドが発動できたのは平成27年度だけとなっております。これはいわゆる特例水準を解消できたのが平成27年度であるためで、それ以前は左端の(C)欄にございますように、その解消に精いっぱいで、マクロ経済スライドの発動までに至らなかったということになっております。

 なお、年金額改定のルールにより、実際に採用された年金額改定率は赤枠で囲った数値となっておりまして、原則低い方という形になっておりますけれども、物価がプラスで、賃金がマイナスのときには0.0%改定という形になってございます。

 19ページを御覧ください。平成12年度から平成14年度までの3カ年度にマイナスの物価スライドを実施しなかったことによって生じた特例水準が、その後のデフレ経済下で維持され続けた様子が御覧いただけると思います。

 この特例水準はマクロ経済スライドが発動できない一要因となっておりまして、結果として年金水準を相対的に高い位置にとどめることになりました。この特例水準は平成25年度から平成27年度の3カ年で解消することができました。従いまして、今後は物価、賃金ともにプラスの経済状況となってくればマクロ経済スライドが発動できるということになります。

 20ページを御覧ください。これまでの経済状況の影響による年金額の相対的な上昇、あるいはマクロ経済スライドが発動できなかったことによりまして、将来世代の年金にどのような影響がもたらされたのか、特にマクロ経済スライドの調整期間決定ルール上でどういう影響が起きたかを説明するための図となっております。

 国民年金、厚生年金に共通して支給されます基礎年金ですけれども、その支給のための財源は国民年金、厚生年金の双方からそれぞれの被保険者数に同額の基礎年金拠出金単価を掛けて算出されます基礎年金拠出金を、基礎年金勘定に繰り入れることで賄っております。

 厚生年金の場合、右の図のように、基礎年金に加え報酬比例年金があるため、この上下1・2階の間で財源調整を行いながら財政運営が行えることになります。

 他方、左側の国民年金には基礎年金しかないために、基礎年金拠出金を拠出することにより生ずる支出面と、収入面が1対1でバランスしなければなりません。このように、いわば蛇口が1つしかない国民年金の収支バランスを先に決定しなければならないために、基礎年金水準が第1段階として、国民年金のスライド調整期間とともに決定されることになっております。

 言葉を変えますと、基礎年金は国民年金、厚生年金、双方に共通に支払われる年金であり、かつ厚生年金にとっては所得再分配機能を担う大事な定額給付の役割を担っているわけではございますけれども、その水準は国民年金の財政に規律されているということになります。

 下の表を御覧ください。2回の財政検証ごとに所得代替率で見ました基礎年金の水準は徐々に低下し、相反して厚生年金の報酬比例部分の所得代替率は徐々に上昇していることが見てとれます。この間の経済基調が国民年金により厳しくマイナスの影響を与えたということがここからも確認できると思います。

 21ページを御覧ください。以上のことを別の角度から見てみたいと思います。

 一番上の図にございますように、デフレが足元の年金の所得代替率を上げ、また、マクロ経済スライドが発動できなかったことと相まって、国民年金のマクロ経済スライド調整期間の延長と将来の基礎年金の所得代替率の低下をもたらしたことを説明するための図となっております。

 基礎年金の代替率が上昇したメカニズムは、次のようになります。所得代替率の計算上の分母である賃金が低下するのにあわせて、分子である年金が同じ程度引き下げられれば所得代替率は変化せず、一定のままとなりますけれども、実際には特例水準の解消に時間がかかりましたり、賃金を反映したマイナス改定が徹底できなかったりしたために所得代替率が上昇することとなりました。

 厚生年金の場合には、新規裁定するときに賃金を再評価しますので、比較的、このような事態は生じないようになっているのに対しまして、定額給付であり、前年度の年金額をベースに繰り返し計算していきます基礎年金は、この間のデフレの影響をダイレクトに受けた形になっております。

 なお、マクロ経済スライドが未発動という影響は、厚生年金、国民年金ともに等しく受けている形になっております。

 22ページを御覧ください。こちらの図は今の世代にこのような経路を通じまして、相対的に高い年金を支払いました結果、将来世代の年金額の低下をもたらしてしまうという構造を説明する図となります。

 想定したとおりには年金額調整が進まずに、今、相対的に多めに年金額を支払った①を、同額の将来世代の年金額の②分を低下させることで、長期的に調整させているという形になっております。

 23ページを御覧ください。今年度の年金額改定の結果です。

 平成33年度からの賃金徹底前になりますので、改定率は0.0%となっております。他方、キャリーオーバー制度はこの4月から施行されましたので、一番下にございますように、マイナス0.3%がキャリーオーバーされております。早速、前回改定の効果があらわれているとも言えます。このキャリーオーバー制度が期待どおりの効果を発揮すれば、スライド調整期間がこれまでのように延びていく事態は相当程度防げると考えております。

 24ページを御覧ください。

 この④、⑤のパターンのときに賃金による改定が徹底できなかったことが、21ページの先ほどの図でいえば基礎年金の所得代替率が上昇しました大きな要因でございます。そのことが20ページのルールのもとで将来の基礎年金水準を悪化させる要因となっております。

 ただし、平成33年度からは賃金改定が徹底されますので、年金額改定のルールを理由として所得代替率が上昇することが今後は生じないということになります。

 25ページは今まで御説明したものを1枚の図で説明したものになりますので、後ほど御参照いただければと思います。

 26ページを御覧ください。平成28年改正による年金額改定のルールの見直しが所得代替率にどのような影響を与えるかのイメージをあらわした図となります。

 名目賃金上昇率がマイナスで、かつ名目賃金上昇率が物価上昇率よりも低い場合は、上の矢印が入っている式ですけれども、改正前、左側の式にございますように、分母は賃金に応じてかなり下がっている一方、分子は上の赤ですけれども、賃金ほどには低下しない、あるいは0.0%改定のような場合は横ばいになりますので、結果として左のブルーの矢印が上がっていますように、所得代替率が上昇するという構図になっておりました。

 しかしながら、改正後の右になりますと、分母、分子ともに賃金に応じて低下するために、所得代替率は左の緑のように変化しないという形になります。

 その結果ですけれども、下の図にございますように、改正前ですと経済状況によっては、この黒い実線のような動きをするわけであり、賃金上昇率がマイナスで、物価上昇率よりも賃金上昇率が低い場所では代替率が上昇することになりますけれども、改正後の赤い実線ですと、そこが横へのスライドだけになりますので、相対的に所得代替率の上昇が抑えられるということになります。

 そういたしますと、改正前では足元で所得代替率が上昇してしまった分、将来世代の給付水準が低下いたしますけれども、改正後には足元の所得代替率が上昇しない分だけ、改正前と比べて将来世代の給付水準の上昇を図ることができることになります。

 27ページを御覧ください。マクロ経済スライドのキャリーオーバーの仕組みが所得代替率にどのような影響を与えるのかのイメージ図となります。

 一番左下にあります青枠のにょろにょろとしているものが景気変動のイメージになります。波線の斜線、下のプールみたいなものがマクロ経済スライドをかけたい範囲になりますが、赤斜線の分だけマクロ経済スライドがかけ切れなくてキャリーオーバーするという形になります。

 このキャリーオーバーの導入後は、今度は景気がよくなったときに、未調整分を取り返す形になります。したがいまして、上の図で申し上げますと、赤い実線の分だけ改正前より、むしろ調整が厳しくされる形になりますので、そこで未調整分を取り返しまして、その後も赤線のような動きになります。

 それで、未調整分が解消した後、すなわち、黒い点線と赤い点線が交差している部分以降は通常のマクロ経済スライドの調整率でしっかり調整できていく形になりますので、早期にマクロ経済スライドが調整されまして、将来世代分の給付水準の上昇につながるという形になっております。

 最後に、28ページを御覧ください。物価・賃金の変動に応じてマクロ経済スライドの調整がどのように行われるかの総括的なイメージ図になります。

 一番上が景気変動をあらわしてみたものでして、上段がキャリーオーバーの導入前、平成30年度前という形になります。

 なお、最下段は御参考としまして、平成26年財政検証のオプションⅠの前提となりましたマクロ経済スライドのフル発動のケースをお示ししております。

 私からの説明は以上となります。

○神野部会長 どうもありがとうございました。

 年金額の改定ルールとマクロ経済スライドについて、確認の意味を込めて御説明いただいたところでございますが、委員の皆様方から御質問があればどうぞ。

 どうぞ。

○牧原委員

 資料の27ページにありますとおり、将来世代の給付水準の上昇という意味でキャリーオーバーの仕組みが入ったことは非常に私どもとしても評価をしています。

 ただ、保険料は固定されているわけで、やはり将来世代のことを考えると、名目下限というものは今あるわけなのですけれども、これについてどうあるべきかということも、我々も率直に考えるべきではないかと思っています。

 今回の財政再検証の中でも、シナリオ以上に財政がうまくいっているという状況もありますし、2004年から2014年で所得代替率がここまで上がっているということは、現在の世代がちょっと将来に対してもらい過ぎている部分もあるわけで、調整期間を短縮する意味でも、名目下限のありようもぜひ議論していくべきではないかと思います。

 以上です。

○神野部会長

 どうもありがとうございました。

 ほかはいかがでございましょうか。

 権丈委員、どうぞ。

○権丈委員

 関連してですけれども、資料の26ページを御覧ください。現在の給付水準、昨日の朝日新聞の記事「年金ようかん」にもありましたが、要するに1本のようかんをどう世代間で分けていくかというふうに2004年以降、年金問題というものは変わっていくわけですが、その現在の給付水準を下げていく一つの理由にマクロ経済スライドもあり、そして、平成26年のときに賃金徹底が組み込まれて、効果的には同じ方向、同じベクトルでやっていくわけですけれども、この平成26年改革時に民進党が賃金徹底で、この26ページを見ると相当効果は大きいのですけれども、この年金カット法案というキャンペーンを張っておりました。

 これに対して、伺いたいのですけれども、支持基盤である労働組合がどういう議論をしていたのかというのを平川委員に教えていただければと思うのですが、これは当時、一体どういうふうに皆さんは議論されていたのか。

○神野部会長

 お答えするのであればで結構です。

 どうぞ。

○平川委員

 連合は、マクロ経済スライドの調整によって、国民年金しかもらっていない方、もしくは厚生年金の期間が非常に短い方に対しての給付水準が相当低くなるという問題意識を持っています。国会においては、年金制度だけではなくて、高齢期の全体の所得保障などとどう対応していくべきなのかという問題意識を持って議論していたと聞いております。ですから、参議院厚生労働委員会において高齢期の低所得・低年金者の所得保障をどうしていくのかというのは検討すべきだという形で附帯決議の中に入っていたのではないかなと思っています。

 当たったのでついでに言いますと、連合は常に基礎年金のマクロ経済スライドについては、やはり給付水準は相当低くなるので、完全にマクロ経済スライドを適用するのはどうなのかということで問題意識を持ってきているところであります。それは、今、言ったように、本当に高齢期の生活保障を、国としてどう確保できるのかどうなのか。それは年金制度の中でそれをどうしていくのか、もしくは全体の社会保障制度の中でほかの制度との関係性をどうしていくかという総合的な検討で議論すべき問題ではないかなと思っています。

 特に20ページ目で、2階部分は代替率が上がり、基礎年金がマイナス2.4%ということで、相当下がるという形の現実もありますので、これはこれからの課題でありますけれども、現実に基礎年金分は大幅に下がってしまうという問題に対して、どうしていくのか。ただ、制度的にはこれらをどういう風に解決していくのかという総合的な議論が必要ではないかと思います。

 以上です。

○神野部会長

 ありがとうございます。

 どうぞ。

○権丈委員

 支持基盤である連合は、年金カット法案というものは支持していなかったという理解でよろしいでしょうか。

○平川委員

 我々は年金カット法案という言葉は使っていないということです。

○権丈委員

 わかりました。

○神野部会長

 駒村委員、どうぞ。

○駒村委員

 マクロ経済スライドは財政の持続可能性を高める一個の重要な方法であるわけで、2000年改革以降、財政の持続可能性を高めるためにいろいろな政策が行われてきた。ただ、当然ながら、先ほどの議論にありましたように、給付の十分性、特に基礎年金においては給付の十分性には配慮していかなければいけない。こういうところも同時に見ていかなければいけないと思います。

 先ほど事務局が2000年改正のときの既裁定年金の部分で、物価スライドのみにした理由について説明されました。ここも非常に大きい改革だったのです。既裁定部分は物価スライドのみにした。そのときに事務局は、高齢者の消費はそれほど多くないので、物価スライドだけで十分だという説明だったと思いますけれども、これはそういう説明が従来から、そして、何かデータ上の確認をされた上でのそういう説明であったのか。ここら辺を確認させてください。

 といいますのも、これから先、基礎年金の実質給付水準の話に踏み込んでいくことになると思うのですけれども、そもそも所得保障制度のインデックスを何にリンクさせるのかというのは割と重要な政策であろうと思うのです。これは所得保障政策の目標やその性格によっても違う。例えば、生活保護のほうは消費水準あるいは受給者の消費バスケットにリンケージするような議論を継続的に続けている。まだ残った問題になっているわけですけれども、基礎年金、報酬比例年金、それぞれ何に本来、この既裁定後はスライドさせるべきなのか。

 これは2000年改革のスライドの変更、私も別にこれは批判しているわけでも何でもなくて、一つの政策判断であったと評価しているわけですが、国によっては既裁定後を物価と賃金の一定のウエートづけで、例えば五分五分であったり、7対3であったり、いろいろなウエートづけで調整している国もあるという状況の中で、既裁定後の物価スライド率というものは何でやるべきなのかということを実証的に見たことがあるのか。見て議論したのかというのが1つ。

 それに関連して、20%ルールというものはどういう根拠だったのか。なぜ20%乖離でとめなければいけないという判断をしたのか。この辺、2点確認させていただきたいと思います。

○神野部会長

 いいですか。物価スライドのみとした2000年改正の趣旨と、それから、20%ルールの根拠について、いいですか。

○年金課長

 御質問に対しましては、2000年、平成12年のときの議論ですので、そこを改めて、もしかしたら紐解かなければいけないのかもしれませんけれども、申し上げたかったのは、平成12年改革以来物価との関係での購買力の維持を図るというのが大原則になっているということです。これはマクロ経済スライド調整とは別のルールとして導入されているということです。

 その上で、駒村委員がおっしゃっているのは賃金との相対関係ということだと思います。物価での購買力維持は平成12年の考え方では維持した上で、相対的に、いわゆる賃金が上がった分の改定分をどう考えるかということですけれども、それは既裁定の方には、基本は我慢していただく。ただし、65歳から年齢を重ねるごとに消費水準というものは一般的には下がってきていますので、ある一定程度まで下がる範囲では物価の維持だけでも大丈夫だろうと。

 他方で賃金の改定というものは、ある意味、経済成長みたいなものですから、それをいつまでも高齢者に年を重ねても反映させ続けないのも厳しすぎるということで、2割ぐらいまでの乖離は我慢していただきますけれども、それ以上の乖離はさせずに、それ以後は賃金に合わせて改定していくというのが2000年のときのルールという形になっています。なお、これまでの経済状況の中で、まだ一回も2割ルールの適用に至っていないことになります。

 それから、先ほどおっしゃっていましたインデックスとしては、別に物価だけではなくて、いろいろな組み合わせもあるだろうというのは議論としてはあり得ると思いますけれども、今、そこまで議論するほどの社会経済情勢といいますか、年金財政状況になっていないのは委員もよく御案内のとおりです。未来永劫、そういった議論がなされないということまで事務局から申し上げるようなつもりは全くございませんが、今、それを議論してみても、それ以前のマクロ経済スライド調整をどうするかという議論もまだしている段階では、そういう議論をするイメージまで持てるに至っていないというのが正直な現状となります。

○神野部会長

 出口委員、どうぞ。

○出口委員

 マクロ経済スライドの話になると、必ず基礎年金で低所得の高齢者が問題になるという議論が出るのですけれども、これは問題の設定の仕方が間違っている気がしていて、本当に困っている人は誰かといえば、多分、パートやアルバイト等で、本来、被用者年金でカバーすべき人が国民年金に追いやられているからの問題であって、これはマクロ経済スライドの問題ではないということを私はもう一回問い直さなければいけないと思うのです。

 本来的に基礎年金が自営業者のものであればそんなに困らないはずで、本当に基礎年金で困っている人がいるというのは、本来、適用拡大を怠っていたから、一番、被用者の中で弱い人が犠牲になっているからであって、これはマクロ経済スライドの問題ではないと私は思っていて、やはり議論の方向は、マクロ経済スライドは当然、フル発動で、本当に困っている人を救うのはマクロ経済スライドの下限の問題ではなく、適用拡大を徹底していないことが問題の本質なのだ。だから、この2つの問題を峻別して議論しないと変な議論になってしまうような気がしてならないので、そこは皆さんで、マクロ経済スライドはフル発動する。本当に困っている人は適用拡大で救っていくのだという方向を明らかにしないと、曖昧な議論になってしまう気がします。

○神野部会長

 では、もう時間が既に終わっているので、米澤委員と原委員に、あとはよろしいでしょうか。そこでちょっと。

○米澤委員

 それでは、ちょっと話をずらして恐縮なのですけれども、賃金上昇がプラスにならなかったということで、マクロ経済スライドの発動がおくれて、その分、年金財政の改善が遅れたというのですが、他方、世代間の調整の役割の一つとしては積立金ないしは運用があるわけで、そちらのほうに関しては、少なくとも結果としては賃金上昇率プラスアルファのところが貢献するわけですので、賃金上昇率が非常に低い、ないしはマイナスだったので、プラスが出たわけなので、そちらのほうは多分、結構貢献していたということなので、そこの点はやはり重要な点だと思います。

 先ほども言ったように、思ったほど年金財政が悪くなっていない。むしろ多少よくなっているというのはそういう点もあるのではないかと思いますので、その辺のところの少し数字を、わかりやすく貢献度を、前回お話ししていただいたのですけれども、要するにデフレ下でもって、どういう役割分担があったかというのは数字の上でも今後教えていただければと思っています。

 以上です。

○神野部会長

 ありがとうございます。

 原委員、どうぞ。

○原委員

 お時間がない中、済みません。

 いろいろとスライドなどの話が出てきましたけれども、平成28年度の改正によってキャリーオーバー制の導入は、入ったばかりですから、これから見ていかなければいけないということと、あとは平成33年4月からは賃金変動に合わせて改定する仕組みを徹底するということが決まっていますのでいろいろご意見があるかと思うのですが、改正としてはある程度、着々とは進んでいるのではないかと思っています。

 これから施行されていくものについて、チェックしていく必要はあると思うのですけれども、その中でもう一方の24ページと、26ページで、平成33年度の年金額の改定ルールが変更されるというところについてですが、24ページでいいますと、本年度は⑤だったのですけれども、これが平成33年4月以降は賃金変動に合わせて改定されるというルールに変わるのかと思います。これはもちろん、将来世代の給付の水準の上昇につながる改正です。26ページにも図が載っていますが、将来世代の給付水準を上昇させるということで、これは決定していることですから、施行に向けて、まだ時間がありますけれども、進めていくということだと思います。

 ただ、その時の状況によりますが、この改正は場合によってはインパクトになる可能性があるかもしれませんので、それまでにしっかりと正確にきちんと説明していくことがまずは重要だと思います。

 それから、この改正によって、年金の給付水準については、今年度であれば据え置きであったものが下がるということがあるかと思いますけれども、それを単に伝えるということではなく、将来世代のためにも仕方がないという考えを持った上で、では、それまでに、それに対してどういうことをしていくかということをさまざまな角度から考えていったほうがいいと思います。

 年金が減るというマイナスな面より、前向きな検討をしていくことが必要なのではないかと思っております。前向きな検討といっても、年金だけで考えるか、年金以外も含めて考えるかという両方あると思います。今、例えば考えられるとすれば、先ほどから出てきていますけれども、諸外国と比べたりしてもいろいろな事例が出てきますので、そういったことを参考にしながらかと思いますが、例えば、1つはやはり長く働くということをいろいろと推奨していくことです。それで、働きやすい環境をつくっていく。そういったことに対しては、それに伴って、例えばライフステージに応じた、計画的なキャリア形成とか人材開発とか、そういったことまで必要になってくると思います。

 あるいは2つ目としては、公的年金が減っていくというマイナスのイメージだけでなく、公的年金の額を増やす工夫をすること、そういう方法もあるということを発信していくことも必要かと思います。例えば繰り下げ制度ですとか、任意加入の制度ですとか、追納ですとか、あとはもちろん、厚生年金の適用ですとか。そういったことをもっと広く皆さんに発信していく。そのためには、例えば自分の年金の記録の確認なども必要になりますので、話が関連しますが、ねんきんネットをより見やすく、見込額シミュレーションをより使いやすく、わかりやすくするなど、そういったことも必要になってくるのではないかと思います。

 3つ目としては、やはり公的年金以外の年金を増やす工夫をすること、そういう情報を発信していくことも必要かと思います。先ほどから議論になっていますが、私はやはり公的年金と私的年金の組み合わせ、企業年金・個人年金あわせて老後の生活設計における所得確保をしていくことが今後は必要だと思っておりますので、自助努力の支援といったことなども含めて、年金額全体を増やしていく方策を考えていく。そのためには、例えばですが企業年金・個人年金の制度で拠出額や対象者など、まだまだ柔軟にしていくべきではないかという部分もございますので、そういったところも考えていくということも必要かと思います。

 それに関連して、最後ですけれども、資金計画とか将来生活設計など、そういうことを考える習慣づけも今後必要かと思います。ねんきんネットには見込額シミュレーションがありますが、例えば別バージョンとして、支出の見込額も入れて、その収支とか将来の貯蓄の残高の推移とか、そういうことを見られるようなものを工夫するなど、これはまたいろいろ大変かと思いますけれども、検討するなどした方がいいかと思います。あとは若い方に金融リテラシーの教育をやっていらっしゃるようですので、年金リテラシーの教育とともにそれらが連携した取り組みも考えられるのではないかと思います。そういう平成33年の、もしかすると、状況によってはインパクトが出てくるかもしれないと思われる改正に向けて前向きな検討をいろいろな角度、さまざまな分野から多方面的に行っていくことも必要かと思います。

 ちょっと話が長くなりました。以上です。

○神野部会長

 どうもありがとうございました。

 それでは、よろしいですか。

 山本委員、どうぞ。

○山本委員

 もう時間もないことはわかっておりまして、誠に恐縮いたしておりますけれども、今日は詳細かつ理論的に、非常に精緻な御説明をいただきまして、ありがとうございました。

 一般的に私が疑問といいますか、年金額の改定においては賃金水準や物価水準をもとにマクロ経済スライドの発動の有無について決めていくということですけれども、基本的には物価動向を基準とするということ。さらには、物価変動のほうが賃金変動より高い場合については賃金の変動に置きかえるという具合に、そのときの発動の基礎的なものの考え方になる部分が変化していくわけです。

 このことが私も含めて国民的な立場から物を見たときには、物価なのか、賃金なのか、どちらを基準にして今のマクロ経済スライドというものが発動されるのか、されないのかというあたりが極めてわかりにくいものですから、「要するに年金はうまくいっているのだ」というところを国民の方々に御理解いただいていかないと、将来不安をあおり、そのこと自体が最終的には消費の停滞ですとか、将来への不安感から消費が伸びないとか、そういうことにつながっていきます。

 この辺の理屈のようなものがもうちょっとわかりやすくなっていて、そして進捗状況が、今、どうなのかという説明がむしろ骨子として出てくるような、そこにはGPIF等、全体の運営に絡む問題かもしれません。「進捗状況的に言うと、予定よりはプラスでいっているのだ」というところを、国民の方々が理解できるようわかりやすく御説明いただけると、今の年金の改革が進んでいる状況に対するリライアビリティーが私は維持されると思います。いろんな詳細の議論を超え、今の進捗状況、全体がどうなのだというところのお話もぜひ含めて御説明いただくといいのかなという意見でございました。

 以上です。

○神野部会長

 それでは、まだまだ御議論があろうかと思いますが、済みません、私の不手際で、終了時間をオーバーいたしておりますので、この辺で打ち切らせていただきます。最後まで御熱心な御議論を頂戴したことを深く感謝申し上げると同時に、今後のこの会議の運営に生かしていきたいと考えております。

 それでは、事務局から連絡事項等々をお願いいたします。

○総務課長

 済みません。1点だけ御報告でございます。

 先ほどの御議論の中で、厚生年金の収納率についてお尋ねがございましたが、平成29年度で99%でございます。収納対策が重要だという御指摘のとおりで、経営状況の悪い事業主にとっても、分割払いなど、いろいろ御協力いただきまして、99%になっているということを、先ほど御報告できませんでしたので、御報告申し上げます。

 今後の日程でございますが、次回の議題や開催日程については、追って御連絡さしあげます。

○神野部会長

 それでは、これにて第3回「年金部会」を終了させていただきたいと思います。

 熱心な御討議を最後まで頂戴したことに深く感謝を申し上げる次第でございます。どうもありがとうございました。

 

団体