2013年11月27日 第17回社会保障審議会年金部会議事録
年金局
○日時
平成25年11月27日(水)14:00~16:00
○場所
厚生労働省17階 専用第18・19・20会議室
(東京都千代田区霞ヶ関1-2-2)
○出席者
神 野 直 彦 (部会長)
小 塩 隆 士 (委員)
柿 木 厚 司 (委員(代理出席))
菊 池 馨 実 (委員)
駒 村 康 平 (委員)
小 山 文 子 (委員)
出 口 治 明 (委員)
花 井 圭 子 (委員)
原 佳 奈 子 (委員)
藤 沢 久 美 (委員)
宮 本 礼 一 (委員)
諸 星 裕 美 (委員)
山 口 修 (委員)
山 本 たい 人 (委員)
吉 野 直 行 (委員)
米 澤 康 博 (委員)
○議題
(1)年金と経済について
(2)先進諸国の年金改革の動向について
○議事
○神野部会長 それでは、定刻でございますので、ただいまから第17回の年金部会を開催したいと存じます。
冬の扉があいて、にわかに寒さが増してまいりましたが、委員の皆様方には、大変お忙しいみぎり、御参集いただきましたことを深く感謝申し上げる次第でございます。
本日の委員の出欠状況でございますが、植田委員、柿木委員、小室委員、佐藤委員、武田委員、森戸委員から御欠席との御連絡をいただいております。また、吉野委員からは、少しおくれて御出席との御連絡を頂戴しておりますが、いずれ藤沢委員もおいでになるかと存じますので、部会のほうは開催させていただければと思います。
定足数でございます3分の1を超えておりますので、会議は成立していることを御報告申し上げたいと思います。
御欠席の委員の代理といたしまして、柿木委員の代理で、日本経済団体連合会から清家参考人が御出席いただけるとのことでございますので、清家参考人の御出席につき、部会の御了承をいただければと思います。よろしいでしょうか。
(「異議なし」と声あり)
○神野部会長 ありがとうございます。
それでは、御承認いただいたということにさせていただければと思います。
また、事務局の方々の出席者でございますが、お手元の座席表といいますか、座席図のとおりになってございます。紹介にかえさせていただきたいと思います。
それでは、議事に入ります前に資料の確認をさせていただきたいと思いますので、お手数でございますが、事務局のほうからよろしくお願いいたします。
○八神総務課長 事務局から資料の確認をさせていただきます。
本日は、資料1「年金と経済について」、資料2「先進諸国の年金改革の動向について」、参考資料「諸外国の制度概要・改革動向」を配付させていただいております。よろしく御確認をいただきたいと思います。
○神野部会長 どうもありがとうございました。
それでは、大変恐縮でございますが、カメラの方につきましてはここにて御退室いただきたいと思いますので、御協力をよろしくお願いいたします。
(報道関係者退室)
○神野部会長 それでは、議事に入らせていただきます。
お手元に議事次第が行っているかと思います。本日の議事は「年金と経済について」「先進諸国の年金改革の動向について」ということで2つの議題を準備させていただいております。これからの本格的な御議論を頂戴する前に事実認識等々を共有したいと思いまして設定した議題でございます。この2つの議題にかかわる資料1と資料2でございますが、事務局から続けて御説明いただければと思いますので、よろしくお願いいたします。
○度山年金課長 年金課長の度山です。
まず、資料1で「年金と経済について」という資料を準備させていただきました。これは、前回、年金から見て社会経済の各要素が年金制度にいかなる影響を与えるかということについてレポートさせていただいたわけでございますけれども、御議論の中で、年金だけで閉じた議論をするのではなく、経済とのかかわりにおいてというような御指摘もいただいたものですから、改めて、経済の中での年金制度、果たしている機能ですとか、特に経済成長との関係で論点となるトピックなどについて取りまとめましたので、御報告をさせていただきたいと思います。
ページをあけていただきまして、まず1ページ目、大きな経済活動の動きの中で年金というのはどういう形で整理できるかということでございます。労働と資本と生産物の3つの市場でいろいろやりとりをしながら経済活動が動いている中で、家計は労働を提供する、企業は資本市場から資本を調達し、この2つの相互作用によって付加価値が生まれる、生み出された付加価値は、一部は労働に分配され、一部は資本のほうに分配をされるということでございます。
労働に分配されたいわゆるSNA的に申し上げますと、雇用者報酬の中から保険料というものが一部徴収されて年金の原資になる。年金制度積立金も持っておりますので、これは資本として使われて、資本収益の中から運用収入を得ている。大きくはこの2つが年金の原資として、所得が移転され、引退期に入った家計のほうに給付をされる、引退期の家計はその年金の収入を消費に回すという形で動いていると説明できるかと思います。
この流れの中で、経済活動と年金制度、どういう接点を考えるかということですが、白抜きの字で4つほど書いてございます。取り出して2ページ目に「年金制度と各種経済活動」という形でまとめております。経済の中で年金制度が果たしている機能ということでは、主に高齢期、引退期に焦点を当ててみますと、安定した消費活動を全体として下支えをしている、あるいは引退期に貧困を防止するといった機能を果たしているということです。
それから、現役期から引退期トータルで考えると、長生きのリスクですとか、将来の不確実性に対応して、いわゆる消費の平準化、過剰貯蓄の防止と言いかえてもいいかもしれませんが、それを効率的に実現しているということが言えようかと思います。これは後ほどまた幾つかの資料で御説明したいと思います。
年金制度と経済諸活動との関係で言いますと、よく議論に上がりますのは、年金制度は稼働ができなくなったときにその所得を補填するという性格がございますので、どうしても労働と接点があるということで、特に労働インセンティブを阻害しない制度設計が必要だということは各面で言われてきてございます。
それから、いろいろ話題になりますけれども、年金積立金と特に経済成長との関係でも国際的にもいろいろ議論がされてきたところでございます。
これ以外にも幾つか切り口があろうかと思いますが、きょうのところはこの4つの切り口からレポートさせていただきたいと思います。
まず、安定した消費活動を下支えしているという点ですが、3ページ目でございます。棒グラフが2本立っておりますが、高いほうのグラフがGDP、低いほうのグラフが家計最終消費支出でございます。それから、折れ線グラフが2本立っておりますが、上のほうがいわゆる社会全体の高齢化率、下のほうは、公的年金受給総額と低いほうの棒グラフの家計最終消費支出の割合をとったものということでございます。社会全体が高齢化する中で、年金は生まれた付加価値を引退した世代に所得移転をしているということでございますけれども、この所得移転をするという機能の中で一定の消費が下支えされていると言えるのではないかと思います。
4ページ目です。日本全国マクロで見たのが今の数字ですが、特に高齢化の進行した地域を考えますと、既に高齢化率が30%に達しているような県も出てきております。そういう地域では、家計最終消費支出と比べますと2割強ぐらいの年金給付の規模になってきている。特に高齢化の進行した地域経済を大きく下支えしているということは言えるのではないかと思います。
5ページ目になります。個々の家庭をミクロで見てみますと、働いているときには働いたうちの中から消費をするということですが、当然、能力に応じて税金や保険料を納付していただくということですし、平均的に見ると、一部分は貯蓄をしておられるということでございます。保険料、あるいは税としていただいたものが、公的年金制度を通じて、引退した世代の社会保障の給付に充てられている。高齢の無職世帯の平均像を右側にお示ししておりますが、ごらんいただいてわかるように、構造的には赤字、収入より支出のほうが大きいということで、現役世代からの移転所得であります年金給付に加えまして、自分が現役期に蓄えた貯蓄を少しずつ取り崩して、それでバランスさせているというような状況にあるということでございます。
6ページ目です。ちょっとややこしいグラフが並んでございますが、いわゆる等価可処分所得ベースで見たジニ係数と貧困率の年次的な推移をとってございます。これは、所得分布ですとか格差貧困の問題を研究しているOECDのプロジェクトに日本国も参加しておりまして、国立社会保障・人口問題研究所の研究班が国民生活基礎調査のデータを使って各世代の等価可処分所得を出して、その率をOECDに報告している。この数字を引っ張ってきてございます。
これも棒グラフが2本立っておりますが、高いほうの棒グラフがいわゆる市場所得ベースといいますか、所得の第1次分配における格差、あるいは貧困の計算。濃いほう、低いほうのグラフは、税・社会保険の移転を込みに考えた分配でございます。ここでは年金給付は再分配の結果としてあらわれてきてございます。農業とか自営業のような年齢にかかわりなく働けるようなスタイルから、雇われ人が増加しているという産業構造の変化ですとか、昔ですと、働く世代と引退した世代が同じ世帯の中で暮らすということがあったわけですが、最近は高齢世代のみの世帯が増加しておるという家族形態の変化を受けまして、特に右側のグラフ、65歳を超えた世代においては、税・社会保障の分配前のいわゆる第1次分配における格差は大きくなってございますし、貧困も拡大傾向にあるということでございます。
ただ、税・社会保険による再分配の結果を見ますと、ジニ係数で見ても、貧困率で見ても、1980年代と比べても一定の水準にとどまっている。その分だけ貧困防止機能を年金制度が果たしていると言えるかと思います。貧困率は、全世代で見ると上がり気味で、高齢者で見ると下がり気味にありますが、これは年金制度の機能ももちろんですけれども、現役世代の所得低下というものも影響していると分析されているところです。
それから、2つ目の現役期から高齢期を通じて消費を平準化するという視点でございます。年金制度はもともと稼働所得の喪失に対する補填をしている仕組みで、稼働収入がなくなった後も生活水準が大きく変わってしまわないようにスムーズに引退生活に移行することを支援している。英語ではConsumption Smoothingと言われますが、こういうことを一つの大きな目的とした仕組みでございます。
8ページ目にいきます。仮に年金制度が存在しないとき同じことが可能かどうかに関しましては、いろいろなことが言われておりますが、1つは、自分の寿命はあらかじめ人は予測できない。いわゆる長生きのリスクが存在するということでございます。それから、現役期から高齢期までには一定の時間差がございますので、その期間に、実際問題、社会の変化としては、みんなが長生きになって寿命も不確実になっているということもございます。それから、その数十年の間にいろいろな予期できない経済変動もある。こういったリスクですとか不確実性の中で、個人だけではなかなか対応し切れない。皆さんが長生きをすることを予測して備えることになりますと、その分だけ現役期の消費を犠牲にすることになりますので、過剰な貯蓄が発生してしまう。人によってはリスクを過小に評価する人もいて、その方については必要な高齢期の消費よりも低い水準の積み立てしかできないとか、いろいろな予期できない変動の中で、ためてきたつもりでも結果的にはたまっていなかったとか、いろいろなことが起こるということが言われております。
今の図に関しましては9ページあります。いろいろな先生がいろいろなことをおっしゃっておられるのですが、何度か御紹介をさせていただきましたニコラス・バー先生のEconomics of the Welfare Stateの中の記述を参考に図示を試みてみた次第でございます。
今申し上げたようなことが社会の現実のデータとしてどのように出てきているかに関しまして、10ページ目でございます。これは、平成21年の経済白書の中で御紹介されているデータでございますけれども、現役世代のいろいろな年代の方に必要と思われる貯蓄額を聞いています。その中で、例えば将来が不安であるとか、特に年金制度についての不安を抱えた人が示している必要な貯蓄額というのは、そうでない者に比べて200万円程度多いという調査結果が紹介されています。
それから、現実の貯蓄額となるとデータの制約もあってなかなか難しいのですが、11ページは日本銀行の調査部の方が書かれたディスカッションペーパーですので、日銀の公式見解ではないということを前提に、30代の方の家計のミクロデータの分析です。年金制度に不安のある家計で、親と同居をしていない、あるいは親から経済的な援助を受けていない世帯に関しては、そうでない方に比べておおよそ150万から200万程度多く貯蓄をしている、保有額を持っているというような分析もされています。高齢期における消費の下支えは大事なのですけれども、一方で、将来に対する年金制度の不安もまた、年金制度の本来の目的であるところの消費の平準化を効率的にできなくなる一つの要因であります。このあたりのさじかげんを考えながら制度の運営をしていくことが大切だということが言えようかと思います。
3つ目の論点「労働インセンティブを阻害しない制度設計の要請」でございます。いろいろな局面が言われますが、一番よく言われるのが、いわゆる短時間労働者の適用の問題、あるいは被扶養者の扱いということで、年金制度上は第3号被保険者の扱いになってまいると思います。一般的に厚生年金が適用される場合ということで、平均的な賃金の20万円をベースに保険料負担がどうなるかを書きました。法律改正によって28年10月からは20時間以上の一定の要件を満たす方については適用拡大が図られますが、40時間の半分で20時間、給料も半分ということで、標準報酬に当てはめて9.8万円で実際に適用拡大になった場合の保険料がどうなるかということを図示いたしました。
これに比べて、適用拡大の対象にならなかった方を考えますと、第1号被保険者の場合には、この9.8万円の中から、1号被保険者の保険料である1.5万円を負担することになりますし、第3号被保険者の場合には保険料の負担はないということでございます。企業にとってみますと、事業主負担、飛び出た0.8万円の分だけ労働費用全体が大きくなるということですし、被保険者にとってみますと、第3号の人にとっては保険料負担が新たに生じる。第1号の人にとってみると、実は保険料の本人負担は若干下がることになるわけですけれども、事業者から見ると労働費用が大きくなるということと、3号の人にとっては保険料負担が生ずるというような話。
13ページでは、短時間労働者を使用する理由を事業主に聞いておりますし、14ページでは、短時間労働者という働き方を選んだ理由を労働者に聞いてございます。それぞれ最大の理由ではございませんけれども、事業主、労働者とも2割弱の回答の中で、社会保険料のいわゆる忌避行動と言っていいのでしょうか、そういう回答が見られるということが言えるかと思います。
一方で、14ページですけれども、パート労働者の中には、みずから望んでパート労働をされた方もいる反面、不本意ながらパート就労になっている方がいらっしゃる。すぐに働き始めたかったからとか、正社員としての働き口が見つからなかったからというものがあると思いますけれども、こういった人々は、もしかすると、もっと働いて所得を得たいと考えているかもしれないということです。例えば働く時間ですとか、働いて得る所得がいずれも保険料、税負担のない範囲にとどめられてしまっている。その分だけ労働市場があるべき姿からはゆがんでしまっているという現実もかいま見られるということです。
そのゆがみの代表的なのが、15ページに書きました就業調整ということで、税や保険料の負担が生じない範囲で就労をとどめようというような動きがある。
16ページは、短時間労働者として働きたいのか、本当は正社員として働きたいのか。数としては短時間労働者として働きたいという方が多いのですが、一定割合、正社員、本当はもう少し働きたいという方も出てきているということでございます。
17ページ、18ページは、平成28年10月より、部分的ではございますが、適用拡大がスタートするということで、JILPTさんのほうで、この適用拡大が企業の雇用行動とか勤労者の労働の行動にどういう影響を与えるか、それぞれにアンケート調査をとられた結果でございます。
17ページからかいま見られる企業の行動は、人材を厳選して一人一人にもっと長い時間働いてもらうという企業と、適用拡大要件に該当しないように所定労働時間を短くし、その分より多くの短時間雇用者を雇用するというふうに二極化傾向が見られるような現象になってございます。
一方で、18ページは、労働者のほうに働き方を変えるかどうかということを聞いてございます。労働者のほうは、どちらかというと、保険料負担が生じますので、その保険料負担の所得減を補う、あるいはそれ以上に働きたいという意向のほうが強いようでございます。そういう意味でいうと、適用拡大を進めた結果、社会保険料の忌避行動の中で均衡している部分均衡が崩れる可能性があるのではないかということが読み取れると思います。
それから、労働インセンティブとの関係でもう一つ議論になりますのが、高齢者就業との関係だと思います。19ページは、以前にも御説明させていただいた今後の労働力需給の中で高齢者就業というのもそれなりに期待をされているという図でございます。
20ページ目。厚生年金の支給開始年齢を60歳から65歳まで段階的に引き上げてきたわけですが、いろいろな調査研究によりますと、支給開始年齢の引き上げのせいだけではないと思いますけれども、一定のフルタイム就業の促進に寄与している、そのようにつながっているということが幾つかの研究で明らかになってきております。
21ページ目でございます。在職老齢年金と言いまして、働いているにもかかわらず年金を支給する、その場合、働いた賃金と年金との間で一定の調整をするという仕組みがございますが、これが昔から高齢者就業にディスインセンティブを与えるということでいろいろ批判されてまいりました。
上のほうの研究は、ディスインセンティブな効果がまだ見られるという点でございましたが、2004年の改正のときにここの在職老齢年金の仕組みを大きく見直しまして、その後の研究結果からは就業抑制効果は余りはっきりしなくなったということがあらわれてございますので、ここに関しましては一定の解決を見たということが言えるかなと考えているところでございます。
最後の切り口「年金積立金と経済成長」でございます。我が国の年金制度は賦課方式を基本とした財政運営になっていることは御存じのとおりでございますが、この賦課方式を基本とした財政運営をとる年金制度における積立金の保有はどういう意味があるかということになりますと、恐らく3つぐらいの意味があります。
1つは、支払い準備金としての機能。おおむね100年後に給付費1年分を残すというのは支払い準備金としての機能でございます。
それから、短期的な変動に対応するための機能。もし積立金が全くないと、いろいろな変動が起きたとき、例えば保険料収入が減少したときに、それに対応した給付調整をしないと追いつかないとなりますが、ある程度バッファーを持っておりますと短期的な変動にも対応ができるということがございます。
3つ目が、急速な高齢化の中で運用収入、あるいは積立金そのものを取り崩すことによって影響を平準化する機能。特に2004年の改正で有限均衡方式をとったということで、この性格がはっきりしたと思います。
このような機能があると考えられますが、経済との関係で財政方式の違いの意味を考えてみますと、積み立て方式ですと、保険料資産を市場運用する。基本的には、その収益を高齢世代に移転するということでございます。なので、結果的にいうと、投資収益が高ければ年金給付も充実することになります。特に個人勘定ですと個人単位の投資判断、企業年金なら企業単位の投資判断が年金に反映する仕組みということでつくられていると思いますが、賦課方式の場合には、雇用者に分配された報酬に賦課する保険料を高齢世代に移転するという仕組みでございますので、雇用者報酬全体が保険料の源となりますと、個々の企業とか産業とかということではなく、国全体の成長と年金給付がリンクするという考え方といいますか、そのような財政運営になっているのかなと思います。
23ページのほうに、経済、あるいは経済成長の観点から見た年金積立金の議論をまとめてございます。年金積立金は国民や企業の貯蓄とともに資本の一部を形成します。特に我が国の高度成長期においては、当時、まだ市場運用できておりませんで、財政投融資の原資となったわけですが、これが社会資本整備を促進して経済発展に一定寄与したという評価を受けているところでございます。
年金積立金を蓄積する、あるいは年金そのものを積み立て方式にすることが経済成長を高めるかどうかに関しては、国際的な年金論議におけるかなり大きなトピックになってきたと思います。一時期は、積み立て方式を採用したほうが経済成長が高まるのだというような議論もございました。最近の議論として、何度か御紹介させていただきました、ことしの1月に東京でIMFが主催しましたセミナーにおけるニコラス・バー先生の講演の資料の中からは、アプリオリに年金積立金の蓄積が成長を高めるというわけではない、高める場合もあればそうでない場合もある、成長を高めることができるというのは次のような場合ではなかろうかということで、貯蓄が不足している状況で貯蓄を増加させるということ、それから、資本市場の機能が改善されて、より生産性の高い投資につながるように貯蓄の配分が改善をされる場合、このような形で紹介しております。
左側の図ですが、まさに高度成長期の我が国はこのような状況にあったのではないかと思います。
右側は、バー先生の言っていることをうまく説明しているかどうかわかりませんけれども、資本のバランスが崩れているときに、市場の機能が改善されて、より生産性の高い投資につながるような資本の状況が起きるかどうか。そういう状況の中で積立金を積んでいくことになると、より生産性の高い投資につながり成長を促進するということを言っていると理解いたします。
ただ、右側のような効果が生じるかどうかということに関しては、いろいろな物の見方があると思います。特に市場メカニズムを一番活用して経済を運営しているのはアメリカ国だと思いますけれども、アメリカ国の積立金の投資と経済成長に関しましては、グリーンスパンFRB議長の議会における発言を24ページに引用してございますけれども、全体として言いますと、年金積立金を投資に振り向けることで生産性の高い投資が実現するかどうかについては、ややネガティブな見解をここでは述べているのではないかと理解するところであります。
以上、年金と経済についてのレポートをさせていただきました。
引き続きでよろしいですか。
○神野部会長 はい、よろしくお願いいたします。
○度山年金課長 続きまして、資料2「先進諸国の年金改革の動向について」、簡単にレポートさせていただきます。
1ページ目をおめくりいただきますと「総論」ということで、先進諸国の年金政策をOECDに定期的にレビューしていただいております。ここには反映できておりませんが、実は昨日も2013年の新しいレポートが出たところでございまして、この結果については我々のほうでも研究をして、必要があれば御報告をしたいと思います。2011年に出たレポート、2012年に出たレポート、それぞれ、例えば給付額の十分性と制度の持続可能性との間のジレンマの中でどういう改革が行われているかということですとか、2012年のレポートでは、適用範囲とか給付額の十分性、制度の持続可能性、就労インセンティブと、まさに今御報告させていただいたような切り口で外国の年金制度がどういう改革を進めてきているかをレポートしているところです。
このレポートをベースに、それぞれの国の改革の原点などにも当たりまして、幾つかの切り口で御報告をしたいと思います。
2ページ目には、よく言われる先進諸国の年金給付水準の比較の表を出しております。いわゆる所得代替率ベースで出しておりますが、前提がございまして、二十歳から標準的な支給開始年齢まで平均賃金の水準で働いた勤労者の、配偶者分を考慮しない本人に出る年金の平均賃金に対する比率をここでは載せさせていただきました。日本は34.5と、ぱっと見て低い水準になっておりますが、ちょっと考慮要素がございます。制度改正がビルトインされている制度においては、制度改正を全て完了し切った後の水準で計算しているというふうにOECDのほうで注釈をつけております。そういう意味でいうと、我が国の制度においてはマクロ経済スライドによる調整が終了した段階での年金水準ということで、現段階の水準はもうちょっと高いのではないか。2009年の財政検証のスライド調整の割合から逆算いたしますと、現段階の水準は恐らく7%程度高いのではないかと我々のほうで推計しておりますが、そういうデータであることを前提にごらんいただきたいと思います。
ただ、一見高く見えるほかの国も、3ページ目に書いてございますように、特にヨーロッパの大陸諸国においては法定の支給開始年齢より何年か早く労働市場を離れられるという実態。一時期、ヨーロッパの諸国は早期退職の取り組みを進めましたので、そういう影響もあって、法定の開始年齢よりも早くやめることになりますと、その分加入期間が少なかったり、繰り上げた受給をしたりということで、実際にもらっていらっしゃる年金でいいますと、この代替率どおりの年金ではない可能性があるということについては留意が必要かなということで御紹介をさせていただきました。
さて、幾つかの改革動向に整理をしてレポートさせていただきます。
まず、4ページ目の第1点でございますが、給付水準の自動調整機能の導入ということで、2012年のレポートでは、カナダ、ドイツ、日本、ポルトガル、スウェーデンでは、制度の持続可能性と関連づけたスライド制を導入しているという御紹介になっております。
ちょっと細かく見てみますと、カナダの場合には3年ごとに財政検証をやって、均衡が崩れていて改革案がすぐには見つからないという場合には、スライドをとめた上で、財政均衡に必要な保険料率、いわゆる平準保険料率のことを言っているのかなと思いますが、それと現段階の保険料率との差の半分だけ保険料を引き上げるということが、仕組み上、ビルトインされているということでございます。
それから、スウェーデンとドイツにつきましては、次のページにやや詳しい資料を準備しております。5ページ目のスウェーデンの自動財政均衡メカニズムを見ていただきますと、いわゆる概念上の拠出建てをとるスウェーデン国において、一定期間をとった上での年金の資産と年金の債務を比べっこいたしまして、債務のほうが大きいとなったときには、このスライドの調整を発動するという仕掛けになってございます。
これは、実際には、1999年に改正が行われてからしばらくは発動することはなかったのですが、リーマンショックのときに年金基金の資産額が急激に減少し、スウェーデンの場合、特に国内経済の規模が余り大きくないものですから、外国の運用割合が高いので、リーマンショックの影響をかなり大きく受けたということで、2010年に導入後初めての均衡メカニズムの発動という話になり、実際に2010年には3%、2011年には4.3%ですから、我が国の感覚から見てもかなり大きな引き下げを実際には発動することになったということでございます。
ただ、そのときに発動ルールを1時点から3年間の移動平均に改めるとか、税制のほうで年金課税を見直しまして控除額を拡大したり、下げるに当たってもそれなりの配慮をいろいろ考えているというのが現実のようでございますが、この発動メカニズムを活動させまして年金水準を下げたということが実際に行われたということでございます。
6ページ目のドイツの仕組みでございます。ドイツの場合には完全な所得比例年金で、年金のポイント単価にその人の持っているポイント数を掛けて年金額を算出するということです。このポイント単価の算定式の中に、持続可能係数というものを入れて、ちょっと数式が細かいのですが、平たく言うと、年金受給者と被保険者の割合が変化した分だけ、いわゆる年金扶養の比率が悪化した分だけスライドの率を下げるということをやってございます。
ただ、ドイツの場合には、我が国と違いまして保険料固定ではなくて、今、保険料率が19.数%だと思いますが、2030年までに22%までは上がるということが許容されているので、このパラメーターの0.25という数字はそれから逆算してつくられているという解説がございました。なので、年金扶養比率の悪化した分の一部を年金額の調整で、一部を保険料の引き上げにより調整しているというふうに機能としては果たしていると考えられます。逆に言うと、我が国の場合は、保険料率を固定していますので、年金の水準のほうで調整しなければいけないということが言えるかと思います。
2つ目の論点「適用範囲の拡大」という論点でございます。我が国のような社会保険制度をとりながら全国民をその制度に加入させるという制度設計は国際的には珍しゅうございまして、一般的には稼働収入を有するものが被保険者として保険に加入するというスタイルがどちらかというとグローバルスタンダードだと理解しております。なので、先進諸国の年金制度は、実はわずかでも賃金収入があればそこから保険料が計算されて徴収されるというのが一般的でございます。
さらに、そこから計算される保険料額が余り低いと、年金給付の保険料納付とはみなさないというような仕組みもとっているということですので、我が国のように線を引いて、ここから先は保険料もとらなければ給付もしないという設計はむしろ珍しいという状況にございます。
そういうことを前提にした上で、この年金受給権に結びつける要件を緩和いたしまして、より多くの就労者が年金制度でカバーされるような改革が行われているというのが最近の傾向と言えるかと思います。
それに加えて、雇用対策という観点から低賃金の労働者に対して特別な扱いをドイツとフランスで行っているので御紹介をしたいということで、8ページ目、ドイツの僅少労働(ミニジョブ)と言われる仕組みでございます。
1999年以前は、週15時間未満の労働に関しては、実は日本と同じように適用除外という仕組みで、加入義務もなければ給付もないという仕組みだったのですが、僅少労働を抑制するという観点から、引き続き、労働者については任意の加入なのですけれども、事業主の負担に関してはかける。適用されようがされまいが、事業主の負担だけはかける。しかも、通常より重たい負担を課す。そういう仕組みをつくったということで、これはまさに、僅少労働に対するインセンティブを逆に働かせるという制度改正であったと思います。
これもおもしろいことなのですけれども、2003年に、景気浮揚策の中で労働市場の柔軟化政策ということで、逆にこの僅少労働を促進するということで、その範囲の拡大が行われております。ただ、事業主の負担は引き続きかかっておりますので、そういう意味でいうと、被保険者が任意で年金加入から外れる労働の範囲をやや広げるということで、その労働をふやすという目的だったかと思います。
ただ、これも、2013年に見直されておりまして、原則として僅少労働の方も年金保険に加入すると改められました。引き続き、本人の申し出により被保険者にならないということはできることになっておりますが、今は原則加入という形で制度が運営されている。その分、きちんと拾っていこうという流れになっていると理解をしています。
次のページはフランスです。1つは、事業主負担を軽減するという観点です。1992年に行われたのは、パートタイム雇用を創出する。あるいは、常勤雇用をパートタイム労働に分割するということなので、ワークシェアリング的な観点だと思いますけれども、雇用主の社会保障拠出金を減額するということが一時期行われました。ただ、これは雇用の質という面では問題だということで労働組合等の反発もあったと聞いておりまして、2001年以降はこの仕組みはなくなっていると聞いております。
フランスは35時間労働制ですが、国全体として労働時間を短縮していく政策がとられる中で、時短を行いつつ一定の雇用の増加を図るという企業に対して雇用主負担を軽減する、軽減した分は国庫により補填する、そのような仕組みが今でも続いていると聞いております。
そういう仕組みの中で保険料拠出期間の拡大ということです。1四半期に最低賃金で200時間就業した場合の賃金相当額の支払いがあって初めて保険料拠出期間とカウントされるということですが、この仕組みの200時間を150時間分に変更するという改正が今国会で審議をされていると聞いております。これを当てはめますと、最低賃金ベースで週に1日半働けば、それを四半期ずっとやれば、保険料拠出期間としてカウントされることになるようでございます。
このほかに幾つか、見習の期間を入れるとか、いろいろなことで保険料拠出期間とみなされる期間を拡大して、その分、年金受給に結びつくようにいろいろ仕組みをつくっているという傾向にあるということでございます。
10ページ目になりますが、3つ目は「高齢期の就労と年金受給の在り方」という論点です。制度の持続可能性と給付の十分性のジレンマの解決策の一つとして、より長く働いて年金を受給する、その分だけ十分性も確保される。それから、より長く働いていただくということで保険料収入もふえるということで、バランスをとっていこうという動きが一つの傾向であるとレポートされております。この手段として、法定の支給開始年齢を引き上げる、あるいは満額の年金を受給するために必要な保険料拠出期間の延長が各国で取り組まれているということでございます。
OECDの出しました2011年のレポートでは、平均余命の延びというのがどこの国でも予想を超えて大きなものになっている。これが年金財政上も結構影響してくるということで、この点についてはかなり警告を鳴らしているという状況にございます。
ただ、例えば平均余命が何年延びたから自動的に支給開始年齢を何年上げるとか、そのように入れた国というのはまだ多くないようでございますけれども、幾つかの国でそれとリンクするような仕組みが導入されているということで、次のページ以降にまとめてございます。
11ページは、このOECDが就労期間の長期化という観点をどのように説明しているかということですが、今ざっと申し上げたようなことがレポートの中に書かれてございます。
12ページ。まず、法定支給開始年齢の引き上げということで、どこの国も結構引き上げ傾向にあると言われます。確かに、アメリカ、イギリス、ドイツ、いずれも67、68歳ぐらいに段階的に引き上げているという現状にございます。イギリスの引き上げペースはかなり急速でございますけれども、アメリカやドイツを見ていただきますと、引き上げのペースは1年に1カ月とか2カ月ずつというかなりゆっくりしたペースで、20年以上かけて引き上げるという形で動いているということがあるかと思います。
2つ目ですが、13ページ。年金の支給開始年齢を平均余命の延びに連動させている国はまだ余り多くないと御紹介させていただきましたが、実際にそういう支給開始年齢の仕組みを導入した国ということでデンマークの仕組みが紹介されております。67歳まで引き上げるということは決まっているようでございますが、その後に関しては、60歳時点での平均余命の延びた分を若干のバッファーを置いた上で支給開始年齢をそれに反映させる。平均14.5年が想定受給期間と定められていくますので、受給期間が14.5年ぐらいになるように支給開始年齢を自動的に引き上げていくというルールを法律で書いたということですが、本当にその見直しを行うかどうかについては5年置きに議会できちんと決定するという仕組みになっているようでございます。
イタリアについても紹介をされておりますが、イタリアの制度は後ほど御説明いたしますスウェーデンと同じように、概念上の拠出建ての仕組みに変わってきておりますので、それとのパラレルな見直しというふうに理解ができるかと思いますので、ここでは省略させていただきます。
14ページです。スウェーデンの年金制度においてということです。概念上の拠出建ての制度におきましては、65歳時点での仮装年金資金をその時点で予想される平均余命で割って年金額が出てまいりますので、平均余命が延びますと、その分、1カ月にもらえる年金の水準は下がることになります。スウェーデン国も、将来的にいうと平均余命がだんだん延びていくと想定されていますので、これは国民に毎年示しておられるオレンジレポートの中から引用しておりますけれども、右側のようなグラフを出しておりまして、年々寿命が延びるに従って年金の水準も下がっていきます、ただ、長寿化の影響を除けば年金制度の水準は変わりません、このような説明をしてございます。
おもしろいのが左下の表です。それぞれの生まれ年ごとに65歳に到達する年、そこで想定される平均余命を書いた上で、もし1930年生まれの方と同じ年金水準にキープしようと思うと、何年ぐらい余計に働かなければいけないかということを国民に対して示しております。平たく言うと、平均余命が3年延びたときは2年は退職年齢の引き上げに充て、1年は引退期間に充てる。大体2対1ぐらいで配分をすると長寿化の影響を消せるというようなことを国民のほうにお示ししているというのがちょっとおもしろいなと思いましたので、御紹介をさせていただきました。
15ページ、フランスでございます。フランスは年金制度の体制が、国鉄のストライキとか、デモが起きたり、年金水準を簡単に下げにくい国なのですけれども、フランス国ではそういうこともありまして、満額受給のための保険料拠出期間を少しずつ延ばすということに取り組んできているということです。1990年代には37.5年だったのが、数度の改正を経て、今、国会で審議されている法案ではこれを43年に延長しようということですので、20年間ぐらいの間に満額拠出期間を5年ぐらい延ばそうというような動きになってきています。
2003年に改正されました法律の中に、満額拠出期間と平均受給期間の比率をおよそ2対1にすると考えて、これをベースに満額拠出期間を定期的に見直していくのだというルールを明示し、その後、2010年、2013年とこのような法律改正が行われています。
制度が違いますけれども、フランスもスウェーデンも働く期間と年金をもらう期間を2対1ぐらいで考えていかなければいけないというところでは共通しているのがおもしろいなと思って、ちょっと御紹介させていただいた次第です。
最後、16ページです。年金改革の動向といたしまして、そういう意味でいうと、どこの国でも公的年金給付はコントロールしていくことになりますので、それを補う私的年金の拡充が一つ課題になっているということです。私的年金は、基本的には個人の対応だったり、企業ベースの対応だったりということですが、特に年金の水準の調整を補完することになりますと、所得層が低い、中・低所得層にこの取り組みがどのように拡大していくかということが一つの論点になろうかと思います。
そういう観点から、OECDのレポートの中で紹介されているのは、1つはニュージーランドの年金。キウィセイバーということらしいのですけれども、不参加を労働者が選択しない限り、自動的に私的年金に加入させるという仕組みですとか、ドイツのリースター年金のように拠出金の一部を補助する、特に低所得者に対して厚い補助をするという仕組みで、拠出能力の低い層が比較的多く加入する任意加入の仕組みをつくっている。そのようなことが紹介されてございます。
17ページには、ニュージーランドのキウィセイバーの取り組みでございますけれども、基本的には新規採用のときに自動的に加入する。ただ、一定の期間、脱退を認めるということ。加入をいたしますと、被用者は掛金を選んで払う。それに雇用主はおつき合いをする。給付に関しましては、自宅購入時ということで、年金に必ずしもならない場合もあるようですけれども、一定の場合にのみ引き出し可能という形をつくって、公的な年金の調整をする。
18ページは、ドイツのリースター年金です。一定の掛金、社会保険料算定基礎の4%以上の拠出を要件にした上で、この拠出がある場合には一定の政府補助が行われるという仕組みになっています。特にドイツは少子化で悩んでいるということもあって、子供が多くいる場合にはたくさん補助金が出る。そういう仕掛けになっているところです。
次の19ページには、実際にこの政府補助を受けてリースター年金を拠出する者の25歳以上65歳未満の被保険者に対する割合は平均すると35%ですが、年齢の低い層の方々、あるいは子供の多い世帯、それから、どちらかというと月収の低い世帯に加入割合が高いということで紹介をさせていただいております。
ちょっと18ページに戻っていただいて、ドイツのおもしろいのは、もう一つは、公的年金の給付設計と関与しているということで、先ほど御紹介させていただいた年金ポイント単価の改定ルールの中に、実はこのリースター年金への拠出というのが含まれています。拠出が多くなると、その分可処分所得が少なくなるということで、スライド率が下がるということで、このポイント単価の改定ルールに織り込んでいるということと、ドイツの政府のほうで定期的に出している年金報告書においては、このリースター年金を含めた所得代替率を算出して国民に示しています。リースター年金を含めると、現時点での給付水準と同水準を維持できるというような見通しが示されているという面が特徴的かと思いまして御紹介をさせていただきました。
ちょっと長くなりましたが、以上でございます。
○神野部会長 どうもありがとうございます。
本日の議題にかかわる「年金と経済について」と「先進諸国の年金改革の動向について」の2つの資料をまとめて御説明いただきました。議論を頂戴したいと思いますが、議論のほうも、この2つの議題に関してまとめて質問、御意見を頂戴できればと思います。
菊池委員が海外出張で御出発とのことですので、もしも何か御意見がございましたら、頂戴しておきたいと思いますが、よろしくお願いいたします。
○菊池委員 すみません。発言の場を与えていただきましてどうもありがとうございます。所用で中座をさせていただかなければならなくて申しわけございません。
ありがとうございました。知らなかったこともいろいろ教えていただきまして大変勉強になりました。私から、2点質問と1点感想というか意見があるのです。
1つは、資料1の16ページの「現在の会社で正社員になりたい」、あるいは「別の会社で正社員になりたい」「現在の会社で、短時間労働者として働きたい」、こういう方の属性がもう少し詳しくわかるものでしょうか。どういった方。例えば性別、年齢など、何らかのことがわかるのかというのが1つ質問です。
もう一点は、事務局というよりは、ここに経済の専門の先生方がたくさんいらっしゃるので、むしろその委員の先生方にお尋ねしたいのですが、非常に素人的なのですけれども、社会保障の古典的なテキストでは、ビルトインスタビライザーという機能が社会保険にあるのだという説明がよくありました。きょうの御説明では、近いような説明はありましたが、そのものずばりの御説明はなかったように思うのです。最近、そういったビルトインスタビライザーというのは忘れられているのか、もうそういう議論はしていないのかというあたり、もし御教示いただければ。素人的な質問で申しわけないです。
それから、トップバッターでいきなりきょうのテーマから少し外れたことになってしまって大変申しわけないのですけれども、専門の立場としてもちょっと感想というか意見を1つ申し上げたいと思っているのですが、一昨日、大阪地裁で、受給資格、受給要件の男女格差が憲法違反である、法の下の平等に反するという判決が出ました。きょうの本筋から外れて申しわけないのですけれども、昨年のこの場でも、私、同じような発言をさせていただいたものですからちょっと申し上げたいのです。おととい出た判決は、地方公務員災害補償法という公務災害の事案で、遺族補償年金の扱いをめぐってですので、直接には妥当しませんけれども、基本的な考え方は、労災保険ですとか公的年金にも恐らくそのまま妥当するものであろうと。つまり、射程は非常に広いと思います。
私、判決文を読んでいませんけれども、新聞を読む限りでは、立法事実と言いますが、立法を成り立たせていた当時の社会状況は、もはや妥当しないのではないか、つまり当時の社会的な基盤がもはや存在しないという論理であるようにも思えます。そうだとすると、この判決が上級審で覆るかといいますと、その見通しはないように思いますし、このインパクトというのは非常に大きいと思うのです。
昨年の一体改革のところで遺族基礎年金の改正がなされまして、その方向に一歩踏み出したところです。そこでも少し議論しましたけれども、例えば中高齢寡婦加算ですとか、寡婦年金ですとか、遺族厚生年金の年齢制限ですとか、恐らくかかわってくる制度というのは結構あって、それをそのままにしていいのかというのは、直接的には立法府ですけれども、問われるのではないかと思います。もちろん、財源がかかわる問題なので、しかもそこは法律改正が必要なので、そう簡単ではないかもしれませんが、最高裁に行くまで待つのではなく、ぜひ積極的に法律改正をお考えいただきたいと私の立場から申し上げたいと思います。
平成22年5月27日に京都地裁で、労災の障害等級表が性別によって違う、顔面に傷を負った場合に女性のほうが重くなるというのは憲法違反ではないかという裁判があって、京都地裁がその請求を認めましたけれども、その裁判所は、差を設けるのが一切だめというわけではなく、等級が5等級も離れるのは不合理であるという判決なのです。それでも厚労省は、これは法律改正ではないですけれども、この等級表の性別による違いを全部改めて、そろえたのではないかと思うのです。なので、本件に関してぜひ積極的にお考えいただけたらというのが私からのお願いでございます。
申しわけございません。
○神野部会長 ありがとうございました。
最後の裁判の問題については、私の専門である租税のほうにもまだいろいろ残っておりますので、さらに年金のほかの制度とも関連してきますから、私としては、この財政検証を進めていく過程で、その進展ぐあいを見ながら、いずれかの段階で議論する機会を設けたいと思っておりますが、今の段階でこの問題について事務局から何かコメントがあれば。
○度山年金課長 公的年金が直接の訴訟物ではないので、実は公式なコメントを私どもで出していないのですが、まさに社会保障・税一体改革の中で遺族基礎年金に関しては男女差をなくすという改正をやりまして、あのときの議論も、私の理解するところでは、まず全国民共通の基礎年金について男女差の解消を図るというロジックだったと思います。そういう意味でいうと、2階の部分、特に子供がいない場合についての差が残っているわけでございますけれども、その点についてはある意味では継続検討課題となっていると思いますので、これまた状況も御紹介したいと思いますし、いずれ議論をしていただくということになろうかと思います。
○神野部会長 よろしいですか。
それでは、ついでにですが、第1番目のさっきの16ページのアンケートといいますか、この調査結果について属性等々の詳細なことはありますか。
○度山年金課長 2点御質問をいただきました。ちょっと済みません。16ページのJILPTが行った調査そのものでこの人たちの属性をきちんと追っていないのですが、それはちょっと調べてみたいと思います。
別の調査などから感じるところによりますと、まずは、男性で短時間労働の方については不本意非正規が多いと言われています。それから、女性の短時間労働者の中でも年齢の若い層に関しては不本意非正規の割合が高いと言われております。そういう意味でいうと、男性も女性も、就業環境が厳しい中で正社員になれなかったということで短時間労働を選んでいるという方にこういう不本意非正規の方が多い。恐らくそういう結果ではないかと想像いたします。
2点目のビルトインスタビライザーの機能という点ですが。
○神野部会長 これは、財政学者、経済学者がいますので。後で小塩先生から。
例えば、社会保障制度だけではなく、財政を含めたビルトインスタビライザーということであれば、古典的な名著は石弘光先生の論文というか大著だと思いますが、財政学の歴史からいうと、1929年の後ですね。ケインズ経済学の影響を受けて経済安定にかかわるフィスカルポリシー論が盛んになって、これを一々説明しているというわけにもいきませんが、第二次世界大戦後、新古典派総合と言われたミクロとマクロ、マクロについては介入をするという議論が盛んなときには、この議論は研究がかなり深められたのですけれども、今、私どものやっているドイツの財政学を別といたしますと、いわゆる公共経済学と言われている分野はミクロのほうにかなり関心が行っているので、この手の議論についての研究は財政学の分野だとどうかなという気がするのです。あと、小塩先生に解説をしていただければと思います。
○小塩委員 今でよろしいですか。
○神野部会長 今で。
○小塩委員 先生の御説明に付加することは特にございません。最近では、ミクロ経済学的な分析が主流になっておりますので、昔ながらのフィスカルポリシーからの議論というのは後退しているのですが、ビルトインスタビライザー自体が存在しないとか、そういう議論をするのはナンセンスだということはないと思います。
ただ、1つだけ注意していただきたいのは、社会保障でビルトインスタビライザーの役割をするのかと言われると、ちょっとそうかなという疑問はあります。税制もあるわけですから、わざわざ社会保障でどうかというのは、副次的な効果としてあるという理解でよろしいのではないかと思います。
○神野部会長 社会保障でよく言われるのは、主として失業保険ですよね。ということで、その件につきましてはよろしいでしょうか。
あと、いかがでございましょうか。
どうぞ。
○出口委員 資料2の8ページで、ドイツのミニジョブの分析を教えていただいて非常に勉強になったのですが、99年にはミニジョブを抑制しようとして、2003年にはむしろミニジョブを促進しようとして制度改正が2回行われています。興味を引いたのは、これはどちらも雇用者負担には変化がないという点です。この点が非常におもしろいと思いました。
こういう理解で間違いがあるかどうか教えていただきたいのですが、考えてみたら、あらゆる事業にとってはいろいろな雇用形態の労働力を自由に使えることが実は理想的なわけです。そうすると、マクロで考えれば、例えば長時間労働もミニジョブも企業が自由に選択できるということは、その土俵をつくってくれるという意味で企業にとって大きなメリットがあるので、それは長時間労働でもミニジョブでも事業主は一定程度負担しますよ、それに対していろいろな自由な働き方を企業が選べるという大きいメリットがあるから、これは土俵の負担として事業主が負担するのです、このような理解で間違いがなければ、我が国のこれからについても示唆するところが非常に大きいと思うのです。
荒っぽく言えば、我が国では、長時間労働は社会保障の負担が大きいから、例えば正社員を制限したり、そのような話があるわけですけれども、極端に言えば、正社員であっても、ミニジョブであっても、土俵をつくるために事業主の負担が一定であれば、むしろこういう区別もなくなっていき、労働の流動化がもっとスムーズに進むようになって、非常に豊かな労働市場ができるのではないかというインプリケーションを与えてくれるようにも思うのです。この点について、抑制策であれ、促進策であれ、事業主負担を据え置いた背景について教えていただければ大変ありがたいと思います。
○神野部会長 度山課長、いいですか。
○度山年金課長 済みません、知る限りのことを申し上げます。
まず、1999年以前のドイツは、加入義務がなかったので事業主も負担をしておりませんでした。1999年は、とにかく労働者が入ろうが入るまいが、事業主には無関係に保険料を課す。しかも、ドイツは今では9.45%が半分事業主なのですが、この場合、15%ですので、通常より高い保険料が付加されている。この15%の保険料は、実は2003年以降もずっと続いておりますので、そういう面でいうと、通常より高い保険料負担を課して基本的にはやや抑えようというのがずっと貫かれているのだと思います。
あとは、2003年に拡大をしたのは、労働者が社会保険料のない働き方をより多く選択できるようにしようということです。雇用主には15%の保険料を掛けたままですので、雇用主にとっていうと、僅少労働だろうがそうでない労働だろうが、そこは変わらない。むしろ、僅少労働でないほうが保険料負担は安い。構造的にはそのようになっているということで理解しています。
それで、1ページ前にいっていただいて、今おっしゃられた背景は、実は日本の場合には、社会保険料の負担、特に健康保険と年金保険に関しては標準報酬というのを決めて、その標準報酬で算出される保険料を労使折半で負担するというやり方なのです。特に保険料の雇用主負担については事実上のペイロールタックスのような形になっている国、先ほど説明を省略いたしましたが、要は、もう支払われた賃金に掛けるところの何パーセントという形で御負担をいただくような仕組みになっている国も実はままあります。こういう国でいうと、例えば労働時間が長い短いとか、給料が高い低いとかいうことと関係なく、支払われた賃金全てが賦課対象になるということです。こういう条件下ですと、まさに雇い方に応じて差がないわけですから、企業は自分の活動を一番効率的にできる労働の形態を選択できるという格好になるだろうと思います。
○神野部会長 それでよろしいですか。
駒村委員、ドイツは特に詳しくないですか。補足してコメントしていただけることがあるでしょうか。
○駒村委員 結構です。ちょっと別のことを言おうと思ったのです。
○神野部会長 私も年をとるという経験が生まれて初めてなのでなかなか思い出せないのですが、これはいろいろ絡むはずです。例えば環境税とか。抑えるためにかなりのことをやりますので、他の仕組みや何かも絡んでいるはずです。うまく説明できませんけれども、いろいろな要因が絡んでこういう制度ができ上がっていると思います。
駒村委員、質問というか、御意見のほうですね。
○駒村委員 最初はコメントで、あとは質問になります。
きょうの2つ目の資料は大変よく整理されていたので、いろいろな問題が明らかになってきました。公的年金というと、通常、政府が高齢化の中で、財政コントロールが困難で、世代間の対立があって、政治の限界がすごくわかりやすい材料として使われるのですけれども、一方で、ニコラス・バーやグリーンスパンのを引用してもらって、市場の限界というのもあるというところで積み立て方式のさまざまな課題。ニコラス・バーは最近の本では、民営化積み立て方式の中でもまた別の課題が出て、手数料が非常に高どまりするという話もされているわけで、そういう意味では、すぐに賦課方式、公的年金は悪いところばかり見られて、あたかも民営化すればいいような、あるいは積み立て方式にすればいいように見られるわけですけれども、その見にくい、非常に目立たない、余り注目されていない、気づかれない市場の限界についてもきょう触れていただきました。一方で、各国とも公的年金の守備範囲を見直さざるを得ない中で、その限界がある私的年金をどうやって拡充しているのか、各国苦労されているという話も資料2で整理していただきました。これはこれでいいと思うのです。いい資料をつくっていただいたわけですけれども、褒めてばかりというわけにもいかないので、実は3点ほどお聞きしたいことがあります。
資料1の19ページと20ページです。20ページのほうを見ると、65歳~69歳は長期的には労働力率が下がっている。背景は一体何かというと、これは自営業が減ってきたのか、多分そういう理由があると思うのです。
一方、JILPTの推計だと「経済成長と労働参加が適切に進む」というのは一体どういう意味なのか、解説していただかないとわからないのです。17%ぐらいでしょうか、労働力率が上昇するということなのですけれども、支給開始年齢とか、あるいは山田さんの研究のほうでは、在老に余り制限がかからなくなってきた、有意な結果が見られないということを述べていますけれども、高在老と低在老では効果は違うのではないかというところをちゃんと分けてやっているかどうか。多分、彼は保留しているのではないかと思うのですが、今の年金制度のままで置いて、果たして本当にこれだけ高い労働力率が達成できるのかどうなのか。この適切な経済成長と労働参加率、19ページのこの一文はどういうことを意味しているのか、これを説明いただきたい。
それから、資料2のほうの各国の年金給付水準。これも代替率という言葉を使わないで年金給付水準ということで言葉遣いを注意されているのかと思うのですけれども、この日本の数字は、イメージとして、モデル年金から配偶者の基礎年金部分を除いた従来のモデル年金の比という理解でいいのか。ただ、気になるのは、20~64歳で45年加入モデルという理解ですか。
それから、分母は、従来やっていた、つまり退職して年金をもらう時点の現役世代の男性の手取りの平均賃金を分母にとったという話をしている。ここは代替率と使っていますね。代替率と使っている部分の表現ですけれども、ほかの国は、加入年数は何年のモデルでやっていて、分母になるのは、本人の賃金なのか、労働者全体の賃金なのか、男性の賃金なのか。これは統一されて比較されているのかというのを確認しないと、正しい比較ができているのかどうか。「ペンションズ・アット・ア・グランス」がこのように使っているのは承知ですけれども、紹介されるときにはちょっとその辺の解説が必要ではないかと思いました。
あと、資料2の12ページに支給開始年齢の引き上げの各国比較が出ているのですけれども、確かにイギリスは非常にハイピッチであるように見える一方で、アナウンスメント期間というのは各国のずれがかなり大きいのではないか。つまり、アメリカは83年の改革で2003年の話をしているとか、ドイツは2007年で2012年から着手する。だから、上げ始めたときのピッチだけではなくて、何年前にやるということを周知するかというのも重要ではないかと思っております。その辺、単に上げ始めたピッチだけではなくて、周知期間にも着目する必要があるかと思います。
以上です。
○神野部会長 よろしいですか。
では、3点。
○度山年金課長 では、3点お答えします。
まず1点目、労働力需給推計の「経済成長と労働参加が適切に進む」の意味ですけれども、経済成長は、この時点でのいわゆる新成長戦略がスムーズにいったということが一応前提になっています。その一定の経済成長を前提にして労働力の需要がどれぐらい生ずるかということを労働力の需要のブロックに置きます。一方で、労働力がどれぐらい供給できるかというほうは、年齢階級別に人口も出てきていますので、それをベースにするのですが、当然、人口は人口推計がございますし、それぞれの年代でどれぐらい上昇余地があるかということに関しては、いろいろな要因がある。例えば女性の就労ですと、子供との関係ですとか、そういうことがあるので、いろいろな局面での変化を拾った上で、例えば保育所を整備すれば女性が就労しやすくなるとか、ワークライフバランスが進めばとか、いろいろな仮定を置いた上でこれぐらい供給ブロックのほうからできると。両方を突き合わせたような数字としてここに2030年の数字が出ているという理解です。
今の年金制度のままでこの48.7%の2010年の実績が2030年に65.0%にいくかどうかということですが、それに関しては、私がここでお答えするというよりは、この年金部会で十分に御議論いただきたいテーマではなかろうかと思います。
2点目のOECDの「ペンションズ・アット・ア・グランス」で出している所得代替率ですけれども、そういう意味でいうと、我が国の財政検証で示している所得代替率といろいろな違いがございます。先ほどお話のあったように、本人分のみで配偶者の基礎年金を含まないという点は違いますし、20歳から64歳、標準的な支給開始年齢までの就労ということなので、ここは保険料を45年納めたという計算になっているということです。
もう一つは、OECDもいろいろな数字を出しておるのですが、資料の2ページ目に出した数字は、上のほうの※印に書いてございますように、分母、分子とも税や社会保険料を控除する前の数字となっております。実は、我が国で示している財政検証のときには、いつも分母になる平均賃金は税・社会保険料の控除後の手取りをベースに置いていますので、その点が違います。
それから、各国のデータでとっている平均賃金というのは、これはたしか2009年ですので、2008年から2009年ぐらいの時点での産業分類があるのですが、ここからここまでの産業分類をとったときの平均の賃金ということで算出されていましたので、この平均賃金の分母に置かれている額も、私どもの財政検証で示している男性の標準報酬の平均とは厳密には違うということになろうかと思います。
今ざっと申し上げたことは、ちょっと見にくいのですが、2ページの表の下に「(注)」がありまして、その注の下の※印のところに、構造的にどこが違うかということについては解説を付させていただいております。
3点目、支給開始年齢の引き上げに関して言うと、アナウンスメント期間が長いというのは、私もそのように思います。ただ、イギリスはどうしてこんなことができるのかなと思うのですけれども、一旦、かなり先の引き上げを決めておきながら、後になってそれを加速させるということを数度にわたってやっておりまして、これはちょっと調べていてもすごいなと思いました。
○神野部会長 よろしいですか。
小塩委員、手が挙がっていましたね。
○小塩委員 私も、先ほど駒村先生がおっしゃったように、きょう出していただいた資料は非常に多方面にわたって重要な材料を提供していただいたという印象を強く持ちました。世代間格差の議論は重要だと思うのですが、それだけ議論していくと議論が膠着状態になりますので、今回のような新しい観点の資料というのは非常に重要だと思います。
ただ、資料1と2を比べますと、1は、現行制度のいい面を強調していますが、資料2を見ると、諸外国でも年金は削っていますという御紹介でしたので、我々は両方見ないといけないということです。OECDの言葉で言うと、十分性と持続可能性の両方を見ましょうということでしたので、その点から見てもきょうのお話は非常に勉強になりました。
それで、マイナーなものとメジャーなものを一つずつコメントいたします。
まず、マイナーのほうですけれども、ジニ係数と貧困率の御紹介がありました。資料1の6ページの右側に、年金等で所得再分配した後、65歳以上の人たちの所得格差が縮小しており、格差縮小効果があるという御指摘だったと思うのです。
数字を見る限りそうなのですけれども、ちょっと注意していただきたいのは、ジニ係数もそうなのですが、格差指標というのは所得の散らばりが平均所得に対してどれぐらいのウエートを持っていますかというものです。年金が作用しているのは、その散らばりではなくて平均のほうです。つまり、若い人からお年寄りにお金が回って、それでお年寄りの平均所得が上がっている。俗な言葉で言うと、底上げが行われているということです。ですから、私たちがイメージする金持ちから貧乏人へという所得再分配は、公的年金は、全然持っていないとは言いませんが、あまり持っていないです。報酬比例部分は若いときの所得格差をそのまま上に持ち上げるという仕組みですし、国民年金と厚生年金では、自営業と被用者の間の所得格差をそのまま反映させるという仕組みですから、そこはちょっと注意していただきたいと思います。
その底上げ部分を除いて所得再分配があるか、私はちょっと計算してみたことがあるのですけれども、ほとんどございません。特に公的年金等控除というふうに税の所得再分配効果を減殺しているような仕組みがありますから、むしろ逆進構造がある。金持ちがお得になるという構造がありますので、ここは注意しないといけない。
下に貧困率の数字がございますが、再分配後でも19.4です。これはOECDでもトップクラスです。それから、特に女性の高齢者が多いと思いますけれども、ひとり暮らしの高齢者の貧困率もOECDでもトップクラスだということです。そういう問題を残しているということは理解していただいたほうがいいと思います。それがマイナーなコメントです。
メジャーなコメントは、貯蓄についてです。先ほど貯蓄が十分か不足しているかで、年金制度のデザインが違ってくるという御指摘がありました。この点については、ニコラス・バーの議論も紹介されていたということです。現時点で貯蓄が不足しているのか、それとも十分なのかというのは、賦課か積立かという議論もあるのですが、結構重要な論点だと思います。
普通、私たちの頭の中には、日本の家計の貯蓄率は高いから貯蓄は十分ではないか、対外純資産はまだ何百兆円とあるから十分ではないかという議論があるのですが、フローベースで見ますと、つまり、家計、企業、それから政府の貯蓄を全部合わせてみて、しかも固定資本減も差し引いたネットで見ると、1990年からだんだんと落ちてほぼゼロです。今のままだと取り崩しが始まる可能性があります。ということですから、私としては、貯蓄は不足しつつあると認識しておいたほうがいいのではないかと思います。
そのようなことを考えますと、資料1の冒頭で、年金が所得移転を通じて消費を下支えしているという報告がありました。それは短期的な景気への影響という面では非常にいいのですけれども、貯蓄への影響という面から見るとちょっとマイナスな面があります。これだけお年寄りがふえて若い人が減っているということですから、物をつくる人が減って食べる人がふえるということになるので、帳尻が絶対合わなくなるということは考えておいたほうがいいと思います。
どうしたらいいのかということですが、資料1の最後のところで、積立金を上げたらいいのかどうかという議論がございました。私は、積立金を引き上げるというのはあまり解決策にならないのではと思うのです。というのは、積立金を政府がふやしても、その一方で民間の分が減りますから、国全体で見ると、資本蓄積に対してはニュートラルです。積み立て方式への移行という点についてはちょっと微妙な問題がありますので、きょうは議論しませんけれども、単純に積立金を引き上げるというのは解決策にならないということです。
では、どうしたらいいかということですけれども、私は2つあると思うのです。
1つは、仮に現行の賦課方式にとどまるということであったとしたら、きょうの後半の御議論にもあったと思うのですが、できるだけスリムにすることだと思うのです。あまり重い所得移転をすると、それだけ貯蓄への影響が出てくるということですから、できるだけ若い人に無理のないような仕組み、そういう形でできるだけ次の世代に富を残すということも年金改革で議論する必要があると思います。それが1つです。
もう一つは、資料2で御紹介がありましたけれども、要するに働く人をふやせばいいのです。支給開始年齢の引き上げにつきましては、事実上封印状態になっているという印象を私は受けますが、貯蓄がだんだん足りなくなってだんだんと次の世代が困りますというような状況を想定したとしたら、支給開始年齢の引き上げ、その是非について年金部会で真剣に議論していただいたほうがいいと思います。きょうの資料2は、それについて諸外国はちゃんと取り組んでいますという情報を提供していただいたので、非常に勉強になりました。
以上です。
○神野部会長 どうもありがとうございました。
有意義なコメントをいただきました。議論を進める段階でもう一度御意見として言っていただくということはちょっと別として、この段階で何かコメントございますか。
吉野委員、今のに関連してということですか。
○吉野委員 先にお答えいただいていいです。
○神野部会長 いいですか。
○度山年金課長 済みません。最初のほうにあったジニ係数や貧困率の問題は、私は先生の論文も読んだことがございますので、御指摘はよく理解をしております。そこはちょっと舌足らずだったなと思います。
○神野部会長 吉野委員は関連してでしょうか。
○吉野委員 関連と関連でないのと両方あります。
○神野部会長 つまり、原委員、花井委員が先に手を挙げられているので、後でよろしい話なのか。今、直接なのか。
○吉野委員 では、関連したものだけ。
1つは、今、小塩先生がおっしゃったように、働く長さを長くする、なるべく長く働いていただくという言い方が1つあると思うのです。それが、支給開始年齢の引き上げという言い方と同時に、働ける方に長く働いていただくという言い方があると思うのです。
それから、貯蓄率に関しましては、フローとしての貯蓄率と住宅資産というのを日本人の方はたくさん持っておられますので、そのリバースモーゲージのようなものがしっかり出てくれば、その分が貯蓄の残高になってきて将来の年金になると思うので、フローばかりではなくて、ぜひ住宅資産というのも考える必要があると思いました。
ありがとうございます。
○神野部会長 済みません。お待たせいたしました。
まず、原委員、その後、花井委員とまいります。
○原委員 丁寧な資料と御説明をありがとうございました。
私からは意見というか、大きく2点だけコメントさせていただきます。
最初に、菊池委員がおっしゃったところと関連するところでございます。3の年金制度と労働供給という資料のところの被用者年金拡大の部分ですけれども、ここに社会保険の適用拡大が短時間労働に与える影響についての調査結果を幾つか載せていただきまして、拝見させていただきました。今までも議論に上がっているかもしれないのですけれども、私個人的には、今後、被用者保険の適用拡大について議論や検討の方向性を整理して進めていったほうがいいのかなとは思っております。
といいますのは、「短時間労働という働き方を選んだ理由」というのが資料1の14ページにあると思うのですけれども、正社員として働き口が見つからないとか、すぐに働き始めたかったからという回答。恐らく、先ほど課長もおっしゃったように若年層に多いのかなと推測されますし、一方、就業調整ができるからというような回答は扶養に入っている既婚女性が多いのではないかと思われます。特にこの2つの傾向というのがあると思うのですけれども、今後、ある程度区分して検討議論を進めていくのがよいのかなと思っております。
それに関連して、先ほどありました16ページのところで「正社員になりたい理由」の調査結果があると思うのですけれども、年金で言うと、種別による違いがあると思うのです。私の記憶では、この調査の別の結果にも、正社員、つまり厚生年金の被保険者になることを希望しているかどうかという調査があったと思うのですが、恐らく第1号の方は希望する人が比較的多く、第3号の方については希望する人の割合はそれより少ないというような調査結果だったと思います。そのように大きく2つに区分ができるのかなと思います。個人的には、前者つまり、第1号の方について、若年層が多いのかもしれませんけれども、現在、家計の主たる所得の稼得者といいますか、世帯主の方で非正規になっている人が含まれているものと思いますので、事業主様への理解も含めて、まずはその不本意非正規である方々について、つまり、議論の優先にして進めていくというのはどうでしょうかと考えます。そのような検討の仕方のほうがいいのではないかと思っています。
一方、就業調整の資料も載せていただいたのですけれども、この部分は別の問題で、夫の扶養の範囲内で働いている方ということだと思いますが、別途、大きな別のくくりで、「女性全体のライフコース」ですとか、「女性の働き方・生き方と年金制度」という別の大きなくくりの議論も必要なのではないかと思っています。これは企業側だけの問題でなく、女性が自分のキャリアプランを考えるということも必要になってくると思っています。
いずれにせよ、被用者保険の適用拡大については、その負担面だけではなく、老後の所得保障、年金給付面、それから老後の生活の安定につながるということを理解していただくことが重要ではないかと思います。
それと関連して何回か出てきていますが、19ページ、20ページの支給開始年齢のところです。これは、推計を見ても、実績を見ても、男性と女性の差が見受けられると思います。55~59歳の労働力率とか、60~64歳では2010年でも女性のほうが5割に届いていないような実態です。平均勤続年数の違いとか、賃金実態の差があるというのも現状なので、年金額にもどうしても差が出てきます。先ほども言いましたけれども、別途、女性の働き方といいますか、より大きなくくりでの議論が必要であり、女性にも就労期間と引退期間というような意識ができるような雇用環境を整え、教育を行っていくことが重要と考えます。これは、雇用面の話にもなるかと思うのですけれども、そういうことから支給開始年齢の検討に結びついていく土台作りが必要であるのではないかと思っております。コメントになってしまったのですけれども、させていただきました。よろしくお願いいたします。
○神野部会長 ありがとうございます。
何か事務局のほうで。よろしいですか。
花井委員、どうぞ。お待たせしました。
○花井委員 幾つか質問も含めまして意見を述べさせていただきたいと思います。
1つ目は、今、原委員がお話しされたことですが、だいぶ前に、年金についての統計資料について男女別を出していただきたいとお願いしたことがあります。意識も男性と女性ではかなり違うのではないかということで、可能な限りそのことを改めてお願いしておきたいというのが1つです。
2つ目は、以前に年金積立金につきまして、厚生年金保険法等に記載されているように、専ら被保険者の利益のために運用するのだということはぜひとも守ってほしいという意見を述べさせていただきました。それとの関係の意見です。
資料1の22ページでございます。「我が国の年金制度における積立金の意味」ということで、賦課方式と積立方式のことが書かれています。そして、一番下のハコの賦課方式のところの「国全体の成長が高ければ年金給付も充実」に関して、先ほどの度山課長の説明の中で、国全体の成長に年金財政がリンクするのだというようなお話があったかと思います。私も、この議論でいけば、賦課方式で国全体の成長に年金の運用がリンクしていくことがいいのではないかと思っているわけです。ただ、議論にもう少し時間をかけるべきで、例えばこのページ1枚だけでも相当な議論があるのではないかと思うのが1つ。
それから、GPIFの議事要旨をネットで見ておりましたら、次期基本ポートフォリオの策定についてオルタナティブ投資についてどうするかといった議論がされているようで、まだ次期財政検証が行われていないのですが、そういう議論が先行しているということについて非常に不安を持っているということ。それから、財政検証の大きな枠組みについてはこの年金部会でも検討することになっていて、財政検証を受けてGPIFはポートフォリオを決めていくのだろうと思っていますが、今、そのあたりがどのような議論がされているのかもわかる範囲で教えていただきたい。
この賦課方式と積立方式をどうしていくのか。賦課方式でいくのだということなのだろうと思いますが、このあたりについてはもっともっと議論する必要があるのではないかと思います。これは感想です。
そして、もう一つの感想は、資料2は諸外国の例について要約されていて大変わかりやすくて、いい資料だと思って読ませていただいていますが、すごくひねくれているとは思うのですが、国民会議で先送りされたデフレ下のマクロ経済スライドの発動とか、支給開始年齢の引き上げとか、そういうことが諸外国では既にやられていることを示したいのではないかというようにもとれました。これも感想です。
以上です。
○神野部会長 何かありますか。
森参事官、どうぞ。
○森大臣官房参事官 私のほうから、年金積立金の運用の関係で今どんな議論がされているかにつきまして御説明いたします。
年金積立金の運用につきましては、一昨年の10月からこの部会のもとで、吉野先生がいらっしゃいますけれども、「年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」ということで、経済前提とあわせて積立金ということで鋭意御検討いただいているところでございます。
その中で、積立金の運用につきましては、名目運用利回りをどう設定するか。特に、昨今、20日の伊藤座長のほうで有識者会議にも出されたところでございますけれども、デフレ化ですと、必要な名目運用利回りは低くなるわけでございますが、これからのデフレ脱却を踏まえますと、どのような経済環境を踏まえまして運用利回りを設定したらいいかということもございますので、それも踏まえて御議論いただくような形で考えております。
基本的に、積立金の運用利回りを定めますと、運用のやり方というのはGPIFのほうで専門的な観点から御議論いただくという形になりまして、花井先生がおっしゃったように、年金積立金の本旨つまり専ら被保険者のために安全かつ効率的な運用ということで御議論いただく問題だと考えております。
○神野部会長 後ほど専門委員会のほうの議論が整理でき次第、こちらのほうでも取り上げていきたいと思います。
山口委員、お待たせいたしました。
○山口委員 せっかく東京へ出てきましたので一言。
きょうの資料はいろいろ考えるヒントが満載で、これから議論の材料になると思いました。
その中で私が特に感じましたのは、基本的な枠組みの話ですが、資料2の最初のところに「『給付額の十分性』と『制度の持続可能性』との間のジレンマ(年金パラドックス)」と書いてありました。この2つのジレンマがありまして、我が国の制度で当てはめてみますと、特に持続可能性を高めるためのマクロ経済スライドが進行していくプロセスの中で、基礎年金の給付水準が大きく低下するという問題があるわけです。基礎年金をベースとして老後の生活設計を立てておられる自営業者であるとか、非正規の労働者といったようなところを考えたときに非常に大きな影響があるなと改めて懸念されるところであります。
きょう教えていただきました先進国の中でも、このような公的年金の給付の十分性が不足する問題に対して、ドイツのリースター年金でありますとか、そういったものを使って個人の自助努力を国としてサポートする。税制であるとか、さっきの低所得者への補助金といったものによって支援する仕組みがつくられているということでございました。
我が国でも、今後このマクロ経済スライドを実施していく上で、同様の個人勘定型の老後所得保障のツールを公的年金を補完するものとして積極的に位置づけて奨励していくといったような政策、これは今は福祉的な給付ということで行われているわけですけれども、こういった自助努力を後押しする政策もきちっと位置づけていく必要があるのではないかと本日の資料を拝見して思いました。
以上です。
○神野部会長 ありがとうございます。
米澤委員。
○米澤委員 ほとんど感想的なことなのですが、年金制度と経済活動のところで前から思っていたことがあるのです。きょうもどなたか最初のほうで年金制度の非常にいい点を。当たり前ですけれども、いい点があるわけです。機能を説明していただいた後に、2枚目のほうで、各国苦労していますねという話はまさにそのとおりですが、わかったら教えていただきたいのは、年金制度が充実している国のほうが人口の成長率というのでしょうか、出生率が低いのではないだろうかという仮説は成り立たないですか。
というのは、我々の前の世代ですと、長生きのリスクとかを何で解決したかというと、子供をたくさん産んで、世帯の中で、家族の中で内生的にリスクシェアリングしていたような記憶があるのです。子供とか孫とかに面倒を見てもらう。それが自助努力というわけです。そこのところで、産めよ、ふやせよというと、差別用語でよくないと言うのですけれども、そのようなこともあったかと思うのです。
年金の充実によってその心配がなくなったら、結果的に人口の成長率が低くなったということ。これは、ある意味では賦課方式の持っているジレンマみたいなものかと思います。そのときに、積み立て方式がいいのかというのはちょっと早過ぎますけれども、この点が非常に悩ましいところで、これから主要先進国、特に年金の充実している国にとっては避けられないことなのかなというのが一番の感想でした。
2番目は、いろいろなところに出てきているのですが、改めて、年金の保険料の徴収に関しては、税と同じように資源配分をなるべくゆがめないような格好で課税というか徴収していくということを今後かなり念頭に置いておく必要があるかと思います。限界的な部分に影響を及ぼさないような格好で保険料を徴収していくということが税と同じような格好で必要ではないかと思っております。
もう一点は、今、日本の国内においては、やはり資本ストックは少なくなっているのではないかと思います。貯蓄ベースで、それを積み上げていくとそんなに少なくないのかもしれませんが、かなりの部分は海外に出ていってしまっていますので、国内のレベルでいくと非常に少なくなっているということなので、国内の資本ストックが十分かそうでないかという意味だと、私は少なくなっていると思います。多少経済学的ですけれども、一番いいのは、資本の限界生産力が人口の成長率と等しくなるというところが一つのメルクマールというのはよくあるのですけれども、今、人口成長率がゼロだとしますと、相当資本を持っていてもいいということにもなりますので、そこまで理論がいかなくても、国内の資本ストックはやはり少ないのかなと思っております。
以上、感想も含めてです。
○神野部会長 戦前の資料だと、子供をなぜ産むかの第1位は稼業を継がせる、第2位は老後の面倒を見させるということだったと思うのですが、日独伊防共協定国は出生率が低いことは間違いないのですけれども、関連ありますか。
○度山年金課長 OECDの社会保障支出の統計の中で、私もいろいろ研究を見たり、自分でも数字をいじって分析してみたりするのですが、関連して申し上げますと、年金給付ダイレクトではないのですが、トータルの社会保障支出の中の高齢者向け支出の割合の高い国は出生率が低いという分析をある先生がされているのを見たことがあります。その先生とコミュニケーションをしたときに、どうしてそうなるのですかと言うと、まさに先生のお話にあった、高齢者の扶養を社会化する一方で、現役世代のほうへの支援が少ないので、結果的にそのようになるというような分析を見たことはございますが、年金給付と直接分析したのは見たことがないので、また研究課題にさせてください。
○神野部会長 では、宮本委員、諸星委員、山本委員といきます。
○宮本委員 大変わかりやすい資料を見させていただきました。私も保険料を負担している現役の立場で、このような年金制度にかかわる資料を見させていただいたというのは初めてでございまして、我々、保険料を払っている、掛金を掛けている担い手といいますか掛け手が今の公的年金の制度について理解をしているかというと、しているほうが少ない。逆に言えば、㏚が少ないのではないかと思っています。しっかり㏚をすれば、この課題だとか懸念なども見えてきますし、一方で、賦課方式というのは合理的に機能していると見えてくるようなところもあると思うのです。そのような意味で、こういった制度の周知をぜひお願いしたい。
その一方で、例えば内閣官房で、先ほどありました有識者会議でいろいろな議論が進められてきております。マスコミを通じてその議論を新聞などで読むと、我々、負担をしている現役からすると、年金制度への不信感といったものが増長されるといったこともあると思っています。そのようなことのないようにぜひお願いしたいということが1点。
実はもう一点あります。前回の部会だったのかもしれませんけれども、度山課長からマクロ経済スライドの考え方について、法律上は、将来の所得代替率50%という基準が示されていて、社会的厚生を判断する上でのメルクマールと位置づけられるのではないかという説明があったと思っています。
その上で、平成16年の改正時の附則第2条の第2項と第3項に、次回の財政検証までに所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には所要の措置を講じるよう義務づけると書いてあります。具体的に言うと、その給付水準調整の終了について検討を行い、その結果に基づいて調整期間の終了、その他の措置を講じることとあわせて、給付と負担のあり方についての検討を行い、所要の措置を講じることと書いてあります。
ということは、所得代替率50%というのは法的には何ら約束されたものではないということになるわけで、年金制度が経済との関係で今後もここに書かれてあるような機能を果たし続けられるのかどうか、そこに疑問を感じるところでありまして、法的な事実関係も含めて、ここのところを少し教えていただきたいと思います。
○神野部会長 簡単に説明できるのであれば、今お願いできますか。
○度山年金課長 意見を先に言っていただいたほうがいいかもしれません。
○神野部会長 そのほうがいいですか。
それでは、諸星委員、お願いできますか。
○諸星委員 済みません。ちょっと時間もないので。
1点質問と、2点ほど、現場で実際にこういうことが起きているというよという情報提供をさせていただきます。
まず質問ですけれども、資料2の5ページにありますスウェーデンにおいて、実は下の「実際の発動」の3ポツのところに「2年連続での減額改定となった」という部分がありまして実際減額をされているということです。まさに今日本では、特例水準の見直しで10月から下がっていまして、多分厚年、国年は来月支給処分が確定して通知書が来れば、審査請求を10万人規模でやろうという問題が起きています。スウェーデンでは下がったことに対して果たしてどのような国民の反応があったのか。本日わからなければ後日で結構なのですけれども、特に問題はなかった、説明責任を果たしているから何もなかったよということでもあれば、そのあたりの情報をいただきたいということが思います。
それと、私からの情報としては、まず資料1の17ページに、適用拡大することによって、会社が対応することとして、一番にできるだけ短時間の人を多く採用しようということが書いてありますけれども、実際、適用拡大が進むと、例えば人材が豊かだったらいいのですが、業種によっては募集をかけても人が来ない。そうすると、今いるパートさんによりよく働いてもらう。そのためにどうしたらいいかという会社からのご相談が非常に多くなってきていますので、多分、ここの調査の結果は、これから適用拡大が進むことにおいて変わってくるだろうということを情報提供させていただきたいと思います。
それともう一つ、18ページ、本人の働き方です。きょうの午前中、私、ちょうどM字カーブの下、育児とか結婚で退職をされた方が再就職をしたいというセミナーを担当してきました。実は私、10年前からその再就職支援のセミナーをやっているのですけれども、当時の参加率はそれほど多くはなかったのです。ところが、年々、非正規雇用の男性もふえたということもあるのか、女性の参加率がふえて、とうとう安倍さんが女性の活用をしようと言ったら、最近のセミナー等はほとんど満杯で、皆さんの意識が非常に高いです。ですから、これから働く場としては、パートの入り口かもしれないけれども、長い時間働いて、より多く自立する働き方、そのように女性の考え方が変わってきたなという実感がありますので、ここも将来的に変わるのではないかと思っております。
以上、実際に私が感じたことです。ありがとうございました。
○神野部会長 先に御意見、御質問を受けたいと思いますので、山本委員、お願いいたします。
○山本委員 ドイツの例では、スタビライザー的なものの導入のパラメーターなど、このような形で年金の支給総額をコントロールしていくメカニズムが入っているというお話等もありました。また、僅少労働というものがドイツの中ではかなり進められようとしているということでした。私が感じましたのは、ドイツそのものが1人当たりの年間労働時間が少ないということです。多分、1,500時間ぐらいになっているのですが、日本は相変わらず2,000時間で、どうなっているのだと言われています。これは一般的な情報ですが、恐らくそのような違いがあろうかと思うのですが、違いましたか。
○神野部会長 いや、いいのです。ドイツの実情について解説していただいたほうがありがたいので。
○山本委員 私は詳しいことは知らないのですけれども、そのことはつとに言われているわけで、短時間労働をする人たちがその保障も受けられるという形の制度が整っています。したがって、全体で割ってみると、1人当たりの平均年間就業時間が短いということにつながっているのかということを感じました。
一方で、先ほどの棒グラフのように、生活が多様化していく中で、短時間だけ働きたい人が多くいます。これから多様な働き方を供給していくことを考えると、結果的に全ての方に保険料負担ということになりますと企業の負担になりますから、企業側からすると一概にどうなのかという不安もあります。これからの労働のありようからすると、そういう多様なものに対応することが必要になってくるだろうと思います。女性も男性も、高齢者も若い人もいるという状況の中で、労働機会の提供を考えたときには、ドイツの例は非常に参考になると思います。ドイツの年金に対する物の考え方と同時に、それらのことがどうやって人々の労働形態を変えていっているのかをみると、日本にとってのヒントがあるかもしれないと思います。そういうことができてくると、みんな安心していろいろな雇用形態を選択することができ、かなり多くの人が働くことができると思います。
そうすると、この中で最も主張されていた労働インセンティブを阻害しない制度設計が非常に重要なことです。今はどちらかというと硬直的な感覚で、65歳を過ぎたら年金生活だと思ってしまっている節がありますが、年齢にふさわしい労働の時間や種類を検討し、雇用機会をふやすことが大事です。
そうすると、若い人から仕事をとってしまうのかという議論になってしまいますが、必ずしもそうではありません。若い人たち向けや育児中で短時間労働を望む人向けなど、様々なシステムがあることで、労働の種類は違うかもしれないけれども、多くの人がいろいろな形で自発的労働に関与することができると思います。そのようなことを考えていくための大変いい問題提起をいただいたと思いましたので、意見ですが申し述べます。
もう一点。資料1の4ページの説明がわからなかったのですが、年金給付額の対県民所得比というのは20%を切るぐらい低いものなのでしょうか。一般的に我々の会社の人間などに聞いてみると、所得に対する年金給付額の比率はもっと高いのです。多分これが正しいのだと思うのですけれども、教えていただきたいと思います。
○神野部会長 それでは、最初の宮本委員のマクロスライドの話と今の話について、度山課長から。
○度山年金課長 順番に手短に。
○神野部会長 そうですか。スウェーデンは森元スウェーデン日本大使館員でもいいのですが。
○度山年金課長 聞きましたので、あわせてお話しします。
まず、16年改正附則の理解ですが、財政検証したら、次の5年間の間に50%を割るという事態になったらどうするかということを定めているのです。御紹介いただいた「調整期間の終了について検討を行い」云々かんぬんというのは、要は、とめる法律改正をしなさいということをこの条項は言っています。スライドの発動を50%でとめなさいということを言っています。ただ、とめただけだと給付と負担のバランスがとれなくなりますので、第3項で、では、給付や費用負担のあり方についてどうするか。だから、もう一回2004年のフレームを仕切り直して、給付と負担のバランスをどうとればいいかということを考えましょうと言っているのが第3項というふうに理解をしてください。
それから、スウェーデンの減額をしたときの国民の意識ということですが、スウェーデンの国は、こういうオレンジレポートを出したり、オレンジエンベロープといってオレンジレターを出したりして、実は年金制度についてかなり周知しているものの、国民がよくわかっているかというとそうでもないという話も聞いたことがあります。そういう中でこういう減額ということが起こりましたので、要は、自動調整の仕組みが、発動がよく理解されていないところに3%も落とすみたいなことがあったので、現地の方から聞いた情報では、年金ブレーキというような言い方をされて、国民には大変不人気であったということのようでございました。
最後に、ドイツの例でお話しいただきましたけれども、まさに適用拡大というものを考えていく一つの重要な視点であったかと思います。御意見は大変心強く承った次第でございます。
もう一つ、県民所得比ですね。俗に言うSNA上の国民所得という概念がございます。あれの県版なので、NIに対する年金給付の比率と考えていただければと思います。一人一人の給料に対する年金給付額というときにはいわゆる所得代替率という概念で50%だの三十何%だのという数字を紹介していただきましたが、これは、県内の若い人も含めたトータルの所得に対して年金がどれくらいの大きさになっているかということを示したものです。国全体でいうと、もうちょっと低いだろうと思います。
○神野部会長 よろしいでしょうか。
小山委員、どうぞ。
○小山委員 済みません。時間がないので一言だけ言わせていただきたいと思います。私は難しいことはわからないので、平たく言わせていただきたいと思います。
資料1の1ページ目ですけれども、この単純化したイメージ図の中で、この家計の現役側と引退期のほかに漏れている人たちがいるのではないかと思うのです。特に若者のパートとかアルバイトとかで、正社員になれない人で基礎年金を払っていない人たちがいるのではないかとすごく思いました。そういう若者たちがこれから先、年をとったときにきちんと年金をもらえるような施策をとっていかないといけないのではないかと感じました。
以上です。
○神野部会長 ありがとうございます。
藤沢委員も受けておりませんが。
○藤沢委員 もう行かなくてはいけないので、済みません。
○神野部会長 わかりました。
それでは、定刻の時間を過ぎてしまいました。運営の手落ちがありましたことをおわびいたします。
予定の時間でございますので、本日の審議はこれにて終了させていただきたいと思います。
次回の開催等々につきまして事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。
○八神総務課長 次回ですけれども、12月18日水曜日の午後2時からを予定しております。詳細はまた追って連絡をさせていただきます。
以上です。
○神野部会長 私の運営の至らないことで時間がオーバーいたしましたことをおわびいたしまして、最後まで熱心に御議論を頂戴いたしましたことを深く感謝申し上げます。また、御多用のみぎり、御参集いただきましたことを重ねて御礼申し上げる次第でございます。どうもありがとうございました。
(了)
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