2017年10月6日 第2回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提に関する専門委員会 議事録
年金局
○日時
平成29年10月6日(金)9時55分~11時33分
○場所
航空会館 7階大ホール
○出席者
植田 和男(委員長)
小黒 一正(委員)
小野 正昭(委員)
権丈 善一(委員)
小枝 淳子(委員)
駒村 康平(委員)
武田 洋子(委員)
野呂 順一(委員)
山田 篤裕(委員)
吉川 洋(委員)
米澤 康博(委員)
吉野 直行(アジア開発銀行研究所所長)
○議題
(1)2014(平成26)年財政検証における経済前提専門委員会の議論について
(2)近年の経済の動向等について
○議事
○植田委員長
それでは、予定時間よりは早いですけれども、御出席の予定の方々がおそろいになりましたので、第2回「年金財政における経済前提に関する専門委員会」を開催したいと思います。
御多忙の中、お集まりいただき、どうもありがとうございます。
きょうの出席状況ですが、玉木委員から欠席の御連絡をいただいています。
オブザーバーの方々につきましては、人事異動の関係で、GPIFから森審議役にお越しいただいております。
○森審議役(年金積立金管理運用独立行政法人)
森でございます。よろしくお願いいたします。
○植田委員長
内閣府の佐藤参事官は所用により欠席と伺っています。
それでは、議事に入らせていただきます。
カメラの方は、この辺で御退席をお願いいたします。
では、事務局から資料の確認をお願いします。
○武藤数理課長
数理課長の武藤でございます。
私から資料の確認をさせていただきます。本日の資料といたしましては、資料1が「マクロ経済モデルの特徴と日本の国債市場金利の推移」ということで、吉野先生の資料でございます。資料2以下は事務局準備資料でございますけれども、「2014(平成26)年財政検証の経済モデルで用いた各種パラメータ等について」。資料3「近年の経済成長率と賃金上昇率の動向-バブル崩壊後の直近20年間の動向を中心に-」。参考資料1「参考資料集」となっておりますが、皆様、お手元にございますでしょうか。
○植田委員長
ありがとうございます。
それでは、議題に移りたいと思います。1番目、前回2014年の財政検証における経済前提専門委員会の議論についてですが、きょうはお忙しい中、前回のこの委員会の委員長でありましたアジア開発銀行研究所の吉野所長にお越しいただいています。前回の議論につきまして、きょうは吉野先生に御説明をお願いしております。
それでは、先生、お願いいたします。
○吉野所長(アジア開発銀行研究所)
お招きいただきまして、ありがとうございます。
ここにいらっしゃる先生方の大半は3年前にも一緒にやらせていただきましたので、特段私からということもないと思いますが、どういう考え方でやったかというのをお話させていただきたいと思います。
私の資料は「マクロモデルの特徴と日本の国債市場金利の推移」というものでございますが、もう一つお手元に、事務局の資料2の一番最初のページ、右下に2と書いてありまして、こういう図があると思うのですが、これも見ながら。これがまさにマクロモデルのここでのモデルですので、後で事務局のほうから詳しい説明があると思いますけれども、これを両方見ながら御説明させていただきたいと思います。
まず最初に事務局の資料2の2ページのところをごらんいただきたいと思います。ここでの特色は、一番上にありますけれども、実質経済成長率を3つのイコールの式のコンポーネントに分けるというところであります。一つが労働の部分、真ん中が資本の部分、一番右側がTFPの部分、この3つの部分であります。ここで見ていただきますと、小豆色の部分が外生変数ということになっておりまして、モデルの特色といたしましては、下のほうを見ていただきますと、貯蓄、投資のバランス。ここのところにはISバランスで海外の部門も入ってきておりまして、まず与えられるのは、下の真ん中にあります総投資率を外生で与えます。それによって資本ストックが決まります。その上に書いてあります資本の減耗率。資本成長率が出てくるというのが一つのチャンネルであります。
右のほうに行っていただきますと、きょうの議論で関係します利潤率。分配の場合には労働の分配と資本の分配がありますので、利潤率をどう考えるかというのがきょうの一つの大きな議論であります。その中では、前回御議論がありましたように、国債の利回りと利潤率が大きく乖離しておりますので、今後推計のときにどういうやり方でこの利潤率を考えていくかということが一つのきょうの大きな問題だと思います。
左側のほうに行っていただきますと、賃金上昇率。一番の上のところに労働の部分がありますけれども、労働は労働分配率と労働成長率に分かれます。その場合には、賃金がどんなふうに動いていくかというところがありますが、こちらは後で御説明がありますけれども、経済成長率と関係させながら賃金上昇率を与えます。
真ん中の労働投入量は、ここが厚生労働省がいろいろな推計をお持ちですので、そこから労働の成長率というのを出してまいります。
一番上に行っていただきますと、この式では、労働の分配率と資本の分配率を外生変数で与えております。労働の分配率のほうは賃金を所得で割った部分で、資本分配率のほうは金利収入、r掛けるKを所得で割った部分。一番右側のTFPの上昇率は、外生変数で与えられております。
もう一つ、2ページ目の一番右側を見ていただきますと、物価上昇率は外生で与えられておりまして、内閣府のところからの数字を使うということですから、割合このモデルは外生が多くて、内生で決めるところの重要なところは、一番上の労働分配率と資本分配率。そうすると、資本分配率の利潤率のところをどう考えるかということが非常に重要だということになります。これが大体のモデルの特色であります。
それでは、私がお配りした「マクロモデルの特徴と日本の国債市場金利の推移」の1ページをあけていただきますと、紫色でコブ・ダグラス生産関数の式が出ていると思います。先ほどの2ページの式と比べながら見ていただきたいと思いますが、経済学者の方は当たり前のことですが、一番上のコブ・ダグラス型の生産関数で、紫色で書いてありますY=AL α K β 。これを成長率に直しますと、先ほどの2ページの一番上の数字が出ているということになりまして、左辺が実質経済成長率。 Δ A/A がTFPの上昇率であります。
α が労働にかかる係数で、成長率でいくと、ΔL/Lが労働の成長率になります。それから、+ β (ΔK/K)が資本の成長率です。
ここの α とβというのはどういうふうにあらわされるかというと、限界生産性が実質賃金に等しいというのから出てきますと、3行目に書いてありますように、αは(WL)/Y。まさにこれが労働分配率になります。
β も限界生産力が実質利潤率に等しいという式から、 β は(rK)/Y。これが資本分配率になります。これを上のαと β に代入して、2行目のところに代入したのが2ページ目の一番上の式になるということであります。先ほどの2ページ目の一番上のように外生変数で与えられるところが多いわけであります。
こういうモデルなのですけれども、このモデルに対して、今後利潤率、労働の分配率、TFPの上昇率、いろいろ外生変数のところもありますが、そこのところを見ていきたいと思います。
次のページで、これからは国債の利子率と利潤率が大きく乖離してきている理由についてお話ししたいと思います。小枝先生も財務省の国債のほうのを一緒にやっておられますので、私よりもお詳しいかもしれませんけれども、こちらが日本のマネタリーベースの上昇率。3ページ目のところです。2013年からマネタリーベースがずっと伸びてきている。これが国債の利子率を物すごく下げていることになります。
次の4ページ目をごらんいただきたいと思います。日本のマネタリーベースの大きな上昇率。マネタリーベースというのは日銀券とリザーブを足したものでありますが、この数字を見ていただきますと、一番左側が2000年のあたりですが、マネタリーベースをGDPで割った比率があります。日本とアメリカとヨーロッパが比べてありますが、2000年12月には15%、6%、7%ぐらいです。真ん中の2012年12月が29、16、17ぐらい。一番右側を見ていただきますと、2016年7月でマネタリーベースのGDP比率が80%ぐらい。アメリカ、ヨーロッパが21%、20%です。現在日本はこれが90%以上になってきておりまして、いかにマネタリーベースがふえているかということであります。
このマネタリーベースをふやすときに公開市場操作で国債を買いますので、国債の購入が国債の利子率を物すごくほかの利潤率と違えてしまっているということであります。
5ページが2013年と2016年、一番上のマネタリーベースを発行する場合に、日本銀行が何を買いながら発行しているかということであります。左側の2013年を見ていただきますと、155兆円ぐらいでありました。2016年のところは387兆円。今は400兆を超えているわけであります。2行目からがどういうものを買っているかということになります。2行目のJGBがJapanese Government Bondsで、国債になります。下のほうにCPとかETFsとかありますが、2016年の縦軸を見ていただきますと、大半が国債である。2行目の国債ということがおわかりになると思います。2013年でも2行目のJGB、国債が大半でありまして、ほかのものもいろいろ買っているとは言いますけれども、数字で見ると、ほとんどが国債の購入であるということになります。
次のページをごらんいただきたいと思います。これからが国債を購入しながらマネーサプライをふやすことが国債の市場にどういう影響を与えるかということでございます。左側が日本の新発債の国債市場を考えております。これは発行市場を考えていますが、流通市場の場合には供給曲線が左下がりになりますが、発行市場のほうがわかりやすいと思いますので、発行市場で国債は利子と関係なく、税収不足の部分を毎年発行しなくてはいけません。ですから、国債の発行がふえれば垂直の線が右に動いていくわけであります。垂直の線が国債の供給に当たります。
縦軸を利子率にとっていますので、需要曲線が右上がりに出てきます。その理由は、当たり前ですが、利子が高いほど買いたい人がふえますから、需要曲線が右に上がるわけです。
国債の価格を縦軸にとりますと、通常の需要曲線は右にありますが、ここでは利子率を縦軸にとりまして、国債の需要曲線を右上がりにさせております。
需要曲線が、日本ではずっと右にシフトしているという図であります。最初は銀行とか保険とか、ここにおられるGPIFさんとか、年金の方とかがずっと買っておりましたので、国債の需要曲線が右にシフトして、金利がどんどん下がってまいりました。一番最後の青いところが日銀が今、物すごく買っている部分であります。
先ほどのように、日本銀行がマネタリーベースをふやすときに国債を大量に買いますので、ここの図にあるように、国債の金利がマイナスになるということであります。マイナスになりますと、普通の民間の人は買わないわけでありますから、日本銀行だけがここの国債の市場で購入するということになります。このように日本は国債の発行が非常に多いのですけれども、金利は安定し、現在ではマイナスの金利になっているということであります。
右の図がギリシャのことをちょっとあらわしましたが、ギリシャは非常に不安定で、日本と同じように大量国債ですけれども、破綻したわけですが、ギリシャの場合には需要曲線が全然動きが違います。ギリシャの場合には3分の2が外国人の保有でありまして、需要曲線が安定的に動きません。ちょっと不安がありますと外国人が逃げていきますから、需要曲線が左にシフトしていきます。それで不安になると左にシフトしていきまして、赤い線のように金利がバーンと上がってくるということになります。
次のグラフをごらんいただきたいと思います。緑色とか赤とか青の線が出ておりますが、緑がギリシャの金利をあらわしています。先ほどのように需要が非常に不安定ですから、ギリシャの金利がぽーんとはね上がったわけであります。一番下が日本の金利ですけれども、ずっと需要が安定していますので下がってきて、最近のところでこれがマイナスになってしまったということになります。
次のページが昨年の段階での一番金利が低かったときのJGBの期間構造の金利と満期の長さの図であります。横軸が満期の長さで、一番長い日本の国債が40年債でありますので、この図のように一番右側は40年になっております。縦軸が利子率をとっております。下から2番目の横の線が0%の金利であります。昔は日本銀行には大量国債の購入がありませんから、一番上の線が2015年ですけれども、全てがプラスである。それからちょっと短いところがゼロあるいはマイナスになっていますが、一番下の2016年のところを見ていただきますと、18年国債ぐらいまでがマイナスになっております。これは先ほどのように、日本銀行がずっとこのあたりの国債を買っておりますので、それでマイナスのところまで入ってきてしまっている。そうしますと、これから利潤率を計算するときのrが、もしこれまでのように国債の金利を使いますとマイナスになってしまいますから、r掛けるKの部分の分配がマイナスになってしまいまして、それはおかしいわけですから、利潤率と国債の金利の格差をどういうふうに解消して、どこでどうやって調整するかということが必要だと思います。
一つのやり方としては、量的緩和の物すごい緩和、先ほどの2ページ目のマネタリーベースの図を見ていただきますと、この画面のようになっていますが、大きく変わったところは除いて、そうでない、通常の国債の市場のところを使いながら推計をするというやり方があると思いますが、現在のままを使いますと、とにかく異常値になってしまうと思われます。
9ページの円グラフをごらんいただきたいと思います。このような国債の市場によりまして、一番左側が1年以上の長期の国債の保有者をあらわしております。右側は1年未満の短期国債の保有者。両方あわせたのが一番上になります。
まず、左側の1年以上の中長期の国債を見ていただきますと、小豆色が外国人の保有であります。右側のところがBOJ、日本銀行がどんどん購入をふやしていまして、それから銀行、左側の水色のところが生保、そのちょっと上が公的年金、それから年金となっております。
小豆色の外国人のところはどんどん下がっておりまして、今まで持っていた国債は持ちますけれども、それ以上のところは持たない。それに対して、右側のところを見ていただきますと、短期国債は半分が外国人、4割が日本銀行という形になっております。
日本銀行が買っているのは、先ほどのマネタリーベースをふやすために国債を購入していますから、日本銀行の比率がふえております。外国人が買っているのは、最近日本の金融機関が海外で運用していますから、そうすると、外国人は円を受け取るわけです。受け取った円を何らかの形で運用したいので、短期の国債のところで運用している、あるいは株式市場で運用する。このために短期国債のところにたくさん入ってきています。
外国人にとってみますと、短期国債の金利はマイナスなのですが、為替のところでもうけられる部分がある。これがありますので、それで短期のところに入ってくる。それからボラティリティーが上がっていますから、そこでさやを稼ぐことも可能である。このために、短期の国債市場では外国人が半分ぐらいになっていて、日銀が4割ぐらい買っているという構造になっていますから、これからもおわかりのように、国債の金利というのが、いわゆる従来のマーケットメカニズムの金利とは全然乖離してしまっているということになります。
次に、最後に幾つかここのモデルのマクロモデルと、もう少し現実のところで違った見方もあるのではないかというので、少しつけ加えさせていただきたいと思います。
一つは、石油価格が今の物価などに大きく影響していると思われます。ここにありますように、御承知のように石油価格が115だったのに、26になって、今、少し戻ってきていますけれども、大きく石油価格がきいているわけです。そうしますと、次の11ページの図のように、総供給、総需要でいけば、総供給曲線が日本の場合、輸入をすごくしていますから、物価は下がってくるはずであります。厚生労働省のモデルは、物価水準は外生変数に与えているわけですが、石油の影響というのは日本の場合は非常に大きいと思われます。
次のページが総供給とか総需要とか、テイラー・ルールを簡単に実証したものですけれども、ここでも総供給で見ますと、石油価格、3行目のクルドオイルが物すごく重要な影響を日本の場合には与えているということがわかると思います。これが第1点ですから、物価水準は外生変数で与えられていますが、石油の影響というのは日本経済に大きく影響を与えると思います。
もう一つ、13ページです。コブ・ダグラスよりトランスログ生産関数、一般的なものを使うことが学者の場合には多いわけです。ここのモデルではコブ・ダグラス型になっていますので、一つはクロス効果、間接効果とかスピルオーバー効果と言うわけですが、そういうものが厚生労働省のこのマクロモデルには入ってきていないということが言えます。
13 ページのところでは、私は社会資本にすごく興味を持っているのですが、普通は民間資本と社会資本は、社会資本を分析する学者の間では分けて載せます。ですから、Kという資本の中には民間資本と社会資本を分けて見ますけれども、現在の厚労省のモデルでは民間資本も社会資本も加えて、全部それを資本として扱っております。
実際の数字は、最後のページの青いところをごらんいただきますと、これが日本の長期的な社会資本とか民間資本のトランスログ生産関数を使った推計でありますが、これで見ていただきますと、社会資本の係数というのが民間資本に影響を与え、インフラができれば、そこに工場ができて雇用がふえる。そういう間接効果、スピルオーバー効果が随分あるわけであります。ここのモデルは別に社会資本の有効性とかそういうことを分析するモデルではありませんので、資本ストックを民間と社会資本に加えたものにするということでもいいかと思いますけれども、詳細に考えると本当は社会資本と民間資本というのは分けたほうがいいという可能性があります。
最後にもう一度資料2の2ページのところに戻っていただきたいと思います。まとめますと、一番上の式をここのマクロモデルでは推計しております。コブ・ダグラス型生産関数を使っておりまして、小豆色のところが全部外生変数で与えるところ。そうしますと、一番上の実質経済成長率のところでは重要なのは2つしかない。資本成長率と労働成長率。資本分配率と労働分配率をどう与えるか。資本成長率の一番下のところの総投資量を与えますから、ここから資本減耗率が出てくるので、資本成長率も割合外生に近いわけです。
労働成長率のところは、厚労省のいろんな機関が推計しているところを持ってまいりますから、最後は資本分配率と労働分配率をどう外生で与え、あと、TFPをどう与えるかというのがこのモデルの特色だと思います。
まとめますと、国債の利回りで現状使って将来を考えることは、今の状況ではできないと思いますから、そこを除いた形で、少し戻った形で資本分配率を考えるというやり方が一つではないかと思います。
以上、簡単なモデルの説明です。ありがとうございました。
○植田委員長
ありがとうございました。
御意見、御質問等おありだと思いますが、関連しますので、事務局から資料2について先に御説明いただいて、その後、まとめて議論したいと思います。
それでは、武藤課長、お願いします。
○武藤数理課長
それでは、続きまして、資料2「2014(平成26)年財政検証の経済モデルで用いた各種パラメータ等について」というパワーポイントの横長資料で御説明させていただきます。この資料ですけれども、第1回目の当委員会の議論におきまして、吉川委員より、平成26年当時の経済前提の設定に当たって、外生で与える投資率などの外生変数の具体的な設定手法についての御質問がありましたので、そのことを踏まえて、今回仮定値や実績等を比較した資料などを準備させていただいたという資料でございます。
2ページは、先ほど吉野先生が引用されていた長期の経済前提の設定に用いられている経済モデルの概念図でございます。先ほども話がありましたが、ここで色がついている部分が外生変数となっておりまして、労働投入量やTFP上昇率、資本分配率、固定資本減耗率、総投資率、物価上昇率がございます。
続きまして、3ページ、そのパラメータの設定方法の概要でございます。1の労働投入量につきましては、JILPTによります労働力需給の推計を用いて、マンアワーベースの労働投入量を設定しているところです。具体的に労働市場への参加が進むケースと進まないケースの二通りが設定されております。
2のTFP上昇率につきましては、内閣府による中長期的の経済財政に関する試算等を参考にしながら、幅の広い8ケースを設定されております。
3の資本分配率と固定資本減耗率についてですが、これはいずれも過去30年平均と過去10年平均の2ケースを設定されております。
4の総投資率については、過去からの傾向を外挿したものとして二通りを設定されております。
最後になりますが、物価上昇率につきましては、内閣府試算が経済再生ケースで2%になっていく、参考ケースで1.2%になるということや、過去30年平均が0.6%であったことなどを踏まえて、幅をとった設定とされています。
続きまして、5ページ以降で個々のパラメータの値などを確認していきたいと思います。まずは総労働時間の見通しでございます。これは大きな目で見てみますと、今後は人口減少に伴いまして総労働時間は減少していくという見通しになってございます。ただ、労働市場への参加が進むケース、赤い実線のほうですが、女性や高齢者の労働参加が2030年まで進むということが見込まれておりますので、総労働時間の減少を緩和する見通しとなっております。
6ページがそのもととなっている性別、年齢階級別の労働力率です。労働市場の参加が進むケースでは、赤いほうの線、2030年には男性の60歳代後半で3人のうち2人が働く。あるいは右側、女性のほうはM字カーブが解消していく見通しとなっております。
下に平均の月間労働時間がございますが、フルタイムの方と短時間雇用者の加重平均を見てみますと、やや減少していく見通しとなってございます。
続きまして、7ページがTFP上昇率の設定でございます。これは前回の資料にもございましたし、時々用いているグラフで、ごらんになった方も多いと思いますが、幅の広い8ケースを設定されているというところでございます。
続きまして、8ページは資本分配率ですが、過去10年と過去30年の平均を用いて設定されております。平成26年当時の設定の際に用いた過去の実績が緑色の折れ線グラフのほうでございます。その後、2011年に国民経済計算の基準改定が行われておりますので、青い折れ線となっておりますが、その点について若干補足説明しておきたいと思います。まず、注1にありますけれども、従来の国民経済計算では研究開発費の支出が中間消費とされておりましたが、2011年基準では投資とされるということとなりましたので、その蓄積であるストックは固定資産とするなどの基準改定が行われています。その結果、資本所得は増加するということになりますので、青い線のほうがやや高くなっているという点が留意点でございます。
また、ここでは2011年基準の青い線のほうの1993年以前の値がございませんが、この点、図表の左上の吹き出しに書いておりますように、前回の2005年基準の黄緑色の線につきましても、1993年以前の値というのは、国民経済計算では遡及計算されたものがございませんでしたので、当専門委員会で推計したものとなってございましたので、御紹介させていただきます。
続きまして、9ページは固定資本減耗率ですが、これも前ページ同様でございまして、過去10年と過去30年の平均を用いて設定されているというところでございます。また、基準改定につきましても、従来の有形固定資産が知的財産生産物を含む固定資産となっている点など、前ページで御紹介したようなことと同趣旨の改定が行われているということでございます。
続きまして、10ページは総投資率でございます。ここでは投資と貯蓄の関係が意識されておりまして、過去の議論を振り返ってみますと、高齢化に伴い家計の貯蓄率は低下する傾向であるという一方、企業貯蓄は高まる傾向にあるわけですけれども、公的部門も含めた総貯蓄率を見ると、緩やかな低下傾向にあるということで、ここのグラフのとおりでございまして、過去からの傾向を外挿したものをベースに設定されているというところでございます。
また、政府部門を含めた一国経済全体での貯蓄と投資の差がおおむね海外とのやりとりになるというふうに考えられることなども意識されておりまして、総投資率の傾向を外挿したものから総貯蓄率の外挿を傾向したものに緩やかに推移するケースが一つ。また、総投資率の傾向を外挿したもの。2つのケースが設定されているというところでございます。
以上が前回のパラメータでございまして、このパラメータを設定して、前回推計した結果と実績の接続を見たものが次ページ以降ということになります。
12 ページは、潜在成長率の構成要素の実績と推計結果を並べたものでございます。経済成長をここで見てみますと、赤い部分、TFP上昇率の寄与が大きくなっておりまして、過去の実績が左側、将来が右側のほうですが、将来につきましては、労働投入量の減少に伴って実質経済成長率が低下傾向となる見通しとなっております。
ちなみに、ケースGというのは、8ケースのうちの下から2番目ということになりますので、ケースGのほうはマイナス成長のケースということになってございます。
13 ページは利潤率の推移を見たものでございます。左下に計算式が書かれておりますが、計算式の右辺の2つ目を見ていただきますと、結局、将来の資本分配率や固定資本減耗率が外生パラメータとして固定されているということになりますので、計算で出てくる有形固定資産の対GDP比、いわゆる資本係数のことですけれども、それが低下していくことに伴って、将来の利潤率が上昇していくということになっております。
有形固定資産の対GDP比が次ページということになりますが、2008年度まではこのグラフで見てとれるように増加傾向になっておりますが、その後、傾向が変化して頭打ちになっているということで、それを延長した形の推定結果になっている。つまり、将来は総投資率が緩やかに低下したり、TFP上昇率が高まることなどによってGDPが上昇することもありますので、この数値が緩やかに低下していく見通しとなっております。
以上が資料2の関係でございますが、もう一点、資料はございませんが、補足させていただきたい点がございます。第1回の当専門委員会での議論におきまして、駒村委員より、当方が年金数理部会の報告書から引用させていただいた記述について、年金数理部会の議論を踏まえて記述されたもので、議事録を確認してほしいというお話がありましたので、御紹介させていただきます。当方が年金数理部会の報告書から引用させていただいた記述というのは、マクロ経済スライドの調整終了年度に関する記述でございまして、具体的には「今回の財政検証のように複数のケースが並列的に扱われたままでは、最終的局面で当該終了年度を決定できず、財政検証の重要な目的を一つ果たせなくなるのではないかということが懸念される」という部分でございました。
議事録を確認いたしましたところ、年金数理部会における御質問で、平成26年財政検証は、1階の基礎年金の部分と2階の厚生年金報酬比例部分でマクロ経済スライドの調整終了年度が異なるわけですが、報酬比例部分がケースAなどの高成長のケースでは5年以内に終了するという点を踏まえて、どのケースを採用するか決めないと調整終了の措置がとれないが、その点をどう考えればいいのかという御質問が実際に数理部会でございました。
その質問に対して当方から、特定の高成長のケースで早く終了する見通しがあったからといって直ちに終了するというわけでなく、今後総合的に考えていく話というふうに御回答をさせていただいたというやりとりを踏まえて、前回の資料のような記述になっていたということを御紹介させていただきたいと思います。
私からの説明は以上です。
○佐藤数理調整管理官
続きまして、資料3について御説明させていただきたいと思います。
年金局数理課数理調整管理官の佐藤でございます。
資料3の近年の経済成長率と賃金上昇率の動向についてでございますが、この資料は、第1回の当委員会におきまして、玉木委員と吉川委員より、近年実質経済成長はしているものの賃金がふえていない現象について、よく調べてみる必要があるのではないかといった御意見がございました。そこで、事務局のほうでSNA統計とか賃金統計のデータを整理したものになります。
この資料は、特にバブル崩壊後の直近20年について、経済成長率と賃金上昇率の関係がどのようになっているかというものを調べたものであります。当委員会のモデルにおいては、マンアワーベースの実質経済成長率を時給ベースの実質賃金上昇率とみなして賃金上昇率を設定しております。ですから、こういったデータも参考にしながら今後の御議論をお願いできればと考えているところでございます。
資料3、表紙をめくりまして、1ページでございます。こちらが内閣府で推計している実質経済成長率、潜在成長率、及び潜在成長率を分解したTFPと資本投入、労働投入の過去30年ほどの推移になります。こちらを見ますと、先ほど数理課長から説明がありましたように、TFPの寄与が大きいということが分かります。特に直近20年、1996年から2015年までの平均で見てみますと、実質経済成長率と潜在成長率はともに0.8%とプラス成長ということになっているところであります。さらに、潜在成長率の寄与を分解してみますと、20年平均でTFPが0.9%、資本投入が0.2%。労働投入のほうはマイナスの0.3%となっているところでございます。
2ページでは賃金上昇率がどのようになっているかということで、経済成長率と賃金上昇率を比較したものになります。賃金上昇率については、厚生労働省の毎月勤労統計調査の現金給与総額の伸びを被用者全体で見たものになります。直近20年を平均してみますと、経済成長率は、実質でプラス0.8%、名目でプラス0.2%となっているわけですが、賃金上昇率のほうは低い伸びになっておりまして、実質でマイナス0.7%、名目でマイナス0.6%となっているところでございます。
経済成長率と賃金上昇率を比較いたしますと、実質の差のほうが名目の差より大きいということがわかります。これはデフレーターの差というものでありまして、経済成長率はGDPデフレーターをもとに実質化しているというのに対して、賃金上昇率のほうについてはCPIをもとに実質化しているために生じていることになります。
そこで、3ページがデフレーターの違いがどういうふうになっているかというものを比較したものになります。CPIが上の赤い点線で、GDPデフレーターが青い実線になりますが、これを比較いたしますと、大体CPIのほうが水準が高くなっておりまして、動向も少し異なっているということになっております。
この違いの要因の一つといたしまして範囲の違いがありまして、CPIは家計の消費の物価水準を見たものであるのに対して、GDPデフレーターについては政府消費や資本形成の物価というものも範囲に入ります。あと、輸出品も範囲に入る一方、輸入品については国内生産の物価を見るという観点から控除されるということになっているところであります。
そこで、SNA統計のほうでCPIと範囲がおおむね同じと考えられる国内家計最終消費支出のデフレーターをとったのがオレンジの線ということになります。そうしますと、動向はおおむね同じとなりますが、水準はCPIの方が高くなっておりまして、直近20年の平均を見ますと、GDPデフレーターがマイナス0.7%ということに対して、CPIと範囲がおおむね同じになります国内家計最終消費支出のデフレーターがマイナス0.4%、消費者物価指数はプラス0.1%ということになります。
さらに、この範囲の違いについて、どこで差が出ているかというのが右下の表になりまして、これを見ますと、輸出入の影響が大きく、輸出物価がマイナス0.7%と大きく低下しているということと、控除項目の輸入物価のほうがプラス1.5%と大きく上昇しているということで、そこが寄与いたしまして、つまり、交易条件が悪化しているということから、GDPデフレーターが低下していることが見てとれるところであります。
次に、今、見ていただいたように、同じ家計消費で見てもSNAのデフレーターとCPIで水準が異なっているということでありますが、この違いについて、次のページに総務省統計局のQ&Aがありますので、それを紹介したいと思います。GDPデフレーターとCPIの違いについて、一つは先ほど見ていただきました範囲の違いというものがありますが、もう一つの違いといたしまして、算式の違いがあるということが紹介されております。算式の違いについて、CPIはラスパイレス指数という計算方法で行っておりまして、GDPデフレーターのほうはパーシェ指数で算出しております。
この違いについて、数量ウエートをとる時点の違いということになりますが、ラスパイレス指数は過去の基準時点、パーシェ指数のほうが直近の比較時点でウエートをとるという違いになります。そうすると、品質向上や消費行動の変化によって、価格の下落した品目のウエートが次第に大きくなるという傾向があるため、パーシェ指数で計算したGDPデフレーターのほうが一般的に低くなるということが指摘されているところであります。
続きまして、5ページですが、GDPについては、マクロの数字であるのに対して、賃金上昇率は1人当たりの数字でありますので、マクロの数字と1人当たりの数字を比較するということで、就業者の推移を労働力調査で見たというものになります。これで過去20年ほどの就業者数を見てみますと、おおむね横ばいであるということがわかりますが、その内訳は変化しておりまして、自営業者が減って、雇用者数がふえていることが見てとれます。雇用者数は直近20年で平均いたしますと、0.4%の増加となっているところでございます。
続きまして、6ページは雇用者の内訳の変更を見たものとなります。雇用者についても内訳が変化しておりまして、よく知られているところでありますが、正規雇用者数が減少して、非正規雇用者数が増加しているということが見てとれるところでございます。
続きまして、7ページが1人当たりの労働時間の推移を見たものであります。先ほど見ていただいたように、非正規雇用がふえた結果、1人当たりの労働時間が減少していることが見てとれます。点線が労働力調査、自営業も含む就業者全体で見たものでありまして、一番下の実線が毎月勤労統計調査で被用者全体で見たものになりますが、どちらも減少してきておりまして、過去20年平均で見ますとマイナス0.5%ぐらい減少しているということであります。
一方、毎月勤労統計調査で一般労働者とパート労働者に分けても見ておるわけですが、一般労働者で見ると減少は緩やかになっておりまして、パート労働者が増加して、被用者全体の1人当たりの労働時間が減少しているということが見てとれるところであります。
次の8ページは、1人当たりの賃金の推移を毎月勤労統計調査で一般労働者とパート労働者に分けて見たものになります。被用者全体で見ますと、過去20年平均でマイナス0.6%、賃金が低下しているというところでございますが、一般労働者とパート労働者で分けてそれぞれの賃金を見ますと、賃金の減少傾向は見られなくなるということであります。賃金の低下についても、パートが増加しているから起こっていることが見てとれるものでございます。
続きまして、9ページが、さらに賃金の推移を時給換算で見たものになります。時給換算で見ますと、1人当たりの労働時間が減少する中、被用者計で見ても賃金の減少傾向は余り見られなくなるということでありまして、一般とパートに分けてみますと、特にパート労働者の賃金は増加傾向にあることが見られるということであります。
続きまして、10ページは、SNA統計のほうに戻りまして、就業者1人当たりや労働時間当たりで経済成長率を見たものになります。そういたしますと、特に時間当たりの経済成長率というのは、過去20年平均でプラス0.7%ということで、バブル崩壊後の20年で見ても労働生産性が上昇していることが見られるところであります。
続きまして、11ページですが、では、賃金の低下というのは、SNA統計のほうでどういうふうになっているかということを見てみたものであります。経済成長率というのはGDPの伸びをあらわしていますが、GDPについては、労働に分配される賃金とかのほか、資本に分配される部分も含まれております。そこで、SNA統計のほうで労働に分配される雇用者報酬の伸びを見たものが赤の線となります。
また、雇用者報酬については、福利厚生費とか社会保険料の事業主負担に相当する事業主の社会負担というものが含まれておりますので、これを除いた賃金・俸給、本当に労働者に賃金として払われる賃金・俸給の伸びを見たものがオレンジの実線ということになります。そうすると、過去20年平均で見ますと、名目経済成長はプラス0.2%であったわけですが、雇用者報酬の伸びはマイナスになっておりまして、マイナス0.1%。賃金・俸給の伸びはさらに低く、マイナス0.3%になっているということです。つまり、これはGDPの構成割合が変化しているということでありまして、GDPの構成割合がどういうふうに変化しているかというものが12ページということになります。
ここで見ていただきたいのが、真ん中の紫の部分ですけれども、自営業者の所得である混合所得の比率が、自営業等が減少しているということに伴って、20年間で構成比で3.5%ほど低下しております。下のほうに20年間のGDPの構成割合の変化というものを載せております。
混合所得については、労働分配と資本分配がまじっているものになるわけですが、その減少分を埋め合わせたのが一体どこかと見てみますと、資本分配に相当する営業余剰や固定資本減耗が増加しておりまして、労働分配に相当する雇用者所得のほうは、20年間で2.6%ほど減少しているということです。つまり、これは労働分配率が低下して、賃金が抑えられているということが見てとれるということであります。
さらに、下から2つ目の部分、社会保険料の事業主負担の増加に伴いまして、雇用主の社会負担が20年間で1.3%ほどふえています。その結果、実際労働者に払われる賃金・俸給の構成割合は、対GDP比で言いますと3.9%減少して、賃金の伸びが抑えられているということであります。
その結果、13ページが労働分配率がどういうふうに推移したかというものを計算してみたものになりますが、特に1990年代の終わりごろから2000年代前半にかけて大きく低下しておりまして、過去20年間ほどで4ポイントほど低下しているということが見てとれるところであります。
続きまして、14ページは、名目の経済成長率とSNAで見た賃金・俸給の伸びを労働者1人当たりや労働時間当たりで比較したものになります。経済成長率につきましては、先ほど見ていただいたとおり、プラス成長となっているわけですが、SNA統計で賃金・俸給を雇用者1人当たりで見ますと、マイナス0.6%とマイナスになっておりますし、時間当たりで見た場合でもマイナス0.2%ということで、マイナスの伸びとなっているということです。
SNA 統計で見た賃金・俸給の雇用者1人当たりの伸びマイナス0.6%というのは、前に見ていただきました毎月勤労統計調査、賃金統計のほうで見ました現金給与総額の伸びと同じ率となっているというところでございます。
以上見てきた過去20年間の平均の伸びをまとめたのが15ページとなります。実質経済成長率を労働者1人当たりで見ますと、右上のほうになりますが、20年間平均で0.9%伸びているというものに対して、毎月勤労統計調査で見た実質賃金上昇率はマイナス0.7%。右下になりますが、その差は1.6%ほどあるということになります。その差の要素といたしましては、半分ぐらいはデフレーターの違いがあります。また、デフレーターの違いによるものの内訳といたしましても、範囲の違いが0.3%ぐらいで、算式の違いが0.5%ぐらいということになるところであります。
残りが名目の労働者1人当たりの経済成長率0.3%と、毎月勤労統計調査の名目賃金上昇率はマイナス0.6%の差となりますが、この差のうち0.7%程度につきましては、労働分配率が低下したことによって、雇用者1人当たりの雇用者報酬の伸びが低下した分に相当するというところでありまして、残りの0.2%程度は、労働分配された中でも事業主の社会負担が増加したということで、賃金・俸給の伸びがさらに低下したというところに相当いたします。こういうふうにまとめさせていただいたところでございます。
私の説明は以上でございます。
○植田委員長
ありがとうございました。
非常に多岐にわたりましたが、やや無責任ですが、どの部分でも結構ですので。どうぞ。
○小黒委員
ありがとうございます。
最初の2つ、吉野先生と資料2について質問させていただきたいのですけれども、吉野先生が指摘された点は非常に重要だと思っておりまして、具体的に言いますと、資料の6ページになるのかなと。あと、もともとの考え方だと思うのですが、最初の資料の6ページ目と3ページ目のところは少し考え方が違っているのかなと思い、その辺についてご質問させていただきたいと思います。はっきり申し上げると、まず資料の6ページ目のほうは、どちらかというとフロービュー、国債のフローでのやりとりのインパクトを中心にした図で描いてある一方で、多分全体としてはストックビューというか、日銀がどれだけ国債を持っていて、マーケットがどれぐらい消化しているのか、そこのところで長期金利が決まってくる。あとは長期金利との関係を含め、利潤率との関係も考えなければいけない、そういう説明だったと理解しています。
そうしますと、ちょっと難しいなと思ってきたのが、フロービューであれば、日銀が今やっているのはステルステーパリングとかがありますが、一時期はネットで年間80兆円ぐらいのスピードでふやしていた国債を、今は、外生的に見れば年間60兆か50兆ぐらいで買っているということで、推計する我々としても予測が立つわけですが、もしストックビューのほうで見るのだとすると、最終的には出口をどういうタイミングでやっていくかということのシナリオが長期金利に影響を与えるということになるので、かなりいろんなケースが考えられて、複雑になってくると思います。
ですので、もし可能であれば、吉野先生の頭の中で、どういうふうに外挿すれば長期金利とMBとの関係を整理することができるのかということについて、もしヒントがあれば教えていただきたいなというのが1点目です。ちょっと難しいかもしれないですけれども。
もう一つが資料2のほうのパラメータの設定ですけれども、13ページ目のスライド、利潤率との関係がありますが、これが上がっていく理由は、GDP比での有形固定資産が低下していくからだという話があるわけです。ですけれども、14ページを見ますと、確かに足元では下がってきているのですが、トレンドとしては、1980年から直近までどちらかというと伸びていっている形になっていますので、14ページみたいな形でトレンドとして下がっていくと設定するのが本当に適切なのかどうかということについて、少し御説明いただけないかなというものが2点目の質問になります。
よろしくお願いします。
○吉野所長
まず、小黒先生の御質問のストックかフローかというところですが、きょう自分で説いた論文のモデルは持ってこなかったのですけれども、あそこでやっているのは、毎年の政府の予算制約式から発行のフローのほうが決まってきまして、それから消費とか貯蓄のほうから国債の需要が決まって、そこに日本銀行が入ってくるので、ここの図の先ほどの御指摘のように、国債の利子率はフローの市場で決まっているとモデルでは考えていたと思うのです。
○小黒委員
金融政策と長期金利の関係についてここで議論すると、議論が拡散してしまう可能性があるので、余り深入りはしないように質問させていただきたいのですが、個人的には、日本銀行が80兆円で買っていたものを、ステルステーパリングで60兆円か50兆円かわかりませんが、相当ボリュームを減らしていると。他方で消費税も引き上げて、それなりに新規国債発行も減っているという2つ効果があるのだと思うのですけれども、今の日本銀行のスタンスを見ていますと、個人的にはストックビューのほうがきいているような気もしていまして、吉野先生がおっしゃられるフロービューのほうとどちらが正しいのかという論争になっているので、私もわからないのですが、そこら辺が推計の2つに影響してくるのかなと。
○吉野所長
国債市場で見ると、ストックでバイ・アンド・ホールドで持っている人の国債は市場には出てこないわけです。セカンダリーマーケットに出てくる人とプライマリーマーケットに出てくる人たちのところから決まってくるのだと思うのです。そういう意味ではフローの市場から決まってくるのであって、持っている人は市場に出さないですから、セカンダリーマーケットでも出てくる。ストックで持っている人でもセカンダリーマーケットで売る人と、それから新発債のところでのフローの供給、それに対して、日本銀行も含めた需要のところから決まるというのがこの図で、多分そちらだと思います。
○植田委員長
どうぞ。
○武藤数理課長
2点目の有形固定資産の対GDP比の推移に関する御質問ですけれども、これはきょうの資料で上に吹き出しをつけておりまして、2つ目の丸の要素が大きいかなと思っておりますが、1つは総投資率の将来の設定、1つはGDPが将来どうなっていくかということだと考えております。つまり、総投資率自体がパラメータとなっておりまして、過去から緩やかに低下していく傾向を将来に当てはめて、将来も徐々に低下していくという傾向になって設定しているのが1つ。
あと大きいのはGDPなのですが、これはケースによるわけですが、高いほうのケースですと、TFP上昇率が高まることにつれてGDPが上昇するということになって、この比率が緩やかに減っていくということかなと思っております。
実際の資本ストック自体は、前回の議論のときは、リーマンショックぐらいまでに上昇した傾向と、資本ストックがそこから傾向が変わって金額が減り始めたという状況を確認して、将来推計につきましても、資本ストック自体、これはケースによるわけですが、例えば成長するケースCの値を見てみると、資本ストック自体は上昇していくという中で、資本ストックの伸びよりも分母のGDPのほうが大きいということで、こういう値になっているということかと思っております。
以上です。
○植田委員長
吉川先生、どうぞ。
○吉川委員
事務局から賃金について詳しい説明をしていただき、ありがとうございました。大変参考になると思いますし、それについて言いたいことはあるのですが、それはきょうのテーマとはずれるので、メーンテーマ、初めに吉野先生から説明があったのですが、それとの関連で、私は経済学のほうからバックグラウンド的なコメントをさせていただきます。
2点あります。1つは、吉野先生も数回言及されたと思いますが、資料2の2ページ、我々の長期推計の経済モデルの基本的なフレームワーク、一番上にある成長会計の式で、実際にこのフレームワークで見ると、日本経済の場合でもTFPの寄与が大きいという御説明もあったと思うのですが、吉野先生から石油価格に関するお話があったのです。確かに過去20年ぐらいの日本経済をとってみても、あるいはもっとさかのぼっても、石油価格の動向が交易条件を通して日本経済に大きな影響を与えるというわけですが、私の指摘は、交易条件の変化、石油価格の大きな変化というのは、70年代のオイルショックの後、ちょうど40年ぐらい前、ブルーノとかサックスが盛んにやったのですが、要するに、成長会計で言えばTFPに反映されてくるのです。
2ページの成長会計の式というのは、もちろん成長率というのはGDPでやるわけですけれども、これは御承知のとおり付加価値。もともとの原材料も使うようなグロスの生産関数から出発して、石油をインプットに入れておいてやると、石油価格の上昇というのは、付加価値ベースでのこうした生産関数、例えば石油価格が上がった場合には、TFPの下落として反映されてくると。いずれにしても、私たちの推計は、TFPに関しては外生的に複数の想定を置くわけですから、今の話というのはバックグラウンドになるという話だと思うのですが、吉野先生が言及された原油価格の動向、それは今後も日本経済に大きな影響を与える可能性があるわけですが、そこは繰り返しになりますが、TFPの変化に全て反映されてくるものだということはノートしておいてもいいのではないかというのが1点目です。
2点目は、小黒先生から余り立ち入らないほうがいいだろうというお話もあったのですが、お話を伺っていて、一つ、ストック、フローの話というのは昔からあるのですが、それについては、ダンカン・フォーリーという学者がいて、その人が1975年ぐらいに「ジャーナル・オブ・ポリティカル・エコノミー」という雑誌にツー・スペシフィケーションズ・オブ・マクロモデルズ。正確でないかもしれませんが、要するに、ストックモデルとフローモデルというのがあって、どういう場合にそれがコンシステントになるかということがあると。これはバックグラウンドのインフォメーションとしてお知らせします。必ずしも矛盾しないという話です。
それから、私たちの関心で一番重要なのは長期金利の動向、とりわけ実質金利の動向ということなのですが、これもバックグラウンドになって恐縮ですが、経済学の歴史を振り返ると、一つ大きな話として、金融政策、マネーが長期の実質金利に影響を与えられるかというビッグイシューがあるわけです。それに対してイエスと答えたのがケインズということだと思います。
一方、長期の実質金利に金融あるいはマネーが影響を与えないと考えた大経済学者というのもいるわけで、その代表選手がリカードです。リカードは、19世紀の頭の経済学者ですから大昔ではありますが、要するに、バンクオブイングランドが何をやっても金利に影響を与えることはできないと。なぜなら金利は利潤率によって決まるものだからだと。それはある意味ではここでのアプローチに近いのかもしれません。リカード自身は、今、お話ししたとおり、大昔、ナポレオンのころの人ですが、この考え方というのは、基本的には20世紀の頭まで踏襲されたというふうに考えていいと思うのです。そういう意味ではケインズというのは本当は異端だったということだと思います。
もう一人、20世紀で金融から金利は独立だということを強く言った有名な経済学者がシュンペーター。シュンペーターは、マネー、金融というのは金利に影響を与えないと。シュンペーターと言えばイノベーションと。皆さん御存じのとおりなのですが、それを説明した彼の若いころの経済発展の理論、イノベーションと。言葉は「新結合」という言葉で言いましたが、あの本は利子論、利子がどうやって決まるかという本なのですけれども、実質利子率を決めるものはイノベーションだと。イノベーションは、言うまでもなくリアルなもので、金融というのは一切影響を与えないと。
中央銀行のいろんなマネタリーなアクション。例えば国債を買うでも何でもいいのですが、私は極論だと思いますが、そういうものがポリティカルな儀式にすぎないとまで彼は言っていたわけで、徹頭徹尾実質利子率というのはリアルなもので、利潤率で決まる。その点ではリカードに近い。利潤率を決めるのがイノベーション。私たちのこのフレームワークで言えばTFPということになるのだと思いますが、こんなことを言っていた。
ただ、私自身はどう見ても、吉野先生のお話にもありましたが、今の長期金利の動向というのが日銀のアクションから独立した。ちょっと考えられないのです。ですから、一方で、リカードとかシュンペーターが言うようなリアルなファクターが重要だというのは、長期的には特に間違いないと思いますけれども、もう一方で、中央銀行のアクション、金融政策が大きな影響を与えると考えざるを得ない。そこをどうつじつまを合わせるかというのがビッグイシューなのですが、いずれもバックグラウンドのようなインフォメーションですが、意見を述べさせていただきました。
○植田委員長
今の点について、私からもよろしいですか。
金利の決まり方について、フローかストックかという議論がありましたが、昔からどちらのほうが正しいという説も両方あって、なかなか決着はつかないのだと思うのですが、とりあえず足元の日本の国債等の金利の決まり方を見ますと、日銀が買っている国債の量との関係は薄いのだと思うのです。むしろ金利をターゲットにしていますので、例えば長期金利が上がるようなショックがあれば、日銀は買いオペの量をふやしますし、放っておいたら下がってしまうようなところであれば、経済状況が買いオペの量を減らす。結果として長期金利は0%近辺に落ちついているというのが現状ですので、とりあえずイールドカーブ・コントロールにシフトした後の最近では、金利と量の間の関係というのは非常に薄くなっていると思います。それと長期的に金融政策が金利、さらに実質金利にどういう影響を持つかという吉川先生のお話とはまた別の観点かと思います。
それから、吉川先生から、例えば交易条件が悪化するというのは、ある種の理論的フレームワークではTFPの減少と捉えられるというお話がありまして、そのとおりだと思いますが、先ほどの事務局の資料3の計算では恐らくそういうふうに出ていなくて、TFPの計算のもとにあるのが実質GDPでしょうから、実質GDPは交易条件の悪化で減少するというふうにならないですね。基準時点で価格を固定しているように計算していれば。もちろん名目GDPには影響してきますが、その結果どこにあらわれるかというと、デフレーターのところの変化にあらわれてくるということですから、あるいは交易条件の悪化の効果がこの計算でTFPが下がるというふうには出ていなくて、むしろGDPデフレーター、先ほどの輸出入のところ、交易条件の悪化で大きく低下しているというところに反映されているのだけれども、結局、賃金所得のところは余り上がっていなくて、その意味合いを考えてみると、吉川先生が言ったようなことだということのように思います。GDPを連鎖指数でつくっていれば、また別の話ですけれども。
次に、小枝先生。
○小枝委員
私から、事務局のモデルの2ページのところに1点コメント。先ほど吉野先生からも利潤率と実際市場で観察できる実質長期金利の乖離というお話があったわけですが、私の理解だと、モデルの予測では、利潤率の変化率というのは、実質長期金利の変化率を1対1の関係で決めているという仮定があるのだと思います。私としては、それは縛りが強いのではないかなと思っておりまして、運用利回りとしての長期金利と考えると、リスクプレミアムの動きというのは非常に大事で、先ほど吉野先生も、日銀が金融政策でリスクプレミアムを押し下げている、小黒先生も今後出口を考えると、リスクプレミアムが上がるというのを懸念されていることもあったと思うので、やはりリスクプレミアムを考えてあげると、別にここに1対1の関係を仮定しなくてもいいのではないかなと個人的には思っています。
参考に、例えばアメリカではここをどうやって仮定しているのかを考えると、たしか前回御報告があったと思うのですが、シンプルにヒストリカルアベレージ、過去何十年の平均をとって、その上と下を3つ考えているという感じだったと思うのです。利潤率だけで決めてしまうと、リスクプレミアムはモデルしていないということになるので、このようなシンプルな方法もありうるのかもしれません。
○植田委員長
そこは過去のリスクプレミアムを単純に推計して、将来もそれになるという形でこれまではやっていたのだと思うのです。
○小枝委員
実質長期金利。
○植田委員長
はい。
○小枝委員
では、私の理解がちょっと間違っていた。
○植田委員長
こういうモデル計算から大まかには資本のリターンを計算するわけですね。将来のいろんなパラメータを置いて、将来の資本のリターンを計算してやって、それをとりあえずJGBとか債券の金利に直すためにそこにリスクプレミアムがありますね。モデルに基づいたリスクプレミアムの直接の推計は行わないで、むしろ過去のデータで利潤率とJGBの間にどれくらいのリスクプレミアムがあったというのを推計して、この推計値を将来にも当てはめてしまうという作業をしていたのです。
○小枝委員
では、もうそこは考慮されていたということなのですね。
○植田委員長
はい。
○米澤委員
インプリシットに考慮するという理解です。
○小枝委員
そうだったのですね。私の理解不足で。
利潤率の変化と実質長期金利の変化、予測の部分で1対1の関係に。
○米澤委員
やっているのはそうですけれども、切片とか係数とかにリスクプレミアムが反映されているということは考えられる。
○小枝委員
なるほど。では、レベルでアジャストしていて、リスクプレミアムは将来変わらないという仮定をおいていたのですね。
○植田委員長
そこは今後どうするか、また御議論いただきたい。
○植田委員長
駒村先生。
○駒村委員
前回から参加しているのですけれども、今の資料2の2ページ目の利潤率と実質長期金利の関係の議論というのは、前回も終盤戦で一番重要になった話でありまして、前回の推計も利潤率と実質長期金利はこれまで一定の相関関係があるということで、今、資料を見ていると、2012年までの期間での相関関係があると。ただ、あのときの議論は、データ等で確認してもらいたいのですが、今、資料を見ていると、0.68の相関があると。先ほども1対1の関係があるという話だったのですけれども、ただ、統計的に有意かどうかということからやや疑問があって、少し議論があったと記憶しています。この利潤率と長期金利の間の関係というのは大変重要になってくると思います。というのも、この数字から次の星印が入っている運用利回り、つまり、GPIFの運用利回りの目標値みたいなものが出てきたと思いますので、ここのところを、きょうの吉野先生の御報告も踏まえて、従来どおりこれを踏襲するのか、違うやり方をするのか、ちょっと考えなければいけない。実際にGPIFのアクションにも影響を与えている数字ではないかなと思いますので、ここは少し集中的に議論したほうがいいのではないかと思います。
○植田委員長
米澤委員。
○米澤委員
私がまとめるのも恐縮ですけれども、問題は大きく金利の部分と賃金上昇率の部分の2点。それが全てと言えば全てなのですが、最初に賃金上昇率のほうを確認させていただきたいのですが、きょう事務局のほうからの説明がいろいろあったので、まだ全部消化できていないのですけれども、15ページのまとめのところを見ますと、これまではGDPの将来の値を推計して、かつ労働分配率が一定と仮定して、それでもってマンアワーか何かで割り算すると、その結果として賃金が出てきて、その伸び率が出てくるというプロセスを踏んだと理解しています。そうすると、どう見ても常識的よりかも高い賃金上昇率が出てくるなというのは、そのときも感じていたわけですし、国会等でも何か議論されたと聞いておりますが、15ページのところをもう一回まとめますと、仮に労働分配率のところはほぼ一定だとしても、デフレーター等の調整をちゃんとやれば、もう少し低いといったら語弊がありますが、違った数字が出てくることがあり得るという理解でいいのでしょうか。そこのところを最初に確認したいと思います。
○佐藤数理調整管理官
デフレーターの差、過去の実績を見ますと、過去20年間で0.8%ぐらいCPIとGDPデフレーターは差があります。そのうち0.3%ぐらいは範囲の違いとして、交易条件の変化が主に影響していて、0.5%ぐらいが算式の違いだというふうにまとめているところです。専門委員会の前回のモデルで言いますと、TFPというのは基本的にGDPデフレーターで実質化されたものだと考えています。GDPデフレーターで実質化されたTFPをもとに実質成長率を出しています。一方、年金の試算のほうは、年金はCPIを基準に年金額とかが改定されていますので、財政検証で必要なのは対CPIでの実質賃金ということになります。つまり、専門委員会のモデルでGDPデフレーターをもとに計算した実質成長率をそのまま対CPIの実質賃金とみなして使っていたということになるところであります。
○米澤委員
私、もう一回勉強します。少し賃金上昇率が高目に出てくるのではないだろうかなという印象がもとの委員からも出ていたような。コブ・ダグラスみたいなのを想定すると高目に出てきてしまうような傾向があるので、ちゃんとプロセス、丁寧にやればもう少し違った数字が出てくるのか。さもなければ、そこは同じように出てくるので、そうしますと、コブ・ダグラスのところから直さなくてはいけないのか。かなり入り口が分かれるのかなと思ったので、確かめた次第です。またいろんなところで教えていただければと思います。
もう一点のほうは金利の話なのですけれども、前回も途中から利潤率にリンクさせないで、マーケットに聞くということで、インプライドの金利というのも一つ設けたわけですが、知りたいのは実質長期金利のものですので、ここがうまくはかれればいいので、正攻法で生産関数から利潤率を求めて、そこで工夫してやるという方法だけではないのではないかと思います。
もう一つは、前回もちょっと言いましたけれども、消費のほうから金利を測る方法もあります。危険回避度とか余計なパラメータを入れなければいけないし、それを入れたとしてもバイアスがかかるというのは有名な話なのですが、その辺もにらみ合わせながら、将来に関して、消費のほうが安定したデータが得られるのではないだろうかということで、そこで求めた金利とこれまでの推計方法で求められた金利が乖離がないかどうかをどこかでチェックしてみる必要があるかなという感じがしております。
最後はコメントですけれども、きょうの吉野先生のAD-ASの話も含めて、これは最近の教科書的に言うと短期の話ですね。長期では新古典派で行くのもあって、その周りをどういうふうに動くかという話なので、我々が求めているのは新古典派的なところで決まっていて、その周りでGDPギャップと言っていいのでしょうか、そういうところがあるということですね。今回の吉野先生の11ページも、そういう点から見ますと、最近よく言われるのですけれども、今、この経済が完全雇用だというふうに理解しますと、完全雇用以上かもしれませんが、少し昔の人から言わせると、デフレのもとで完全雇用なんてあり得ないという話なのですけれども、一つサプライカーブのほうがシフトすれば、長期的にはわかりませんが、短期的にはデフレでもって完全雇用というのは幾らでもあり得るということの一つの証左なのかなと理解しております。
以上です。
○植田委員長
ほかにいかがでしょうか。どうぞ。
○小黒委員
ありがとうございました。吉野先生の話もすごくよくわかりました。
先ほど米澤先生がおっしゃられた賃金の高目の話と利潤率の話がリンクしていると思うのですが、コブ・ダグラス型の関数ですので、基本的には資料の10ページ目、総投資率のところと13ページの利潤率の推移と14ページが関係していると思っていまして、私がちょっと気になるのは、13ページ目の利潤率の推移のところが、推計の結果、出ている部分と、それ以前の過去の部分がモデルで接続するとどうなっているのか。要するに、実績のトレース(追跡)がどれぐらいできているのかということがちょっと気になります。
13 ページの前回の推計値のケースC、E、G、推計の前のところを過去の部分がどれぐらいトレースできているのかと。もしこの部分が過去のトレンドと同じような形で接続しようとしたときに、違った形に出てくるということが可能性としてあり得るとすると、10ページ目のところの総投資率であるとか、あるいは14ページ目のところと関係しているのではないか。
もし利潤率がそういった形の推計値で低く出てくるのだとすると、コブ・ダグラス型の関数ですので、当然賃金率が変化してくるということだろうと思うのですが、その辺のデータを見せていただくということは可能なのでしょうか。
○佐藤数理調整管理官
13 ページの推計と実績の関係でありますが、利潤率の計算は、将来に向けては左下にあるような式で計算しております。利潤率が実績とちょっとつながっていないように見えるところは、資本分配率と固定資本減耗率は直近の足元の数字ではなくて、将来推計に入るところで過去10年平均とか過去30年平均を用いているというところで、ちょっと接続が悪く見えるというふうになっているところであります。
必要なデータについては、また整理してお示ししたいと思います。
○植田委員長
吉川委員、どうぞ。
○吉川委員
小黒先生が言われた利潤率、13ページと資料3の1ページ。ほかのページにもあるかもしれませんが、ここに実質成長率の図があります。利潤率と実質成長率のグラフ、重なっている部分が1985からでしょうけれども、重ねてみると、基本的には実質成長率と利潤率はほとんどパラレルに近い形で動いているわけですから、そういうものだということで、理論的にもそれは必ずしもおかしいことではないわけで、短期的なアップダウンがトレンド的なものとは別に相当。逆に言えば、短期的なアップダウンですら成長率がかなり利潤率を規定しているとも言えるわけで、ですから、成長会計の式で成長率のほうを押さえておけば、利潤率のほうもそれなりにそこから計算して、そこそこいけるのではないかなと思います。
○植田委員長
権丈先生、どうぞ。
○権丈委員
財政検証が終わったら、年金に関してはメインは所得代替率で議論することになります。実際の名目年金給付額とか名目賃金というものよりは所得代替率で議論していくことになりますので、例えば金利のところが高くなってスプレッドが大きくなると、所得代替率が高くなっていくだろうなというのはあります。ただ、いろんなところでの誤差は所得代替率の分母と分子のところで結構相殺していくところがあるのかなと思っております。
次回とかいうわけではないのですけれども、将来に向かって1年後でもつくってもらいたいと思うのが、所得代替率の分子と分母に対して、2ページの前提がどのような影響を与えていて、それがパラレルに動かないときの制度要因というものは一体どういうものなのであってという形をどこかでまとめていただけると、非常にわかりやすくなると思います。と同時に、昨年の年金改革というのは、年金給付というものが所得代替率の分母にパラレルに動きやすいように感応度を高めていくというのがあったと思うのですが、財政検証の中で、マクロ経済スライドをきかせている間と、それが終わったところは状況が随分変わってくると思うのですが、そこに制度要因がどういうふうにかかわっていて、所得代替率にどんな影響を与えていくのか。例えば賃金が過大に推計される側面があるということであるとすれば、これは分子のほうの年金のところで相殺されていくような状況になっていく形で、最終的にこの財政検証が終わった後の我々の関心、メインに議論をしていくのは所得代替率のあたりの話になっていくので、それと図2の関係がどうつながっているかというのを1年後でもいいので整理していただければと思っております。そして、今後どういう改革をこの中で組み込もうとしているのかということも入れていただければと思います。
どうもありがとうございました。
○植田委員長
どうぞ。
○吉川委員
今、権丈先生が言われた点で一つはっきりしているのは分配率ではないですか。分配率のところは明らかというか、それに資本分配率を上げれば、金利のほうは利潤の取り分がふえるわけですから、リスクプレミアムをどう考えようと金利のほうは上がる、リターンは上がる。一方、労働分配率は下がるわけですから、現役世代の賃金は下がる。したがって、先生がおっしゃっている所得代替率は上がるのですかね。上がるケース。逆だったら下がる。いずれにしても、労働分配率ないしは資本分配率に大きな影響が出るということなのではないですか。
○植田委員長
ほかにいかがでしょうか。
事務局のほうから何か補足的にございますか。
○武藤数理課長
特段のことはございませんけれども、本日の議論あるいは前回の議論でも大変高度な内容になっておりまして、事務局としてもついていくのが大変なのですが、大変有意義な意見をいただいていると思っておりますので、事務局としましても、きょう出た意見あるいは前回出た意見のうち対応可能なものから資料を準備させていただきたいとい思いながらお話をお聞きしているところでございます。
○植田委員長
特にぎりぎりまでやらなくてはいけないということもないと思いますので。
まとめ的には、皆さん、割と強調されていた点として、これまでの作業は、成長会計的なフレームワークを用いまして、貯蓄ないし投資率に関して前提を置いて将来の利潤率を定めて、先ほど議論に出ましたように、リスクプレミアムのところを簡単に仮定して、長期金利の動向、将来の浮き、あるいは将来の姿を予測してみるという作業をしていたのですが、そこがそういうやり方、リスクプレミアムの置き方も含めてよいかどうかという議論がかなり出たかと思います。
きょうは余り出なかった点としまして、GPIFの運用は、現実には国内資産は半分前後ということになってしまっているわけですが、こちらのモデルでは一応閉鎖経済のモデルを前提にして、運用利回りをはじこうとしているという点をどういうふうに考えるべきかという点もあるように思います。
それでは、よろしければ、きょうはここまでにさせていただきたいと思います。
事務局より何か御連絡がございますでしょうか。
○武藤数理課長
次回以降の日程は、改めて御連絡を申し上げたいと思っております。
○植田委員長
それでは、本日はどうもありがとうございました。
(了)
団体