第8回社会保障審議会年金財政における

経済前提に関する専門委員会 議事録

●日時

平成30年12月25日(火)10時00分~10時56分

 

●場所

全国都市会館 第2会議室(3階)

●出席者

植田 和男(委員長)

小黒 一正(委員)

小野 正昭(委員)

小枝 淳子(委員)

駒村 康平(委員)

玉木 伸介(委員)

野呂 順一(委員)

山田 篤裕(委員)

米澤 康博(委員)

森 審議役(年金積立金管理運用(独):GPIF)

鎌田 企画部長(年金積立金管理運用(独):GPIF)

陣場 調査数理室長(年金積立金管理運用(独):GPIF)

●議題

(1)年金財政における経済前提のあり方について

   (年金部会への議論の経過報告について)

(2)その他

●議事録

○植田委員長

 それでは、定刻になりましたので、見えていない方もいらっしゃいますが、ただいまから第8回「年金財政における経済前提に関する専門委員会」を開催いたします。皆さん、お忙しい中、きょうはどうもありがとうございます。

 きょうは、権丈委員、武田委員、吉川委員と内閣府の佐藤参事官が欠席、駒村委員がおくれての出席との連絡をいただいています。米澤委員も追っていらっしゃる予定でございます。

 それでは、議事に入りますので、カメラの方はここで退席をお願いします。

               (カメラ 退室)

○植田委員長

 まず、事務局から資料の確認をお願いいたします。

 

○武藤数理課長

 年金局数理課長の武藤でございます。

 私から資料の確認をさせていただきます。

 タブレットでございますけれども、左上に青い字でマル1「第8回資料」という文字があると思いますけれども、この文字をタップしていただきますと資料の一覧が表示されることになります。本日準備している資料は、議事次第、委員名簿、座席図のほか、資料1「年金財政における経済前提のあり方について(専門委員会における議論の経過報告)(案)」。

 資料2、同参考資料集(案)となります。

 操作につきましての説明書をお手元に配布しておりますが、御不明な点がありましたら、適宜事務局がサポートいたしますので、御遠慮なくお申しつけください。

 

○植田委員長

 それでは、議題に移りたいと思います。

 きょうは、年金財政における経済前提のあり方について御議論いただきます。

 これまで1年半ほどかけまして、この専門委員会で7回、それから一部の先生方には検討作業班に入っていただきまして、3回の御議論をいただいてきました。次回の年金部会で、専門委員会での議論を報告することになっております。ですので、きょうはその経過報告について、皆さんにまず、議論していただきたいと思います。

 では、事務局から御説明をお願いします。

 

○武藤数理課長

 それでは、本日の資料ですが、2種類ございます。

 そのうち、まず、資料2の参考資料集について、先に簡単に触れておきたいと思います。

 この参考資料集ですけれども、基本的にこれまでの本専門委員会での議論で用いた資料を年金部会報告のためにこれは必要であろうというものを抜粋したものでございます。よって、本日の逐一の説明は時間の関係で省略させていただきたいと思いますけれども、年金部会での説明も意識しながらポイントとなる部分だけ確認しておきたいと思います。

 年金部会の委員の方々は、年金制度や年金財政検証についての有識者の方々ですが、本専門委員会で議論されているような財政検証に用いる経済前提の設定の考え方、つまり経済・金融に関する専門的・技術的な事項になりますと、必ずしも普段から意識されていらっしゃらない方々も多いと思われます。よって、この参考資料集には、財政検証や経済前提に関する基本的な考え方の資料から盛り込んでございます。

 まず、3ページ、現行の年金制度の長期的な年金財政フレームワークは、平成16年改正による仕組み、つまり保険料を固定して年金給付水準をマクロ経済スライドにより自動調整する仕組みがベースである点を確認しておきたいと思います。

 続きまして4ページ、そのフレームワークのもとで、少なくとも5年ごとに人口や経済の動向を踏まえて、長期的な年金財政の健全性を検証する仕組みであるいわゆる財政検証が実施されております。対賃金比で見た給付水準の指標である所得代替率は、前回財政検証時の足元では62.7%の水準ですが、マクロ経済スライドにより徐々に低下していく見通しを幅の広いケースに応じて確認しているところです。

 5ページ、財政検証の前提は大別すると4種類ありまして、人口の前提、労働力の前提、経済の前提、その他の制度の状況等に関する前提があります。

 経済前提については、御案内のとおり、足元10年程度の値は内閣府が行う経済財政に関する中長期試算に準拠することを基本としておりますが、その10年以降おおむね100年後まで用いられる長期の経済前提を、本専門委員会で御議論いただいているところでございます。前回財政検証時は、この表にありますように幅の広い8ケースが設定されているところでございます。

 また、財政検証で前提とされる経済前提は具体的には3つ。物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りになりますが、その中で大事な要素はスプレッドと実質賃金上昇率であることを次の6ページで確認しておきたいと思います。

 つまり、公的年金は基本的には収入、支出ともに賃金水準の変化に応じて変動することとなるため、賃金上昇に連動しない部分である賃金上昇率を上回る運用利回りであるスプレッドと、賃金上昇率と物価上昇率の差である実質賃金上昇率が重要なファクターであることを確認したいと思います。

 また、7ページでは、財政検証で前提としているおおむね100年間を平均すれば、給付の約9割が保険料と国庫負担で賄われていることを確認したいと思います。

 そのような状況下で本専門委員会では、次期財政検証に用いる経済前提に関する議論が行われております。

 10ページに行っていただきますと、本専門委員会の長期の経済前提に用いる経済モデルの概念図がございます。財政検証で直接入力する経済前提は、この図の中で白抜きの星印が左と右にそれぞれ2カ所ついておりますように、賃金上昇率と運用利回り、あと下の米印の注でありますように、外生で物価上昇率が与えられることになります。

 この長期の実質ベースの賃金上昇率と運用利回りを設定するために、基本的には一番上の点線で囲まれた部分にございますコブ・ダグラス型生産関数に基づいて推計が行われています。実質経済成長率は、労働の寄与の部分、資本の寄与の部分、さらにその残差としての技術進歩等で説明されます全要素生産性上昇率に分解されるということでございます。

 このページで色をつけた部分が外生入力で与えられることになります。例えば、労働投入量が真ん中あたりにありますけれども、これは人口推計や労働力需給推計に基づき、外生で与えられることになりますし、その他の色がついたパラメータについては過去の実績をベースとして幅を持って設定されているところでございます。この全体の推計の中で賃金上昇率は、労働投入量当たりの実質経済成長率をベースとして設定されております。

 また、運用利回りについては、GDPのうち資本への分配分である利潤が運用収益の源泉であり、資本ストック当たりの利潤率が運用利回りのベースとなるという考え方で設定されております。

 本専門委員会では、昨年の7月以降、まずは近年の経済状況等を確認されました。この参考資料集でも後半のほうの57ページ以降から82ページにわたってその部分の資料が盛り込まれてございます。これは、近年の経済成長率と賃金上昇率の関係について、あるいは近年の利潤率と実質長期金利の相関などについて確認し、その後の本専門委員会での議論に生かされてきたところでございます。

 その上で、本専門委員会におきましては、従来の専門委員会モデルである経済モデルの建て方を確認し、具体的なパラメータ設定についてもおさらいをしてきたところです。具体的には、このモデルについてはスタンダードなモデルで、このモデルの骨格をベースに考えていくことでよいのではないかということだったと認識しております。ただし、周辺の状況の変化等に応じて、修正や対応が必要な部分が3点ほどあったと思われます。

 1点目はSNAの基準改定への対応でございます。つまり、パラメータ設定の基礎となる国民経済計算が前回の財政検証時の2005年基準改定から2011年基準に改定されて、遡及推計なども含めてその改定への対応が必要となったことがあります。

 2点目は、日銀の異次元金融緩和などを受けて運用利回りの前提設定で必要な修正改善が行われたということです。

 3点目ですけれども、これは平成28年の年金改革法の附帯決議への対応でもあります経済変動を仮定するケースへの設定を行ったことがあります。今、申し上げました内容ですけれども、いずれも既に御案内のとおりでございますので、この参考資料集では8ページから56ページあたりにわたった資料を盛り込んでいるところですけれども、本日の逐一の資料説明は省略させていただきたいと思います。

 以上が参考資料集ですが、それでは、本題の資料1でございます。

 こちらは、前回までの御議論を踏まえまして、事務局のほうで準備させていただきました本専門委員会における議論の経過報告の案ということで、年金部会での報告を想定して作成した資料でございます。

 委員の先生方にはあらかじめ送らせていただいておりますが、改めてこちらで読み上げて御確認をいただきたいと思います。

 

1 報告の趣旨

厚生年金及び国民年金においては、法律の規定により、少なくとも5年に一度、「財政の現況及び見通し」を公表する、いわゆる財政検証を行うこととされており、次回の財政検証を2019(平成31)年までに行うことになっている。本専門委員会では、社会保障審議会年金部会における審議に資するため、公的年金の財政検証における経済前提等に関する専門的・技術的な事項について、2017(平成29)年7月から2018(平成30)年12月までの間に8回の会合を開催し、検討を行ってきた。

本専門委員会における検討事項について、現在までの議論の経過を報告するものである。

 

米印の注につきましては、以下でも読み上げを省略させていただきます。

 

2 財政検証に用いる経済前提の基本的な考え方

(1) 2004(平成16)年改正では、少子高齢化が急速に進展する中、将来の現役世代の負担を過重なものとしないために、最終的な保険料水準を法律で定め、その負担の範囲内で給付を行うことを基本に、給付水準を自動的に調整する仕組み(いわゆるマクロ経済スライド)が導入された。財政検証は、このような給付と負担の均衡を自動的に図る仕組みの下で、厚生年金及び国民年金の長期的な財政の健全性を定期的に検証するものである。

(2) 財政検証においては人口や経済の長期的な前提を設定する必要があるが、将来の人口や経済の動向は不確実なものであり、長期的な見通しには限界がある。したがって、財政検証を行う時点における最善の努力を払ってこれらの前提を設定したとしても、時間が経過し新たなデータが蓄積されると、実績との乖離は生じてくるものである。このため、少なくとも5年ごとに最新のデータを用いて諸前提を設定し直した上で、現実の軌道を出発点として新たな財政検証を行うことが法律で定められている。

(3) 財政検証の結果は、人口や経済を含めた将来の状況を正確に見通す予測(forecast)というよりも、人口や経済等に関して現時点で得られるデータを一定のシナリオに基づき、将来の年金財政へ投影(projection)するものという性格に留意が必要である。このため、財政検証に当たっては、長期的に妥当と考えられる複数のシナリオを幅広く想定した上で、長期の平均的な姿として複数ケースの前提を設定し、その結果についても幅を持って解釈する必要があるものである。また、長期的な前提の幅を設定するに当たっては、財政検証がおおむね100年にわたる超長期の推計であることを踏まえ、足下の一時的な変動にとらわれず超長期の視点に立ち妥当と考えられる範囲において設定する必要があるものである。

(4) また、公的年金は収入、支出ともに長期的には賃金上昇率に従って変動する仕組みであり、年金財政へ影響を与えるのは収入・支出の中で賃金上昇に連動しない部分である。このため、年金財政にとっては、賃金上昇率や運用利回りの名目値でなく、「(物価上昇率を上回る)実質賃金上昇率」と「(賃金上昇率を上回る)実質的な運用利回り(スプレッド)」が重要であることに留意が必要である。

(5) これまでの財政検証において長期の経済前提を設定する際に用いられてきたマクロ経済に関する試算に基づく設定方法は、諸外国における経済前提の設定方法と比べても工夫されたものとなっていることから、今回も基本的には同様の手法を用いることとする。ただし、その後の状況変化等を踏まえ、改善が可能と考えられる点については改善を行うこととする。

マクロ経済に関する試算とは、具体的には、成長経済学の分野で20~30年の長期の期間における一国経済の成長の見込み等について推計を行う際に用いられる標準的な生産関数(コブ・ダグラス型生産関数)を用いて、過去の実績を基礎としつつ、日本経済の潜在的な成長力の見通しや労働力需給の見通しを踏まえたパラメータを設定し、潜在的な経済成長率等の推計を行うものである。

なお、5年ごとの財政検証においては、継続性を維持することが重要であり、むやみに手法を変えるべきではないが、様々な視点から情報を伝える工夫をし、国民の年金に対する議論と理解を深める努力をすることも重要である。

(6) バブル崩壊後、直近20年の我が国の経済成長と賃金上昇の動向について国民経済計算と毎月勤労統計調査のデータを用いて調べたところ、実質賃金上昇率は実質経済成長率に比べて伸びが低く、1人当たりの伸び率を比べて年平均で1.6%程度の差がみられた。この差について要因分析を行ったところ、マル1経済成長率を実質化するGDPデフレーターと賃金上昇率を実質化する消費者物価指数のデフレーターの違い、マル2労働分配率の低下、マル3雇主の社会負担の増加によりおおむね説明できることを確認した。

デフレーターの違いについては、消費者物価指数は家計消費に対象を限定しているのに対し、GDPデフレーターは設備投資や輸出入の影響も考慮しているため交易条件の悪化の影響を受けていること、消費者物価指数はラスパイレス算式、GDPデフレーターはパーシェ算式を採用していることによる算定式の違いの影響を受けていることも確認できた。

また、雇用者1人当たり賃金上昇率は過去20年平均でみるとマイナスとなっているが、これは1人当たり労働時間の低下が主要因であり、一般労働者、パートタイム労働者別に時間換算の賃金上昇率を調べたところ低下傾向は見られず、パートタイム労働者については上昇傾向にあることも確認できた。

(7) 2014(平成26)年財政検証において課題となった実質長期金利と利潤率の関係について、長期金利を実質化する消費者物価指数について短期的な変動を除去して再検証を行ったところ、2013年4月に導入された「量的・質的金融緩和」の前までは、利潤率と実質長期金利の間に一定の相関関係が確認できた。一方、「量的・質的金融緩和」の後については過去の相関から大きく外れていることを確認した。

 

3 経済モデルの建て方とパラメータの設定について

(1) 長期の経済前提の設定に用いるマクロ経済に関する試算の枠組み(経済モデルの建て方)は、2014(平成26)年財政検証で用いられた枠組みと同様、以下の式によるものを採ることとする。

 

枠囲いの算式については、読み上げを省略させていただきます。

 

これらの式を用いると、全要素生産性(TFP)上昇率、資本分配率、資本減耗率、総投資率及び労働投入量のパラメータを設定すれば、マクロ経済の観点から整合性のとれた、実質経済成長率及び利潤率の値を推計できる。また、これらの推計値を基礎に、実質賃金上昇率や実質運用利回りを設定することにより、マクロ経済の観点から整合性のとれた経済前提を設定することができるものである。

(2) 幅広い複数ケースの前提の設定に当たっては、2014(平成26)年財政検証同様、将来の不確実性がとりわけ大きいと考えられる全要素生産性(TFP)上昇率を基礎に幅広く複数ケースを設定することが適切と考えられる。その他のパラメータの設定については、必要に応じて幅を設定しつつ背景となるシナリオを踏まえ整合的な組み合わせとするべきである。

(3) 全要素生産性(TFP)上昇率の設定については、2014(平成26)年財政検証と同様、今後公表される予定の内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(以下「内閣府試算」という。)の設定を基礎に、より低い方向に幅広く設定することが適当と考えられる。

(4) 労働投入量の設定は、2014(平成26)年財政検証と同様、内閣府試算の設定を踏まえつつ、今後公表される予定の「労働力需給の推計」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)に準拠し、マンアワーベースの労働投入量(総労働時間)を推計し、経済モデルに投入する方法が適当と考えられる。なお、直近の2018(平成30)年7月9日経済財政諮問会議提出の内閣府試算では、成長実現ケース、ベースラインケースともに、一定程度労働参加が進むことが仮定されているものの、労働参加が進まないケースについても幅広い前提の中で設定することが望ましい。この場合、足下の設定と長期の設定の接続などにおいて注意を要するが、労働参加の影響を確認するために必要と考えられる。

(5) その他のパラメータの設定についても、2014(平成26)年財政検証と同様に設定することが適当と考えられる。具体的には、資本分配率、資本減耗率はTFP上昇率を高めに設定するケースは過去30年平均、低めに設定する場合には過去10年平均の実績で設定し、総投資率は長期的に低下している傾向を外挿して設定するケースのほか、総投資と総貯蓄の差が一国全体の経常収支に相当することに着目し、総投資率の過去からの傾向を外挿したものから、総貯蓄率の過去からの傾向を外挿したものへ30年間かけて緩やかに遷移するようなケースも設定する。総投資率については、経常収支の先行きには様々な見方があることから、全てのシナリオについて、両方のケースについて推計を行い両方の結果を幅で示すこととする。

(6) 経済モデルに用いるパラメータの算定に当たっては、国民経済計算に基づく過去の実績値を用いるが、2014(平成26)年財政検証の後に国民経済計算が2005(平成17)年基準から2011(平成23)年基準へ基準改定されている。2011(平成23)年基準については、一部の系列(固定資本減耗、営業余剰等)は1993(平成5)年度以前の数値が公表されていないため、これらについて遡及推計を行った。

また、パラメータの算定に当たっては、基準改定への対応及び経済モデル内の整合性を図る観点から以下の取扱いとすることが適切である。

・ 資本減耗率や利潤率の計算の分母には有形固定資産が用いられていたものを、総投資率の分子となる総固定資本形成との整合性を踏まえ、研究開発費等を含む固定資産を使用

・ 資本分配率の計算において、個人事業主の労働報酬的要素と資本報酬的要素を併せ持つ混合所得を分母、分子から除き計算していたが、混合所得に係る固定資本減耗は除かれていなかったことから、算定式の整合性を図るためにこれを控除

・ 総投資率の計算においては、分子に在庫品増加(2011(平成23)年基準では在庫変動。以下同様。)が含まれていたが、総投資率を用いて計算される固定資産には在庫品が含まれていないことから、経済モデル内の整合性を図るため在庫品増加を含めず計算

(7) コブ・ダグラス型生産関数に基づく経済モデルは20~30年の期間における経済成長の見込み等について推計する際に用いられることから、2014(平成26)年財政検証時のマクロ経済に関する試算では、20年間、25年間、30年間の推計を行いその間の平均値が将来における長期的な値として用いられた。今回についても同様の取扱いとすることが適当である。

(8) 2014(平成26)年財政検証では、物価上昇率は、日本銀行の物価安定の目標、内閣府の中長期試算、過去30年間の実績の平均値を参考に、経済モデルの外生値として設定されている。今回もこれらを参考に設定することが適当である。

 

4 運用利回りの設定について

(1) 長期の運用利回りの設定について

(ア) 2014(平成26)財政検証においては、将来の実質長期金利の長期的な平均値を推計したうえで、内外の株式等による分散投資効果を上積みするという考え方で設定していたが、

・ 近年、長期金利は中央銀行の政策の影響も大きく受けるなど、マクロ経済に関する試算の中での位置づけがわかりにくくなっている

・ 年金積立金の市場運用を開始した2001(平成13)年度から17年以上が経過し、年金積立金管理運用独立行政法人(以下「GPIF」という。)の運用実績(2005年度以前は年金資金運用基金の運用実績。以下同様。)を活用する環境が整った

ことから、今回からは、運用利回りの設定についてはGPIFの実績を活用することが適切と考えられる。

(イ) GPIFの運用実績を活用するに当たっては、

・ 単に過去の実績をそのまま利用するのでなく、経済モデルによるフォワードルッキングな視点も導入し、経済モデルから設定される経済前提と整合的に設定すべきである

・ 運用収益の源泉は資本に分配される利潤であり、運用収益と利潤は深い関係があると考えられる

・ 利潤率は長期金利のみならず、上場企業の収益率とも一定の相関があることも確認されたことから、債券・株式を含めた将来の運用利回りを利潤率から推計する方法が適当と考えられる。具体的には、運用利回りの推計は、次式のとおり、GPIFの実質運用利回りの実績を基礎に、経済モデルから推計される利潤率倍率を乗じて推計する方法に変更することが適切と考えられる。

 

点線枠囲みの計算式については、読み上げを省略させていただきます。

 

(ウ) なお、GPIFの運用実績はGPIFの運用目標や基本ポートフォリオの設定に依存する一方、GPIFの運用目標は財政検証の経済前提に基づき設定されている。このことを踏まえ、運用利回りの実績を活用するに当たっては、年金積立金の市場運用開始後17年間の平均値のみを活用するのでなく、実績の変動の幅を踏まえる方法等により保守的な設定とすることが望ましい。変動の幅を踏まえるに当たっては、一定の長期間の平均をとる必要があるものの、例えば過去10年間の移動平均の変動の幅を踏まえる方法等が考えられる。

(2) イールドカーブを用いる方法について

(ア) 2014(平成26)年財政検証では、低成長を仮定するケースではイールドカーブを用いた方法を採用したが、現在のイールドカーブは中央銀行の政策の影響も受けており、市場の声を反映するというメリットが低下していると考えられることからイールドカーブを用いた推計については、2014(平成26)年財政検証時よりも慎重に考えていくべきである。

(イ) しかしながら、低金利が長期化している現状を踏まえ、極めて低い成長を仮定するシナリオに用いる場合においては、前記(1)の方法によらず、イールドカーブを用いる方法を採用することも適当と考えられる。この場合、低金利が長期化している現状を踏まえた設定という趣旨に鑑みれば、フォワードレートの算出に用いるイールドカーブは、過去の全ての情報が織り込まれている直近のイールドカーブを基本とすることが適当と考えられる。

(ウ) また、イールドカーブから将来の長期金利を推計する方法を用いる場合、内外の株式等の分散投資による効果の設定が必要となるが、GPIFの運用実績を活用する環境が整ったことから、GPIFにおける国内債券を上回る運用利回りの実績を活用することが適切である。なお、極めて低い成長を仮定していることを踏まえると、例えば過去10年間の移動平均の変動の幅を踏まえる方法等により保守的に設定することが望ましい。

(3) 足下の経済前提について

(ア) 足下の経済前提については、内閣府試算に準拠することが基本となるため、内閣府試算で推計された長期金利を基礎として、内外の株式等の分散投資による効果や長期金利上昇による国内債券への影響を加味して設定することとなる。

(イ) 上記の分散投資による効果については、足下の10年程度の前提であることを踏まえ、GPIFにおける国内債券を上回る運用利回りの実績を基礎とする方法が考えられる。なお、この場合においても、例えば過去10年の一定の移動平均の変動の幅を踏まえる方法等により保守的な設定とすることが望ましい。

(ウ) なお、内閣府試算では足下10年程度の長期金利の見通しが各年度で示されているため、運用利回りについても各年度で設定することとなるが、財政検証の経済前提は長期の趨勢が重要であり、足下の設定についても内閣府試算と整合的にその趨勢を仮定したものでと理解すべきものである。

 

5 経済変動を仮定するケースの設定について

(1) 2014(平成26)年財政検証では、平均的には同水準の経済前提であっても、変動がない場合と変動が大きい場合でマクロ経済スライドによる調整の効果が異なることから、変動を織り込んだケースを設定した。この場合の変動の周期は過去の景気循環の平均の周期より4年と設定し、変動の幅については過去30年間の物価の標準偏差より1.2%と設定した。

(2) 公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律(平成28年法律第114号。以下「平成28年改正法」という。)の附帯決議により、「景気循環等の影響で新たな改定ルールが実際に適用される可能性も踏まえた上で、国民が将来の年金の姿を見通すことができるよう、現実的かつ多様な経済前提の下で将来推計を示すべく、その準備を進めること」とされており、今回の財政検証においては、平成28年改正法による新たな改定ルールが発動されるような経済前提の設定が求められている。

(3) この課題に対応するためには、年金額改定率の計算に用いる実質賃金上昇率、名目賃金上昇率がともに一時的にマイナスとなるように設定する必要がある。この条件を満たすには、周期については実質賃金上昇率の3年平均がマイナスとなるよう前回より長く設定し、変動幅については名目賃金上昇率の変動幅を物価上昇率の変動幅よりも大きく設定し、さらに、前回の変動よりも十分に大きい幅とする必要がある。

(4) 上記の条件を満たすためには、例えば、経済変動の周期及び変動幅を以下のとおりとすることが考えられる。

・ より長い周期を考えるに当たっては、景気循環論において、3年から4年の周期を持ち在庫循環として知られるキッチンサイクルの次に、設備投資循環として7年から12年の周期を持つジュグラーサイクルが知られていること、日本の景気循環の周期をみると平均は約4年であるが、最長が約7年強、アメリカでは10年超の周期もみられることから、10年程度の周期を設定

・ 名目賃金上昇率についてより大きい変動幅を考えるに当たっては、高度成長期後の過去30年をみて名目賃金上昇率の最も高かったバブル期と最も低かったリーマンショック後の差を参考に設定

 

6 具体的な経済前提の設定について

前項までにおいて、財政検証に用いる経済前提を設定するに当たっての基本的な考え方を整理してきた。しかし、パラメータ等の具体的な設定については、今後公表が予定されている新たな労働力需給の推計や内閣府試算等を踏まえて、改めて本専門委員会において議論を行い、検討結果をとりまとめ、年金部会に再度報告することとしたい。

 

 11ページは本専門委員会の名簿でございます。

 12ページは本専門委員会の開催状況でございます。これらの読み上げは省略させていただきます。

 私からの説明は以上です。

 

○植田委員長

 ありがとうございました。

 説明いただいた資料はいろいろな形で何度か皆さん、ごらんいただいて議論もしていただいてきているわけですが、とりあえず、きょういただいた案につきまして、御意見、御質問等お願いいたします。

 山田委員。

 

○山田委員

 今までのさまざまな議論を非常にコンパクトな形でわかりやすくおまとめいただきましてありがとうございます。

 非常によく網羅的にまとまっているという理解ではあるのですけれども、前回の議論でGPIFの運用実績に基づくということで、何が保守的かということについて議論があったかと理解しています。これは、我々はその議論を知っているわけですけれども、年金部会の先生もいらっしゃいますが、年金部会に報告するものなので、前回の議論、例えば、玉木委員と権丈委員の議論で何を保守的にするかというと、単なる移動平均ではなくてパーセンタイル値の低いほうとかいった具体的なお話があったかと思いますので、ど真ん中というよりはやや低いという意味での保守的ということが表現ぶりはいろいろとあるかと思うのですけれども、先方の委員の皆様にも伝わるように、保守的という表現が何度か出ておりますが、書き加えていただければと思います。

 私からは以上です。

 

○植田委員長

 よろしいですか。それでは、小枝さん。

 

○小枝委員

 今の点なのですけれども、私も前回議論に参加させていただいて、何パーセンタイル値を保守的なパラメータであると捉えるのは経済学的にもちょっと慎重になったほうがいいと思っていて、何パーセンタイル値は誘導系の概念ですので、保守的なパラメータという構造的なパラメータではないので、そこは一対一の関係では必ずしもないと私は理解しております。

 

○植田委員長

 ここは、場合によっては後で調整させていただくとしまして、ほかの論点がありましたら、小黒さん。

 

○小黒委員

 いまの議論ですけれども、ほかの論点として、参考資料の41ページ目のところに実質運用利回りの対物価の実績のグラフがございます。このグラフの横軸が「年度」か「年」か否かはわかりませんけれども、時間軸がありまして、5年移動平均とか単年度でグラフの線が移動しているわけです。

 小枝先生から先程お話がありました25パーセンタイル値とか20パーセンタイル値とかをどういうふうに設定するかについては、かなり恣意性というか一定の判断があるわけです。そういう意味では、これと同じような問題として、以前も少し申し上げさせていただきましたけれども、ヒストグラム(度数分布)も参考資料として作成してはどうでしょうか。運用利回りについては5年移動平均にすると少なくなってしまうという議論もありましたけれども、度数分布をもう少し見せて、設定する運用利回りが度数分布のどの辺に相当するのか明らかにする解決方法があると思います。例えば、単年度平均であれば中央値は3.2で平均値は2.7、最大値は10.2で最小値はマイナス8.9ですから、運用利回りに関する度数分布でみて、その中央値はかなり右側にあって、平均値で言うと2.7ですので、下側にかなりマイナスになっているということが読み取れると思います。

 そういう意味では、これは財政検証の前提とする賃金上昇率や物価上昇率の設定も同様であり、運用利回りなどの度数分布がどういう形状をしているのかを見せることによって、保守的な設定をしているか否かということは、国民が判断できるような情報を、各々の変数につき、もう一枚グラフに加えることによって判断できるのではないかと提案させていただきます。

 

○植田委員長

 米澤委員、どうぞ。

 

○米澤委員

 同じ点にこだわってしまうかもしれませんが、確認したいのですけれども、この平均値は普通の算術平均で求められているのでしょうか。そうであるとしましたら、ぜひ幾何平均で求めていただきたいということです。

 それは2つの理由があって、我々の感覚でどのくらい収益が上がったかは幾何平均で計算すべきでありますし、加えて今言った保守的なところもこのように非常にぶれる場合には、大分幾何平均のほうが算術平均よりもぶれる分だけ下回りますので、ベースラインが大分下になるので、自然体として低目にすることに関しては、目的が達成されるので、もし幾何平均を計算していないのであったらそういう計算をしてください。ですから、移動平均も幾何平均ベースでの移動平均を見せていただくと、また多少違ったイメージが出てくるのかと思っています。

 以上です。

 

○植田委員長

 どうぞ。

 

○佐藤数理調整管理官

 小黒委員と米澤委員から御要望いただきましたけれども、どちらも基本的には検討していきたいと思います。

 事実関係につきまして、米澤委員から言われた算術平均か幾何平均かという話ですけれども、17年間の平均値の2.7%については幾何平均で出しているのですけれども、10年移動平均とか5年移動平均は簡単に算術平均で求めています。今の御提案を受けて事務局のほうで検討して、また年明け数値の議論をするときに幾何平均の資料とかも出すことも考えていきたいと思います。

 

○植田委員長

 駒村委員、どうぞ。

 

○駒村委員

 おくれてきてしまったので、きょうの取りまとめの扱いは、今、事務局からあった資料はまた議論したりする余地があるのか、それとも年金部会にその資料をつけて転送するという趣旨なのかを確認したい。

 

○植田委員長

 基本的には、きょうは取りまとめで次は年金部会へということです。

 

○駒村委員

 わかりました。

 

○小黒委員

 細かい指摘で恐縮ですが、先ほど読み上げていただいて気づいたところなのですけれども、2ページ目の(5)のところで、本当に些細な話なのですけれども、「これまでの財政検証において」ということで「マクロ経済に関する試算に基づく設定方法は」という部分がありますよね。

 その次のところがかなり踏み込んだ形で書かれているような気もしています。実際、「諸外国における経済前提の設定方法と比べても工夫されたものとなっている」という記載はかなり強い表現であり、役所の文章として断定的には書かないケースが多い気もしていましたので、気持ちはわかるのですけれども、「工夫はされているのだけれども、日本が一番すぐれているとも言い切れない」というような表現にしたほうがいいかなと思いますが、いかがでしょうか。

 

○植田委員長

 はい。

 

○武藤数理課長

 ただいまの小黒委員の御意見に関して若干補足しておきますけれども、この記述ですが、実は5年前の専門委員会において書かれていた記述を自然に活用させていただいたということでございます。

 今回の専門委員会でもそうなのですけれども、5年前の専門委員会でも、諸外国の経済前提設定手法が確認され、過去の実績に基づいたものを将来設定しているケースが多いもので、日本のマクロ経済モデルを使って設定する手法は諸外国に比べて工夫されているのではないかというのが、まさに5年前の委員会の報告書をまとめる段階でそういう意見がありましたので、これはそのまま使わせていただいております。

 ただ、この記述にこだわるものではございませんし、また、よりよい書き方があれば、ただいまの小黒委員の意見なども踏まえて事務局としては対応させていただきたいと思います。

 

○小黒委員

 そういうことでしたら、「工夫されたものなっているという指摘もある」とか、「可能性がある」とか、「考えられる」とか、お手数をおかけしますが、少し間に言葉を入れて表現を微修正していただければと思います。

 

○武藤数理課長

 間接的に書くということですね。

 

○植田委員長

 お願いします。

 

○小野委員

 ありがとうございます。

 余り本質的なことではないのですけれども、今の2ページの(4)なのですけれども、大きな表題が経済前提の基本的な考え方なので、それでいいのかもしれないのですけれども、1行目の一番右側のほうで「年金財政へ影響を大きく与えるのは収入・支出の中で」云々と書いてございます。年金財政では将来的な人口要素の変動とかさまざまな要素がありますので、「年金財政への影響を大きく与える経済要素は」とかいう表現のほうがいいような気がしました。それが1点です。

 もう一点は、9ページになりますけれども、(3)で実質賃金上昇率と名目賃金上昇率がございますけれども、ここの1行目の米印の位置なのですが、下の説明が名目賃金上昇率だけではないので、この米印の位置を「マイナスとなるように設定する必要がある」の次ぐらいに移動しておいたほうが解説としてはわかりやすい気がいたしました。

 以上です。

 

○植田委員長

 ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。

 それでは、いろいろ御指摘いただきましてありがとうございました。

 本日御指摘いただいた中では、GPIFの運用利回りの実績値について保守的な設定をすることにかかわって、計算の仕方とか結果のプレゼンの仕方等について多少工夫の余地がまだあるのではないかという御意見と、幾つか細かい表現ぶりについて御意見をいただきました。これはよろしければ私と事務局で相談させていただいて、皆様の御意向に合うような形に修正させていただいた上で年金部会への報告資料としたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。

 

                    (委員:異議なし)

 

○植田委員長

 それでは、そういう修正を行った資料を用いて、年金部会で私のほうから報告させていただきます。

 ちょっと早いですが、これで本日の審議は終了させていただきます。

 次回以降について、事務局から御連絡はございますでしょうか。

 

○武藤数理課長

 次回以降の日程につきましては、改めて御連絡を申し上げたいと思います。

 

○植田委員長

 では、きょうはどうもありがとうございました。

 

 

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