受給者等に対する周知事項の拡大を求める要請書
厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議
座 長 山口 修 様
受給者等に対する業務概況の周知を義務化するとともに、
加入者および受給者等に対する周知事項の拡大を求める要請書
2012年6月12日
東京都北区志茂2丁目43-1
木村文男方
企業年金の受給権を守る連絡会
代表世話人 佐々木 哲夫
同 上 夏野 弘司
(はじめに)
1 「企業年金の受給権を守る連絡会」とは
企業年金の受給権を守る連絡会(以下、「企業年金連絡会」という。)は、企業からの一方的な企業年金減額を止めさせ、受給権の完全な法的保護と支払保証制度の確立を求めるセンターとして活動している団体です。(創立は2005年1月、現参加団体は14団体。)
6月7日付で「減額要件の緩和は行うべきでなく、受給権の完全な保護と支払保証制度の早期確立を求める要請書」を提出させていただきましたが、引き続いて本要請書を提出させていただきます。
2 貴有識者会議に要請する理由
厚生労働省は、貴有識者会議に、ご議論いただきたい主な論点のひとつに「基金ガバナンス・情報開示」の項を設け、「事業主や加入者等に対する情報開示の在り方についてどのように考えるか。」と情報開示を一つの論点として示しています。そして「第3回 厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議」の配付資料の資料2「これまでの議論を踏まえた今後の見直しの基本的方向性(たたき台)」の「3.各論点に沿った見直しの方向性(3)基金のカバナンス・情報開示」の項で
○基金の役職員が、代議員会や加入者、事業主等に運用受託機関の選定・評価、運用実績の報告等を行うにあたって「説明すべき事項リスト(例)」をガイドラインに盛り込むこととしてはどうか。
○基金の運用の基本方針は厚生労働大臣へ届出を義務づけ、資産運用業務報告書の記載事項・様式についても分散投資の状況を厚生労働省が適切に把握し、指導・監督を行うという観点から見直しを行う。また、各基金の運用の基本方針や運用に関する基本情報(総資産額、資産の種類別・運用機関別の委託額・割合など)は、原則として開示する。
という方向性が示されています。
加入者に対する基金の情報開示も不十分なものにとどまっており、企業年金連絡会は、基金により一層の情報開示を求めていく方向性を支持するものですが、受給権者や受給待期脱退者(以下、「受給者等」という。)に対する情報開示は努力義務にとどめるのはなく、加入者に対すると同様に義務づけるべきと考えるものです。この点が上記たたき台には欠落しています。
情報開示は、受給者等にも等しく行われるべきと考え、「要請事項」に記載されている事項を報告に取り入れて下さるよう要請する次第です。
3 要請書の内容
「要請書の趣旨」において、まず加入者に対する業務概況の周知が義務づけられているのに対し、受給者等に対する業務概況の周知が努力義務にとどまっていることの弊害を訴えています。次に受給者等に対する業務概況の周知により基金のガバナンスの向上が図られることを訴えています。そして最後の「要請事項」において、貴有識者会議が6月にとりまとめられる報告に取り入れていただきたい事項として、受給者等に対する業務概況周知の義務化、周知事項の拡大、加入者および受給者等に対する規約、規定等業務概況以外の情報の開示を掲げています。
(要請の趣旨)
4 現状では、多くの受給者等が企業年金情報から疎外される
厚生年金保険法第177条の2および確定給付企業年金法第73条の規定により、受給者等に対する業務概況の周知は努力義務にとどめられています。
このため、受給者等が、基金事務局に対し、業務概況についての開示を求めても拒否される事例が多くみられます。平成13年5月25日付の確定給付企業年金法案採決に際しての附帯決議には「企業年金受給者に対する情報開示について、事業主に対し、実情を踏まえた適切な指導を行うこと。」とされていますが、実効が上がっていないのが現状です。
さらに問題なのは、基金規約の開示を定める規定がないため、受給者等だけでなく加入者も基金事務局に対し基金規約の開示を求める法的根拠がありません。規約を受給者等の誰でも見えるようインターネット上で公開させるのも容易ではないのが現状です。
加入者においても、業務概況の周知が義務化されているにもかかわらず、徹底が図られていない事例が見受けられ、企業年金制度の複雑さもあって基金の実情を良く知らない加入者が多く生まれているのです。ましてや、企業を退職した受給者等にとっては、基金の実情を知ることは不可能に近くなっています。
第1回有識者会議における、濱口委員の
「自分の給料から知らない間に天引きされて、知らない間に運用されて、今回のケースのように知らないうちに損失を被っているというのが実態だと思います。したがって、できれば我々としてはそういう受給者・加入者の立場に立って、その人たちがどうなっているのか、どう思っているのか、何を知らないのか、是非そういう観点で議論をするべきではないかと思っています。」
という発言は正にその通りだと共感するものです。基金の業務概況についてなに一つ知らされてこなかった受給者等がある日突然、基金から業況が芳しくないので年金を減額したいと言われるような事態は絶対に防がれねばなりません。
濱口委員の意見を受けて玉木委員は
「資産運用規制という概念がありますが、これについてはもちろん金融の自由化が非常に進んでいる国、例えば我が国の銀行等においても、あるいは海外の銀行業等においても、レバレッジを規制するとか、我が国だったら大口融資規制といったものはありますが、いま最も必要なのは何かと考えた場合には、資産運用規制に飛んでいくよりは、基金内部のガバナンスを向上させるための加入者・受給者に対するさまざまな手助け、あるいは行政がそれに関与して、もちろん目的は加入者・受給者を助けることですが、そのための体制をじっくり作っていくことのほうが、限られたエネルギーの中ではよろしいのではないかと考えております。」
と発言しています。
この意味では、鹿毛委員の
「関西の大手基金の幹部の方に「大阪の基金の被害はないですね」と聞いたら、『AIJは大阪の多くの基金にセールスには来た。」ただ、理事会で説明しなければいけないから、いろいろ質問しているうちに来なくなってしまった』ということのようです。ですから、確かに運用ガイドラインやいろいろなルールは、ある程度は存在して、多くの基金はそれに従って行動している結果、被害を避けているわけです。」
という意見は貴重です。
基金の業務の実態が公開されていれば、多くの加入者および受給者等の質問にも答えなければならない、そうすればAIJなどにひっかからないということになります。
5 受給者等に対する周知により基金のガバナンスの向上が図られます
ギリシャ問題で、昨年度の基金の運用には、大変厳しいものがありましたが、情報開示が積極的に行われていた某企業年金基金では「確定給付企業年金に係る資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン 「6(2)基金における代議員会への報告」の報告内容に例示されている「ア、運用の基本方針及び運用ガイドライン」、「ロ 運用結果(時価による資産額、資産構成、収益率、運用受託機関ごとの運用実績等」が受給者等にもホームページ上で明らかにされていました。これだけ公表されていますと、年度末における基金の運用実績の予想ができますので、受給者等の有志で、基金に対し、「大幅な運用損の発生が見込まれるが基金はどう考えるのか」という質問をし、基金のガバナンスの向上に貢献することができました。
加入者は企業に勤務しているので、年金問題はまだ先のことと考えてしまいがちです。そこへいくと受給者等は年金だけが頼りですので、企業年金財政は切実な問題であり、非常に大きな関心を持っています。しかし、この受給者等に対する業務概況の周知は現在努力義務にとどめられているのです。
受給者等は点在していますので、周知に難しい面はあるかも知れません、しかし、インターネットの発達により、ホームページを利用すれば、安価に安全に周知を図ることができます。業務概況に止まらず、規約等についても周知が図られるようにされるべきであると考えます。
「確定給付企業年金制度について(平成14年3月29日年発第0329008号)」は、
「確定給付企業年金の事業の運営は、事業主と加入者が労使合意の下に民主的に行うべきものであり、加入者も自らの受給権の保護を図るために代義員会等の場において積極的に確定給付企業年金の事業の運営に参画することが求められること。また、業務概況の加入者への周知は、かかる加入者の参画を促し、健全な運営を担保する目的を持つものであることから、周知に当たっては、分かりやすく、かつ正確な情報の提供に努めるとともに、加入者全員に確実に周知が行われる方法を選択すること。さらに、受給権者や受給待期脱退者についても、可能な限り、加入者と同様の措置を講ずるよう努める必要があること。」
としているところです。
受給者等には代議員会での発言の場は設けられてはいませんが、周知を受ければ関心はさらに高まり、わがこととして考えますので、基金のガバナンスの向上に寄与することは明らかです。
また、加入者に対する周知も上記通達が求めている状態に至っていないのが実状です。
以上述べてきたところにより、次の要請事項を、貴有識者会議が6月にとりまとめられる報告に取り入れて下さるよう要請する次第です。
(要請事項)
1 厚生労働省が貴有識者会議に提示した「ご論議いただきたい論点(たたき台)」のなかにある「事業主や加入者等に対する情報公開の在り方についてどのように考えるか」という論点に対しては、次のような法令等の改正がなされるべきであるとすること。
①厚生年金保険法177条の2および確定給付企業年金法第73条に定める基金の業務概況を周知しなければならない対象を加入者にとどめず、受給者等を加えること。(業務概況の周知を受給者等にも義務づけ、努力義務としている同条第2項は削除することになる)
②「確定給付企業年金に係る資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン 6(2)基金における代議員会への報告」の「報告内容」に示されている次の事項、すなわち
ア 運用の基本方針及び運用ガイドライン
イ 運用結果(時価による資産額、資産構成、収益率、運用受託機関ごとの運用実績等)
ウ 理事会における議事の状況
を例示から報告義務事項に改めること。
③確定給付企業年金法施行規則第87条第1項に定める周知事項に次の各事項を追加すること。
・運用の基本方針及び運用ガイドライン
・運用結果(時価による資産額、資産構成、収益率、運用受託機関ごとの運用実績等)
・理事会における議事の状況
・財政再計算の内容および結果
④周知事項には、業務概況のほか、規約等、基金の制定した諸規程が含まれる旨の規定。
2 法令等の改正要請ではありませんが、加入者に対する業務概況の周知は義務規定であるにもかかわらず徹底されていない事例が見受けられます。事業主および基金に、業務概況は周知しなければならないということの徹底を図ること。
以 上
備考 本件に関する問合せ先
〒261-0011
千葉市美浜区真砂3-18-3-1201
佐々木 哲夫(企業年金連絡会代表世話人)
電話/FAX 043-279-1266
以 上