第8回社会保障審議会
年金部会(議事録)
日時
令和5年10月24日(火)14:00~16:00
場所
東京都千代田区平河町2-4-2
全国都市会館 3階 第2会議室
出席者
会場出席委員
菊池部会長 玉木部会長代理 小野委員 小林委員
是枝委員 佐保委員
永井委員 原委員 深尾委員 平田委員
オンライン出席委員
権丈委員 駒村委員 たかまつ委員 嵩委員
百瀬委員
井上参考人(出口委員代理)
議題
高齢期と年金制度の関わり
議事
議事内容
○総務課長 ただいまから第8回「社会保障審議会年金部会」を開催いたします。
皆様、お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。
初めに、委員の出欠状況を報告します。
出口委員、島村委員、武田委員、堀委員から御欠席の連絡をいただいております。
また、百瀬委員は少々遅れて参加される旨の御連絡をいただいております。
御欠席の出口委員の代理として、日本経済団体連合会の井上様に御出席いただいております。
井上様の御出席につきまして、部会の御了承をいただければと思います。いかがでしょうか。
(首肯する委員あり)
○総務課長 ありがとうございます。
権丈委員、駒村委員、たかまつ委員、嵩委員、百瀬委員、代理出席の井上様は、オンラインで参加されています。
出席委員が3分の1を超えていますので、会議は成立しております。
次に、資料の確認をいたします。本日の部会はペーパーレスで実施しております。傍聴者の方は厚生労働省ホームページから資料を御覧ください。
本日の資料は、資料1「高齢期と年金をめぐる状況」、資料2「高齢期における年金制度」を事務局で御用意しております。また、本日御欠席の堀委員から資料を御提出いただいております。
事務局からは以上でございます。
以降の進行は菊池部会長にお願いいたします。
○菊池部会長 皆様、こんにちは。大変お忙しい中、本日もお集まりいただきましてどうもありがとうございます。
それでは、カメラの方はここで退室をお願いいたします。
(カメラ退室)
○菊池部会長 それでは、早速議事に入らせていただきます。
本日は「高齢期と年金制度の関わり」を議題とさせていただきます。
具体的には在職老齢年金制度、基礎年金の拠出期間延長、マクロ経済スライドの調整期間の一致、年金生活者支援給付金、こういったテーマについて議論をさせていただく予定でございます。
本日は、ただいま申し上げましたようにテーマが多岐にわたりますので、御質問、御意見をいただく際には簡潔な御発言に御協力いただければ幸いでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、まず事務局から資料1と2について説明をお願いいたします。
○年金課長 年金課長です。どうぞよろしくお願いいたします。
私からは資料1と2を併せて御説明します。
まず、資料1を御覧ください。こちらは本日のテーマに関連するデータを集めたものです。右下にスライド番号があります。
3ページは、平均寿命の推移で、男性・女性共に1960年、これは国民年金の創設期になりますが、そこから現在に至るまで伸長しており、さらに伸びていくと推計されています。
4ページは、65歳時点の平均余命の推移で、こちらについても、さらに伸びる推計になっています。
5ページは、60代前半の高齢者の就業率の推移で、男性・女性共に上昇傾向にあります。
6ページは、65歳以上の男性高齢者の就業率の推移になります。青線の60代後半の就業率は、直近10年間で約14%ポイント上昇しており、70代前半についても上昇しています。
7ページは、同じく女性のデータです。女性についても60代後半の就業率が直近10年間で大きく上昇しています。
8ページは、60代の労働者の平均賃金の推移(男性)です。特に黄色線の60代前半の方の上昇が大きい傾向にあります。
9ページは、同じく女性についても同様に上昇傾向にあります。灰色は全年齢のデータになっており、これと比べると賃金の差があります。
10ページは、60代の就労形態を見たものです。まず、男性について左側の60代前半の就業形態では、青色の正規社員の割合が増加しております。一方で65歳以上については右側ですが、黄色のパート・アルバイトの増加が見られます。
11ページは、同じく女性の就労形態です。女性については、左側の60代前半と右側の65代後半共に、パート・アルバイトが多くを占めている状況です。
12ページは、高齢者雇用の状況で、こちらは法律で措置が担保されています。左側の65歳までは、現在そこにあるような雇用確保措置の実施が義務化されており、実施済の企業が報告企業全体の99.9%と、ほぼ全てになっています。一方で、70歳までについては、努力義務になっており、何らかの措置を実施している企業が計27.9%という状況です。
13ページは、高齢者の就労意欲についての調査で、60~64歳の方では、約8割の方が65歳くらいまで、もしくはそれ以上の年齢まで就労したいという意欲をお持ちになっています。
14ページは、60~69歳の方に仕事をしている理由を聞いたものです。こちらは2014年と2019年の調査結果を比較しており、伸びているのは「経済上の理由」という赤い一番上のところ、あるいは「いきがい、社会参加のため」という方も増えています。
15ページは、同じ調査で、60~64歳の方に、65歳以降の就業見通し、働く予定を聞いていますが、こちらも2014年と2019年を比較しており、「採用してくれる職場があるなら、ぜひ働きたい」、あるいは「すでに働くことが決まっている」という方が増えています。
16ページは、現役世代の35~64歳の方に就労の意向を聞いたもので、多くの方が65歳以降も就労を希望しているという結果になっています。
以上、高齢期の就労を取り巻く状況については、近年就労が進展していることがうかがえます。
続いて、17ページからは現役期の働き方に着目しながら、年金に関わるデータを整理しています。
18ページは、公的年金の役割で、左下の円グラフは高齢者世帯1人当たりの所得金額の内訳ですが、公的年金が約6割を占めています。右側は総所得の全てを公的年金・恩給が占める世帯の割合で、こちらは44%になっておりますが、高齢期の就労の拡大等で傾向としては減少傾向にあり、10年前の2012年で57%であったのが、減少しています。
19ページは、高齢者世帯の家計の消費支出の状況です。上が65歳以上の単身高齢者世帯で、下が高齢者夫婦世帯となっており、単身ですと約14万3000円、夫婦ですと約24万円になっています。
19ページは世帯全体の平均の数字ですが、20ページは、単身高齢者の方について、収入階級別の消費支出を見たものになります。下にあるとおりですが、年間収入が高くなるにつれて消費支出の合計額は大きくなる傾向が御覧いただけます。
高齢者世帯について、ご覧頂いたような消費支出の状況にある中で、年金はどうなっているのかというのが21ページになります。年金受給額について、現役時代の経歴類型別で見たものです。下のところですが、青で囲った「正社員中心」の方について、その分布状況が右側になりますが、年金額が200~250万円、あるいは150~200万円といった層が多くなっており、平均年金月額は一番右にある16.6万円になります。
他方で、現役時代の経歴が「常勤パート」あるいは「アルバイト」中心になると、その下の赤で囲った部分ですが、年金額の分布状況は100万円以下が6割を超えています。そういう意味では、現行の国民年金、厚生年金の制度では、現役時代の働き方が年金額に影響してきますし、特に厚生年金が給付されるかどうかに関わってきます。現役時代の働き方が多様化している中で、年金額にも働き方による違いが出ていることが見てとれます。
そこで、現役時代の働き方の多様化について見たのがこの先になります。
22ページは、非正規雇用労働者の割合で、各年齢階級で増加している状況です。
23ページは、女性の正規雇用比率について、年齢階層ごとに見たもので、30代後半辺りから正規雇用比率が下がる、いわゆる「L字カーブ」が見られます。
24ページからは、いわゆる就職氷河期世代、これは1970年代から80年代前半生まれの方と言われていますが、この世代は前の世代と比べて厳しい状況にあるということで資料をまとめています。
24ページは、氷河期世代の非正規雇用比率(男性)で、それ以前の世代と比べて高い水準になっています。
25ページは、正規雇用比率で、男性・女性共にそれ以前の世代に比べて正規雇用比率が低い状況が御覧いただけます。
26ページは、氷河期世代の賃金の推移で、左側は男性、右側は女性です、ともに正規雇用労働者を見ていますが、それ以前の世代と比べても賃金の伸びが頭打ちになっています。
就職氷河期世代の状況については、本日、堀委員から提出いただいた資料も御覧いただければと思います。
27ページは、正規雇用・非正規雇用の年収で、一定の差がある現状です。
28ページからは働き方以外のデータで、28ページは未婚割合の推移で、50~54歳の未婚割合が男女共に大きく伸びています。
今の点も踏まえて、29ページでは、世帯構成の推移と見通しですが、高齢単身世帯やひとり親世帯について、今後とも増加が予想されています。
30ページは、65歳以上の高齢者単身世帯の所得階層の分布になります。2013年と2022年を比較していますが、赤で囲った所得が200万円未満の方の割合は減少する傾向にありますが、依然として6割の方が200万円未満という状況です。
31、32ページは、健康状態を見たもので、31ページは健康寿命について、32ページについては健康状況には個人差があるという資料になります。
以上、御覧いただいたとおり、現役時代の働き方が多様化しており、非正規雇用の方が増加し、就職氷河期世代もいらっしゃる中で、厚生年金の受給に結びつかない働き方が増えてきています。そういった方々が今後年金の受給期を迎えることになりますので、もちろん適用拡大等をして厚生年金の範囲を拡大していますが、過去の加入記録という面ではなかなか結びつかない方もいらっしゃるという状況では、基礎年金の役割が重要になると考えております。
次に資料2では、資料1でご覧いただいたデータを踏まえて、関連する制度の概要や指摘されている課題をまとめたものになります。
3ページは、在職老齢年金制度(在老)の概要です。厚生年金の適用事業所で就労して賃金を得ている60歳以上の受給者を対象に、69歳までの保険料負担を求めるとともに、年金支給を停止する仕組みになっています。現在は、この停止の基準額が48万円になっています。在老は、基礎年金は関係なく、厚生年金の話になります。
4ページはこれまでの経緯で、右側が60歳台前半の在職老齢年金、我々は「低在老」という言い方をしていますが、その仕組みの経緯で、左側が65歳以上、我々は「高在老」と言っていますが、その経緯になります。本日のテーマでは高在老が中心になります。高在老は、昭和60年改正では65歳以上は年金の全額を支給する仕組みでしたが、平成12年改正に今の仕組みが導入されて現在に至っています。
5ページは、60代前半の在職老齢年金、低在老の仕組みです。こちらは支給開始年齢が一番下のスケジュールに従って引き上がっており、段階的に規模が小さくなります。
6ページは、前回の令和2年改正で見直しした内容になります。前回は低在老について支給停止の基準額を28万円から47万円に引き上げています。
7ページは、65歳以上の高在老の状況をアップデートしたもので、支給停止基準である48万円の左側が支給停止になっていない層で、右側が一部または全部が支給停止となっている方々となっており49万人になります。
8ページは、前回改正における年金部会において、在職老齢年金制度についていただいた報告になります。少し御紹介しますと、公的年金制度は社会保険方式をとっており、保険料拠出に対する見合う給付が原則である中で、在職老齢年金は例外的な仕組みである、したがって、高在老の在り方を見直すべきという意見も多かったところです。
他方で、在職老齢年金の撤廃又は基準額の見直しは将来の所得代替率を低下させるということがオプション試算で確認されています。あるいは単純に見直すことは高所得の高齢者を優遇するという指摘もありました。
その他にも幾つか指摘がありまして、下のほうでは、在職老齢年金制度による支給停止の対象になるのは賃金であり、自営業や請負、顧問契約による収入は対象にならないことから、こういった就業形態の違いによる公平性の問題が指摘されています。
結果的にこの問題については、政府・与党内での議論・調整において、年金制度で考えるだけでなく、税制での対応や各種社会保障制度における保険料負担での対応と併せて今後も検討していくべき課題とされたところです。
9ページも、同じく年金部会の報告書になりますが、以上を踏まえて、高在老を含めた高齢期の年金と就労の在り方については、引き続き検討を進めていく必要があるということで、おまとめいただいたものです。
10ページは、前回改正の財政検証におけるオプション試算で、在職老齢年金(高在老)を見直した場合の影響になります。例えばケースIIIで申し上げますと、高在老を撤廃した場合、最終的な所得代替率が▲0.4%低くなるという試算結果になっています。
11ページも前回改正時の資料になりますが、在職老齢年金制度については、高齢者の雇用を抑制する就業抑制効果があるという指摘があり、これについて山田先生の研究を紹介しています。結論が真ん中辺りにありますが、60代前半については就業率を押し下げる効果が確認できるが、他方で、60代後半については就業抑制効果を確認できない、という結論になっています。こういうことも踏まえて、前回改正では低在老についての基準額を引き上げたということになります。この研究では高在老部分についての就業抑制効果が確認できないということですが、次の意識調査では少し違ったものが見えます。
12ページ真ん中の右側になりますが、60歳台の第2号被保険者の方に在老制度と就労についての意識を聞いたものです。これによると、「年金額が減るのを避けるため働かない」、あるいは「減らないように就業時間を調整する」と回答した方が、60代後半で約45%いらっしゃいます。
13ページは、諸外国の状況を調べたものです。結論から申し上げると、調べたアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスでは、支給開始年齢以降で、日本の在職老齢年金制度のように収入によって年金給付を減額する仕組みは存在しておりません。また日本についても、先ほど申し上げたとおり、平成12年改正で高在老の仕組みが導入された経緯がございます。
14ページは、関連する話として繰下げとの関係についてです。現行の仕組みを説明したもので、在職中で老齢年金を受給されている方が繰下げをされる場合のイメージ図になります。赤い部分で書いていますが、この場合は全部または一部停止された部分については、繰下げによる増額の対象とならない仕組みになっています。
15ページは、その関連で、繰上げ・繰下げの利用状況についてまとめています。70歳の受給権者について繰下げの利用状況をみたところでは、厚生年金・国民年金共に2%あるいは3%といった状況で、少しずつ増えています。
16ページは、前回改正における国会審議での在労をめぐる議論の状況、あるいは全世代型社会保障検討会議でいただいた見直しの提言を載せています。ここでは税制との関連について指摘がありまして、17ページは、公的年金控除の概要です。
18ページは、今回の部会でいただいた意見をまとめております。
以上が在職老齢年金制度で、19ページから基礎年金の拠出期間の延長についてです。
20ページは、前回の年金部会でいただいた指摘になります。保険料拠出期間の延長に関する指摘を赤くしています。
21ページは、前回改正法の国会審議で附帯決議としていただいたもので、赤く囲った部分で指摘をいただいています。
22ページは、拠出期間の延長に関連して、現行制度の拠出期間は20歳から60歳まで40年間であることから、この制度が創設された昭和36年当時の議論を紹介しているものです。上が制度制定時の担当者が解説した本からで、なぜこの年齢にしているのかということについては、当時の被用者の定年が一般的に55歳であり、自営業者はもう少し長く所得活動に従事するだろうということをあげています。加えて、60歳までは一般的に保険料負担が可能であるが、それを超えれば難しいのではないかと整理しています。これは当時の就労状況、平均寿命などを踏まえて決めたものであり、現在ではまた違った整理があると思っています。
23ページは、第1号被保険者の保険料の納付状況について年齢ごとに見ており、特に50代後半の納付状況を見ると納付される方が増えています。
24ページは、第1号被保険者の就労状況について、これも年齢ごとですが、左側の50代後半では約7割の方が働いており、3割の方は無職になっています。他方で、無職の方についても、右側にあるとおり6割の方が納付されています。23ページと24ページは、仮に60歳から64歳まで納付期間を延長する場合において、保険料を納付する側のイメージとしてつけています。
25ページは、今回指摘されている基礎年金の拠出期間を45年間に延長した場合のイメージです。まず、給付についてですが、延長した場合には、その分給付を増額することになり、基礎年金が充実します。これについて現行と延長後のイメージを記載しています。
加えて、老齢基礎年金の満額が45年分になりますので、障害基礎年金と遺族基礎年金についてもそれに合わせて増額することが考えられます。これが給付の部分になります。
続いて、給付とセットとなる負担については、まず第1号被保険者は60歳から64歳まで定額保険料を負担いただきながら、所得状況に応じて現行と同じ保険料の免除制度があることになると考えています。
次に、第2号被保険者、厚生年金の方については、既に被保険者期間が69歳までとされていますので、この方々については、今回仮に45年に延長した場合でも追加の保険料負担は生じないと考えております。
以上のように負担と給付をセットでどう考えるかということになりますが、課題としては、リード文の一番下に※で書きましたが、国庫負担について、現在は基礎年金の給付の2分の1を国庫が負担しているところ、延長した場合の追加財源の確保が必要になるという点になります。
26ページは、前回の財政検証で、拠出期間の延長についてのオプション試算を行っており、その結果になりますが、代替率が上がるという推計になっています。
27ページは、この件に関しての主な御意見を載せています。
28ページからはマクロ経済スライドの調整期間の一致についてです。
最初の3枚は現行のマクロ経済スライドの仕組みの資料で、29ページは、平成16年改正で導入された財政スキームの考え方の紹介になります。
30ページは、現行のマクロ経済スライドの仕組みと考え方をまとめています。マクロ経済スライドは、将来の現役世代の過重な負担を回避し、給付水準を確保する観点から、給付を自動的に調整する仕組みとして導入されました。これによって毎年の年金額の改定に際して、物価や賃金による改定率から調整率を差し引くことになりましたが、物価や賃金の伸びが小さい場合、あるいはマイナスの場合には調整を行わないという「名目下限措置」が講じられています。左下に図示したものが名目下限措置の考え方になります。
他方で、名目下限措置の結果、その年に調整しなかった分については翌年度以降に繰り越される「キャリーオーバー」という仕組みが平成28年改正で導入され、平成30年4月から発動しています。
31ページは、その発動状況で、30年度以降の物価、賃金、スライド調整率等々を掲載していますが、マクロ経済スライド自体は平成27年、令和元年、2年、5年と4回実施しており、そのうち3回はキャリーオーバー分を反映した改定になっています。結果として、この制度が入った平成30年度以降で見ると、令和5年度までに全てのマクロ経済スライド調整率が反映された、という状況になっています。
以上のマクロ経済スライドの仕組みを基に、32ページにあるように5年に1回、財政検証を行っており、33ページが前回の結果です。色で囲っている部分が本日のテーマに関わりますが、所得代替率の内訳として基礎年金部分と報酬比例部分に分かれる中で、調整期間の終了年度については、基礎年金部分と報酬比例部分とで乖離しています。
34ページにそのことを図示しており、右下が現状で、厚生年金のスライド調整期間が6年である一方で、基礎年金については27年間と長期化する見込みです。
一方で、先ほど御紹介したように、2004年に今の財政スキームが導入された時点では、マクロ経済スライドの調整期間の終了時期は一致するという見通しを立てておりました。
35ページは、この「ずれ」の原因に関わる資料になります。マクロ経済スライドの調整期間については、二段階に分けて決定しています。左側にある第一段階で、まず第1号被保険者に関わる国民年金の財政に基づいて、将来にわたってバランスする水準をはかった上で、それに伴うスライド調整率と調整する期間を決定します。そこで決定した基礎年金の水準を所与として、今度は右側になりますが、厚生年金の調整率がどれくらいになるかについて決定しています。このように二段階に分けて調整期間を決定していることから、財政状況の違いによって国民年金と厚生年金とで調整を終了する年度が異なるということが構造的に入っています。さきほど確認したとおり、実際に基礎年金と厚生年金の調整期間が異なっているわけですが、この「ずれ」の方向として、基礎年金の方が長くなっている要因が36ページになります。
36ページでは、基礎年金の方が長くずれることの要因について、一つは国民年金の財政が悪化しているということです。これはデフレ下で賃金が下がっても基礎年金水準が高止まりしてきたことがあります。
一方で、厚生年金の財政は改善しており、その要因としては、女性や高齢者の労働参加が進展したことで、想定よりも厚生年金の被保険者が増加している、あるいは第3号被保険者の減少が進んでいるということです。最初のデフレ下の基礎年金の高止まりについては、平成28年改正で賃金の伸びが低くて物価を下回る場合には、賃金変動に併せて改定するというルールが導入されて現在では解消していますが、過去の分が残っていることになります。加えて、厚生年金の被保険者数の変化については、一番下にあるとおりです。
この状況がどういう影響を及ぼしているのかが37ページで、基礎年金の給付調整が長期化することで給付水準が低下し、所得再分配機能が低下することになります。これを踏まえて、令和2年改正法附則の検討規定では、所得再分配機能の強化の必要性が指摘されています。
38ページは、過去の年金部会でも提出した公的年金が有する所得再分配機能について説明した資料です。
39ページは、年金部会でいただいた指摘になります。報酬比例部分と基礎年金の部分のバランスを確保して、所得再分配機能を維持していく方策を検討すべきとあります。
40ページは、同じようなことが令和2年改正法の附則にも記載されています。
41ページは、附帯決議における記載です。
42ページは、調整期間の「ずれ」を一致させた場合のイメージで、真ん中の段が現在の状況ですが、一致させる場合には、一番下にあるとおり、報酬比例の調整期間は延ばして、基礎年金については短くすることになります。結果的に2つの調整期間が一致すれば、2004年(平成16年)当時に想定した姿に戻ることになります。
43ページ以降は、2020年の年金数理部会に提出した資料で、この年金部会にも以前出させていただいたものです。
44ページは、一致させた場合について試算内容になり、その結果が45ページになります。御覧いただくと、調整期間が一致した場合の最終代替率はケースⅢで55.6%になっており、さらに拠出期間の45年への延長を加えたものがその右側になります。
46ページは、この試算で調整期間を一致させた場合の賃金水準別で見た所得代替率への影響です。縦の線を引いておりますが、左側の線が現役男子の賃金の平均額になっており、この場合の代替率は先ほどの試算で出てきた55.6%です。ここから右に賃金水準が上がっていった場合、賃金水準が185万円のラインまでは、調整期間を一致させた方が所得代替率が上昇する試算になります。他方で、そのラインの右側は、所得代替率が逆転する見込みであり、このことから大多数の方にとって、所得代替率が上昇する効果があると考えております。同様に47ページは、追加試算②と③について影響を見たものです。
48、49、50ページは、このテーマについて部会でいただいた御意見の紹介になります。
最後、年金生活者支援給付金についてです。制度の概要が52ページで、この制度は、所得が低い方、具体的には前年所得が老齢基礎年金の満額以下の方などについて、年金制度とは別に給付金を上乗せして支給するものです。令和元年から施行されており、財源は全額国庫負担となっています。現在の支給件数は、老齢の給付金が463万件、障害の給付金が204万件という数字です。
53ページは、支給金額ごとの件数の分布になります。
54ページ、55ページは、この給付金の導入の経緯になっており、この制度は平成24年の社会保障・税一体改革の議論で提案されたもので、その後、定額の年金加算という形ではなく、年金制度の枠外の給付金ということで、当時の三党で合意して創設されました。
54ページの下にあるとおり、法律の中で総合的な検討を行った上で所要の見直しを行うような規定があり、前回改正法時にも附帯決議をいただいておりますので、必要があれば検討してまいりたいと思います。56ページは、この給付金についていただいた意見をまとめています。
以上、駆け足で恐縮ですが、資料の説明を終わります。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、本日の議題について皆様から御意見、御質問をいただきたいと存じます。
最初に申しましたように、本日議題が大変多くなってございます。本日のテーマについては、次回の部会でも取り上げる予定となっておりますので、その点もお含みおきの上、お願いできれば幸いでございます。
それでは、まず会場から。いつも同じ向きで恐縮ですので、今日は逆方向から行かせていただきます。時計とは反対回りでお願いできればと存じます。もし何もなければパスしてくださって幸いですので、よろしければ平田委員からお願いできますでしょうか。
○平田委員 ありがとうございます。
私からは在職老齢年金制度、そして基礎年金の拠出期間延長の2点と、そもそも年金とはということに関して意見を述べたいと思います。
まず、在職老齢年金ですが、高在老は継続だろうと思っています。一方で、高齢者の就労促進は大事だと思っています。というのは、仕事で得られるものはお金ですが、それにより衣食住・余暇を楽しむなど、安心が得られる。つまり心身の健康であり、これは生命維持機能に等しいのではないかと思っています。
同時に、働いてもらうことで社会が得られるものも非常に多く、働き手、それは税金や70歳未満の場合社会保険料()の支払いであったり、社会の維持機能の一員になっていただくということになろうかと思います。それでも高在老継続というのは、年金というのは払ったからもらうという側面もありますけれども、所得再分配、支え合いの仕組みでもある。誰も分からない自分の見えない将来の保障、安心の仕組みでもあります。ですので、所得再分配の観点から高在老は継続でよろしいのではないかと思います。
一方、継続の仕方ですが、今後の賃金の上昇を見込み、基準額は変えずに、今、2分の1のところを3分の1にするような形で、少し薄くするのはどうかと思っています。
同時に、繰下げ受給の増額対象に組み込んで、そのことが就労意欲の喚起にちょっとでもつながったらいいのではないか。ポイントをためるではないですけれども、何かたまってうれしいという。年金はどうしても論理のところで話されがちですが、国民全体のことなので、気持ち・マインドにつながることも大事ではないかと思っています。
高所得者については税金ほかで検討し、資産に関しても同様だと思います。働き方の多様化にもこれで対応する。
働き方による将来保障、支え合いの仕組みへの加入に不公平感が出ないことが大事ではないかと思っています。
45年への延長ですけれども、基本は賛成です。ただし、これは収入とセットであることはとても大事だと思っています。1号の中には今、フリーランスですとかダブルワーカーの方が含まれていて、つまり、支払いが非常に厳しい方もいらっしゃるということを忘れてはいけないということです。保険料免除の仕組みの周知もですけれども、そのほかに配慮が必要であれば、これは検討する必要があると思っています。
最後に、そもそも年金はということですが、払った分もらうという側面はあるものの、社会保険の一つである年金は、所得再分配と一生涯の安心の仕組みではないか。つまり、支え合い・循環の仕組みでもあるという側面がちょっと軽視されているのではないかというところに問題意識を持っています。同じ社会保険である健康保険は、いっぱい払っているけれども、健康で全然使っていないという人と、重い病気にかかられて多く使っておられる方がいる。損得で言えば、受給期間だけで見れば女性のほうが圧倒的にお得みたいなこともあると思います。
年金は、いつまで生き、いつ収入がなくなるか分からない、そこに対する安心感を買っているイメージ。将来に向けた安心を感じられたら、社会の雰囲気もまた変わってくるのではないかなと思っています。この辺りが社会全体にどのように認識されているのかということをいま一度発信すること。そういう意味でも年金についてより深く理解していただくということを我々が検討する必要はあるなと思っております。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
深尾委員、いかがでしょうか。
○深尾委員 4点あるのですが、在職老齢年金の支給停止の問題については、基本的に縮小していくべきだと思います。働きたいという意欲のある人の意欲をそぐべきではないと。諸外国の例とかも御紹介がありましたが、そちらの方向で考えるべきだと思います。
それから、国民年金の45年の延長については私も賛成です。
3番目、非正規雇用が多いことでいろんな年金の問題が生じているということについては、確かにそうなのですが、年金制度を考えるときに、それを与件として考えるべきではなくて、いかに正規雇用を増やしていって非正規雇用を減らすかという視点から。したがって、非正規雇用を雇ったほうが企業にとって安くつくとか、そういう状況をなくしていくことが大事だと思います。
最後のスライドの問題もそういう視点で考える必要がある。比例と基礎の部分を含めて。そういうふうに思います。
私の意見は以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、原委員、お願いします。
○原委員 本日のテーマは盛りだくさんで、次回も引き続きということですので、本日申し上げたいことを簡潔に、基礎年金の拠出期間の延長ということについてコメントをさせていただきます。前回までの意見の中にもありましたけれども、平均寿命の伸びとか雇用環境の変化を見ても、現在では社会の流れが変わっていますので、自然の流れではないかなと思っております。60歳以上で厚生年金に加入して働く人も増えています。適用拡大も進めています。そうすると、厚生年金の加入者は、70歳までは制度上被保険者として加入することができますし、一方で、国民年金法上は65歳まで第2号被保険者として扱われるのですが、ただ、基礎年金に反映されるのは60歳までの期間ということになっています。ここが非常にややこしいところですけれども、ですので、基礎年金の拠出期間延長というのは基礎年金の満額を引き上げるので、厚生年金の加入者の方が多くなると思うのですが、追加の保険料負担がなく、これまで反映されなかった60歳から65歳までの期間が基礎年金に反映されるということになり、25ページの図にもありましたけれども、給付の部分が大きいということも考えて、追加の負担がないということを考えて、厚生年金の加入者にとっても基礎年金が増えるということで、これはこうあるべきだと。今の時代は合っていると思います。
一方で、第1号の被保険者の方については、今、60歳まで強制加入なのですが、60歳からは、480月の上限になるまでは年金額の増額を目的として65歳になるまで任意加入の制度があります。任意加入して保険料を納付するということができるようになっています。さらに、令和2年改正でこの間任意加入している人は、私的年金の個人年金制度であるiDeCoにも加入できるということになっています。そういった時代の流れになっているのだなと思っていますけれども、そういった意味でも、これを公的年金側の視点でどう捉えていくかということもあると思うのですが、実際に拠出期間の延長ということになれば、免除制度とかを利用したり、あるいは生年月日等で時間をかけていくなど、いろいろ考えられるかと思いますが、これは実現に向けた方向でいろいろと検討していくというのがよいのではないかと思っております。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
永井委員、お願いします。
○永井委員 ありがとうございます。
私からは大きく3点意見を申し上げたいと思います。まず、在職老齢年金制度についてです。以前の部会でも申し上げましたが、厚生年金保険の適用要件を満たさず加入していない人や、賃金以外の収入がある人との公平性を確保するためにも、事業所得、家賃、配当利子など、総収入をベースに年金額を調整する制度に改めるべきと考えます。その際、令和2年年金法改正による効果も含め、現在の就業抑制効果、48万円の壁があるのかなどを分析した上で、現行制度の廃止も検討すべきであると考えます。
2つ目は基礎年金の拠出期間延長です。現行の40年の保険料納付に対する給付水準を維持することを前提とし、保険料拠出期間を延長するということには賛成の立場です。しかしながら、単に拠出期間を延長するとなれば、3号被保険者の年齢要件を60歳未満から65歳未満に変更することとなり、これまで共有してきた方向性に逆行することになりかねないと考えます。
前回の部会で議論した3号被保険者制度の在り方については、次期年金制度改革までに一定の方向性や結論を出すことは重要であると考えており、そのことを踏まえつつ、拠出期間延長の議論を進めるべきと考えます。
なお、事務局へのお願いですが、今後の個別論点の議論に当たっては、これまでの部会で出された意見だけでなく、それぞれの制度改革による効果、それにより生じ得る課題などを整理した資料も準備いただければありがたいと思います。
3点目は年金生活者支援給付金です。金額や要件などを踏まえると、低年金者対策としての役割を十分に果たしているとは言いがたいのではないかと思います。今後、確実な給付はもちろんのこと、給付額の増額や年金保険料を支払えなかった人への対応などを検討し、低所得者加算など福祉的給付のさらなる充実に取り組むべきであると考えます。
なお、以前佐保委員からも発言があったとおり、将来的には全ての人が加入する所得比例年金制度を構築し、それとともに働く意思の有無にかかわらず、所得比例年金が一定以下の全ての人が受給できる最低保障年金制度を構築すべきであると考えます。
最後に、老齢年金制度は決して分かりやすい制度とは言えません。分かりやすい制度にしていきたいという思いとともに、すでに厚生労働省には努力をいただいていますが、現行制度の分かりやすい周知について、特に現役世代に対してお願いしたいと思います。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
資料についての御要望がございましたので、次回以降に向けて事務局で御検討いただければと思います。よろしくお願いします。
それでは、玉木部会長代理、お願いいたします。
○玉木部会長代理 私からは在老の問題と基礎年金についてごく手短にコメントを申し上げます。
在老、特に高在老で給付のカットを受ける方というのは、多分年収500万円ぐらい以上の雇用に65歳以降就いておられる方ではないかと思うのですが、今や500万円というのはごく普通の人になってきておりますので、この辺、世の中の変化というものを制度の議論においては適切に織り込んでいくことが必要かと思います。
例えば資料1の6ページあるいは7ページに65歳以上の方の就業率の推移のグラフが出てございます。これは、およそ8年か10年ぐらい前からはっきりとした上昇傾向を示すようになってきてございます。資料2の11ページに山田先生の実証研究についての記載がございます。こちらでは就業抑制効果はあまりないという結果が出たということでございますが、この分析は2014年時点のデータに基づいておりますので、資料1の6ページ、7ページのグラフを拝見しますと、もう少し新しい情報が欲しいなと思うところでございます。
また、資料2の7ページを御覧いただきますと、年金受給者の賃金(総報酬月額相当額)と年金の合計の分布でございますけれども、48万円に向かって下がっていくわけですが、その1つ手前でぽんと上がっているところがございます。また、48万円を過ぎたところでがたんと下がっているということは、何かあるのだろうと疑わせるところでございまして、このような現象が起きるということは、どうも年金制度が労働供給に対して中立ではないということを示しているのかなと思うところでございます。
したがって、私は高在老の廃止というものを1つ議論にしてもいいかなと思います。従来こういうことを言うと、それは高給取り優遇だろうという議論もあったかと思いますけれども、ただ、ここ5年、10年、15年の間に60代後半で500万円ぐらい、日本人の平均ぐらいを得るという方々は次第に増えつつあると思いますし、また、今、65歳を超えようとしている60歳前半の皆さんは、多分10年前、20年前よりも60代後半の雇用継続について抵抗感がなくなっている、当たり前になっているということだと思いますので、そういう年齢層において、65歳でびっくりするようなことがあるという形にするのは、年金制度の複雑性を増すとか、あるいは年金制度に対する素朴な信任について、ちょっと雑音が入るなというところもございます。
したがいまして、高給取り優遇といった観点からの議論とは別に、中立性という概念、あるいは分かりやすさ、あるいは国民の年金制度に対する分かりやすいという信頼感というものを踏まえた議論が、1つ設定されてもよろしいかなと思うところでございます。
もう一つ、基礎年金について申し上げますと、今のままですと基礎年金は下がっていくということになっているわけでございますが、同時に基礎年金に再分配の機能がございますので、再分配のパイプも細くなってしまうわけでございます。
ただ、世の中どこを見回しましても、基礎年金の再分配の機能を下げるべきだと言っている人は1人もいないわけでございますので、意図せざる副産物としてこれが下がってしまうという仕組みについては、これは何か手を打つのが当たり前ではないかなと思うところでございます。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、佐保委員、お願いします。
○佐保委員 ありがとうございます。
私からは資料1で示された各データを踏まえつつ、資料2について3点ほど意見を申し上げます。
最初に資料1の18ページに関して、2019年度の調査では48.4%の高齢者世帯が公的年金等だけで生活しており、2018年度の調査では51.1%でしたので、経年で見れば高齢者の就業率の上昇とともに低くなっていると理解しております。
ただ、19ページにある高齢者世帯の支出からすれば、現在の基礎年金額だけでは生活が成り立たないことは明白であり、誰もが高齢・障害などにより生じるリスクに対して安心して暮らし続けること、そして公的年金が持つ所得再分配機能を維持するためにも、基礎年金の給付水準の引上げが必要です。
その方法としてマクロ経済スライドの調整期間の一致、基礎年金の拠出期間延長が示されていますが、以前の部会でも申し上げたとおり、これらはあくまでも基礎年金の給付水準引上げのための選択肢の一つであると考えます。選択肢を限定することなく、資産課税の強化などを財源とする国庫負担割合の引上げ、財源を確保した上で基礎年金をマクロ経済スライドの対象から外すことなど、広い視点で議論すべきであるということは申し上げておきたいと思います。
2点目は、論点として提示された基礎年金の拠出期間延長についてです。資料1にある高齢者の就業率の上昇や平均賃金の上昇を踏まえ、現行の40年の保険料納付に対する給付水準を維持することを前提とし、保険料拠出期間を延長すべきと考えます。ただ、以前の部会でも申し上げたとおり、令和元年財政検証では、延長期間分に国庫負担がないパターンでの追加試算が行われておりましたが、そのような仕組みは国民の理解が得られるものではございません。納付期間全てに係る基礎年金の給付に国庫負担をつけた上で、拠出期間を延長すべきと考えます。
3点目はマクロ経済スライド調整期間の一致についてです。基礎年金の給付水準を引き上げるための方法の一つとのことですが、資料2の42ページで提示されたイメージはあくまで事象のことを指しているのであり、そのための具体的な方法は今回の資料では示されていないと理解しています。仮に調整期間を一致するとなれば、国民年金勘定、厚生年金勘定、それぞれからの基礎年金勘定への拠出方法の見直しなど、公的年金の財政の仕組みを大きく変える必要があると考えます。この点は今後の議論になると理解しておりますが、労使が労働者の標準報酬等に応じて拠出した保険料による厚生年金勘定と、1号被保険者の定額保険料による国民年金勘定、それぞれの財源を同列に扱い、単に厚生年金勘定からの拠出を多くするような仕組みへの見直しは行うべきではなく、拠出者全ての納得性や合理性を踏まえた検討を行うべきであると考えます。
なお、このような財政の具体的な見直しなどは本日の論点に含まれていないため、今後もいずれかの部会にて論点として設定いただきたいと考えます。
私からは以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、是枝委員、お願いします。
○是枝委員 私からは、まず基礎年金拠出期間の延長とこれに絡めた高在老と年金生活者支援給付金の話、次にマクロ経済スライド調整期間の一致についてお話しさせていただきます。
基礎年金の拠出期間の延長については賛成です。そのために必要な国庫負担分の財源の確保策として、高在老廃止時の高所得者への公的年金等控除の縮小、45年化後の世代への年金生活者支援給付金の廃止、65歳以上の遺族年金への公租公課禁止規定の撤廃などが考えられると思います。
3つ目の公租公課については本日のテーマからやや外れますので、残りの2つについて説明させていただきます。
高在老については、収入が1万円増えたら年金が5,000円減るというのは、限界税率50%に相当し、これに通常の所得税や住民税もかかることを考えると、かなりきついディスインセンティブだと思います。第3回年金部会、及び本日永井委員から賃金以外の収入がある方との公平性を確保する必要があると御指摘もありましたが、こうした調整については、年金制度というより、むしろ税でやったほうが効率がよいものと考えます。
高在老を廃止しますと、報酬比例年金の所得代替率を一律に引き下げることとなりますので、これは全体の年金の給付水準を底上げする基礎年金45年化の実施の際に行ってオフセットするのがよいのではないでしょうか。
この際、高在老廃止によって、高所得者に対して公的年金等控除の縮小で、より高い税率で所得税や住民税を課す余地ができますので、それを基礎年金45年化の際の国庫負担の財源に充てる形にすれば、高所得者から低所得者への逆再分配だという構図を避けることができるのではないかと考えております。
年金生活者支援給付金については、拠出に基づかないものですので、これは制度の抜本改正を待たずに、低年金者の年金水準を底上げするための応急措置と理解しております。基礎年金の拠出期間を45年化することで水準が引き上げられますので、引上げ後の世代については年金生活者支援給付金は不要になるのではないかと理解しています。
マクロ経済スライドの調整期間の一致について申し上げます。マクロ経済スライド調整期間の一致は、報酬比例年金の調整期間が終了する前までであれば、いつ決定しても結果は同じになります。一方で、基礎年金の45年化や適用拡大は、いつ行うかによって労働者個人やマクロ全体での最終的な年金の水準が大きく変わってきますので、実施を急ぐ必要があります。
今回の2025年の改正で基礎年金の45年化や大規模な適用拡大を行えば、最終的な基礎年金の水準が大きく引き上げられることになります。また、報酬比例年金の調整期間が2030年以後まで延びることも見込まれます。
今回の2025年改正では、調整期間一致については判断を留保した上で、2025年の改正の結果とその後の経済状況を踏まえた上で、次の2030年改正での検討課題とすることも選択肢だと思っております。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、小林委員、お願いします。
○小林委員 まずは私事ですが、本日、声が嗄れておりまして、大変お聞き苦しいと思いますけれども、よろしくお願いしたいと思います。
私のほうからは、在職老齢年金制度、基礎年金の保険料拠出期間の延長、マクロ経済スライドについて、意見を申し述べます。
まず、在職老齢年金制度です。議論に有用と考えられるデータを出してほしいと、5月8日の第3回年金部会でお願いしたところ、本日幾つかの御提示をいただきました。ありがとうございます。そのうち、資料2の12ページの調査結果についてですが、少し前の時期のデータであるものの、在職老齢年金制度が、中高齢者の就労継続の有無や、労働時間の決定に影響を及ぼしていたことがよく分かりました。中小企業の人手不足はかなり深刻化しております。今年7月から8月にかけて全国の中小企業を対象に実施した商工会議所の調査では、人手不足との回答が約7割に達し、同調査の開始以降、最大となりました。
中小企業もハローワークへの求人票貼り出しや、民間企業の採用支援サービスの活用をはじめ、いろいろ努力していますが、現役世代の人口が減少する中、人手や人材の確保に大変な苦労をしております。対応策として、働く意欲と能力がある人の就労を妨げる制度があるなら、それを変えるべきなのだろうと思います。その一つとして、在職老齢年金制度があります。これを見直すべきと考えますが、その際、2つの点を念頭に置いた丁寧な議論が必要だと思います。
1つは、資料2の8ページの中段で指摘されている就業形態の違いによる公平性の問題です。働き方に中立的な制度を目指すという視点も重要と考えます。
2つ目は、資料2の7ページに記載の支給停止対象額、約4500億円が仮に支給されたこととなった場合の、将来世代が受給可能な年金額への影響です。事務局におかれましては、これらの点を反映した論点案の作成や参考となるデータ等の収集等をお願いできればと思います。
次に、基礎年金の保険料拠出期間の延長についてです。資料2の26ページに拠出期間を延長し、基礎年金を増額する仕組みへ変更した場合、所得代替率が向上する見込みであることを分かりやすくまとめていただいております。他方、基礎年金給付額を増額するということは、国庫負担の増加につながり、それを受けて、25ページの上部に「国庫負担について、追加財源の確保が必要」と記載されていると思います。
追加財源がどの程度必要となるのか、財政にどのような影響を及ぼし得るのかを踏まえて、拠出期間の延長が政策として適切かどうかを検討すべきと考えます。
事務局には、必要となる追加財源の規模の見込み等のデータをお示しいただければと思います。
3点目は、マクロ経済スライドについてです。マクロ経済スライドは年金制度の持続性を確保するために不可欠な制度と認識しています。しかし、名目下限措置によってマクロ経済スライドがその効果を発揮できない仕組みとなっています。将来世代の給付水準を確保するためにも、名目下限措置は速やかに撤廃すべきと考えます。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
小林委員からも具体的な議論を進める上で必要なデータの収集、提示をお願いしたいという御依頼がございましたので、また次回以降御検討いただきたいと思います。
それでは、小野委員、お願いします。
○小野委員 ありがとうございます。
私からはマクロ経済スライドの調整期間の一致についてコメントをさせていただきたいと思います。将来の給付水準が第1号被保険者の趨勢に強く依存するという構造を解消するという気持ちは理解します。しかし、2020年12月に年金数理部会に提出された追加試算を見ますと、将来の国庫負担が相当に増加するという懸念があります。この辺りの財源措置という点について何か情報がありましたら教えていただきたいと思います。
私は、このことを財政当局がどう捉えるかという点が非常に気になっております。年金制度を外から見る人にとっては、かつて会計検査院が指摘した等のことがありましたとおり、年金制度の仕組みが給付水準の調整を進行させずに、現在の状況を招いたと評価する、そういった向きもあるかもしれません。
これを踏まえると、まずは年金制度が汗をかく改革、具体的にはマクロ経済スライドの完全適用でありますとか、被用者保険の適用拡大の徹底、さらに国民年金の拠出期間の延長です。これも調整期間の一致ほどではないにせよ、国庫負担の増加が見込まれるということが指摘されていましたが、これらを優先して実施するべきではないかと考えております。この件について必ずしも反対するものではありませんけれども、優先順位を整理していただきたいなと思います。さらに、かつて基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げた際に多大な苦労があったと思いますけれども、このときのように財源の裏づけを確保した上で議論を進めていただきたいなと思います。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
御要望でもありましたが、御質問でもあったかなと。調整期間に関して、追加の財源措置について、いかがですか。お願いします。
○数理課長 数理課長でございます。
調整期間の一致の国庫負担についてお尋ねがありました。45ページに調整期間を一致した場合の試算を提示しております。国庫負担につきましては、基礎年金の水準によってどのぐらい国庫負担が必要かというのが変わってきます。例えばケースⅢで言いますと、調整期間が一致した場合でも現行制度でも、2033年までは基礎年金のマクロ経済スライドがずっと同じようにかかっていくということでありますので、2033年までは国庫負担については現行制度と全く変わりません。それ以降、2033年で一致させれば、基礎年金の水準が固定される。一方、現行制度ではさらに調整が続くということで、差が出てくるということで、33年以降徐々に増えていって、現行制度で調整が止まる46年に完全に成熟化する。そういった構図になっているということであります。
国庫負担が必要ということでありますが、2033年以降ということであります。その上で、数字のほうについては手元にありませんので、改めて整理してお示ししたいと思っております。
以上です。
○菊池部会長 小野委員、よろしいですか。
○小野委員 はい。
○菊池部会長 ありがとうございます。
先ほど申しましたように、次回またこのテーマを取り上げるということですので、今日皆様からいただいた宿題というか、それを踏まえて、可能な範囲でまたお出しいただけると思いますので、よろしくお願いいたします。
それでは、オンライン参加の皆様、挙手機能を使ってお手を挙げいただければと思いますが、いかがでしょうか。では、駒村委員からお願いします。
○駒村委員 今日3つの話がありまして、まず高在老については廃止を進めていくべきではないかと思っております。45年はぜひとも進めるということ。それから、マクロ経済スライドの調整もぜひ進めるべきだと思っております。
追加の資料を幾つかお願いしたいと思っております。まず、資料1の14、21、30については男女別も取れるのではないかと思いますので、男女別の資料も見ておきたいと思います。
資料2の10ページについて、高在老が廃止された場合のインパクトで所得代替率が下がるということがあったと思いますが、高在老を廃止する目的というのは労働力率を上げるということでありますので、労働力率を上げることによって、今度は経済成長と年金財政を通じて年金財政に貢献することになりますので、そのことを考慮してこのインパクトを考えなければいけないのではないかと思いますので、その計算は必要だと思います。
36のマクロ経済スライドが長期化することについて、2つの要因がありましたけれども、できたらそれぞれの貢献分というのを分けて見てみたいなと思っております。
それと、マクロ経済スライドを一致させるための方法についてですが、35ページに二段階の有限均衡の話が出ています。これは2004年にやった有限均衡であるわけですが、これは後知恵で当時の方が非常に工夫をされたことを一方的に批判するわけにもいかないですけれども、その後の経済状況、数値の変動の違いを考えれば、そもそも一体的に有限均衡を考えておくべきではなかったのかなと思います。後の祭りというか、そのときの判断はそうだったと思いますが、今後44ページのような形でマクロ経済スライドを一致させるためには、佐保委員からもお話がありましたけれども、具体的にどういう調整方法を考えていくのかということも検討する必要があると思います。
53ページは男女別にこの数字も出てくるのではないかと思います。
国庫負担の話について議論がありました。先ほど事務局からもお話があったように、45年とマクロ経済スライドの調整期間の一致によって、国庫負担の増加がどういう形で発生するのか。この優劣を見ておきたい。これは先ほど事務局から御回答があったと思います。
国庫負担については、例えば今、年金改革の中で適用拡大を今後も進めていくと。適用拡大を厚生年金でやれば、道連れに健康保険も適用拡大になると。そのことによって国民健康保険、国保の方の数が減っていくと国庫負担が節約できると。そういうルートで国庫負担を社会保障全体、医療と年金という形になりますけれども、貢献できるという部分もありますので、殊さら期間の一致、あるいは40年がお金ばかりかかるのではなくて、ほかの改革で国庫に貢献する部分もあるので、それも踏まえて議論する必要があるのではないかなと思いました。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、井上参考人、お願いします。
○井上参考人 ありがとうございます。
3点申し上げます。これまで主張してきたとおりですけれども、1つ目、在職老齢年金制度につきましては、現行を維持すべきではないかと考えます。廃止により給付が増えますと、将来世代の給付水準が低下します。また、税制上も年金受給者は優遇されております。今後ますます高齢者の就業というのは増えていく方向でございますし、負担能力のある方にできるだけ担い手になっていただくという観点からも維持すべきではないかと考えております。
2つ目、基礎年金の拠出期間の延長、これは賛成でございます。基礎年金給付の底上げには、これまで議論した被用者保険の適用拡大に加え、期間の延長も考えるべきだと思います。その際、お話がありましたが、60歳までと同様に、国庫負担2分の1ということは対応すべきであると思います。年齢によって国庫負担の割合が異なっていくことに関しては違和感がございます。
3つ目、マクロ経済スライド調整期間の一致でございますが、これに関しましても2004年の改正の議論から一貫して私どもは、名目の下限措置の撤廃も含めて、マクロ経済スライドの早期適用によって持続可能性、給付水準の確保が必要であるという主張をさせていただいております。
結果的に給付調整が進まないで、基礎年金の給付水準が当初の想定よりも高くなっているというのは、資料の中では厚生年金のほうが優遇されているというイメージに見えますけれども、そもそもデフレ経済の中でスライドが適切に発動されなかったということが原因であることは強く指摘しておきたいと思います。
以上でございます。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、嵩委員、お願いします。
○嵩委員 御説明どうもありがとうございました。
私からは3点お話をさせていただきたいと思います。
まず、調整期間の一致についてですが、こちらは基礎年金については、基礎年金のみを受給する方にとっては当然給付水準の低下を一定程度にとどめるという必要がありますけれども、厚生年金の被保険者についても、厚生年金の被保険者間の所得再分配機能を低下させないように、資料2で御説明がありましたように、基礎年金との厚生年金とのバランスを維持させることが重要と思います。
とりわけ適用拡大によって比較的所得が低いと思われる短時間労働者が多く加入されることになると思いますので、そういった方々に対する所得再分配機能を維持することは、適用拡大の一つの目的でもあると思います。そのため、基礎年金と厚生年金とのバランスを崩さないように調整期間を一致させるということが必要かと思っております。その際、具体的にどのように行うかについて、積立金の扱いなども含め、引き続き検討が必要と思っております。
次に、拠出期間の45年化についてです。基礎年金の給付水準を維持するためにも、45年化ということについては、財源措置の問題もありますが、基本的には賛成です。45年化すると、これまで拠出を求められなかった60歳台前半の第1号被保険者の方に保険料を拠出していただくことになりますけれども、御説明がありましたように、就業率が高まっているということと、これは被用者についてのこととなりますが、賃金も上昇傾向にあるということですので、第1号の方についても保険料の拠出能力が高まっているのではないかと思います。
また、これも被用者に関するものですけれども、雇用保険法の2020年の改正で高年齢者雇用継続給付が引き下げられていまして、その背景事情などに照らしましても、全体的に60歳台前半の方と若年者の違いが徐々に解消されていると思われますので、45年化というのは十分実行できる改正ではないかと思っております。
また、拠出能力が低い方もいらっしゃいますが、就業率の上昇傾向を踏まえますと、拠出能力の差によって年金額の格差が著しく拡大するというおそれはないのではないかと思いますが、ただ、そういった拠出能力が低い方については、免除制度の周知徹底とともに、あとは全て年金制度内で解決しようとするのではなくて、年金生活者支援給付金のほうを充実させるような形で対応するのが適切ではないかと思っています。
あと、在職老齢年金についてです。こちらについては、先ほど御説明がありましたように、例外的な仕組みであるということを認識した上での検討が必要だと思います。その上で、先ほど御指摘がありましたが、高所得者を優遇することになるという話ですけれども、こちらについては全世代型社会保障の構築という中で、世代にかかわらず負担能力に応じた負担を求めるという方向性が示されて、実際に高所得の高齢者についてはいろいろな制度で負担が引き上げられているということもありますので、社会保障全体を捉えますと、高在老を撤廃しても高所得の方に過度な優遇とはならないと思いますので、御指摘があったように、社会保障制度全体で比較的高所得の高齢者の方の給付と負担のバランスを検討していくという観点から、高在老について撤廃を含めて検討していく必要があると思っております。
以上となります。
○菊池部会長 ありがとうございました。
それでは、権丈委員、お願いします。
○権丈委員 今回も大変な資料の作成、お疲れさまです。
そして、先週見たときにはかなりバージョンアップしていて、いい感じだと思います。
今回は高齢期における年金制度ということで、幾つもの話が関わってくるわけですが、まずは年金とその上位に位置する社会全体との関係を話したいと思います。社会全体としては日本の高齢期の人たちの若返りというのがありまして、彼らを社会にインクルージョンする意味もあって、ワークロンガーというのが高い優先順位で掲げられています。そして、日本の年金というのは、長く働き、繰下げ受給をしていくと、受け取る年金額が上がる仕組みにとうの昔になっています。ところが、こうした仕組みの中で高在老というのが矛盾した存在になっている。
私は2年前の年金学会でその辺りに触れて、ワークロンガー社会では受給開始時期の自由選択制を徹底させる必要があり、それは負担の能力に応じるけれども、給付段階では負担能力を問わない、所得は見ないという社会保険の基本的な考え方を貫けばいいということを話して、高在老とか加給年金の廃止というのは最も優先順位が高いと話しています。
加えて、高在老は令和元年の年金部会の議論の整理にあるように、「支給停止の対象というのは厚生年金の適用事業所で働く被保険者及び70歳以上の者の賃金であって、自営業や請負契約、顧問契約で働く収入や不動産収入を有する者等は対象にならないといった就業形態の違いによる公平性の問題も存在し、この問題は年金制度だけで考える限りは解決できない」。つまり、税とかいろんなものを考えていきましょうという指摘もあるわけで、高在老というものは他国でもやっていないことを日本がやっているからといって、全く誇れる話ではない。早く終わらせましょうという話です。
しかし、高在老を廃止しようとすると、前回にそれを試みたときのように、野党の山井さん辺りが高所得者優遇だと独特のパフォーマンスつきで国会で大騒ぎする。面倒だけれども、次もきっとそうなる。
そして、今日の議題に上がっているマクロ経済スライドの調整期間の一致の話の世界では、なぜ調整期間の一致が必要なのかと問い続けていくと、再分配の強化が必要だという話になっていく。今後の年金改革のロジックとして、再分配の評価辺りでどこか矛盾していないかというのがある。
調整期間一致の話は、以前は「積立金を用いた給付水準の調整」と言われていたわけですが、さすがにそれではちょっと露骨過ぎるということで、支持は得られないだろうと考えられたのか、あるときから「調整期間の一致」という呼び名に変わって、それはフレーミング効果もあって、これを気に入った新聞記者たちがよく報道するようになってきています。でも、どうして調整期間の一致が必要なのかという話を突き詰めていくと、貧困とか基礎年金だけに頼っている人たちの生活苦とか格差とか再分配の強化という話に行き着いてしまうのです。
ここがこの話の面白いところですけれども、調整期間の一致の話は、基礎年金の給付水準に焦点を直接当てて、それが低過ぎるからというところからスタートして、この改革を進めると、今、この年金部会の委員とか、今日も年金部会のフロアにいる記者たちへの国庫負担も増えて、基礎年金の給付水準が高くなっていく。これはディフェンスに弱い、隙があるロジックであるように私には見えるのです。世の中には財政のことを日々考えている人たちも大勢いるわけで、彼らは常日頃から基礎年金に定率で入っている国庫負担をクローバックできないかと考えているわけです。彼らからはマクロ経済スライドの調整期間の一致の話というのは、鴨がネギを背負ってやってきたように見えるわけで、彼らが今日の会議に参加している人たちの中の高年金者へのクローバックも当然やるのですよねと言ってきたら、どう反論するのだろうかというのがあります。
年金部会の第3回目で、私たちが社会保障・税一体改革の頃から今まで被保険者期間の延長とか適用拡大を言っていたのは、クローバックをどうブロックするかというところが視野にあって、向こうが論点として文句を言えない論をずっとつくっていったという話をしましたけれども、今の状況を見ると、まあ頑張ってねという世界になりますかねというところです。
そして、そもそも最近の年金局と財務の様子を見ていると、かつての社会保障・税一体改革のときの蜜月といいますか、互いに相手を利用して双方の目的を達成しようといった戦略的互恵関係はどこに行ったのだろうかと、見ていて寂しい思いがしています。
両者の信頼関係が崩れていっているのは、一体改革の精神を放棄するような話をし始めていった年金局にも一因があるのではないかと思っています。もう少し仲よくしてくれないと医療とか介護が本気でやられてしまうという危機感もあります。
どうして積立金を混ぜて基礎年金の給付水準を上げようという話になっていったのかという本当の理由が実は表に出ていないから、おかしなロジックをつくらざるを得なかったのだろうなと思っています。今日はこの調整期間に関して連合と経済界がどういうふうに言うかというのを楽しみにしていたのですが、従来の意見を続けているという形で、あまり誰も支持していないという状況で、そうなれば、困るのは年金局なのだよなというのがあります。
令和2年年金改正の附帯決議に基礎年金国庫負担の増加分の財源確保策について書かれているのは、加入期間の延長に関してです。今、全世代型社会保障構築会議とかこども未来戦略会議とかいろんなところで言い続けているのですけれども、財源と給付を一体的に考えていた一体改革の精神を忘れるなということで、一体改革に沿う2013年の社会保障制度改革国民会議から続く論というのは、基礎年金の拠出期間の延長、1号から2号へ等にアジェンダを置いて、年金改革のほうで汗をかいて進める中で将来の基礎年金の水準が自ずと上がり、その際、国庫負担増加分の財源確保策について明示的に検討を進めるというものだったのです。この角度からのほうが論のベクトルの方向性はそろっているように思います。
最後に、一体改革の頃からマクロ経済スライドの見直しは一貫して言われ続けて、令和2年の年金改革では野党がマクロ経済スライドの見直しの完全放棄を求めたのですけれども、与党は踏みとどまって、何とかマクロ経済スライドのフル適用の意味を含んでいるような文言を残すことはできています。不確実な将来に向けたリスクマネジメントの観点からも、そしてキャリーオーバー実行時のショックを緩和するためにも、今日も大勢の人たちが言っていたように、インフレに入った今だからこそ名目下限措置の撤廃というのは、次の改革の中に入れていいのではないかと思っています。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、百瀬委員、お願いします。
○百瀬委員 私からは意見が1つと確認が1つございます。今回取り上げられた45年加入とマクロ経済スライドの調整期間の一致は、障害年金にも影響を与えます。いずれも、改正をしなかった場合と比べれば基礎年金の機能が強化されるわけですが、障害年金の場合、基礎年金のみの受給者が非常に多くなっていますので、この2つの改正が実施された場合、障害者の所得保障の改善にもつながると考えられます。
その一方で、調整期間を一致させた場合、報酬比例部分の所得代替率が下がります。老齢年金の場合は、基礎年金も含めて考えると、大多数において年金の給付水準は下がらず、むしろ上がるということだったのですが、障害年金の場合、障害厚生年金3級の受給者のように報酬比例部分しか受け取れない方もいらっしゃいます。そうなると、3級については報酬比例部分の取得代替率の低下というマイナスの影響だけを受けるということになると思います。
その反面、45年化が実現すると、障害基礎年金の金額が上昇して、それに合わせて3級の最低保障額が増加するというプラスの影響も見込まれます。
そのほか、45年化をする場合、それに伴って障害基礎年金を増額することになるはずですが、改正の実施前に初診日がある方を含めるか否かなど対象者をどうするのか、あるいは、どのタイミングで45年分に増額をするのかによって、受給者に対する影響は異なってくると思います。
ですので、今話したことも含めて、45年加入や調整期間の一致が障害年金に及ぼす影響についても十分に御検討いただきたいと思います。これが意見です。
次に確認です。平成16年改正法の附則の第2条に給付水準の下限の規定がございます。この条文は国民年金の保険料納付済み期間が480月の老齢基礎年金額2人分と、平均的な給与で厚生年金に480月加入した人の老齢厚生年金額の合計が、男子被保険者の平均手取り収入の50%を上回るようにするという内容になっています。条文の中に「480月」という文言がございます。もし基礎年金の拠出期間を40年から45年に延長するという改正をするとした場合、50%を上回っているか否かを判断するときに使う年金額についても、国民年金だけでなく、厚生年金も含めて540月で計算する形に見直すという理解でいいのかどうかを確認したいと思います。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、事務局からお願いします。
○年金課長 御指摘ありがとうございます。
45年化にした場合には、御指摘のとおり、障害基礎年金や遺族基礎年金など様々に影響してくる制度がございます。そこは一つ一つ精査をして、どうするのか検討していかなければいけないと思います。例えば繰上げ・繰下げとの関係をどうするか、あるいは任意加入をどうするか等々様々ありますので、話が進んでまいりましたら、論点としてしっかり検討していくことになります。
論点の一つが、御指摘があった平成16年附則にある給付水準の下限の規定で、御紹介のとおり現在の条文では「480月」と規定されており、これは現行の基礎年金の満額が40年すなわち「480月」であることからこうなっていると考えています。これを45年化した場合に「540月」に変えるかについては、満額が変わって強制的な加入期間が延びることになりますので、そうすることが自然な考え方にも思いますが、それ自体、一つの論点にはなり得ますので、先ほどの論点と併せて検討してまいりたいと思います。
○菊池部会長 百瀬委員、よろしいでしょうか。
○百瀬委員 はい。
○菊池部会長 ありがとうございます。
それでは、たかまつ委員、お願いします。
○たかまつ委員 よろしくお願いします。
まず、在職老齢年金については、廃止するべきではないと思います。廃止してしまうと将来の所得代替率が下がってしまうからです。本日御提供いただいた資料によると、前回の財政検証によると、2019年の所得代替率が61.7%ですが、このままだと2047年にはケースIIIの中位推計の場合、50.8%に下がってしまいます。さらに在職老齢年金を廃止すると50.4%まで下がってしまいます。なので、将来世代のことを考えて制度設計するべきだと思うので、自分で働いて生活できる余裕がある高齢者の人の給付は抑えて、その分将来世代に回すこと、世代間の格差をなくしていくということが大切だと考えています。さらに、より高額な収入を得ている人や金融資産を持っている方には課税するなども検討し、年金が減ることが予想される将来世代に回すことが重要だと考えています。
続いて、基礎年金の拠出期間の延長についてですが、これは賛成です。それは時代が変わって平均寿命も延びて、働く高齢者の方も増えたという時代背景からです。働ける方には保険料を納めていただくということが大事だと考えています。そのことによって、2047年のケースIIIの場合、現行のままだと所得代替率が50.8%だったのが57.6%まで給付が上がるから。
続いて、マクロ経済スライドの調整期間の一致については、具体的な方策を検討するべきだと思います。調整期間を一致させた場合、所得代替率が現行だと51%との予測が55%まで上がるから、私は賛成です。
現役時代は将来の年金額が下がるということに対して、老後の不安を持っている方が非常に多いので、所得代替率が上がる方向に持っていくということに関して基本的に賛成です。
最後に、年金生活者支援給付金については、年金だけで生活するのが大変な方が多い中で、金額を上げることも含めてそこは検討してもいいと考えています。高齢者の方の生活実態に合わせたセーフティーネットを考える必要があると考えているからです。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
皆様から一わたり御発言をいただきました。最初に申し上げましたように、今日、かなり重い論点が多く、延長もありかなというぐらいに思っていたのですが、最初に私が簡潔にとお願いし過ぎたせいか、かなり余裕を持って、時間が余っております。よろしければ、言い残したこと、その他、引き続き二巡目で御発言いただければと思います。まず、会場と、それからオンラインの方もお手をお上げいただければと思います。まず、会場でいかがでしょうか。では、是枝委員からお願いします。
○是枝委員 調整期間の一致について追加の論点を示させていただきます。マクロ経済スライドの調整期間の一致をやってしまいますと、恐らく積立金の使い方を調整するということになるのでしょうが、そうすると、以後厚生年金や国民年金の独自給付を改正したときの影響が全体の基礎年金に影響するということになります。
例えば遺族厚生年金について、男女差を解消するために有期給付化すべきかといった問いがありますが、これは現在であるならば、被用者全体の連帯としての中でこの給付を仮に縮小することとなった場合、報酬比例年金の調整期間が延びるか、縮むかという形の財政影響を受けるということになります。しかし、マクロ経済スライドの調整期間の一致を行った後にすることとなると、これは公的年金全体のマクロ経済スライド調整期間を延ばすか、縮めるかということに財源が使われることとなりますので、厚生年金独自給付と国民年金あるいは基礎年金としての共通の給付の部分がどこになるかというのが全部ごちゃ混ぜになってしまうという弊害もございます。
ですので、これを一体化した後については、厚生年金に被用者のためにつけられている給付がこういうもので、基礎年金として共通としてつけられているものはこうだといったものが一体化してしまうことについての影響もよく考えなければならないということかと思います。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
小野委員、いかがでしょうか。
○小野委員 先ほど時間短縮ということなので、遠慮した項目があったので、ちょっと話させていただきます。
大したことではないのですが、在職老齢年金制度ですけれども、この資料が指摘するとおり、保険事故が発生したにもかかわらず、他の事情によって保険金が満額支給されないというのは、諸外国の制度との比較においても異質だと思いますし、適用事業所における給与収入に限って、しかも、70歳以上の被保険者でない人も給与収入を含めて調整するという仕組みは、いかにも不合理だと思いまして、支給を停止せずに、支給した後に税制等で対応することのほうが適当だと思っております。
私は、年金収入を公的年金等控除の対象となる雑所得とした、これは昭和62年の税制改正だと思いますけれども、この趣旨がいま一つ理解できないのです。結果として給与所得控除が適用される給与収入と別立てになってしまいまして、過大な控除になってしまっていると思っております。税務当局としては、その是正のスピードを速める必要があると思っております。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
ほかにはいかがでしょうか。原委員、今日はかなり抑えていただいたような気がするのですが、よろしいですか。無理にとは申しませんが。
○原委員 すごく難しいところだと思いますので、もうちょっと考えてみます。
○菊池部会長 ほかにはいかがでしょうか。会場でいかがでしょうか。ございませんか。
では、オンラインの皆様、どうぞ遠慮なくお手を挙げいただければと思いますが。よろしいですか。ございませんか。
皆様、端的に、しかし明確にお考えをお述べいただきまして、いずれもなかなか難しい課題だなと私自身も改めて感じておる次第でございます。
今日もデータ、資料についてのお求めもかなりございましたし、また、財政と切っても切り離せない論点ですので、次回に向けてはその辺りも事務局でお考えくださって、それを基にまた議論することになるのではないかと思います。
特定の質問ということではありませんが、事務局から全体を通じて、あるいは次回に向けて一言お願いできればと思いますが、いかがでしょうか。
○年金課長 様々な御意見ありがとうございます。
いろいろと資料あるいはデータのお話がございましたので、いま一度議事録を精査しまして、御用意できるものを準備したいと思っております。
それから、次回の進め方についても座長からお話がありましたので、準備を進めてまいります。引き続きよろしくお願いいたします。
○菊池部会長 よろしくお願いいたします。
皆様、ほかにはよろしいでしょうか。よろしいですか。
進行に御協力いただきまして、誠にありがとうございました。
それでは、予定している議事は以上でございますので、この辺で終了とさせていただきます。
今後の予定につきまして、事務局からお願いいたします。
○総務課長 次回の議題や日程につきましては、改めて御連絡いたします。
○菊池部会長 それでは、これにて本日の審議は終了いたします。お忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございました。