議題 4  私たちを取り巻く情勢と会の方針

年金受給者にとって今、物価高騰に年金目減りが続き、医療費、介護費の負担増など暮らしと命、金融、経済など多面的に不安が広がっています。私たちとしては内外の情勢にも目を向けつつ、安心して老後を過ごせる施策を企業・行政に要請し、受給者が情報と知識を共有しつつ受給権を守り得るよう活動を進めていきます。

 

Ⅰ.私たちを取り巻く内外情勢

 

世界的なインフレ下、成長低迷、債務国の難儀、中東戦乱の周辺国拡大懸念、石油価格や物流混乱など様々に懸念される要因があります。アメリカの利上げ停止・インフレ鎮静化傾向のもと、株式市場は楽観論があるものの、米国内の景気懸念要因(地銀・中小企業等)、中国の経済低迷などもあって、投機筋の動向も含め予断が許されない状況と言えます。

日本の金融政策は、円安・物価高騰の下で日銀の利上げ必至の方向にあるものの、先行き不透明な中、新たな矛盾も出ています。アメリカの利下げ先読みの他方で、日銀利上げ観測から円高に振れる可能性があり、利上げ次第では、財政負担増、日銀の債務超過、国債格付け引下げ、国債はじめとする金融市場の激変可能性などが懸念される難儀な状況にあります。

かつてGDPの6割台を占めていた個人消費(賃金・年金が主柱)が5割台に低下し、国民の暮らしもGDPも長年伸びずに推移しました。好転には賃上げ・年金(公的年金・企業年金ともに)改善が求められているものの、岸田首相や財界トップは、「賃上げと物価上昇の好循環」を強調していますが、賃金が後を追うのでは実質目減りのイタチごっこです。2024年度の年金額改定案が発表されましたが、賃金上昇率(3.2%)より低かった物価上昇率(3.1%)が適用され、その上でマクロ経済スライド制による調整率(0.4%)が差し引かれ、2.7%の増額に抑えられました。

確定給付の企業年金は物価スライドが無いため、物価高騰・インフレは更なる打撃となります。年金受給者としては、安倍政権以降に公的年金・企業年金に対する施策が悪化させられた経過と内容、岸田政権が更に警戒すべき画策を進めつつあることを的確につかむ

 

 

 

Ⅱ 2024年の活動方針

年金を巡る動向と問題点を踏まえ、会の目的、すなわち受給権の保護と支払保証制度の確立に向けて次の方針で活動します。

 

1.経済界・政府の施策展開の把握と分析に取り組む

(1)社会保障審議会「企業年金・個人年金部会」

(2)金融審議会「資産運用に関するタスクフォース」

(3)内閣府「資産運用立国分科会」ほか

 

2. 受給権侵害案件への対応

個別に受給権侵害などの問題が発生した場合は、相談、支援に取り組む。

 

3. 学習と交流に取り組む

(1) 1項(1)に即して会員を中心に企業年金の政府施策の経過や新しい動向、海外の状況などについて学習。

(2) 基金の決算分析、財務内容把握手法、厚労省令・政令・ガイドラインなど学習。

(3) 会員相互の活動経験の交流。

(4)「会」のホームページをもっと充実させ、アクセスしてもらえるサイトにする。

 

4. 企業年金施策の動向について広報活動に取り組む

1.2.3項の内容に即して受給者を主とし加入者にも視野を広げてホームページを活用して情報と知識の共有に努める。

 

5. 組織の拡大強化を図る

かつて企業・大学が、企業年金の減額・改悪を強行し、裁判や反対運動が起きたことから、受給者は企業年金基金ごとに組織をつくり活動を展開し、当会は相互の連帯活動、裁判闘争支援を進めてきた。今、裁判闘争など一段落が続く下で、引き続き受給権を守るためには基金・企業単位での有志が参画する組織(以下「単会」と略称)を広げることが求められており、次の方向を目ざす。

問題意識をもつ有志を当会の個人会員として迎え共に活動に取り組む。

個人会員が基金単位に複数集って単会へ進展する取り組みを支援する。

 

6. 他団体・厚労省などへの働きかけ

(1) 連合、全日本年金者組合、全労連など他団体と懇談、協議する。

(2) 厚労省、企業年金・個人年金部会、政党に要請や問い質しを行なう。    以上

 

 年金を巡る動向・問題点

 

(1)公的年金

 

13-15年連続の引き下げは違憲として全日本年金者組合員を中心に各地で提訴、地裁を経て高裁で相次ぐ敗訴となりました。しかし札幌と東京の高裁で、国が自らの主張を部分的に変える不合理も露呈しました。各地原告は最高裁に上告し、兵庫の原告に対し初めて棄却の判決が小法廷でありましたが、東京の原告などは大法廷での審理を要請する活動を展開中です。

今年は五年に一度の財政検証と制度見直しが行われますが、新たな画策に警戒が必要です。また、GPIFがアベノミクス下、資産を200兆円超に増やしながら、受給者のために一円も回さないと言った構造的問題も看過できません。

(2)企業年金

① 確定給付企業年金の推移

 

バブル崩壊後、基金全体の傾向として収益率は逓減傾向を辿り、今世紀に入ってITバブル崩壊、AIJ事件、リーマンショックなど経て、企業・経済界は企業年金制度の改悪に一段と乗り出しました。

コストとリスクの軽減・転嫁のために企業年金二法の制定、厚生年金基金の代行返上・解散促進、キャッシュバランスプラン導入など経てリスク分担型を施行しました。今では公的年金の先細りを前提に、自助を基本とする確定拠出年金、iDeCo、NISAなどの拡充に力点を置いています。

 

企業年金の本質逸脱

この四半世紀の施策悪化の根底には、企業年金が賃金の後払いで、企業が全責任を持つべき本質から逸れて、給付が国債や株債券相場次第で変動する方式で加入者と受給者にリスクとコストを転嫁させること、公的年金を更に後退させる補完として、個人責任で老後に備えさせ政府・企業の負担を軽減させる狙いがあります。

これらの施策の前段として、経団連が年次要求を毎年政府に出し厚労省が企業年金研究会、企業年金部会、企業年金・個人年金部会など設置して、委員は経済界、政府重用学者、年金業界が多数を占め、労働界は僅かに留める場で審議してきたことも特徴的です。

企業年金施策の変遷と内容は複雑な面がありますが、受給者は脱退者として扱われ、疎外されてきた面があるだけに、金融情勢や金融市場の動向と共に変遷の中身と問題点をつかみ今後に備える必要があります。

 

受給者が警戒すべき点

この点で警戒すべきは、加入者の確定給付企業年金を打ち切り、確定拠出年金に一本化する動きです。既存の受給者に変わりは無いとされますが、実施後に既存確定給付分が残存の現役が退職等で脱け基金の成立要件500人未満となる段階で基金は解散とできます。確定給付の受給者には生保等へ委託(閉鎖型又は規約型)となります。基金に500人超の現役が残っていても、基金維持のコストカットのために基金を解散、受給者も現役も既存の確定給付分は規約型へ移行する例も出ています。こうした場合、以後の選択肢に経団連提唱のバイアウトも考えられます。

こうなると受給者の受給権確保・条件設定など恣意的に決められぬよう監視が必要となり、受給権侵害があれば受給者が団結して交渉する必要も出てきます。

②政府の施策展開

 

〇経過の概括

第二次安倍政権発足後「アベノミクス」開始と共に企業年金部会を設置(2013年)、更に個人年金分野をも改変するために「企業年金・個人年金部会」を設置(2019年2月)し、様々な施策を講じてきました。

確定給付企業年金(DB)では、新たな段階として、他国に例を見ないリスク分担型が17年1月に施行され、企業が負うべきリスクとコストを加入者・受給者に一段と転化する流れが作られました。リスク分担型の掛金のみ導入は564件、全面適用は23件 で増勢に至らず、企業側にとって使い勝手が悪いことから更なる改悪が検討課題となっており、警戒が必要です。

また、DBの範疇でも確定給付の本質から逸れたキャッシュバランスプラン受給者は増えつつあり、国債のマイナス金利続行の下で実態としては、給付利率が低いまま加入者受給者にとって不利な状況が続いています。

 

〇現役向け施策に傾斜

22年以降の「企業年金・個人年金部会」の審議は、主として加入者向けに次のように筋違いな諸改定を進めてきました。

◆運用と結果は個人責任とする確定拠出年金(DC)を企業年金普及の主流とする、

◆掛金限度を引上げる(税優遇とセット)、

◆企業が掛金負担のDCと併せて、個人年金(企業と無関係に個人が拠出)iDeCo推進。

〇懸案課題

既に企業年金・個人年金部会は19年末に論点の整理を行なったものの、この論議はせずに現役向けDCに力点を置いてきた経過があり、19年の論点整理の中でも次の三点は注目が必要です。

 

a.バイアウト―企業が企業年金の資産を給付債務とワンセットで生保などに譲渡するもので、事業のグローバル化、M&A(企業の合併買収)などから、資産負債の圧縮・資本効率向上に資するとか、欧米では既に実施されている、として経団連が提案。企業のメリットや都合は明確ですが、受給権がどこまで保証されるのか重大問題です。

 

b.リスク共有型―運用リスクを初めから企業・現役・退職者が同列に負う仕組み。リスク分担型は企業が負担を先に負い、不足の場合に現役・受給者が負担する方式であるのより一段と企業年金の本質から外れるものです。

 

c.支払保証制度―企業や基金が年金給付不能となった場合に備えて支払いを保証する制度。2001年に国会で附帯決議をしたのに政府は着手もしないまま23年経過。経団連などが“モラルハザードとなる”“財源が問題”などの口実を並べて反対のまま先送りしてきましたが、国会決議や受給権の軽視自体がモラルハザードです。

③資産運用立国への傾斜

 

◆年金改革と称して企業年金(DB,DC双方)の運用状況などの「見える化」、情報開示促進

◆確定給付企業年金(DB)について

a.運用能力の向上 b.加入者のための「見える化」(受給者に言及ナシ) ほか。

◆確定拠出年金(DC)について

a.適切な商品選択に向けた制度改善

b.加入者のための運用の「見える化」

◆企業年金を含む私的年金のさらなる普及促進に向けた取り組み、などがあります。

 岸田首相の提唱による「新しい資本主義」「資産運用立国」の背景には、アメリカの金融業界、特に投資顧問・資産運用企業が一段と日本進出を容易にする狙いがあります。国民の可処分所得が伸びない中、iDeCo、NISAで金融市場に資金が流入すると、個人消費は伸びず経済成長にも繋がらず、内外の金融業界が利益を伸ばす構図ともなります。こうした巨視的観点も含めて、受給者としては自身の受給権を守ると共に、国民各層と連帯して社会保障拡充・生活向上の方向で学習し活動していくことが求められていると考えられます。