2020年1月20日
企業年金・個人年金部会の「議論の整理」(2019.12.25)について
企業年金の受給権を守る連絡会
代表世話人 夏野弘司
企業年金の受給権を守る連絡会は、各企業における企業年金についての改悪攻撃に対する裁判闘争を支援し合い、また、それに係る情報連絡・学習会等を取り組んで来た。
先般発表された企業年金・個人年金部会の「議論の整理」は企業年金部会から改組されたことから察するとおり個人年金、いわゆるiDeCoの利用度拡大に係る方策が主たるテーマになっていた。
企業年金に係る部分は相対的にかなり少ないが、この中から当会の活動からみて特に関係が深いDB(確定給付企業年金)に係る部分を中心に、今回の「議論の整理」についての考え方を明らかにしておきたい。
■DBについての部分
①リスク分担型企業年金の合併時・分割時等の手続き
(内容○)年金試算水準の低下による減額扱いを、特殊な事例の中での事とし個別同意不要と簡略化
(意見●)まさに年金の受給権を侵害する内容であり、同意有無を論ずる前に容認しかねる内容
②定年延長等の雇用延長に伴う給付設計の見直しに当たっての手続き
○実質的に減額となる場合も個別同意は不要とし減額を進め易くする
●労働の対価の反映であり定年延長で働いた分を正当に増額することは当然の権利であり反対
③死亡率の変動を給付額に反映させる仕組みの検討
○金利変動を反映させるキャッシュバランスプランのように、死亡率の変動を給付額に反映
●寿命が長くなればむしろ増額の必要性も生じてくる可能性あり、真逆な方向
まさに公的年金におけるマクロ経済スライド=自動低減システムの発想であり反対
④支払保証制度(母体企業の倒産等の場合に一定の年金額を保証)は、導入の必要なしとの意見
○財政検証により個々のDBで担保すべきものであえてモラルハザードを惹起する仕組みは不要
●そもそも国会付帯決議がなされており尊重されなければならない事項、早期導入を要請
⑤バイアウト等年金支払義務を社外に移転させる仕組みの導入
○企業年金の年金資産を生保等に引き受けさせ、給付義務を社外に移転しようとする制度
●企業側のメリットは明確ながら、受給権の保証が極めて不安定な制度で認め難い
これらDBの各項目については、基本的にはいずれについても反対せざるを得ない内容である。
そもそも企業年金が賃金の後払いである退職金を原資とする点が十分認識されていないことに起因するものと考える。今回、企業年金の性格について「企業年金が退職給付由来であり」との意見も紹介されてはいるものの、部会論議の中では何回か攻撃的意見が見受けられた。
また、これらのテーマについての審議が必要である場合でも、本来は労働政策審議会の部会で審議する内容であろう。
特に支払保証制度についての部会議論の内容は、部会としても国会決議を無視する傲慢・不遜なものであり問題である。また、自らモラルハザードの懸念を理由するとは財界のプライドもいかがなものかと考えざるを得ない。(国会決議を無視することもまさにモラルハザードではないのか)
当会としては引き続き受給権の保護、支払保証制度の確立を要請していきたい。
■「議論の整理」の主な内容について
主に議論されてきた内容は、加入可能要件の見直し、受給開始時期の選択肢拡大、拠出限度額の弾力化、中小企業向け制度の対象範囲拡大、ポータビリティの改善、その他手続き面の改善等であり、就業期間が長期化している中では確かに検討すべき項目も多い。
しかし、一方これらの施策の大半はDC、特に個人型DC・iDeCoをより「使い易い」ようにしようとするものである。これは、DB、企業型DCからの実質的移行を促進するものであり、事業主の負担と責任を伴う企業年金自体が形骸化される危険性がある。
また、各種の税優遇処置は特に高所得者を潤すものであるが、一般の生活者のメリットは少なく、また、リスクを負う危険性も否定できない。
今回の「整理」に見られる傾向は、大きな流れとしてDBからDCへ、企業型DCからiDeCoへとの流れであり、まさに事業主負担から個人負担への選択肢を増やし、事業主負担から個人負担・自己責任へと転じるものになりかねない危険性を孕んでいると言わざるを得ない。
■年金部会の「整理」も同日発表
企業年金・個人年金は「公的年金」と相まってと表現されるが、今回の部会発表と同日に、年金部会の「議論の整理」も発表された。これも20年度の国会上程を前提にしたものである。
当会としてはこれも無視できない内容である。詳細はここでは省くとして、この前提となった財政検証内容等を見るに、そこには低所得者・無年金者に対する発想が抜け落ちている。マクロ経済スライドについては年金生活者の実態を無視し継続が前提とされ、重ねて年金額改定ルールの実施(改悪)時期も迫ってきており、基礎年金に頼る低所得者ほど影響が大きい。
また、今回の2つの「議論の整理」を見るに、加入条件等について公的年金・私的年金の調整を図っている点が認められる。
両制度が「相まって」から「統一的に」「一体的なもの」として検討が進められていく懸念がある。もちろん、全体として生活者の収入水準の向上に結びつけばよいが、検討の方向は公的年金の削減・改悪を前提としたものであり、むしろ生活者にとっては厳しいものと考えざるを得ない。今後より一層注意を払っていく必要があると考える。
当会としては、企業年金は賃金の後払いである退職金を原資とするものとの認識に立ち、「受給権の保護」が前提となった制度論議がなされその実効性を担保する具体化が図られていくよう、そして、その一つとして「支払保証制度」が早期に実現するよう活動していく所存である。