08/05/20 社会保障審議会年金部会
第8回議事録
日 時:平成20年5月20日(火)
18:00~20:00
場 所:厚生労働省9階「省議室」
出席委員:稲上部会長、渡辺部会長代理、
稲垣委員、江口委員、岡本委員、
小島委員、権丈委員、都村委員、
中名生委員、西沢委員、林委員、
樋口委員、山口委員、
山崎委員、米澤委員
○総務課長
それでは、定刻となりましたので、社会保障審議会年金部会を開催させていただきたいと思います。
委員の皆様方には、御多忙のところをお集まりいただきましてありがとうございます。 また、本日は夜遅い時間でお集まりいただきまして大変ありがとうございます。
最初に、出欠の状況を御報告させていただきたいと思います。
今井委員、杉山委員、宮武委員は欠席の御予定でございます。
それから、小島委員と権丈委員が若干遅れている状況でございます。
それでは、お手元に配付しています資料の御確認をお願いしたいと思います。
部会の資料として、議事次第、座席表、委員名簿、それから資料一覧を用意させていただいています。資料一覧につきまして御確認いただければと思います。
資料1が、公的年金制度に関する定量的シミュレーション。
資料2についてはクリップでひとつづりにしておりますが、各種提言の背景などについて。
その中に、参考資料1として、税方式化の各種提言の概要でございます。
それから、参考資料2-1として未納・未加入の状況。
参考資料2-2といたしまして、無年金・低年金の状況。
参考資料3でございますが、現行制度における所得再分配機能について。
参考資料4として、生活保護との関係について。
これが、資料2としてひとそろいにさせていただいています。
それから、資料3でございますが、16年改正後の残された課題についての各方面からの主な提案ということで、資料3-1から資料3-8まで用意させていただいています。
資料3-1は、徴収時効の見直し。
資料3-2は、受給資格期間の見直し。
資料3-3は、低所得者に対する加算。
資料3-4は、国民年金の免除制度について。
資料3-5は、育児期間中の保険料免除について。
資料3-6については、非正規雇用者に対する厚生年金の適用拡大について。
資料3-7につきましては、成人年齢の見直しと国民年金制度の適用年齢について。
資料3-8につきましては、在職老齢年金について。
このような形で資料を用意させていただいております。
それから、最後に権丈委員からの提出資料ということで1枚の資料を合わせて配付させていただいております。以上でございます。
それでは、部会長、よろしくお願いします。
○稲上部会長
それでは、議事に入りたいと思いますが、今も御説明がございましたように3種類の資料がお手元にあるかと思います。もう一度確認をしていただきたいと思います。
第1に、昨日の社会保障国民会議の分科会で報告があったと聞いておりますが、前回の本部会でも御承認をいただきまして、事務局に作成方をお願いしておりました定量的シミュレーションについてが資料1となっております。
それから、2番目に前回の部会で杉山委員及び江口委員からいただいておりました宿題がございました。それに関わる資料があります。今、御説明がありましたとおり、資料2と参考資料の1から4までがそれに当たります。
それから、3番目に平成16年改正後の残された課題に対する各方面からいただいております主な提案に関わります資料を全体として資料3としてまとめていただいております。
議事の進め方でございますが、まず資料1につきまして事務局から御説明をいただきまして、基礎年金の税方式化という問題を中心にして御議論をお願いしたいと考えております。その後で、内容的に重なるものが多いと思いますので、資料2と資料3を一括して、これも事務局から御説明をいただきまして、それを踏まえて平成16年改正後の残された課題につきまして御議論をお願いしたいと考えております。
それでは、まず資料1につきまして御説明をお願いいたします。
○数理課長
数理課長でございます。
お手元の資料1でございますが、まず昨日の社会保障国民会議、第4回雇用・年金分科会におきまして、この公的年金制度に関する定量的なシミュレーションが公表されまして、マスコミ等で大きく報道されたところでございます。
このシミュレーションは、1ページの一番下の※印にございますが、去る4月30日の第3回の雇用年金分科会で決定された前提に基づきまして、内閣官房の社会保障国民会議事務局が取りまとめたものでございます。下から2番目の※印にございますように、現在各方面から提案されている年金改革案を念頭に置き、現行制度、現行の社会保険方式を前提にした修正案、税方式化を前提とした提案について複数のシミュレーションを行い、中立的な比較検討を行うことができるよう作業を行ったという位置付けとなっております。
なお、計算作業の実務につきましては、内閣官房の指示を受けつつ、私ども厚生労働省が協力をいたしております。
前回の本年金部会におきまして、定量的なシミュレーションの作業を行い、結果を報告するようにとの御要請が事務局に対してございましたが、この内閣官房で取りまとめられましたシミュレーションの御紹介をもちまして、その御要請へのとりあえずの回答とさせていただければ幸いでございます。
それでは、お手元の資料1に沿いまして、このシミュレーションの内容を御紹介いたします。
まず1ページの「シミュレーションの内容」ということでございますが、大きく3つの柱ということで、基礎年金の将来の保険料負担や国庫負担の財源規模を示したマクロ的な試算。それから、現行制度と税方式化案がそれぞれ家計・企業に与える影響を示したミクロ的な試算。更に、基礎年金を取り巻くさまざまな状況や提案等に関連するその他の試算。こういう3つの柱から成り立っているところでございます。
まずマクロ的な試算でございますが、4ページでございます。まず前提ということで、経済前提につきましては、足下につきましては共通で2007年1月の内閣府試算に沿ったということでございますが、2012年以降の長期の前提につきまして、こちらにございますように4通りの経済前提というものを置いてそれぞれ試算してございます。
更に、現行制度におきます国民年金の保険料納付率の前提でございますが、こちらは2009年度以降、65%、80%、90%、この3通りの前提を置いて試算をしているところでございます。
続きまして5ページでございます。現行制度における基礎年金の見通しということでございますが、この試算あるいはその他全体を通じてでございますが、現行制度におきまして平成21年度から基礎年金の国庫負担割合は2分の1に引き上げられるということを前提として試算はいたしております。現行制度における基礎年金の見通しでございますが、2009年度19兆円の基礎年金給付費が2025年度には28兆円、2050年度には56兆円と増加していく見込みでございます。これは、経済前提に関しましてはケース2-1、国民年金保険料納付率につきましては80%というケースになってございます。ほかのケースは別途お示しするようになってございます。
6ページでございますが、マクロ試算1ということで、国民年金の保険料納付率の前提を置き換えた場合にどういう影響があるかという試算でございます。この場合、2050年度のところで基礎年金給付費に違いが出てまいりまして、納付率90%のケースでは57兆円、80%のケースで56兆円、65%のケースで55兆円となっているところでございます。
その場合、下から2つ目の※印でございますが、マクロ経済スライドによって調整されました給付の所得代替率でございますが、90%のケースで51.8%、80%のケース51.6%、65%のケースで51.1%と試算されているところでございます。納付率の前提を変えることの影響はそれほど大きくないという試算結果になっているところでございますが、上の枠囲いにございますように、これはこの国民年金保険料の納付率というものが第1号被保険者2,100万人から免除、猶予等の方を除きました1,600万人の方々に関する納付率ということで、基礎年金全体の加入者7,000万人の一部であるということを反映したところでございます。
7ページ、8ページは65%、90%の場合の絵を掲げたものでございまして、9ページでございますが、こちらから現行の社会保険方式を前提にした修正案の個別の提案内容の影響評価ということでございます。
まずマクロ試算2-1といたしまして、基礎年金の満額を7万円に引き上げる案というものの影響評価でございます。この場合、この表で見ていただきまして、追加的な財源の規模、表のところで色を変えて表示している部分でございますが、こちらは2009年度で1.2兆円、将来、額としては増えてまいりますが、消費税率換算といたしましてはおおむね1/2%程度ということで将来にわたり推移すると見込まれているとろでございます。
続きまして、10ページでございます。「マクロ試算2-2」ということで、5万円の最低保障年金を創設する案ということでございます。これにつきましては、追加的な財源の規模が2009年度で1兆円、消費税率換算につきましては、これも丸めますと将来にわたりましておおむね1/2%程度ということでございます。この最低保障年金と申しますのは、計算方法のところにもちょっと書いてございますが、年収200万円以下の方ということで所得制限の付いた案である。この年収と申しますのは、本人と配偶者分を足した世帯としての年収ということでございますが、そういうことで約3割の方が所得としてこれに該当するというものになっているということでございます。
11ページでございますが、社会保険方式を前提としたその他の提案ということでございます。これはなかなか定量的な評価が難しいものが多いということでございますが、制度施行時の定量的な影響といたしまして、まず受給資格期間を10年に短縮するという場合、これは足下でおおむね0.1 兆円の給付増の見込みということでございます。それから、子育て世帯の両親の基礎年金保険料を国が税財源で負担という案につきましては、施行時の影響として1.1兆円の負担増という見込みとなっております。
続きまして12ページからは「税方式化案のシミュレーション」ということでございます。まず12ページ、13ページにおきまして、各方面から示されている税方式化の提案の内容につきまして整理してございます。
13ページにおきまして、まず1つは「給付制限の有無」について、それから2としまして「給付水準」、6万6,000円、7万円、あるいはそれ以上。3といたしまして、現行制度から税方式への移行に際して過去の保険料納付実績をどう取り扱うかという点。4として、「財源」という点で分類しているところでございます。その中でも、ひとつポイントとなります3番の移行に際しての過去の保険料納付実績の取扱いにつきましてケース分けを行って試算を行ったというところでございます。
おめくりいただきまして14ページ、15ページのイメージ図を御参照いただきたいと存じます。イメージ図の方で見ていただきますと、まず最初のケースAは過去の納付状況に関係なく一律給付ということで、左側、加入している時点では未納期間のあるような方につきましても、税方式に移行後は直ちに一律満額の基礎年金を給付する。このケースAの場合は、保険料を完納しておられた方もやはり同じ一律の基礎年金給付という考え方でございます。
ケースBにつきましては、過去の保険料未納期間に応じて給付を減額するということでございまして、これは税方式に移行するときに現在受給している基礎年金額と変わりない年金額でスタートするというものになるところでございます。
ケースCにつきましては、ケースAと同じようにまず全員に一律の基礎年金を給付いたしまして、そこに更に過去に保険料を納付している分についてはそれ相当分を加算して給付をするというケースでございます。Cにつきましては保険料納付相当分だけということで、国庫負担2分の1を前提としておりますので、保険料を完納して6万6,000円受給されている方はその保険料相当分ということでピンクの部分でございますが、この3万3,000円が乗るという考え方でございます。
ケースC´は、更に過去の保険料納付相当分に公費相当分も加算して給付という案でございまして、6万6,000円完納の方でございますと、それに更にまるまる6万6,000円乗る。全く未納で無年金の方もいきなり6万6,000円の給付になる。それで、両者の差というのは、ゼロと6万6,000円だったのが6万6,000円と6万6,000円掛ける2で差が保たれている。こういう考え方のケースということでございます。
14ページの方に戻っていただきまして、これら4つのケースに共通いたしまして、真ん中の辺りでございますが、まず(1)で所得等による給付制限は行わず、全高齢者に同額を給付する。
(2)でございますが、給付水準は現行の基礎年金の水準ということで月額6万6,000円、更に現行制度と同じくマクロ経済スライドを実施するという前提ということでございます。
(3)といたしまして、平成21年度から基礎年金のための保険料徴収を完全に廃止し、一斉に税財源に切り換える。こういう前提で試算が行われております。これらの前提を変化させた場合の試算というのも行われておりますので、後ほど触れさせていただきます。
では、16ページ以下、各移行パターンの試算結果ということでございます。こちらでは、経済前提II-1に基づく結果が示されておりまして、経済前提を置き換えた場合は後ほどマクロ試算5-2ということで別途示されているところでございます。
まず各ケースで見ていただきます。17ページのケースAでございますが、2009年度に税方式に移行するということでございまして、その際こちらにございますように国庫2分の1への引上げ分ということで現行制度と同様、2.3兆円、1%分というものはこの計算の外枠で財源が確保されるという前提でございまして、その上で現行の保険料からの振替え、振り替わり分、この緑色の部分ということなわけでございますが、下の表で見ていただきますと2009年度で9兆円、これがその保険料から税に振り替わる部分ということでございます。
その上で、更にケースAの場合は過去未納の方に関しましても6万6,000円満額を給付するということで、その分の追加的な財源、これが絵で申しますと青の部分でございますが、こちらが2009年度5兆円というこで、両方合わせまして追加税額が14兆円、消費税率換算で5%ということになります。これは、2025年辺りまでおおむね5%程度で推移してまいりますが、少子高齢化の進展によりまして2050年には消費税率換算で7%に増える見込みとなっております。
続きまして、18ページのケースBでございます。ケースBにおきましては、未納の期間分については給付を減額するということで、税方式への切替え時には現行制度と同じ給付が行われるということになりますので、この切替えのときには現行保険料の振替え分の9兆円、この緑の部分でございますが、こちらだけの負担が振り替わるということで、これは消費税率換算で31/2%ということになります。
現行制度と比べた給付の増分、これは青の部分でございますが、税方式導入時から少しずつ増えてまいりまして、2050年でもまだ未納による給付減額というのはなくなっていないということで、下の表のところに「過去の未納分として給付を減額する分」とございますが、最初が▲5兆円、2050年にも▲3兆円ということで、これは上の図の点線の部分と実線との間のところに対応するということでございます。
消費税率換算で申しますと、2009年の31/2%から、2025年まではほぼ同じ程度でございますが、2050年になりますと少子高齢化が進むことと、未納による減額分が制度施行後、時がたちまして大分給付されるようになるということで、消費税率換算では6%に高まっている。
ただ、右上の吹き出しにございますように、この点線のところに実線が追いつきまして移行を終えるにはおおむね65年間、2070年ごろまでかかるという見通しになるというところでございます。
続きまして19ページでございますが、ケースCでございます。ケースAの場合の基礎年金給付費が点線の部分でございますが、これに加えまして2009年度では一番右にございます9兆円の上乗せ支給分、ピンクの部分が生じまして、この上乗せ給付を含めた追加の財源が24兆円、消費税率換算で81/2%ということでございます。その後、2050年までおおむね消費税率換算8%程度で推移する見込みということでございます。
次に、20ページでございます。ケースC´ということで、こちらは2009年度に19兆円の上乗せ支給分が生じるということで、消費税率換算12%です。これが2050年には移行が進んでくるということで、91/2 %まで減少するという見込みになっているところでございます。
続きまして21ページでございますが、基礎年金の税方式化への移行に当たりまして、国庫負担割合を段階的に引き上げて20年後に税方式に移行する場合の影響ということでございます。この場合は、保険料負担が当初20年間継続する。その間に、徐々に国庫負担割合を1/2から引き上げて100%に近付ける。それで、保険料負担は次第に下げていくということで、滑らかに移行するという考え方でございますが、この場合、保険料負担が継続しております当初の20年間は税方式に基づく新たな給付が発生しないことになりますために、この表で見ていただきますとどの移行パターンでも当初の20年間は所要の追加税財源は現行保険料から振り替える分だけということになりますので、例えば2025年でございますと11兆円、3%と、どのケースもなっております。
その後、ケースごとに変わってくるということで、22ページを見ていただきますと、ケースAということでございます。
これは、20年後に税方式に移行します際に、この図で見ていただきますと青の部分が発生する。そこで負担増が生ずるということでございまして、2050年には追加税額35兆円、消費税率換算7%というような数字になるところでございます。
次の23ページ、ケースBでございますが、こちらは20年後のところで税方式が導入されて、そこからその図の青の部分がだんだん発生してくるということで、これはその20年後の切替え時に負担増というものが発生せず、負担そのものは滑らかに動いていくわけでございますが、右の吹き出しにございますように、一斉に移行する場合、65年くらいの移行期間がかかるというものに更に20年間スタートが遅れるということで、20年移行期間が延びるということになるわけでございます。2050年は消費税率換算で6%という数字になってございます。
次に24ページでございます。ケースCにつきましては、やはり20年後の切替え時にこの絵で見ていただきますように大きな負担増が発生するということで、2050年の消費税率換算91/2%という見込みとなってございます。
25ページのケースC´でございますと、これが2050年に12%という見込みになっているところでございます。
続きまして26ページでございます。以上の試算は、いずれもマクロ経済スライドを現行制度同様、行うとした場合でございますが、マクロ経済スライドを行わない場合の試算ということです。まず現行制度でマクロ経済スライドを行わないということで、この場合、財政の均衡のために保険料を引き上げる必要があるということになるわけでございますが、その場合に必要な保険料といたしましては、厚生年金が2027年度以降21.8%、国民年金は2035年度以降2万1,900円、これは暫定試算の基本ケースということで一番下にございます。この試算で申しますと、ケース2-1の納付率の前提80%の場合の試算結果というところでございます。
27ページはそれを絵にしたものでございまして、28ページでございますが、税方式化の案でマクロ経済スライドを行わない場合にどうなるかということで、ケースAの前提ということで考えますと、2025年のところでマクロ経済スライドを行わないことによる増分、この表でいきますと一番右の欄でございますが、オレンジ色のマクロ経済スライドをやらないことによる追加分の消費税率換算、2025年で11/2%、2050年では21/2%程度になる見込みというところでございます。
29ページでございますが、経済前提を置き換えた場合にどうなるかということでございまして、まず29ページは現行制度で経済前提を置き換えた場合の影響ということでございます。現行制度は保険料固定方式でございますので、経済前提が変われば最終的な給付水準が変動してくるということで、下のところに試算結果がございますが、ケース1-1は51.5%、ケース1-2が50.7%、ケース2-1、これは暫定試算で昨年お示しした結果、51.6%、ケース2-2は暫定試算の参考ケースに当たりますが、46.9%という数字となってございます。
続きまして、30ページでございます。「税方式化案で、経済前提を置き換えた場合の影響」ということでございまして、当然のことながら基礎年金給付費や必要な追加税財源の名目の額そのものは、それぞれの経済前提、その経済の伸びに合わせて大小するということで数字は経済前提ごとに変わってまいりますが、右側の消費税率換算のところを見ていただきますと、いずれの経済前提におきましても結果はほとんど変わらないということになっております。これは、消費税収が経済成長率に連動するということと、税方式におきましても現行制度に合わせてマクロ経済スライドを行うこととしておりまして、結局経済に見合った給付水準となるように給付を調整するという前提となっているということで、両者がある種、連動するということでこういう結果になっているというところでございます。
31ページ以下ですが、2-1の場合は前にお示ししたものでございますけれども、経済前提ごとに現行制度、ケースA、B、C、C´と、順次結果を表示してございますが、こちらは個別の説明は省略させていただきまして、46ページ以下のミクロ試算の方の説明に入らせていただきます。
47ページでございますが、試算の前提ということで申しますと、こちらは家計調査のデータに基づきまして基礎年金を税方式化して消費税で賄うということとした場合におきます現行制度で負担している基礎年金相当分の保険料軽減額と、消費税負担の増加分、それぞれ家計ベースで計算して、税方式化が家計に与える影響を試算しているものでございます。
なお、47ページの一番下のポツにございますが、この試算では消費税率の増加分がそのまま価格に転嫁される前提ということでございまして、それによって消費者物価が上昇いたしますが、これで家計による消費行動に変化が生ずることや、あるいはその物価スライドということで高齢者の年金額が改定されることによる高齢者の収入の増加の影響というものは織り込んでいない。
年金額の改定を織り込みますと給付の方も変わってまいりまして、試算の前提が変わりますので、ここは織り込まない前提で試算しているということでございます。
48ページに留意点がございます。こちらは国民経済計算では国内家計最終消費支出は283兆円ということでございますが、この家計調査の消費支出に世帯数を乗じて総額を出しましても約150兆円ということで、マクロの国民経済計算の数値と比べて家計調査の消費支出は全体としてはやや小さ目に出ているのではないかということが留意点として挙げられているところでございます。
ただ、よって立つ統計といたしまして、やはり家計調査しかないということで、こちらの試算では家計調査の消費支出に一律の消費税率を乗じるという額、または消費支出の中には非課税品目もございますので、それを除いて消費税率を乗ずるという額、その両者を幅で示すという形で結果を表示しているところでございます。
49ページが、移行パターンケースAの場合のミクロの影響試算ということでございますが、ケースAでは2009年、消費税率が5%ということでございますので、これは勤労者世帯の所得階層別ということでございますが、この5%という前提で消費税の増加額をはじいたのがこのオレンジ色の棒グラフです。
一方で、基礎年金分の保険料の減少分をはじいたものが左側の青色の棒グラフということで、勤労者世帯はどの収入階級におきましても基礎年金分の保険料が軽減される額よりも消費税負担の増加額の方が大きくなるということで、本人負担と同額だけ企業の負担も事業主負担ということで減少するという試算になります。
更に細かく所得階級別ということで、実収入に対する比率というものを見ますと、所得階層の低い方の方ほど負担の増加率は大きくなるということで、これは収入に占める消費の割合が所得階層の低い方の方が高いということを反映しているのではないかと思われます。
次に50ページでございます。これは、自営業者等世帯のモデルということで、一番下の※印の2にございますように、パート・アルバイト等で厚生年金の適用となっていない方の世帯につきましても考え方としては同様ということでございますが、自営業者の世帯につきましてはその収入データがないなどの制約から、右側にございます消費税負担の増加額というものは勤労者世帯と同じ収入であれば同じ程度に消費するという割り切った仮定を置いて、仮置きのような形で数値を出しているということでございます。
左側の国民年金保険料の軽減額につきましては、下の※印の1にございますように、国民年金の第1号被保険者は世帯平均1.7人いるということでございますので、その1.7人分の保険料ということで、定額保険料でございます。ただ、4分の1免除、半額免除、4分の3免除等々、免除がございますので、収入階層によってそれぞれ免除を受けて払うべき保険料というものを書いてございます。
税方式になりますと、この保険料がなくなって消費税の負担が増えるということでございまして、データにかなり制約はありますが、この試算で見る限りでは月収100万円を超えるような高所得層を除き、全般的には消費税負担増加額よりも保険料負担軽減額の方が大きくなるということでございますが、低所得で保険料免除の対象となっているような世帯にとっては消費税負担の増加の方が大きくなる。負担が増加するという見込みとなっております。
51ページが、データの取れます勤労者世帯につきまして「年齢階級別にみた影響」ということでございまして、勤労者世帯につきましてはどの年齢階級におきましてもやはり消費税負担の増加の方が大きいという傾向は変わりません。右側の年金受給世帯でございますが、こちらは基本的には消費税分だけ負担が増えるということでございますが、右下の枠囲いにございますように、ケースAでは過去未納があった方につきましても全額基礎年金を支給するということでございますので、低年金・無年金だった方の場合は年金給付額が増加してこの消費税負担分を上回るようなことがあり得るということに注意が必要でございます。
次に、52ページでございます。「世帯形態別にみた影響」、やはり勤労者世帯でございますが、こちらにつきましてはどの世帯形態におきましても消費税増分の方が大きいという結果となっております。
53ページ、ケースBでございますが、このケースBにつきましては消費税率は3.5%という計算となってございまして、この場合にもサラリーマン世帯におきましてはどの所得階層でも消費税率の増分の方が大きいということでございますが、ケースAの場合よりも差は縮小しているという状況でございます。
次に、54ページでございます。これは「自営業者等世帯モデルのケース」ということで、この場合はほとんどの所得階層におきまして保険料の軽減額の方が大きいということになるところでございますが、ただ、免除の方につきましては消費税負担の増加により負担が増加することがございます。
55ページが「年齢階級別にみた影響」ということでございまして、勤労者世帯につきましてはやはりケースAの場合よりも差は縮小してございますが、消費税負担の増加の方が大きいという傾向でございまして、年金受給世帯につきましてはこのケースBの場合は無年金や低年金の方についての給付の増加というものは切替え時にはございませんので、すべての方について消費税負担分だけ負担が増加することになるということでございます。
56ページが「世帯形態別にみた影響」で、この場合は夫婦共働き世帯についてはほぼ保険料の軽減と消費税負担の増加が同じ程度ということで、そのほかの形態ではやはり消費税負担の方が大きいということになります。
57ページは、ケースCでございます。この場合は、消費税率が8.5%と非常に高いということで、消費税の増加額の方がかなり大きくなっているという傾向でございまして、58ページを見ていただきますと、自営業者世帯につきましてもある程度所得階層の高いところでは消費税負担の方が高くなるという傾向になります。
59ページで年齢階級別に見ていただきますと、勤労者世帯の場合、ケースAの場合よりも消費税負担と保険料軽減額の差は拡大するということでございまして、年金受給世帯でもかなりの消費税負担増ということになります。
ただ、ケースCでは6万6,000円もらっている方は更にプラス3万3,000円が付くということでございますので、そういう方につきましてはむしろそういう給付増の方が上回 ることになるということでございます。
0ページは世帯形態別に見た影響で、同様の傾向でございます。
61ページからは、ケースC´でございます。これは消費税率が12%と非常に高いということで、どの階級においても保険料の軽減額より消費税負担の増加額の方が多くなるという結果になっているところでございます。
65ページ以下、「その他の試算」というところでございまして、66ページでございますが、まず「高所得者に対する基礎年金減額措置(クローバック)を導入した場合の影響について」ということで、年収600万円以上の方につきまして所得に応じて基礎年金額を減額していきまして、年収1,000万以上で全く支給しないとした場合に、どのぐらい削減されるかということでございます。
67ページを見ていただきますと、こちらが老齢年金の受給者実態調査によります、世帯ではなくて受給者本人、1人分だけの収入の分布ということでございます。このように、1,000万円以上のところが全体の0.6%、600万円以上が2.4%ということでございますので、この割合を元に計算いたしますと、66ページのようなクローバックによりまして基礎年金給付費は約1.3%削減される見込みということで、その削減額を基礎年金給付費、これはケースAの場合でございますが、これに当てはめますとこちらの表にあるような削減額になるという見込みでございます。
続いて、68ページでございます。「パート・アルバイトに厚生年金を適用した場合の年金財政への影響」ということでございまして、新たにこのような適用拡大を行います場合には、初めのうちに保険料収入が増加いたしまして、その後、本格的に給付が発生してくるということで、長期的な年金財政の影響を見るという観点から、ここでは制度成熟時を想定した厚生年金の単年度収支への影響というものを試算しているということでございます。20時間以上の方を適用対象とするということで、対象者数310万人ということではじきますと、この場合、標準報酬、現在9万8,000円という下限を見直すということで考えていった場合に、対象者の報酬の平均が6万円、8万円、10万円と3通りで計算しておりますが、いずれにつきましても右側の欄の収支の差は1,000億円以内にとどまっているということで、厚生年金全体の保険料収入が18年度に21兆円ほどございますので、それに比べるとかなり小さい規模ということで、パート・アルバイトに厚生年金を適用した場合には年金財政的にはほぼ中立ではないかというところでございます。
続きまして70ページでございますが、税方式にした場合に低年金・無年金問題が解消されて生活保護の受給者、給付規模が縮小するのではないかということで、その影響ということでございます。これをきっちり見込むのはなかなか難しいところでございますが、65歳以上の生活保護受給者が59万人ということでございまして、この59万人のうち無年金者が31万人いるわけでございますが、税方式にすればある程度生活保護受給者は減るのではないか。
ただ、仮に65歳以上の生活保護受給者がゼロになった場合でありましても、この下に計算がございますが、そもそも生活扶助費全体が8,600億円で、その中の65歳以上の人に支給されている費用の規模がおおむね3,500億円と見込まれますので、最大でもこのくらいの影響ということではないかということでございます。
最後に71ページでございますが、税方式にした場合に積立金を活用できる影響の試算ということで、これは移行パターンのケースごとに評価してございます。ケースAにつきましては、そもそも過去の保険料納付実績について勘案せずに全員に満額給付を行うということでございますので、その場合の積立金は過去の保険料納付実績に応じて分配するという活用が一番自然だということでございまして、この場合、40年間保険料を完納した方、6万6,000円の年金をもらっている方につきましては年金額に換算して月額5,00円程度の分配ということで、6万6,000円が7万1,000円になる程度の見込みということでございます。
ケースBに関しましては、ケースAのような分配は行う必要がない。これは、過去保険料を払っている方と払っていない方でしかるべく付に差がついているということでございますので、この場合は保険料による収入がなくなって増税が必要となることによる激変緩和に充てるということで、この場合、国民年金だけではなく被用者年金も含めて60兆円の積立金を充てることができるという見込みで、これは追加税額の6年分程度に当たるという見込みとなります。
ケースC、C´につきましては上乗せ給付を行うということで、積立金はその上乗せ分に充当することが考えられるということで、この場合、Cの場合で上乗せの6年分程度、C´の場合で3年分程度の原資になるという見込みということでございます。
御説明が長くなりまして恐縮ですが、以上でございます。
○稲上部会長
どうもありがとうございました。大変たくさんの御説明をいただきましたので、御質問、御意見もおありになろうかと思いますが、いずれでも結構でございますので、どうぞ。
○西沢委員
質問が3点と、あとは意見と申しますか、感想を申し上げたいと思います。
1つは、まず質問を3点です。技術的な点ですけれども、16ページに14兆円、9兆円、17、12、20、15兆円と金額が出ていますが、これは給付費ということでしょうか。
というのも、前回の私の質問が悪かったのかもしれませんが、積立金を例えば使って修正賦課方式のような形でやると、追加的な財源がその分、減ることも考えられますので、そうではなくて全く純粋な純粋賦課方式の追加的な財源なのかということが1点です。
2点目が47ページで、今度はミクロに移りますけれども、基礎年金相当分の保険料4%とあるものです。もう少し背景といいますか、2009年度が選ばれていることとか、今、被用者年金一元化法案が出ていますけれども、共済年金の基礎年金拠出金相当分というのは厚生年金よりも低い料率でしたが、それは統合を織り込んでいるのかとか、あるいは前にいただいた数理セミナーの資料ですと将来上がっていく局面もありますけれども、そういった数値も織り込んだものなのかということが2点目です。
それから、49ページにあります家計調査の実収入というところですけれども、消費は消費税を掛けてこの実収入から計算されていると思うんですが、保険料の支払い額の方は実収入ではなくて給与所得が内数になると思うんですけれども、給与所得のみを恐らくベースにしていると思うんですが、その点です。
あとは、感想というか、私が言うのもおこがましいんですけれども、この試算、シミュレーションに特有のことではなくて昨今の議論の感じを見ていまして、1つは税方式か社会保険方式かという方式で、私も税方式に入るのかもしれませんが、方法論の議論をしているように見えます。方法論の議論も大事だと思いますけれども、基礎年金の目的や意義、04年改正のマクロ経済スライドが新規にも既裁定にも入りましたが、給付水準が下がっていっていいのかといったことを考えることですとか、意義や目的の議論が前段にあってもいいような気がします。方式論というか、メソッドに傾いているような気がいたします。
もう一つ、2番目に家計か企業かという二分法が少し気になるところです。このプレゼンだけを見ますと、企業がまるもうけになってしまうような印象を受けますけれども、恐らく実態はそうではなくて、1つだけ例を申し上げますと、中小企業でも今でも6割から7割は赤字なわけです。バブルのころでも5割は赤字で、すべてが大企業ということでもありませんので、そんな感じを持ちました。
○稲上部会長
では、お願いいたします。
○数理課長
それでは、御質問にお答えいたします。
まず御質問の第1点でございますが、16ページのところに追加財源の規模と消費税率換算が記載してございますが、これは積立金はどうなっているのか。純賦課で計算されているのかというお尋ねでございます。これは、完全に純賦課ということで計算してございまして、積立金を充てるとしたらどういう状況になるかというのは最後の71ページで別途、影響試算ということで取り扱っているという整理となっております。
2点目でございますが、厚生年金の保険料率の中で4%分が基礎年金相当ということで、こちらはどういう計算に基づいているのか。特に、共済年金との一元化を見込んでいるのかというのがお尋ねでございます。こちらの4%と申しますのは、47ページを見ていただきます。ちょっと小さい字で恐縮でございますが、上の方の(1)の最初の※印でございますが、ここの3行目に括弧書きで、国庫負担割合を2分の1に引き上げることを前提とした2009年度における厚生年金の基礎年金拠出金(保険料負担分)、これが料率換算で4.0%ということでございまして、こちらはいわゆる暫定試算のベースということでございますので、共済組合との統合というものは織り込んでいない数値ということになるところでございます。
これにつきまして、将来上がっていくのは織り込んでいくのかというお尋ねでございますが、こちらのミクロ試算は社会保険方式、現行制度から税方式に2009年度で一気に切り替えたとした場合にどうなるかということの例示をお示しするという考え方でございますので、2009年度のこの数値、保険料負担の方もこちらで考えますし、消費税率の方も将来2050年度ですと上がってまいるわけでございますが、2009年度について現行制度から振り替わって、制度によっては給付が積み増される、その2009年度の数値で消費税率の方も用いているということで、将来上がっていく要素はそういう意味では消費税率の方にも保険料の方にも織り込んでいない。切替え時点における数値だということでございます。
3点目でございますが、消費に関してはその実収入の中から支出していく消費に対して消費税率を掛けるということで計算されているということだが、保険料のベースはどうしているのかということでございます。それも47ページの今、見ていただきました(1)の※印の注でございますが、これは家計調査におきます勤労者世帯で公的年金保険料支払額というのが取れますので、これをすべて厚生年金の保険料の額だとみなしまして、これに基礎年金の保険料割合、4%割る14.996%というものを乗じまして、これが基礎年金相当分の保険料の支払額だという見方で計算をするということでやっているところでございます。
御質問に関しては、以上でございます。
○稲上部会長
江口さんは先にお出になりますので、先にお願いします。
○江口委員
どうもすみません。途中で中座をしなければいけないものですから。
細かいところからまずお聞きしたいんですけれども、17ページの表を見ますと追加財源としてそれぞれ2009年から14兆、17兆、20兆、35兆となっています。これは消費税率換算だとそれぞれ5、5と1/2、5ということで、むしろ2015と2025では消費税率が下がっているんですけれども、それはなぜか。
19ページを見ていただきますと、同じように追加財源では2009年から2015年、2025年が28、31兆円と増えていながらも、消費税率換算では2025年の方が下がっているのです。ここが感覚的によくわからないというのが1点目です。
それから、18ページです。ケースBで、「過去の保険料未納期間に応じて減額」ということなのですが、AマイナスBがなくなるのは65年かかるというお話なんですが、20歳から60歳まで加入するとしたら最大で40年ではないかという気がするのですが、なぜ60年かというのが理解できなかったというのが2点目です。
3点目は、67ページの年金受給者の収入分布についてですが、ここで言う収入というのは年金以外の収入を意味するのかどうか、つまり、年金以外の金融資産とか不動産収入だけを意味するのかどうかという点でございます。
それから、全体を通じてなのですが、前回、山口委員が質問されましたけれども、消費税と物価スライドの関係です。つまり、消費税を上げたらその分を翌年度の年金額に反映させているのかどうか。これについては、47ページでミクロ計算のときには高齢者の年金額が改定されることによる高齢者の収入の増加の影響は織り込んでいないということで、多分ミクロではそれは見ていないんじゃないかという気がするんですが、マクロ計算のときにそれがどうなっているのかということを教えていただきたいと思います。
以上です。
○稲上部会長
では、お願いいたします。
○数理課長
お答えします。まず最初に、2025年のところで若干下がって2050のところで上がっていることに関してでございます。実際のところ、マクロ経済スライドが2025の辺りまでは効いておりますので、基本的に給付に関しては抑制がかかっているということでございます。それから先は最終給付水準になりますので、マクロスライドがもうそれ以上かからない。そうしますと、相対的にその給付費等というものはふくらむということになりますので、この辺りを境として様相が変わるということがございます。
それから、移行に65年かかるというのがなぜ加入期間の40年ではないかということでございます。今、20歳の方から切り替わっていきまして、40年たったところではまだ60歳ということで、これからあと5年たって受給者になられるということです。その方がおおむね受給を終えられて、20歳で入られますと85歳でございますが、そうやって受給者が入れ替わったところで初めて最終的に給付費というところでは移行が終了するということになりますので、40年では終わらないで65年、本当は平均寿命を超えて生きておられる方もおりますので、最終的に完全に入れ替わるのはもう少しかかるのですが、おおむね入れ替わるということですと65年になるということでございます。
あとは、収入分布のところで67ページでございますが、収入として年金の収入が入っているのかというお尋ねでございます。これは、年金の収入も込みということでございます。本人の年金収入とその他の収入を全部合わせたものということでございます。
それから、物価スライドがありますと、消費税が上がって物価が上がれば、そのままでございますと物価スライドによって給付額が上昇する。その影響は、ミクロの方では織り込んでいないと書いてあるが、マクロの方ではどうかというお尋ねでございます。これは、給付費そのものを現行制度と同じという前提で計算をしてございますので、税方式移行に伴いまして仮に消費税を充てるということで物価が上がっても、その分、給付が変わって現行制度と違う給付費になるという計算はしていないということでございますので、ミクロと同様、それは織り込んでいないということになるところでございます。以上でございます。
○稲上部会長
樋口委員、どうぞ。
○樋口委員
膨大な計算をしていただいたので十分に消化し切っていない面があるので、むしろ教えていただきたいと思います。
私の印象としては、やはり税方式と社会保険方式でこんなに負担が違ってくるのかというのがまず最初に見た印象です。実態がそう違うのか、それとも違うように見える数字になっているのかというようなところの質問でありまして、例えば簡単な話、給付総額が一国全体で同じであったら、その負担額は同じだろう。その負担額の総額が同じであって、だれが負担するのか。どういう形で負担するのかといったものが違うだけであって、税方式であれば、例えば今の場合に家計の消費支出にかかってくる消費税で徴収しますということで、それが家計から見ると高めに出てくるのかなと。
ところが、その企業負担と本人負担という形で保険料を見たときには、本人負担の部分だけしか記述されていないのかなと思っておりまして、法人の方の負担、企業の方の負担というのがなくなる部分だけ、家計のスタンスから見ると消費税率が高めに見えるという理解でいいのかどうかというのがまず1点です。
49ページにミクロのケースでいろいろ出ているわけですが、例えば低所得の方が負担率そのものが高いですねというのは、多分消費税の逆進性といったものに伴う問題としてそうなっているのかなと思うんですが、棒の違いですね。基礎年金分の保険料と税方式による消費税負担の増加分の違いというのは、要は基礎年金分の保険料というのは本人負担の部分だけが記述されている。それで、企業負担の部分というのは実は家計のスタイルから見えないわけですが、これがないことによってこの差が出ているのかどうかというようなことを確認したいと思います。
例えば、企業負担部分もここに上乗せします。転嫁の問題になってきますから、それが転嫁されていますということであれば、企業が負担しようと、本人が負担しようと、ともかく折半という形で出ているわけですが、それを合計したものは結局個人が負担しているというふうに経済学ではみなすということがあるわけで、ここにそれを含めたとすればどうなるんでしょうか。あるいは、そういう解釈でいいのか。ここに書いてあるのは本人負担だけだから、これだけ差があるというふうに見えますというのが2番目の質問です。
3番目の質問は経済学、特にマクロ経済学をやっている人たちにとってはすごく気になることでありまして、ここに出してくるシミュレーションの背景にある経済構造方程式のところがどうなっているんだろうか。例えば、保険料の負担の軽減ということであれば、1つは家計本人の負担、この部分を今後、出さないでもいいですよということになって保険料負担がなくなれば可処分所得が増加するわけです。可処分所得の増加というのは消費支出の増加になって、それでマルチプライヤーを通じて全体のGDPに跳ね返るということになると思います。
あるいは、企業負担がなくなりますということであれば、その分だけ純利益の拡大ということを通じて設備投資の拡大とか、企業の競争力の拡大というようなことを通じてマクロの分野にフィードバックしていくだろう。こういったところをまず考えているのかどうか。要は、消費の拡大とか、あるいは投資の拡大を通じたマクロへのフィードバックというような純経済学的なところを考えているのかどうか。
その一方で、消費税の引上げというのは所得効果ではなくてむしろ価格効果という形で現れてくるわけです。価格がそのまま消費税の上乗せした部分だけ割高になりますという形で、こちらの方は価格効果で現われてくるわけで、所得効果と価格効果というふうに分けたときにどちらの方が大きいというのはかなり議論のあるところで、そういったマクロ経済モデルを背景に置きながらここのシミュレーションがなされているのかどうかというようなことについてお尋ねしたいということであります。
○数理課長
お答え申し上げます。まず最初の点でございますが、社会保険方式というか、現行制度から税方式に移行した場合に、まず一番わかりやすいのは給付そのものが全体でイコールのケース、これは移行パターンで見ますとケースBの場合でございまして、この場合にはトータルの負担というものは同じで、これが保険料から税に置き換わったわけでございます。そうしますと、結局ミクロベースで見ると、どこかで負担が減ればどこかで負担が増えている。こういう関係にあるはずです。
ただ、ミクロの試算ではその辺が必ずしも完全に定量的に出るわけではない。それは、そもそもミクロの家計調査を積み上げたものが必ずしもマクロの数値と整合しないというようなことがございまして、なかなか数値的にそこをトレースするのは難しい部分があるわけでございます。
ただ、その世帯の類型でございますとか、そこに年金制度を当てはめてみることによって、ある程度定性的な傾向は見られるのではないかということで、かなりデータには制約があることを承知の上でこういう試算をあえて行ったということです。
○樋口委員
ただ、マクロの国民負担率はどちらでやっても同じですね。
○数理課長
ケースBの場合だと同じということでございまして、それはいろいろな経済主体間の負担の分配がどうなっているかが変わるということになるわけでございます。
それで、Aの場合ですと、そこのところが未納の方の分だけ給付が増えるということでございます。ただ、その増えた給付というのはそういう方に給付されているわけでございますが、そこまで考えれば全体でどこかにお金が消えているわけではないんですけれども、そういう形でミクロベースで見るといろいろな主体の間ででこぼこは出てくる。ミクロ試算はそれをある程度定性的に、どこからどこに負担が動くのかを見ようという考え方で行われているということでございます。
続きまして、第2点でございます。49ページを例に引いていただきましたが、ここでサラリーマン世帯、勤労者につきまして保険料負担の減よりも消費税負担の方が大きいというのは本人負担分だけということが大きい要因なのかというのはまさにそのとおりと考えておりまして、49ページの絵で見ていただきますと、下の方にそれぞれ対応する企業の事業主負担というものの変化を載せてございます。この青の棒グラフを縦に乗せますと、むしろその足したものの方が消費税の増分よりも少し大きくなる。これは、実際に年金受給者の方のところにも負担がいっているわけですから、現役の方は企業負担が減る分をまるまる還元されたとすれば、若干保険料減の方が大きくなってもいいはずではないかという直感に大体対応している。なかなか数字の方が正確に出るというところまではまいりませんが、そういうことではないかと思われるところでございます。
ただし、事業主負担が減った分が、経済学的には事業主負担は雇用者所得に入っているからといって、ミクロベースでいって、そこが減ったものがそのままその人の賃金の増加につながるかどうかというのは必ずしも自動的ではないということかと存じます。
それから、3点目はなかなか難しいお尋ねでございますが、こういう形で消費税に負担が変わり、保険料が軽減されということになると、それぞれ所得効果でございますとか価格効果ということでマクロ経済学的な変動が生じるので、それによる波及というものも考えるのが本来だ。まさにおっしゃるとおりかと存じますが、なかなかそこまでのことをしっかり方程式を組んでというのは大変能力に余る部分がございまして、これは年金制度の組替えというものを行った場合に、定性的にどういう層に負担増が生じ、負担減が生じるかというものを見るためのある種の粗い試算ということで、その結果についても幅を持って解釈するべきだというふうに記述されているところでございまして、そういうマクロ経済学的な変動というものは一切考慮されていない試算ということでございます。以上でございます。
○山口委員
さっき江口先生がおっしゃったことの関連なのですけれども、47ページの最後のところに高齢者の年金額が改定されることによる高齢者の収入の増加の影響は織り込んでいないと、ミクロの方の前提で書いておられるわけですが、その意味は、物価が消費税アップによって上昇しても、その消費税の上がった部分見合いの物価改定はしないというような前提で計算をしていますよというふうに理解すればいいということですか。
○数理課長
こちらの計算はそういう前提での計算ということで、これは給付の方が変わってしまいますと現行制度との比較は難しくなりますので、あえて作業仮定としてそういう仮定を置いて計算させていただいているということでございます。
○山口委員
ただ、先ほど江口先生の御質問の回答の中で、事業主分を加えると、その負担がむしろ減るんだということの中で、その理由は年金受給者が負担するからだというふうな話をされたわけですから、実質的にその財源を織り込んで計算がされている。ですから、この全体の絵は受給者が物価スライドのうち消費税値上がり分を年金額改定に織り込まれないことによって、その部分が現役の人たちの軽減につながっているというふうに理解すればいいということになるわけですね。
○数理課長
さようでございます。受給者はこの試算上は消費税負担が増えるわけですが、その見合いでの年金の給付額増加というものはこの試算上は考えていないという部分によりまして、むしろその分だけトータルで見ると、企業も込めてでございますが、現役の負担が軽減される。こういう構造になっているということでございます。
○稲垣委員
難しいことはわからないんですけれども、感想ということで申し上げたいと思います。
連合も税方式ということを言っておりますけれども、全く前提が違っておりまして、企業が負担する分はきちんと今までどおり払っていただくということを前提として連合は税方式ということを言っていると思います。働く者にとっては、福利厚生ということが本当に大事な労働条件になっておりますし、現在も非正規労働者への厚生年金の適用ということが大きな議論になっておりますので、このままの状態のこういう実態の中で税方式ということにもし移行するというようなことになったら、多くの勤労者の賛同は得られないのではないかと私は個人的に考えております。
○稲上部会長
ありがとうございました。
では、どうぞ。
○都村委員
膨大な試算についての御説明をありがとうございました。財政方式の違いがもたらす経済的影響と社会的影響、特に社会的影響について考慮することも重要ではないかと思います。特に御説明いただいたマクロ計算に関して、社会保障の維持ということで、ずっと先の未来につないでいくという観点から見たときに、非常に大きな心配というか、不安が出てくるのです。
日本の社会保障の特徴の一つは、医療、年金に非常にウェートが置かれて、両制度を中心に整備拡大されてきたということがあります。国際比較をしますと、日本の高齢化率は20%を超えて一番高い水準になっています。しかし、社会保障給付の国民経済に対する規模で比較すると、例えば他のヨーロッパ諸国などに比べるとかなり低い水準となっています。年金と医療の規模はヨーロッパ諸国をやや下回るくらいですけれども、年金、医療以外の福祉その他の部門は大幅に低いという状況にあるわけです。
思い返しますと、現代福祉国家の創設者たち、例えばイギリスのビバリッジとか、スウェーデンのメーレルなどは、労働と家族が社会保障の主要な基盤を構成すべきであると強く主張しました。実際に多くの人々が職業に就いて、家族を形成し、生活上のリスクを共同分担するために、得た稼得収入の一部を拠出する。それを続けてきたわけです。
労働市場と家族の持つ能力が社会保障を確立するために活用されてきた。それで、社会保障が拡充されてきたということが言えると思うのです。
ですけれども、今、我が国の現状を見ますと、労働市場と家族の双方に同時的に変化が起こっていて、それに更に高齢化の影響も重なってきて、非常に状況が複雑になっております。だから、今こそ社会保障制度の基盤が弱くならないように、労働と家族への支援強化が必要であると思うのです。すなわち、ヨーロッパ諸国に比べて遅れている年金、医療以外の福祉その他の部門の一層の拡充が必要なわけです。
その他の部門にどういうものが入っているかというと、子育て支援とか、雇用による自立支援とか、仕事と育児・介護の両立支援とか、あるいは貧困な人たちの社会参加のためのいろいろな支援とか、そういうものが入っているわけです。その部分の拡充が必要だと思うのです。
今このマクロ試算にありましたように、年金制度に非常に膨大な公費投入をすることによって、社会保障の基盤という一番大事なところの強化が弱まる、あるいは遅れるのではないかということが大変心配なのです。そのような懸念はないのでしょうか。
○米澤委員
すごい計算をしていただいて大分見やすくなっているんですけれども、やはりちゃんと見ると樋口委員の見方というのは本当にベンチマークとして置いておく必要があって、要するにどこかから取るか、乱暴な言い方をしますと、給付の額がそう違わなければどこで取るかということで、ある人に言わせれば税で取るのか、保険料で取るのか。どちらの方が、よりコストが少なく取れるかだけで、そんなに大きな問題ではなく、単なる方式だけの議論になってしまう。そういう意味でそんなに大きな問題ではないということで、それはコストが安い方で調整してもいいでしょう。乱暴な言い方をすると、そういう意見の方もいます。
基本的にはそこが1つあって、今いろいろ出てきた議論は、同時にこれは所得の分配を大きく変えてくるとか、平たく言うと所得と利潤のどちらを取ってくるかということです。ですから、そこになってくると全く違う話になってくるので、両者一体になって議論されているんですけれども、単なる徴収のコストの問題なのか、そうではなくてやはり分配で例えば最低保障とかをつくるべきなのかということで、ちょっと議論が整理されていない感じがするので、そこのところを峻別しておく必要があるのかなという感じがします。
ですから、それは例えば今おっしゃったように税方式でも全く企業が負担しないということではないというようなことも含めて、少し再議論する必要があるのではないかと思います。
○稲上部会長
ちょっとよろしいですか。私は余り意見を申し上げるつもりはないんですけれども、これから時間がどれくらいあるかちょっと心もとないのですが、今、米澤委員がおっしゃいましたこと、あるいは都村委員がおっしゃいましたことの幾つかは資料3のテーマに関わりますことですか。一般論としてのお話は承りましたけれども、具体的にはこの中に幾つかそういうテーマも入っているように思います。
それと、樋口委員がおっしゃいましたことは、私がもし樋口さんにお尋ねできればなんですけれども、とても大事なことを言われていると思います。ただ、企業が例えば保険料を納めなくていいですねとなりましたときに、どういう行動が起きるか。それから、家計の主体が例えば保険料を納めなくていい。片方は消費税が上がる。もちろん率にもよります。そういうものをマクロ的に推計する確たる手法というのがあるのかどうか。かなり信頼のおける理論が成り立ち得るのかどうかですね。それは、どんなふうにお感じですか。
○樋口委員
1つはまさに雇用主負担のところを逆に軽減します。なくして、社会を動かしていくんだという発想なのか。それはそれで取っておいて、それは別の何かのために使いますよということかによって、おっしゃったように全然議論が違ってくると思います。だから、財政全体でということで別のところで使うんですということであれば、それは例えば医療であるとか、介護の方で使いますというようなことも議論になるわけで、それであれば社会に与える影響というのはほとんど変わらないでしょうということになると思います。
そうじゃなくて、そこは軽減するんだ。企業の負担部分というのはゼロにして、その部分だけ純益という形でそれはプラスするんですというふうになったときに、マクロの経済学でどこまで答えられるんだろうかということで、経済学に対する信頼性をどの程度負うかというところになると思います。
ただ、言えることは、価格効果であるのか、所得効果であるのか。それで、所得効果と言ったときに、家計の所得効果だけではなくて企業における利益、利潤率が上がることに伴うところというのは相当議論している、あるいは歴史的にも古いところではないかと思いますので、これはいろいろなところでシンクタンクがやっていて、西沢さんのところもそういうマクロモデルというのは最も得意としてやっていらっしゃるわけですから、ある程度の散らばり、意見の違いは出てきても、ある程度は議論はできるのではないかと思います。
○稲上部会長
ありがとうございました。私が質問する立場ではないかもしれませんけれども、ちょっと大事なことですので。
では、岡本委員どうぞ。
○岡本委員
大変詳細な御説明をいただきました。あくまでもこれはシミュレーションでありましていろいろな前提がありますから、これで何かすぐに結論が出るというものではないということでいろいろな議論が必要なのですが、御説明を聞いた中で幾つか私が感じたことを申し上げます。
テレビ等でインタビューを見ておりますと、負担はゼロがいいですね、たくさん欲しいですね、負担は減らしてほしいですね、しかしたくさん欲しいですねと、年齢のいかんを問わず各層でおっしゃっているわけです。果たしてこういう国民意識をそのままにしておいて本当にこれからの社会保障制度が医療、介護、年金を含めてあるんだろうかということを社会保障制度として議論しませんと、私は言ってみれば数字のところだけで議論をしてしまうと、国の百年安心の議論というようなものが非常に軽薄な議論になってしまうのではないか。こういうように1つは思ったわけです。
そういうことを感じましたので、私はやはりこれからは医療にしても、介護にしても、年金にしても受給者が増えていくということは事実であって、しかも現役が減っていくというのは事実であるわけですから、何か年金制度、または社会保障制度を改革するときには、やはり国民全層が負担をしていくんだ。国民の全層で知恵を出して支え合っていくんだということで少しでも具体化をしていくということが全くありませんと、何のために我々はこんなところで議論をしているのかというふうに私自身は考えているわけであります。
そういう意味で、私はやはり根本にある日本の少子化であるとか、あるいは人口構成であるとか、経済成長の1、2%の停滞であるとか等々を含めて、これから全国民がどんなふうに考えていくのかという意識を持って、モラルハザードを起こさずに皆で日本の年金制度を考えていこうというような改革の議論はしていくべきだ。
しかも、経済がグローバライゼーションしましても、社会保障制度というのはよその国は助けてくれないわけであって、日本人が自分たちの力で、あるいは日本人の国の税収、企業の支払能力、あるいは個人の負担力、どこまで負担するかということで一国の社会保障制度は決まってくるわけでありますから、もっと政治も、行政も、企業も、国民全体がそういう意識を持って、ここの改革の議論を少しでも実現すべきじゃないかということを1つ感じました。
2つ目に、そういうときにこの議論をしますと、やはり負担の問題があります。低所得者への配慮というのは大変大事である。これは、いつも私は申し上げておりますが、そのときに負担の在り方がどうなんだろうか。あるいは支給であるとか、医療であれば現物給付ということ、それから医療内容ですけれども、そういう支給の内容がどうなんだろうか。あるいは、税であるとか、その他負担であれば、負担がどうなんだという負担の在り方であるとか、給付の内容等を総合的に勘案して、やはりそこで社会的な社会保障制度の理念が生きているかどうかということを議論すべきであると思います。そういう意味では低所得者、あるいは経済的困窮をしている人に対する議論というものはもっともっとしないと私はいけないのではないかということを2つ目に思いました。
3つ目に思いましたのは、私は税方式、保険料方式のどちらがいいということを申し上げる気はないんですけれども、保険料方式で免除方式あるいは保険料の減額方式が2004年のときにも随分と議論されて具体化してきております。それは、負担という意味においては弱者に対する配慮が行き届いているわけです。しかし、その結果、免除された方は2分の1の3万円程度しかもらえないわけであります。全額もらえないわけであって、低い。だから、無年金か、低年金になるわけです。
そうすると、結局、今の保険料方式で免除方式であるとか減額方式ということは、負担をするという視点だけに立場を置いて議論をすると経済的困窮者を救済していくという制度ではありますけれども、今度はその方々が年金をもらうといったときには無年金であるとか低年金というものを制度が補填している。現役のときの経済的な支払能力が、年金をもらうときにそのまま制度によって固定されてしまっている。言ってみれば、現役のときの経済格差が、今の方式であれば現役を離れてからも今の制度が織り込まれているということであって、果たしてそれが本当に日本の社会保障制度としていいんだろうかという疑問を私は若干これを見ながら感じたわけであります。
その次に移行期間が長いということ、これは大変ですけれども、移行期間というのは制度の理念なり、ビジョンなり、あるいは考え方なり、制度の内容がクリアになれば、私は30年、40年というのは短い期間だと思うんです。しかも、ある程度制度が定着してくれば、どこかの段階で不公平論は俗に言うチャラというんですか、そういうものは白紙に戻して制度に移行しましょうという議論もでき得るわけであります。だから、私は移行期間の40年、50年がそんなに長いとも思わないし、ある程度制度が定着してくればどこかでぱんと切り替える。国民的な合意を得るというようなことも大いにあり得るのではないか。こんなふうに思っているわけであります。
最後に、企業負担の在り方であります。稲垣さんもおっしゃいましたけれども、このままでは税方式に賛成できません。このままではというのはどういうことか。私はわからないんですけれども、企業が負担しないという前提で理解しておられるわけです。この資料を見る限り、私は残念だなと思ったのは、稲垣先生でも、片や税を上げて、片や企業の負担が減るということは、企業が全くここから免除されて何の負担もないということを前提に理解をすれば反対だということだと思うんですけれども、そんな議論は今までやっていないわけでありまして、どうするかというのはこれからの議論ではないんでしょうか。
これを樋口さんがおっしゃったように従業員に還元すれば、それは国内消費にもプラスになるでしょうし、あるいは標準報酬が大きくなって上がるかもしれないし、もろもろの活性化になるかもしれませんし、事業の成長のために研究だとか、あるいは設備投資だとか、そういうふうなことにすれば、それが中長期的には経済成長になる。これはさっきのお話でシミュレーションできないという世界ではありますけれども、そういう効果もあるでしょうし、労使自治の中でその負担の在り方というのはこれから議論をするわけであって、何か前提として企業が負担しませんというようなイメージを与えてしまいますと、どうも議論が私は変な方向にいってしまうんじゃないか。残念ながらそういう意味では、ここの企業負担のところはこれからどうすればいいかということを議論するんだというふうなことで理解をすべきじゃないかと思っております。
この説明は大変参考になったんですけれども、幾つかそういう意味では考える論点があるんじゃないかと私自身は理解いたしました。ありがとうございました。
○稲上部会長
ありがとうございます。御質問なり御意見はあろうかと思いますけれども、今、一部資料の2と3のことについて言及もありますので、一度御説明を伺いましてから資料1につきましても御質問、御意見を伺うことにしたいと思います。お願いいたします。
○年金課長
年金課長の塚本でございます。それでは、私から時間も限られてございますので、資料2と資料3につきまして簡単に御説明申し上げたいと思います。
まず資料2でございますけれども、公的年金制度の在り方に関して税方式を含め、さまざまな御提言があるわけでございますが、その背景などについて年金制度の歴史、経緯を含めて、我々なりに整理をしてみたものでございます。
資料の2をごらんいただきたいと思います。1961年、45年前でございますけれども、国民皆年金スタート時点に立ち戻って考えますと、我が国の公的年金制度は社会保険方式を基本としてスタートした。その社会保険方式の下において、無業者や低所得者など、
保険料負担が困難な方を含めて、すべての国民に年金保障を及ぼすという形で「国民皆年金」の実現を図ったということでございます。 注に書いてございますように、制度発足当初から所得に応じた制度ということは課題だったわけでございますけれども、国民年金について所得比例年金制度ということについては所得捕捉の問題をクリアできないということで、定額保険料の制度として今日に至っているということでございます。
その一方で、低所得のために保険料負担が困難な方については保険料を「免除」した上で、税財源で一定の給付を保障するという形にしているわけでございます。矢印に書いてございますように、見方によりますけれども、税財源によって社会保険方式を補うという制度的工夫を行っているという評価も可能なのではないかということでございます。こうした形で、社会保険方式で国民皆年金の実現を図ってきてございますけれども、箱の中に書いてございますように、保険料の拠出期間の不足による無年金や低年金の問題も生じてきているというのが現状であろうと思ってございます。
2ページ目をめくっていただきます。その一方で、この年金に関しては年金という名に値する水準というものを保障するということが制度発足以来考えられてきてございます。昭和36年の制度創設当時は、年金という名に値する水準を確保するためには25年の拠出期間が必要ではないか。こうした議論を踏まえて、受給資格期間が25年ということで設定をされましたし、2つ目の丸でございますけれども、その後、41年の夫婦1万円年金あるいは44年の2万円年金、48年の5万円年金の達成という給付水準の目安というものの前提としても、この25年の加入期間というものが用いられてきたということでございます。
それで、昭和60年に御承知のように全国民共通の基礎年金制度を導入したわけでございますけれども、このときに国民年金制度は制度創設からちょうど25年と、昭和61年が25年ということでございましたし、また厚生年金の定額部分についても制度の成熟化、平均加入期間が伸びていくという中で、将来の40年加入が一般的になる時代における給付水準という観点で現役世代の所得水準とのバランスということから給付水準の適正化が行われ、また40年の保険料納付で基礎的消費支出を賄う水準のフルペンションという基礎年金水準が設定されたということでございます。
ただし、その際におきましても、受給資格要件25年というのはそのまま変えなかったというのが歴史的な経緯ということでございます。
次のページをおめくりいただきまして、2でございます。その後の年金制度を取り巻く環境の変化ではそれに伴う問題ということでございますが、まず1つ目として「少子・高齢化の進行」というものがあるかと思っております。5年ごとに財政再計算を行って、予想を超えた出生率の低下、平均寿命の延びを踏まえて、給付水準あるいは保険料の水準の調整を少子・高齢化の進行に合わせて行ってきたわけでございます。
その一方、「経済情勢・雇用情勢の変化」ですが、1つは経済の低成長下におきましては右肩上がりの経済成長の時代で言えば、負担の上昇ということで保険料負担が上昇する中でも、それを上回る賃金上昇などによって負担感というものが緩和され得たわけでございますけれども、低成長の中で保険料の負担感というものが高まってきたというのが背景としてあるのではないか。
更に、経済のグルーバル化の中で企業が国際的競争にさらされるということで、企業負担の限界も意識されるようになってきたのではないか。
更に、雇用情勢の変化ということで、パートなどの非正規雇用が増加して国民年金の加入者に占める割合が高まってきているなど、国民年金の1号被保険者の質的変容が進んできているのではないか。
こうしたことを踏まえて、平成16年改正におきまして、(1)、(2)、(3)と負担上限を決め、2分の1に国庫負担を引き上げ、マクロスライドの導入など、長期的な給付と負担の均衡を確保する改正を実施したわけでございます。
これによって、年金財政面では長期的に持続可能な制度となったわけでございますけれども、次のページをおめくりいただきます。年金財政で安定性が高まったということは、一方でございますけれども、基礎年金についても給付調整が行われるということもあって、改めてミクロというか、個々人ベースで実際に受給する基礎年金の給付水準や無年金者が存在するという実態に焦点が当たって、無年金者や低年金者対策をどう考えるかといった点が16年改正後の残された課題として各方面から認識されるようになってきているのではないかと我々としては見てございます。
こうした無年金・低年金への対応の必要ということが、各種提言の背景にあるのではないかということでございまして、1つ目の矢印は税方式に関する提案、参考資料の1を後ほどごらんいただきたいと思いますが、税方式化の議論もそうでございますし、また資料3の方に出てまいりますが、「平成16年改正後の残された課題に対する提案」についても「受給権の確保」、すなわち無年金者対策という観点からの御提案、あるいは低年金にならないように「年金水準の確保」という観点からの御提案、両方を兼ねたものもございますが、そういった御提案をいただいているのではないかと考えてございます。
5ページ目でございますが、少子化対策の御提案もございますけれども、年金制度においても対策を強化すべきという観点から「育児期間中の保険料免除」の御提案もなされていると考えてございます。前の整理のところにうまくはまりませんでしたので、別立てで書いてございます。
最後から2つ目の丸でございますけれども、16年改正で保険料の上限を固定したということでございまして、さらなる保険料引上げによる政策実施という選択肢がないという中で、各種提言におきましては新たな財源を必要とする政策を実施する場合には税財源、公費による対応をとらざるを得ない状況ということを踏まえて、新たな公費投入による政策の実現が各方面から提言されていると考えてございます。
最後でございますけれども、全体としてでございますが、各種提言の実現に向けましては現行年金制度の趣旨・考え方の関係整理、あるいは所要の安定財源の確保、保険料拠出意欲、あるいはモラルハザードの問題が生じづらい制度環境の整備などについての議論も必要なのではないかと考えてございます。
あとは、ざっとどこにどういう資料があるかということでございますが、先ほど申し上げましたように、参考資料1として税方式によって各種提言で実現を図ることとされているものということでございます。
また、参考資料2-1が「未納・未加入の状況等について」ということでございます。
説明は省略させていただきたいと思いますが、6ページ、7ページなどに保険料滞納者の状況という資料も入れてございますし、9ページ以降、滞納されている方が何を理由として滞納されているかという資料も付けてございますので、後ほどごらんいただければと思ってございます。
次に、参考資料2-2でございますが、「無年金・低年金の状況等について」という資料でございます。これも説明は省略させていただきますけれども、1ページ目に年金の分布が出てございます。3万円のところと6万円台のところに山があるということでございますし、2ページ目は無年金者数の推計ということでございます。
更に、3ページ目に無年金あるいは低年金がどういった状況から発生しているのかということについて整理をしてございます。大きく分けて、満額の納付月期間になっていないことによって低年金あるいは無年金になっているという要因と、下の方に書いておりますように繰上受給によって低年金になっているという要因の2つがあるかと思ってございます。
そこから4ページ目、5ページ目、6ページ目というところは繰上減額によってどれだけ年金水準が下がっているかということの関係資料でございます。
続きまして参考資料3でございますが、江口委員からお求めのあった再分配に関する
資料でございまして、2ページ目のところで基礎年金相当分について保険料相当分と国庫負担相当分というところの代替率を区分けしたという資料でございます。
次が資料3の束でございますけれども、前回項目を出させていただきました各種提案につきまして、資料3-1から現行制度の仕組み、趣旨あるいは各方面からの提案内容、そして提案内容のような見直しをする、検討するに当たっての論点という形で整理をしてございます。説明は、時間もございますので省略をさせていただきたいと思います。
尻切れトンボで恐縮でございますが、残り15分でございますので。
○稲上部会長
どうもありがとうございます。
では、権丈さんどうぞ。
○権丈委員
シミュレーションの話になります。どうしてこういうシミュレーションをやったかというまず経緯を説明させていただきます。
2004年の年金改革時の様子を我々年金研究者はながめておりまして、これは危ないなぁと感じられ、「年金を政争の具にしてはいけない」と言っておりました。だけど、2005年くらいになってくると、もう政争の具になってしまったなという感じが私の中にありました。この国ではマニフェスト選挙というものがまがりなりにも定着しはじめていたわけですけど、野党のマニフェストには、代替案としての年金制度が詰められないままの文章が書かれているにすぎないのに、絶えず選挙になると年金の抜本改革という話が出てくるようになってきました。
政権交代したら野党のいう年金制度をどっちみち作らなければならないのだから、彼ら野党の年金改革案を肉付けして具体化する作業を先にやっておいてもいいだろうということで、一度しっかりと厚労省の方で野党の年金改革案を肉付けする作業をやっておいた方がいいですよということを私は2005年に文章にして以来、ずっと書き続けてきたわけです。それ自体は無駄な作業かもしれないけど、これは民主主義の運営コストであって、官僚は実際に政策に役に立たないことを何でやらなければいけないんだと思うかもしれないけれども、マニフェスト選挙というのはそういうものだ。選挙で負けた政党が選挙の際にマニフェストに書いた政策の実行可能性というのは、やはりしっかりと調査していくような政治システムをつくっていかないと、マニフェスト選挙というのはちょっと難しく、危ないものがあるとう文章を私はずっと書いておりました。それで、2004年の参院選以来、完全に年金は政争の具になってしまったわけでして、2005年の9.11郵政民営化選挙で今の与党が大勝した直後にも、2006年も2007年にも、ずっとマニフェストに書かれたことのフィージビリティを確認する作業を政府が行う必要があるという文章を書いておりました。
それで、私が国民会議の方のメンバーに決まったのと同時に、年金シミュレーションをやるよ、申し訳ないけど霞ヶ関は不夜城になるかなという話を、会議の担当者であった参事官とか、そういう人たちに私がお願いをするという形になります。
そして、その参事官とか厚労省の方にも当然同時に言うわけなんですけれども、ただ、このシミュレーションというのはオールジャパンでやろうと。霞ヶ関の各省庁全部の協力でやってくれ。そして、使った資料は全部オープン・アーキテクチャーというか、オープンにしていこう。そういうようなことは、雇用・年金分科会の担当者をしていた川本さんという経済産業省の方を通じて私は全部伝えておりました。
そして、研究者の中でもいろいろな形で協力を得ていこうという形で、神戸大学の小塩先生にも協力してもらいながら、シミュレーションの前提や計算する項目をまず先に決めていこう。入試のときに採点方法などいろいろなものを先に決めて試験をやるというような形でフェアさを保つために、前提や試算する項目を先に小塩先生とか、そういう人たちと皆で話し合いながら考えて、雇用・年金分科会の方で決めてもらい、そして川本さんを中心にいろいろやっていこうという形でやって、そしてこういう結果を出すというような経緯になってまいります。
昨日、このシミュレーションの報告が国民会議の雇用・年金分科会で行われたわけなのですが、そのときひとつ皆が注目したというか、なるほどなと納得されたことがありました。
日経論説委員の大林尚さんも昨日、日経案の報告に来ていらっしゃいまして1月7日の新聞の社説を配られていたんです。それで、15分くらいかけて日経の年金改革案を全部説明されました。その時、我々はちょっとうかつにも見逃していたんですけれども、細野真宏さんという委員が、日経の社説の最初に「今の年金制度を変えずに済むならばそれに越したことはない。だが、保険料の未納の増加で制度は破綻する可能性が大きい」と書いてありますと指摘される。その箇所は、大林さんが赤線を引いて特に重要だと説明されていた箇所でした。そこに着目した細野さんは、今日配られた資料1年金シミュレーション中の6ページを見て、これはどういうことですかと。90%、80%とか65%というような納付率であっても、所得代替率は最終的には51.8%、51.6%、51.1%という形で、これは破綻しているというふうに読み取れないんですけれども、どういうことになっているんでしょうかという質問されたわけです。この点について、日経の大林さんの方から回答があるのかと思ったら、話はどこかほかのところにいってしまったんですけれども。
未納問題があるから年金は破綻することはあり得ないというのは、私は制度を知っていたからはじめか分かっていたのですけど、納付率が65%、80%、90%というのを推計しなさいという指示がどこか他のところから来たわけなんですね。私はそれを聞いて、「推計しても同じだろう、ほとんど結果は変わらないよ」と答えていたのですが、どうもそういう経緯で試算した結果が、細野さんという年金の専門家ではないけど年金に関心を持たれている方が非常に関心を持ってくれたみたいで、結構、大きな意味を持った形で、昨日、議論されておりました。
私は、今日皆が言う年金が破綻しているというのは一体どこにそういう根拠があるんだということをずっと言っていたんですけれども、私もいつの間にか専門家の世界にいて、普通の人が信じている年金破綻について、どうしてみんな、破綻、破綻と言うのかなというふうに思っていたことをちょっと反省したというのが昨日の経験の中にあります。
それから、保険方式から租税方式に移行するというようなことを定量的にいろいろやっていきましょうというような話をしていく中で、この問題というのは実行可能性というものが私は非常に重要な意味を持つと思っておりました。それで、その実行可能性というのは一体何なのか。私の学問というのは、価値判断とはなんぞやとか実行可能性とはなんだということまでぶつぶつと考えるのが私の仕事なのですけれども、実は、為政者に強い権力さえあれば政策なんてものは何でも実行できるんですね。要するに、為政者というのは権力の強さの度合いに応じて政策の自由度が高まっていくわけで、その権力者の力を抑制するものは一体何なのか、などと考えたりするわけです。
私が昔から考えている中での一つの概念として、為政者の保身というものがやはりあると思っています。為政者の保身、自分を守るために、為政者のポジションであることを守るために、結構、為政者というのはいろいろと妥協をしていったり、やりたいことを抑えて、結果、被統治者にとって望ましい善政を行ったりするわけです。
そういう意味で、昨日は政治家である伊藤補佐官がいらっしゃいましたので、基礎年金の租税方式化というようなことが実行可能かどうかというのは実は我々生活者が決めることではない。これは為政者である政治家が決めることだ。だから私は、実行できるとかできないというようなことは我々が答えることではない。けれども、為政者がこの問題を考えていく上で考えなければいけない、判断せざるを得ない幾つかの項目だけは挙げることができるという形で5つの項目を挙げて、その中で答えとして、心の中でイエス、ノーを考えてほしいということを言って、昨日は私の方からの質問は終わったわけです。
その5つの判断基準というのは、新制度への移行後の無年金・低年金者にも新たな年金消費税を課すことはできるのか。B方式という、日経が小さな租税方式と呼び始めたB方式で租税方式に移行するという選択肢は、これまでの未納未加入者には基礎年金を支払わないことになるのですが、この選択肢は納付した人と未納だった人の間での公平の問題や、財政的に一番小さいという財政の問題も考慮すれば、このB方式がやはり一番選択肢として高くなりそうなのですが、そういう移行をしたときに新制度移行後、無年金・低年金者、65歳までは保険料を払っていませんでしたという人に租税財源の年金を給付しないわけです。そういうような中で65歳以上の無年金・低年金者に新たに消費税を課さなければならなくなるという事実が厳然とした壁として出てくるんです。そういうことを、この国の為政者はできるのですかということを私はまず問いの1として尋ねました。
もう一つは、保険料支払免除対象者への新たな消費税負担増というのはできるのかということです。保険料を免除されているのは低所得者なのですけど、そうした低所得者に新たに消費税負担増を課すことはできるのですか。相当すごい権力を持っていればできるのでしょうけど、それほどのすごい権力を私は今の与党が持っているとも野党が持っているとも思えないんですけれども、できるのでしょうかね。
そしてもう一つは、高齢者に二重の負担を課すことはできるのですか。そして、この租税方式への移行というのは企業から現役、高齢期の生活者へのコストシフトというようなことを結構意味するわけなのですが、そういう再分配、所得の動きというものを本質的に持っているような政策というものを実行可能だと思いますか。イエス、ノーで考えてほしい。
もう一つは、6万6,000円もらうことができると思って保険料を完納した人々に、月々5,000円だけ給付しながら、その人たちの支持を得続けることができると考えるのか。
この5つの質問の中で1つでもノーと答えたら、移行できないんです。だから、私が言ったのは、これができる、できないは私が決めることではなく、為政者が決めればいい。ただ、この5つの条件というものをクリアできるかどうかというのは重要なポイントになるので、是非とも自らの地位を守るために、為政者はしっかりと考えてくださいというふうに私は昨日、話してきたわけです。
それで、今日報告された試算をしていく中で非常にいろいろ困ったのが、世の中に出されている年金改革案の中で、ちゃんと試算できるような前提を明示されているものはなかなかないんですね。今朝の朝日新聞などでは民主党の鳩山幹事長が、民主党の最低保障年金と基本的な考え方が違う中での試算だ、民主党を批判するために試算したように思える、と言われているのですけど、そんなことは絶対ないということを私は言っておきます。彼らの年金改革案は、残念ながら試算できないんです。彼ら民主党からはちゃんとしたデータや前提などが出てきていないので、試算はできません。だから、彼らをつぶすことを意図したわけでもなく、民主党を批判することをやっているわけでもない。もし試算してもらいたいのでしたら、ちゃんと私たちの方で前提条件、これとこれを出していただければという形で要望書を出して、向こう側の試算をするというような作業をやってもいいと思っております。
そして、樋口先生の方からも出てきた転嫁の問題とか、マクロ経済の問題とか、いろいろあるのですけれども、これはオープン・アーキテクチャーでやっているもので、昨日の夜にはデータも全部アップしております。この転嫁の問題というのは経済学的に見ればすべて後転されるといいますか、賃金に転嫁されるとかというのが教科書的には書いてあるのですけれども、実はこれは経済学の鬼門のところであって、例えば、最終生産物価格に転嫁される前転の可能性や生産性の伸びで吸収される可能性なども視野に入れれば、どう転嫁されるかというのが本当はなかなかよくわからない状況が経済学の中でもある。
それに、橘木先生が全然転嫁されないという論文を書くと、山田君とか駒村君とかが、いや全部転嫁されたという論文を書く。それを今度は東大の岩本さんが、両方とも間違えていると指摘したりして、難しい問題がある状態です。
樋口先生もご存知のように、古田先生という一生を法人税の転嫁の問題にささげられた先生が、転嫁をどのように定義するかということを含めて考えれば、これは趣味の問題だということを晩年におっしゃられるようなところがあって、これを今回の機械的試算として行ったシミュレーションに加味するのは非常に難しいというところがある。それに、企業から賃金を受け取るという側面を持っていない人たち、例えば高齢者などには、明白に企業からコストシフトが行われているということも言える。
マクロ経済に与える影響となると、これはケインジアンなのか、新古典派なのかということでいろいろと話が変わってくる。もしもそういうことをする必要があるとご判断される方がいらっしゃるのであれば、データはすべてオープンにされているので、皆さん全員でこの問題には取り掛かってオールジャパンでやっていただければと思っております。
○樋口委員
転嫁の問題がどうであるかということは、むしろ趣味の問題だとおっしゃいましたが、要はそれを考慮しているのかどうかは明記すべきだろうと思うんです。考慮していないにもかかわらず、あたかも考慮しているがごとく語られてしまうと、それはそれなりに前提が違ってくるということですから、それの限界を示すということはまず必要だろうと思います。
その上で、逆にむしろ質問なのですが、なぜ納付率がこんなに違うのにこの数字にほとんど差が出てこないのか。そこは何となくよくわからないんですが、そこの仕組みはどうなっているのかということを御説明いただけたらと思います。
○数理課長
6ページをもう一回見ていただきますと、まずそもそもこの6ページの枠囲いの下の※印にございますが、基礎年金全体の加入者数は7,000万人でございますけれども、この納付率というのはこの方々全体にかかるわけではなくて、その中の国民年金の1号被保険者、その中での免除の方等を除いた1,600万人、これらの方にかかる率であるということで、それが80であったり、90であったり、65であるということで、基礎年金は全体オールジャパンで支えておりますので、そういう意味で影響が小さくなるという要素がそもそもあるというのが1点でございます。
もう一点、マクロ経済スライドで調整された給付の所得代替率、ここの下のところの数字が余り違ってこない要因ということで申し上げますと、これは保険料を払わない方は長期的には給付を受けないということがございますので、そういう意味では年金財政という面からしますと、払う瞬間には基本は賦課方式ということでございますから、そのとき保険料が予定より少なくなりますと、その一時点で見ますと基礎年金でございますと拠出金の単価は上がるということで、単年度で見れば財政上はマイナスになるわけでございますが、長期的にはそのとき保険料を払わなかった方の給付が何十年後かに少なくなるということがございますので、その時点ではむしろ逆に払われたときに比べると給付は減るという、タイムラグをもってそういう事象が生じるということです。
ただ、それが完全に取り返せるかといいますと、その間、運用収入相当というものもございますので完全には取り返せないということで、こういう形でやはり納付率が低い方が若干所得代替率は低くなるわけでございますが、今、申し上げましたような全体の中の一部に対する納付率であるということと、その保険料を払わない方は社会保険方式でございますので、将来給付が小さくなるという要素がある。この2点におきまして、財政上はそれほど大きく違ってこない。ただ、もちろん給付がされないことによりまして、その方にとってはその給付が低くなるということ自体は問題だということはございますので、その問題と年金財政の問題は切り離して考えられるということでございます。
○樋口委員
ということは、年金財政は大丈夫だけれども、その分、生活保護に回る可能性もあるし、財政全体としてはどうか。もしかしたら人数が少ないからということなのかもしれませんがという話で理解してよろしいんですか。
○権丈委員
付け加えておきますと、未納者が即座に生活保護の受給者になるぐらいに低所得の人たちが未納者であるのでしたら、問題は比較的解決しやすいんですけれども、結構所得を持っていながら未納者でいる人たちが今日の資料2-1の中にもあると思うんですが、そのところがあるので難しい問題になってまいります。未納問題は必ずしも低所得者問題とは限らないんですね。例えば、未納者は総所得金額500万円(年収693万円)以上も約2割いるし、また、1,000万円以上の総所得をもつ世代の11%くらいが未納者だったりもします。
それと、今は保険料を払わない人がいる、すなわち未納者がいる。それで長い間、誤解されているのが、その人たちの保険料負担というものが他の人たちに転嫁されていくという形で、被用者の方に転嫁されていくというような形で言われてきたわけです。西沢さんが最近出された『年金制度は誰のものか』にもそう書かれている。前の本にも書かれていますね。そして連合も、この点をずっと間違えている。それで西沢さんは財政調整だと言われるんですけれども、これは積立金で調整できているわけです。積立金で調整されていくので、別に未納者が発生したときに被用者が負担するという形にはなっていない。だから、固定した保険料で今は制度が運営できるような状況になっているわけです。
だから、未納問題というものをどう正確にとらえていくべきかというのが非常に難しい問題で、未納者は将来生活保護の受給者になるというようにダイレクトにとらえることはできないくらいに、未納者は結構、私的年金とか生命保険の保険料を払っていて、かなりの所得を持っている人たちが未納の状況でいるというのが『被保険者実態調査』の方から出てきます。だから、未納者がダイレクトに生活保護になるのかというと、そういうわけではない。
だけれども、我々としてはというか、私たちというか、やはりこういうのは基本的には「私は」ですね。私としては、若いときに所得が低かったために保険料を払うことができず、しかも将来、生活保護の受給者になってしまったというような人たちに対しては、年金財政とは関係なく独立に手当てをしていかなければいけない問題だと考えています。と同時に、例えば低所得者であったから免除対象者だった、免除対象者だから保険料を払っていませんでした。保険料を免除されていたから将来、国庫負担が2分の1になって2分の1の国庫負担分を受給できるというふうになっても、これが生活保護のミーンズテストの中に全部埋まり込んでしまって、本当に低所得者であったがために手続きをちゃんとしていた人と、所得がありながら保険料を払わなかった不届き者の生活水準が同じ状況になるんです。
そういうことは私の倫理観にもかないませんし、前向きに生きていたんだけど運悪く低所得であった人たちが免除手続きをしていたので基礎年金の国庫負担分を将来受給できるということであれば、ミーンズテストの中から部分的にやはり外す。あるいは、ちゃんと保険料を払っていたから給付がある程度高くなった、年金の受給権があるというような状況があると思うのですが、その人たちの年金の受給権というのもミーンズテストからある程度外すというような形で、最低生活のところを何とかして底上げする必要があると思っています。10年の被保険者期間で5万円を給付する最低保障年金を提唱した読売案などがそうなのですけれども、1回ぽんと優しいことをやってしまうと、その後、納付インセンティブを維持することが難しくなってきます。その納付インセンティブを余り下げないような形にしながら、どうにか最低生活というものをこの国の中に定着することができないだろうかというようなことを言い続けているわけです。
未納・未加入者が財政的に年金の制度にはほとんど影響を与えませんよ。運用利回りくらいしか影響を与えませんよというようなことを言った瞬間に、今度は財政的に問題ないのだったらそれで良いのかというふうに世の中は、どんどん攻めてくるので、そうではないということは言っておきたいと思います。
我々というか、私は生活保護の方にも目配りをしているわけですけれども、そういうところからもう少し生活保護の受給というものがしやすくなる。受給要件を緩くしていく。ミーンズテストを緩めて、高齢者だけでもインカムのところで審査していくというような形でやっていく方法というのはないだろうかというようなこととセットでいろいろ考えていかないと、非常に誤解を受ける形になるんですよね。
○山崎委員
簡単な質問なんですけれども、シミュレーションで一番初めに消費税率をAケースではじいている17ページなどの場合も、追加税額の消費税率5%、これは当然家計の消費の部分と、企業の消費税も当然合算されていると考えていいんですね。
○数理課長
お答えいたします。消費税は最終消費者に転嫁されるという考え方でございますので、企業の場合は仕入れに対しては消費税を一応払いますが、実際に納税するときに仕入れ分にかかる消費税を差し引いて納税することになりますので、負担者という意味では最終消費者に帰着すると考えているところでございます。
○山崎委員
それからもう一つ、48ページにお書きになっているミクロ想定における家計調査のところで、国民経済計算と家計の調査との間の食い違いについて解説していますけれども、つまりこのミクロ分析で出てくる消費税負担というのは、場合によるともう少し大きくなるということでよろしいのですか。
○数理課長
一応家計調査しかなかなかよるべきものがないのでミクロに使っておりますが、確かにマクロとの関係で見ると過小な疑いがありまして、家計調査などですと割と大きい買い物にかかる消費税の分がマクロ的なものと比べると特に過小になるのではないか。車ですとか、家の場合ですと特に一生に1度の買い物でございますが、その辺のところは余り家計調査ではしっかり出ていないのではないかという傾向はございます。
○山崎委員
今、無年金問題とか低年金問題のお話がありまして、未加入者が多いと、年金財政が破綻するのではないかと言われたことがありましたけれども、極めて明快にそういうふうに考えるのではないというようなことがここで述べられています。これらを踏まえた上でこのシミュレーション資料を見ていきますと、前提を置いたシミュレーションではありますけれども、税金で基礎年金を見ていくというのは非常に高い税率になるということ、それから個々のミクロの計算をしてみると保険料の免除分、これは企業の負担部分の扱いは別にしたときに、個々の家庭で見ると保険料の減よりも消費税を多く払わなければならないというような問題が指摘されている。
それではどういうふうに考えたのかと言えば、やはり年金だけにこれだけ高い消費税を投入する。というのが本当にいいのだろうか。やはり社会保障全体の中で消費税というものを考えていかざるを得ないのではないかというような道筋が見えるような資料になっているのではないかと思います。私は、そのことは悪いことではないと思います。
つまり、年金だけで税金投入の可否を判断するのでは事は済まないということが明らかになったのではないかと思いました。
○西沢委員
さっき財政調整という言葉がありましたけれども、それは別に私の造語でも何でもなくて、財政調整であることは厳然とした事実ですし、1979年の年金制度の基本構想懇談会の方で、財政調整で基礎年金の財源を賄おうということは書いてあるわけで、財政調整自体は私の用語ではないということです。
○権丈委員
それは、どういう意味で財政調整なんですか。
○西沢委員
それは、各厚生年金、共済年金、国民年金の既存制度からお金を持ち寄って、基礎年金の費用を賄うという意味です。
○権丈委員
だけど、基礎年金と被用者年金のところは基本的には所得が流れていないんです。被用者年金は被用者年金で、高所得者から低所得者への流れというのはあるけれども、第1号のところと2号3号のところの所得というのは、所得再分配は限定的にしかされていない。老人保健制度みたいな形だったら財政調整と言っていいかもしれないけれども。先ほども話したように、仮に未納者の部分を費用負担者から外します。外された未納者が負担すべき分だけ収入が足りなくなります。そして、これを納付者全員で負担する形には計算しますけれど、未納者の存在による負担増分は積立金で今のところは立て替えられていて、その立て替え分は将来取り返せるとすると、実は未納者が増えたからと言って被用者の保険料負担は上がらないんですね。
○西沢委員
もう一つは、国庫負担を3分の1から2分の1に変えたことによってこの影響の度合いが違ってきていると私は思うんですけれども、それはどうなんでしょうか。
というのも、2分の1に上げることによって年金財政の中から給付する部分が少なくなることによって、未納による効果、影響が違ってきているということはどうなんでしょうか。
99年の財政再計算の本があって、そこに未納の効果についての論文が1つ載っていたと思うんですけれども、あのときもやはり影響があると書いていて、ただ、さほどではないと書いていました。あのときは3分の1だったと思うんですが、そのときのさほどと、今度の2分の1に上げたときの所得代替率の違いに表れた差異というのはどういう影響があるんでしょうか。
○審議官
せっかくですから、事務方からお答えしてもよろしいでしょうか。
今の御指摘というのは、恐らく2分の1に国庫負担がなるということを意識したときに、過去の免除で3分の1ということから比べれば年金水準が高くなるわけですから、そういったことを意識したときに、果たして被保険者、加入者の行動として保険料を払わなくてもいいやという行動に移るのかどうか。
それが免除率を高めるのかどうかというふうな御指摘なのかと受け止めたのですが、少し私の方でも当時の16年改正のときの御議論とか、データを整理してみて、そういうことに関してのいろいろな論文や文献などがあるかどうか、少し調べさせてください。
○稲上部会長
時間が15分過ぎておりますので、是非御発言をどうしてもというのであれば。
では、先に小島さんどうぞ。
○小島委員
権丈先生が未納・未加入者が増えたからと言って基礎年金部分について全く被用者側からの支援、財政調整はやっていないとおっしゃいますけれども、しかし、そこはそうかなと思うんです。
基礎年金受給者の数が一定とすると、未納者・未加入者を除いた1号、2号の頭割りで拠出金を出しているわけです。基礎年金拠出金は定額で出している。今、1万4,000、5,000円になっているんでしょうか。未納・未加入者が増えていけばその単価は増えるということになる。
○権丈委員
積立金で調整できれば、運用利回り分の影響が出ますけれども、積立金で調整すれば別に今の被用者年金の人たちの保険料を高くする必要はなくなっていきますね。そういう状況があるから固定した保険料で運営できるわけです。
ただ、財政調整というときには、例えば老人保健制度というようなときのように、被用者から国保の方に所得が流れるというような形だったら明らかに財政調整ですけれども、この場合は積立金は全くなく、完全賦課方式だったら確かにそれは単年度でそういう状況になる。
けれども、本来上げなければいけないところを積立金で取り崩してまだやっていけるという形で、将来この給付の方にも発生しないということになれば、運用利回りの差は出てきますというふうに私は文章で書いています。
○稲上部会長
今の御議論も含めて、次回にお話をいただきたいと思います。
では、稲垣さんどうぞ。
○稲垣委員
次回ということでお願いなのですけれども、資料3の中に書かれています残された課題というところですが、第3号被保険者制度の問題が書かれていないということで、今日の議論を聞いていても、私は最大の未納問題というのは、実際には未納ではなく被用者年金制度全体で負担しているのですが、本人は未納で、給付は発生しているという第3号だと思うんです。
杉山委員の要望ということで参考資料の1が出ておりますけれども、ここのポイントの現行制度の維持が困難、保険料負担が重い、保険料負担の格差が出ているというところすべてを見ましても、やはり第3号の問題というのは避けて通れないのではないかと思います。
16年のときに一定の結論が出せなかったということなんですけれども、ワークライフバランスを推進しようという世の中の流れの中で、この制度というのはもう役割を終えたのではないかと私は思いますので、是非この部会の中でももう一度議論していただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○稲上部会長
今の点も含めて議論することはよろしいと思います。また、必要なことではないかと思います。
繰り返し申しますように、時間を大分過ぎております。今日は大変盛りだくさんな議論でございまして、資料2あるいは3につきましても余り御説明を細かくいただく時間がございませんでした。恐れ入りますが、近々事務局から改めて日程等については御案内をさせていただきますが、余り遠くない時点で次回の年金部会を開かせていただきたいと思いますので、今日の特に資料の2、3につきましてはお目通しをお願いしたいと思います。もちろん資料1につきましても、次回も御議論いただくことにしたいと思っております。
何か特に御発言がありますでしょうか。
時間を過ぎましたけれども、長時間にわたりましてどうもありがとうございました。
閉じさせていただきます。
(連絡先)
厚生労働省年金局総務課企画係
03-5253-1111(内線3316)