厚生労働省レクチャー質問と回答
2013年9月に厚生労働省に行った質問の回答が不十分で2014年5月に再度質問しましたが無回答であったため、2014年9月19日共産党参議院議員小池晃氏の秘書大槻氏を通して厚生労働省にレクチャーをお願いしました。
2014年12月8日月曜日
連絡会の質問
(2014年5月の質問書をベースに一部追加)
厚労省の回答及び説明
1、 第183国会附帯決議の実行について
今回の厚生年金基金改廃で母体企業・基金の立場優先の解散や減額が行われ、代行返上後に「上乗せ部分」が失われれば、受給権が侵害されます。
本来、企業年金は賃金の後払いであり、就業規則、退職金規程等に基づく退職給付義務があります。
厚生年金保険法一部改正の参議院における付帯決議では「政府は本法の施行にあたり次の事項について適切な措置を講ずるべきである」として、第2項では「総合型の厚生年金基金の解散に当たっては、加入員、受給者等に移行先の選択肢を含めて必要な情報が行き届き、その上で最善の意思決定が行われるよう、基金及び母体企業への支援を行うこと。」とあり、第3項は「厚生年金基金の解散・移行にあたり、母体企業が退職金規程等に基づく退職給付義務を履行するよう指導を行うこと。」と明記しています。
これらは解散、減額、移行などによって受給者及び加入者が退職給付の受給権を侵害されないためにも重要な決議です。
ところが、貴省は年発0324第4号において「第一 解散手続に関する基準」の中の一つの手続として(3)(6)で軽く触れている程度です。
(3)では、「代議員会における議決前に、全受給者に対して、解散理由等に係る説明を文書又は口頭で行なっていること。」とありますが、受給者は母体企業から基金の財務状況等の情報開示を受けていない実情が広範にあることから、文書での情報開示を義務付け、一定比率以上参加の説明会開催や質疑応答の義務を課すべきではありませんか。
(6)では「・・・母体企業が退職金規程等に基づく退職給付義務を履行することが必要であることについて周知等を図ること。」と述べるに止まっています。これでは、基金が母体企業に知らせる程度であり、受給者・加入者に対して周知と理解を図る実効が期待できず、国会の附帯決議の趣旨・真意が生かされません。
国会決議を受けて実行の任にあたる貴省としては、誠実に受給者・加入者の受給権を守るための施策展開が求められています。受給権は加入者にとっては労働条件であり原則的に引下げは許されないこと、受給者にとっては金銭債権であり民法上の保護があること、など法的基本点を周知することは必須です。
また、解散、減額、移行について心配・疑問・苦情など抱え相談ニーズのある加入者・受給者・労働組合などに対応できる窓口を全国各地に設ける必要があります。
受給権保護を母体企業まかせにすることなく、厚生労働省が積極的、具体的に退職給付義務の履行について監視、指導を行う施策、個別に相談を受ける体制をどのような内容で行なうのでしょうか。
2、受給権保護について
(1)昨秋の公募意見では、厚年基金の解散について受給者の同意が求められない点について問題とする意見が出ました。確定給付企業年金についても現行は解散にあたり受給者の同意は求めることが不要とされています。受給権が消滅する重大事案について当事者が同意も求められないで一方的に受忍するほか無いとすることは、母体企業・基金、加入者との均衡を欠き、不公正な定めです。前項の国会附帯決議の趣旨に照らしても許されないことです。減額については受給者の同意を求めていることと比べても問題の重大性に沿わない手続です。
貴省として、受給者の同意を求める手続を課す意向は無いのか、無くてよいとすればその根拠は。
(2)企業年金制度を健全に維持し受給権を保護するには受託者責任の強化が求められています。企業年金部会の検討内容では「今後の検討課題とする。」「来年の春以降、企業年金部会で議論してはどうか。」とされていますが、貴省としてどのような事項について何時までに結論を出す方針なのでしょうか。
(3) 貴省は2012年に厚生年金基金規則および「厚生年金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドラインについて」の改正を行ないました。このQ&Aでは、基金から代議員会への報告や加入員・事業主等への周知・情報開示は重要としていますが、受給者に対しては言及がありません。受給権を保護する上で受給者への周知・情報開示は加入員と同等に義務化する必要があります。
3、キャッシュバランスプランについて
キャッシュバランスプランの設計弾力化について、昨年の専門委員会では厚労省案に対して異論が出ていたし、公募意見の中でも反対、批判の意見が出ていました。
(1)キャッシュバランスプランは給付額が変動する制度であり、基準利率の下限などゼロ以上であればよしとする今回の設計弾力化は、経団連が前々から要求してきた規制緩和に合致しており、労働者の老後保障に一段と沿わない措置です。キャッシュバランスプラン自体が、確定給付企業年金法の第1条「公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする」とどのように合致するのでしょうか。
(2)確定給付企業年金の受給者に対してキャッシュバランスプランへ移行することは、不利益をもたらす問題が生じます。NTT年金裁判で国が提訴された時に貴省は、「キャッシュバランス制度移行時の支給金利が現行金利を下回る場合には、原則給付減額にあたる」との反論を第三準備書面(平成19年7月6日)で行ない、東京地裁は判決(平成19年10月19日)でこの通り判示しています。このたび省令に盛り込まれたキャッシュバランスプランの設計弾力化は、この判示に照らして、貴省として全く問題は無いとお考えですか。
(3)キャッシュバランスプランへの移行は、規約変更などの手続要件を満たすだけで可能としています。しかし、実質的に減額となるキャッシュバランスプランへの移行であれば、前項NTT裁判での地裁判示からすれば移行を必要とするやむを得ない客観的理由要件を定めることが必要だと考えますが。
さらに規約変更に不同意の受給者にとっては受給権の侵害となります。実際に前項NTT年金裁判で、原告NTTが「受給権者の三分の二以上の同意を得ているので理由要件は不要」と主張したのに対して、地裁は、「同意しなかった少数の受給権等の受給権を多数者の意思に委ねることとなり、三分の一未満の受給権者の受給権の保護を図ることができない」と判示しました。したがって、不同意者への移行は当然に認めるべきでないと考えられるのであり、これを保障する措置はどのようにお考えでしょうか。
4、 支払保証制度について
2001年に確定給付企業年金法が国会で議決された時の附帯決議は「支払保証制度については、企業年金の加入者及び受給者の受給権保護を図る観点から、モラルハザードの回避などに留意しつつ、引き続き、検討を加えること。」としています。
ところが、社会保障審議会企業年金部会の論議では「支払保証制度については、制度を創設する費用、公平性の観点で課題があるため、来年春以降の検討としてはどうか。」と貴省意見が示されています。 昨秋の公募意見の中に示された制度創設の要望意見に対しても同様の貴省意見が示されていますが、看過できないのは、制度創設の必要性までもが新たに検討の対象と明記されたことです。(3月24日付「・・・寄せられたご意見について」No.110)これは国会決議から後退していると判断せざるを得ず、何故このような記述としたのでしょうか。。国民多数が影響を受ける制度について危殆・破綻に備える制度創設は当然のことであり必要性を問題にする余地は無い筈です。
国会の附帯決議から13年が経過し、一段と必要性が高まっている情勢下なのに、貴省の見解では行政府として怠慢のそしりを免れません。
創設に当たりどんな課題、障害があるのか、いつまでを目処に議論を終えるのか、議論を行なう場に労働団体、受給者団体などに参加を求めて加入者・受給者の利益・権利を反映する措置を講ずるお考えはあるのでしょうか。
5、確定給付企業年金は存続について
確定拠出年金への移行奨励、キャシュバランスプランの設計弾力化など、確定給付企業年金の制度が弱められ廃止されるのではないかと危惧されるが、いかがでしょうか。
<厚労省の回答及び説明>
・解散手続きの基準
解散手続きについては、「代議員会の議決前に、全受給者に対して、解散理由等に係る説明を文書または口頭で行っていること」となっており、基金が文書あるいは口頭で受給者に案内を出している。
大半が文書での案内になっている。
全国規模の基金では地域ごとに説明会を開いていると聞いている。
一定程度やってもらっており、これらの状況を踏まえて解散の認可申請を審査している。
<厚労省の回答及び説明>
・受給者の同意
企業年金の主体は事業主と加入者。
加入者への説明は義務付けているが、受給者への説明は基金の自主性に任せている。(法律も)加入者の同意をとっていればよいとしており、受給者の同意を求めてはいない。
・制度の見直し=スケジュール等
DB,DC創設から10年で経済状況、企業環境変わってきた。見直しの議論(今年)6月から始めた。9月(企業年金)部会で本格的に議論し11月ごろまでに大まかな結論を出す。
・ガバナンスの確保
企業年金は労使で運営するもの、よく話し合って欲しい。積立不足をどうするかなど労使で明確な方針を出すのが基本。
11月までの議論でガバナンスの強化も論点の一つとして論議されるのではないか。
順番としては、「税制、「法改正」を先に、その他は後でということになる。見直し項目を立てて議論の流れを見ながら12月頃までにまとめるということになる。
・受給者への周知
受給者にも業務概要(資産、収支など)を周知するよう指導している。この件では4月1日に法(健全化法)改正された。基金メール、ホームページで公開している。
<厚労省の回答及び説明>
・政省令改正の趣旨
今般の改正の趣旨は「上乗せ部分の再建にある。
企業年金を持たない企業に応えるためには選択肢を増やす必要がある。労使の判断で選んでもらうのが目的で、CBを推奨しているわけではない。
・CBの捉え方
DBは給付が定まっている。積立不足は事業主負担。
DCは加入者の自己責任。事業主は確定拠出。どちらかにリスクが偏る。
CBはどちらの趣旨にも合うように設計できる。
・CBへの移行
CBへの移行は無条件で認めているわけではない。
理由要件(掛金の増大に耐えられない、赤字が続いている)、手続き要件(3分の2以上の同意を求める)もある。
また、従前と改定後の差額を保障するようにと定めている。
政省令にも、受給者に配慮するようにと書いてある。
<厚労省の回答及び説明>
・制度の創設を巡って
DB法成立の時から議論されてきている。
平成19年の「企業年金研究会」でもモラルハザード、コスト負担などの議論があった。
「企業年金」は企業が社員のためにやっている制度。事業主は、自社のDBをどう安定させるかをまず考えるのではないか。
11月までに議題に上ってくると思う。
ただ、DBの安定性の問題としての議論で、支払保証制度をどうするかにはならないと思う。
<厚労省の回答及び説明>
・現在のDBは維持する。その上で使いやすいDBを加えようということだ。
質疑応答、回答への再質問、意見・要望
質問「1、国会付帯決議の実行」関連
(意見・要望)
「厚生年金基金の解散で相談を受けている。
国は『公的年金の縮小は免れず、老後保障のため補完する意味で企業年金の拡充を』と言っている。
老後保障と言いながら、今進んでいるのはDBからDCへの移行だ。DCは確かに企業の負担は軽くなるだろうが、受給者は自己責任の運用で受給額は保障されていない。厚労省の姿勢としてもっと受給者保護の立場で臨んで欲しい。
支払保証制度はいよいよ重要性が増している。米国並みに、すでに発生した受給権は剥奪できないとするなど一定の規制がどうしても必要だ」。
(質問)
「安易な解散を許さない指導が必要ではないか。厚年基金の上乗せが無くなることで4兆円が失われると聞いた」。
(回答)
「ホームページで毎年度の決算発表を見ている。
9月末から決算書出てくるので、24年分はそれをまとめて公表する」。
(質問)
「厚労大臣は高橋議員の質問に答えて、『賃金の後払いだ』と認めている。厚労省は退職年金の減額に対しては賃金カットと同様の問題として事業主・基金を指導監督すべきではないか。国会決議通り責任ある対応をとって欲しい」。
(回答)
「労使の話し合いで決めるのが原則。指導はしている」。
(質問)
「情報が受給者には行き届いていない。(加入者同様)きちんと知らせるべきではないか。厚労省としてどう改善していくつもりか」。
「JALの時は相談に乗ってもらった。同じように『窓口』をつくって欲しい」。
(回答)
「費用、人員の問題がある。いろいろな問題を抱えており企業年金だけに割けない」。
(質問)
「キチンとした窓口で『声』を聞いた方が役所にとっても良いのではないか」。
「年金問題は高齢化が進む日本では必要なお金の掛け方だと思うがどうか。検討して結果を知らせて欲しい」。
(回答)
「地方厚生局で相談を受け付けている。ホームページを開設している。本省は(厚生局の)指導に当たっている。ホットラインは無い。企業年金は基金ごとに設計しているので個別の対応になる」。
(質問)
「監視・指導は具体的にどういうことを行っているのか」。
(回答)
「地方厚生局が、(基金の)解散手続きがおこなわれる中で指導している。地方厚生局からは報告をもらっている」。
(意見・要望)
「ブラック企業対策は24時間体制で対応している。企業年金でもニーズがある。窓口を検討すべきだ」。
「私が受けた相談者の例では、受給者に対する説明会などないと言っていた。指導してますだけでは徹底しないのではないか。実態をよく聞いて欲しい」。
質問「2、受給権保護」関連
(質問)
「受給権は受給者をどう見るかという問題でもあると思う。経済が右肩上がりの時は(基金の)解散などは想定外だったかもしれないが、情勢が変わった今に至っても労使双方でやって下さい、受給者は脱退扱いで発言権も議決権もない、では実情に合わないではないか。
受給権を喪失させるのに当事者の同意を求めないというのは権利侵害であり、訴訟になる可能性に備えて国会の付帯決議がなされた。解散という深刻な問題を『説明』で済ませるのは如何なものか」。
(回答)
なし
(意見・要望)
「企業年金の重要問題を討議する専門委員会や企業年金部会の委員は、労政審議会のように公益・労働・使用者の三者構成で選ぶべきだ」
「企業年金部会に受給者団体、中小企業の労組代表が入っていない。私たち『守る会』にもオブザーバー参加させて欲しい」。
(回答)
「部会の委員については労使の代表に学者・有識者の構成でバランスはとっている。委員の選定基準は調べてみる」。
(意見・要望)
「給付減額に反対したら解雇された。加入者の権利が保障されていない。(企業年金部会でも)権利保障強化も議論してほしい」。
(回答)
「うけたまわりました」。
質問「3、キャッシュバランスプラン」関連
(意見・要望)
「CB移行は受給者にとって減額だ。選択肢が増えるなどという形式の問題ではない」。
質問「4、支払保証制度」関連
(意見・要望)
「受給権と支払保証制度の議論に向けて委員会や企業年金部会に出される資料は厚労省に都合の良い外国の例だけを出しているのではないか。先進国の中で日本が遅れていることが分るような、公正な比較できる資料を出して欲しい」。
(意見・要望)
「支払保証制度については、モラルハザードがどうのと言わずまず資料を出し検討して欲しい」。
(回答)
「ガバナンスをどうするかであり、支払保証制度単独では出ないと思う」。
(質問)
「(厚労省の資料)Q&Aに支払保証制度を約束している。難しいことは承知しているが、その後の議論では意図的にネグっているのではないか」。
「パブコメNo、110には支払保証制度の必要性そのものを検討するとある。検討の課題ではなく必要性を認めて討議するとしていたのだから後退ではないか。企業年金は事業主の責任で支給するものと思うがどうか」
(回答)
「事業が立ち行かなくなったとき受給者を救済する制度である。制度に加わっているメンバー(が決める)の問題だと思う。自分の企業の社員のために制度をつくっているのに、他社の社員を助ける仕組みにもなってしまう、おかしいとか、今は余裕がないと言う意見がある。」
(意見・要望)
「他社のために負担しないという自己中心の発言は許されない。信用保証協会の融資保証はイザと言うときの助け合いで保証料を払うのであり、これと基本的に同じでないか。受給者本位の立場で考えて欲しい」。
「企業年金連合会の保証事業がなくなる。
国の方できちんとつくるという方向で検討して欲しい」。
質問「5、確定給付企業年金の存続」関連
(意見・要望)
「DBを守って欲しい。(年金局の)黒田課長も企業年金部会の説明資料の中で『DBは給付の見込みが立てやすい、老後の生活にとって見やすいという効果がある』と言っている」。
「部会は大企業の代表が多い。その人たちがDCを薦めている。厚労省は、受給者、加入者を守る立場で取り組んで欲しい。そのために年金問題に精通した専門家を委員に加えて欲しい」。
(回答)
「委員はバランスのとれた形で選定している」。
(意見・要望)
「DBでは加入者、受給者も減額という形でリスクを負っている。年度別の減額件数を小池議員事務所に知らせて欲しい」。
(回答)
「(減額件数は)調査の上小池事務所に知らせる」。
その他(上記以外の問題)
(質問)
「我々『受給権を守る連絡会』への対応が悪い。5月に質問状を出してやっと今回の面談だ。昨年9月にも質問状出しているが回答はなかった。(今年5月のものについても)7月までに回答すると言いながら回答は来なかった。今後個別には回答しないとも言われた、どういうことか」。
(回答)
「(回答の遅れは)いろいろな質問が全国から集中したため。全部に一つ、一つ回答を返すことは不可能に近い。パブコメなどで回答するといったのは、行政手続法に則った措置だ」。
(質問)
「当『連絡会』は15の団体で組織、これまでは小柳津さんが対応してくれた。方針が変わったのか。我々の会との窓口をつくり対応して欲しい」。
(回答)
「(質問が)制度改正にからむものだったので対応はパブコメと言ったものと思う」。
(要望)
「質問などが多くなったから一、一、答えられないというのは逆ではないか。声を吸い上げるために『部署』、『窓口』を設けるのが筋ではないか。
各種団体は、省が知りえない情報も持っている。
行政を助けることにもなるのではないか」。
(意見・要望)
「受給者の意見を反映させたい。対応窓口をぜひ作って欲しい。これについての意見書を出したい」。
(回答)
「課の方へ送ってもらえばいい」。
(以上)
* 文責 企業年金連絡会世話人会
団体